『ダイバージェント』:2014、アメリカ

戦争で他の町が破壊される中、シカゴは無事に残った。生き延びた人々は平和を守るため、5つの派閥を作った。賢くて知識と論理を重んじる「博学」、親切で仲良しで農作業を担当する「平和」、正直と秩序を信条とする「高潔」、警官として街を守る自由人の「勇敢」、簡素な暮らしと奉仕の精神を大切にする「無欲」だ。政治を任されている「無欲」は、どこにも属さない無派閥にも施しを与える。その仕組みが出来てから百年後のシカゴに、ベアトリスは暮らしていた。
ベアトリスは「無欲」の一家に生まれ育ち、父のアンドリューは派閥のリーダーであるマーカスと共に政治の一端を担っている。しかし兄のケイレブが自然に「無欲」らしい行動を取れるのに対し、ベアトリスは「勇敢」に強い憧れを抱いており、自身には「無欲」としての適性が無いと感じていた。そんなベアトリスとケイレブは、適性テストを控えていた。16歳になると誰もが適性テストを受け、その派閥に向いているのかが判明する。その後に行われる儀式で派閥を選ぶと、そこで一生を過ごすことになる。
ベアトリスはテスト会場へ行き、試験官であるトーリと会う。緊張するベアトリスに、トーリは「95%は出生の派閥が適正と出るわ」と言う。しかしテスト結果を見たトーリは、「監督官が来る前に立ち去るのよ。具合が悪くて早退したと言うのよ」と焦った様子で告げる。事情説明を求めるベアトリスに、彼女は「無欲だけじゃなく、博学と勇敢も適性と出た。貴方は異端者(ダイバージェント)よ」と言う。彼女は「手動で無欲と入力しておいたわ」と述べ、ベアトリスを帰宅させた。
帰宅したベアトリスは、アンドリューや母のナタリーから「博学が政権を奪うため、我々を監視して信用を落とそうと躍起になっている」と聞かされる。ケイレブはベアトリスに、「両親のために派閥を選ぼう」と促す。翌日、一家が儀式の会場へ出向くと、博学のリーダーであるジェニーンが近付いてきた。彼は表向き、アンドリューに友好的な挨拶をした。ジェニーンとマーカスが舞台で挨拶した後、子供たちが次々に派閥を選んだ。ケイレブは博学を、ベアトリスは勇敢を選んだ。
「勇敢」を選んだ面々は列車に乗り込み、ベアトリスは「高潔」出身のクリスティーナと知り合った。一行がビルの屋上に降り立つと、リーダーのエリックは「この下に入り口がある」と穴へ飛び込む志願者を募る。誰も挙手しない中で、ベアトリスが名乗り出た。彼女が思い切って飛び降りると、穴の下にはトランポリンが敷いてあった。別の派閥から来た面々の教官を担当するフォーが待ち受ける場所へ、他の面々も順番に飛び降りた。街には一度だけ名前を変えられる決まりがあり、ベアトリスは「トリス」と名乗ることにした。
フォーはトリスたちを「ビット」と呼ばれる場所へ連れて行き、そこが生活の中心だと教える。彼は一行を宿泊所へ案内し、「10週間、ここで寝泊まりする」と告げた。そこは簡易ベッドと丸見えのトイレが置いてある粗末な部屋で、男女が一緒に暮らすことになっていた。食堂へ出向いたトリスは、「博学」出身のウィルやアルと出会った。トリスはウィルから、フォーは成績優秀なのにリーダーを2度も断っていると聞かされた。
翌日から訓練が開始されることになり、エリックは「まず肉体、次に精神を鍛える。入会後は評価順に職務を選べる。各段階の下位は脱落し、無派閥になる」と説明した。訓練が始まって早々、エリックは「まだ早い」と止めるフォーの意見を無視し、トリスに格闘を指示した。相手は最後にジャンパーだったモリーで、エリックは勝手に「降参無し」とルールも変更した。トリスは顔面にパンチを浴びてKOされ、最初のランキングでは最下位になった。
トリスが「残れない」と落ち込んでいると、クリスティーナは「タトゥーを入れよう」と誘った。タトゥー・ショップ行くとトーリがいて、トリスに「なぜ勇敢を選んだの?」と批判的な態度で言う。「貴方を恐れる連中に見つかるわ」と告げられたトリスは、「私は勇敢として行きていくと決めたの」と述べた。彼女は個人練習を積み、少しずつ順位を上げて行く。その様子を見ていたフォーは、格闘のためのアドバイスを送った。
クリスティーナは屈強な女性との格闘で一方的に殴られ、「降参」と口にした。するとエリックは彼女を橋へ連れて行き、突き落として捕まらせる。彼は「選択肢は3つ。持ちこたえるか、落ちて死ぬか、ギブアップして脱落するかだ」と告げた。クリスティーナが何とか持ちこたえると、エリックは「勇敢は決してギブアップしない」と口にした。ナイフ投げの訓練中、ナイフが刺さらないアルを見た彼は、他の面々が投げる中で拾いに行くよう命じた。アルが怖がっていると、エリックは的に立つよう指示した。
エリックはフォーにナイフを投げるよう指示し、アルに「その間、そこから動くな。少しでも動けば脱落だ」と告げる。トリスが「やめて。立つぐらいなら、誰でも出来る」と言うと、エリックは「だったら、お前が代われ」と告げる。トリスは的の前に立ち、フォーがナイフを投げた。1本のナイフが耳を掠めると、エリックは「反乱者は要らない。でしゃばるな」と告げて立ち去った。フォーはトリスに、「わざと耳をかすらせた。それでエリックは君を解放した」と述べた。
トリスはクリスティーナやウィルたちから、勇敢な行為を称賛される。しかし成績トップに立つピーターだけは嫌味っぽい態度を取り、「無欲」では虐待などの腐敗があるという醜聞を口にした。ジェニーンが部下たちを率いて施設に現れ、トリスたちに声を掛けて去った。ウィルはトリスに、異端者狩りが行われていることを教えた。トリスの順位は、あと1つで脱落を免れる22位まで上昇した。エリックは彼女に、ピーターとの格闘を命じた。フォーから助言を受けたトリスだが、ピーターに叩きのめされて気絶した。
トリスが目を覚ますと丸一日が経過しており、クリスティーナたちは脱落したことを告げる。しかしトリスが走り出す列車に乗り込むと、エリックは残ることを認めた。彼は今から行う旗取りゲームについて説明し、神経刺激針が発射される銃を配る。エリックとフォーが主将を務める2チームが対戦し、彼らがメンバーを選んだ。フォーが真っ先に選んだのはトリスだった。一行は廃墟になっている遊園地へ行き、配置に就いた。トリスは観覧車に登り、敵の旗を発見した。
ゲームが始まると、トリスはクリスティーナと2人で行動する。2人は塔へ突入し、旗を手に入れた。一行は本拠地に戻り、エリックと共にリーダーを務めるマックスが第2段階へ進めるメンバーを発表する。1位はエドワード、2位がピーターで、トリスは20位に食い込んだ。後日、勇敢のメンバーが倉庫で作業をしていると、ナタリーが密かにトリスを呼び出した。ナタリーはトリスが異端者と診断されたことを見抜いており、「誰も信用してはダメ。異端者は恐れられてる。博学が捜し回ってるわ」と忠告した。
第2段階に入ると、志願者たちは恐怖を克服するための訓練を要求される。トリスはフォーに導入剤を注射され、恐怖心を刺激して幻覚を見せるのだと説明される。眠りに落ちたトリスはカラスの群れに襲われる幻覚を見るが、水に飛び込んで襲撃を逃れた。フォーはトリスに、平均より4倍も速い3分で脱出したことを告げる。「初めてとは思えない。次はもっと上手くやれる」と彼は言い、今度も幻覚の訓練が続行することを明かした。
2度目の幻覚訓練に臨んだトリスは、ガラスケースの中に閉じ込められた。ケースに水が注ぎ込まれる中、トリスはガラスを指で割って脱出した。フォーはトリスの脱出方法を知り、「勇敢はそんな方法を取らない」と口にする。フォーは診断テストの結果に疑問を抱くが、トリスは無欲だったと主張した。トリスはトーリを訪ね、彼女から「弟は第2段階で優秀な成績を出したけど、リーダーたちに殺害された。貴方が異端者だと分かったら殺されるわ」と警告した。
トリスはケイレブの元へ行き、「私は勇敢に向いてない。無欲に戻りたい」と言う。するとケイレブは、「無理だ。無欲を目の敵にしている博学が許さない」と告げた。「博学が政権を担うべきだ。他の派閥もそう思っている」と口にしたので、トリスは「家族より派閥を選んだのね」と幻滅した。ジェニーンはトリスを呼び寄せ、「無欲は派閥のシステムを破壊し、異端者を隠している。法の執行に協力してほしい。それが親しい人間でも」と持ち掛けた。
勇敢の本拠地に戻ったトリスは、覆面姿の3人組に襲われた。必死に抵抗して1人のマスクを剥ぐと、その正体はアルだった。そこへフォーが現れ、トリスを助け出した。フォーはトリスに、「アルは君に抜かれると脱落する。それで憎むようになったんだろう」と語った。翌日、アルが謝罪に来るが、トリスは「二度と顔を見せないで」と拒絶した。直後にアルが自害したため、トリスはショックを受ける。トリスが責任を感じていると、フォーは「彼が自分で選んだんだ」と述べた。
トリスはフォーに、自分が異端者であることを打ち明けた。するとフォーは、自分の恐怖の光景を使って訓練することを持ち掛けた。それによって、勇敢らしい行動をトリスに学ばせようというのが彼の考えだった。フォーは自分とトリスに導入剤を注射し、同じ幻覚へ入り込む。彼はトリスに、善良な市民を容赦なく射殺する姿を見せた。最後の試練として待ち受けていたのは、マーカスの幻覚だった。そこでトリスは、フォーがマーカスの息子であることを知った…。

監督はニール・バーガー、原作はヴェロニカ・ロス、脚本はエヴァン・ドーハティー&ヴァネッサ・テイラー、製作はダグラス・ウィック&ルーシー・フィッシャー&プーヤ・シャーバジアン、製作協力はヴェロニカ・ロス、製作総指揮はジョン・J・ケリー&レイチェル・シェーン、撮影はアルヴィン・クーフラー、美術はアンディー・ニコルソン、編集はリチャード・フランシス=ブルース&ナンシー・リチャードソン、衣装はカルロ・ポッジョーリ、シニア視覚効果監修はジム・バーニー、音楽はジャンキー・XL、音楽監修はランドール・ポスター、音楽製作総指揮はハンス・ジマー。
出演はシェイリーン・ウッドリー、テオ・ジェームズ、ケイト・ウィンスレット、アシュレイ・ジャッド、ジェイ・コートニー、レイ・スティーヴンソン、ゾーイ・クラヴィッツ、マイルズ・テラー、トニー・ゴールドウィン、アンセル・エルゴート、マギー・Q、メキー・ファイファー、ベン・ロイド=ヒューズ、クリスチャン・マドセン、エイミー・ニューボルド、ベン・ラム、ジャネット・ウルリック・ブルックス、クララ・バーガー、アンソニー・フレミング三世、ライアン・カー、アレックス・ハシオカ、ウィル・ブラグローヴ他。


ヴェロニカ・ロスのデビュー小説『ダイバージェント 異端者』を基にした作品。
監督は『幻影師アイゼンハイム』『リミットレス』のニール・バーガー。
脚本は『スノーホワイト』『キリングゲーム』のエヴァン・ドーハティーと『31年目の夫婦げんか』のヴァネッサ・テイラー。
トリスをシェイリーン・ウッドリー、フォーをテオ・ジェームズ、ジェニーンをケイト・ウィンスレット、ナタリーをアシュレイ・ジャッド、エリックをジェイ・コートニー、マーカスをレイ・スティーヴンソン、クリスティーナをゾーイ・クラヴィッツ、ピーターをマイルズ・テラー、アンドリューをトニー・ゴールドウィン、ケイレブをアンセル・エルゴート、トーリをマギー・Q、マックスをメキー・ファイファーが演じている。

この映画の世界観は、我々が住んでいる世界とは大きく異なっている。ハイ・ファンタジーとまでは行かないものの、「世界滅亡後に5つの派閥が作られて云々」というのは、現在の社会とは大きくかけ離れている。
そういう設定を用意するのであれば、いかに細かい部分まで世界観を作り込んで説得力を持たせるか、どのようにして観客を上手く引きずり込むかってのが重要になる。
しかし本作品は、そこに大きな欠陥がある。
っていうか、世界観の作り込みがテキトーで、もは破綻していると言ってもいいぐらいなのだ。

ヤングアダルト小説を読んだことは無いが、それを基にした「トワイライト」シリーズと「ハンガー・ゲーム」シリーズは見ている。
その2つと本作品を観賞して思ったのだが、もしかするとヤングアダルト小説ってのは「世界観やルール設定はテキトー」ってのが仕様なのか。
あるいは、原作小説ではキッチリと作り込んであるのに、映画化した場合は雑にしなきゃいけないという意味不明な決まりでもあるのか。
そんなことは無いはずだが、どれも全て世界観やルール設定が雑なのは、どういうわけなのか。

まず冒頭でトリスが説明する「生き延びた人々は平和を守るために5つの派閥を作った」という説明からして、素直に受け入れられない。
なぜ平和を守るために5つの派閥が必要なのか、サッパリ分からないからだ。
何が問題だと感じたから5つの派閥に人類を分けたのか、そこが全く理解できない。
いっそのこと、「こういう理由で」という説明なんか入れずに「祖先は5つの派閥を作った」ということだけ説明した方が、むしろ破綻を感じずに済んだかもしれない。

「平和を守るために5つの派閥を作った」と説明しているが、なぜか「無派閥」ってのが存在しているのも謎。完全に格差社会を作るためのルールになっている。
とは言え、現実社会の格差や差別といった問題を暗喩する意味で用意されている設定なら、受け入れられないこともない。
しかし少なくとも本作品を見た限りでは、そういう意識は全く感じられない。
だから、そういう意図があったかどうかは別にして、結果的には「単なるテキトーな設定」にしか感じない。

「無派閥」に関しては、そこを自ら選ぶ連中がいるってことじゃなくて、「派閥の脱落者」という設定だ。
だけど、そもそも派閥の脱落者って何なのかと。
わざわざ脱落者を出してまで、「無派閥」と称されるホームレスっぽいな連中を生み出す意味は何なのかと。だったら、そもそも5つの派閥を決めた意味は何なのかと。
そこも現実社会の問題を重ねているのかもしれんけど、映画を見る限りは「設定の粗さ」にしか思えない。

適性テストで向いている派閥が決定し、それは本人に教えられるだけでなく、ちゃんと記録されることになっている。ところが、その後の儀式では、それとは別に本人の意思で所属する派閥を選ぶことが出来るようになっている。
だったら適性テストは何のためにあるのか。
「適性テストで派閥が決定される」というルールにしておかないと、何の意味にも無いでしょうに。「トリスが適性テストの結果と異なる勇敢の派閥を選ぶ」という行動が、「違法行為」としての意味を持たなくなっちゃうでしょうに。
どの派閥を選ぶのも自由だから、トリスと同様に適正テストの結果と違う派閥を選ぶ人は他にもいるだろうし、そうなるとトリスのスペシャリティーが薄れてしまう。

もちろんトリスには「異端者」という要素があるんだけど、トーリが「無欲」と入力しているから、表面上は「無欲が適正なのに勇敢を選んだ」というだけなのよ。
トリスが適性テストで異端者と分かったのに無欲を選ぶってことなら分からんでもないが、以前から憧れていた勇敢を選ぶわけで。
ってことは、その決断には「トリスが異端者である」ってことは全く影響を及ぼしていないでしょ。
ぶっちゃけ、後から異端者だと判明する展開でも、大差が無いよ。「派閥の決断」という重要なポイントで、「トリスは異端者」という要素が全く機能していないのよ。

しかも、トリスには勇敢の適性も出ているから、「適性と合わない勇敢を選んだことで苦労するだろう」とは思えないというマイナスもある。
むしろ、最初は異端者ってことを明かさずに話を進めて、トリスは苦労するだろうと観客に思わせておいた方がいいんじゃないのか。
無欲が適性のはずなのに勇敢のテストを順調にクリアしていくことで、トリスや観客に疑問を抱かせ、後になって「実はトリスが異端者だった」ということを明かす手順にした方がいいんじゃないのか。
その方が、設定が効果的に作用するんじゃないかと思うぞ。

トリスは幼い頃から「勇敢」の派閥に憧れていたようだが、勇敢というよりは「単なる騒がしい暴れん坊ども」、もしくは「やたらと無茶をしたがるバカども」にしか見えない。
ビルの壁を登ったり、騒ぎながら町を失踪したり、列車からビルの屋上に飛び移ったりするのは、まるで無意味な行動でしょ。それは勇敢な行為じゃなくて、過激な遊びでしかないでしょ。
警官として任務に就いている様子は全く描写されないことも手伝って、こいつらが憧れの対象になる要素は全く見えて来ないのよ。
「若者が不良に憧れる」ってのと似たような感覚と解釈すれば、まあ分からないこともない。ただし、そういう感覚でトリスが憧れを抱いたとも思えないし、スッキリしないわ。
で、そんな「勇敢」のリーダーであるエリックは派閥に入ったばかりのトリスに殴り合いを指示するが、それは「勇敢な行動」でも何でもない。ただ野蛮なだけだ。
派閥の連中が“勇敢”の意味をはき違えている」という部分も含めての設定なのかもしれんけど、上手く表現できていないから、ただ設定が破綻しているだけにしか感じない。

トリスがフォーから「名前は」と問われるシーンで、「一生に一度だけ名前を変えることが出来るが、変えたら二度と戻せない」というルールが急に説明される。
ベアトリスは「トリス」と名乗るのだが、なぜ別の名前にしたのか、その理由が全く分からない。
彼女の出生については明らかになっているので、「偽名で素性を隠す」という意味があるわけでもない。
だから、なぜ彼女がベアトリスという名前を嫌がったのか、なぜ別の名前にしたのか、それはサッパリ分からないのである。

序盤で「異端者(ダイバージェント)」という要素が示され、自分がそれだとトーリに知らされたトリスはショックを受けた様子を示す。
だが、異端者ってのが具体的にどういう存在なのか、なぜトーリは隠すよう指示するのか、なぜトリスがショックを受けるのか、それは説明されないまま話が進行する。
しばらく経過してから、「異端者は恐れられ、バレたら始末される」ってことが明かされるが、それを明かすまでに時間を掛けている意味が全く分からん。
そんな大事な設定は、最初の段階で触れておくべきじゃないのか。

っていうか、なぜ複数派閥の適性があると診断された人間は「どの派閥にも属さない」ということになるのか、なぜ恐れられて殺害の対象になるのか、その理由がサッパリ分からない。
前述したように、適性テストってのはあくまでも参考記録に過ぎず、どの派閥を選ぶのかは本人の意思で決められるわけだから、診断結果はそんなに重要じゃないはずでしょ。
複数派閥の適性があると出て、だから何なのかと。
特殊能力があるわけでもないので、政権を奪おうとしている博学の連中が極端に恐れる理由はサッパリ分からん。

トリスがピーターとの殴り合いを銘じられると、フォーは彼女にアドバイスする。しかしトリスはピーターに叩きのめされ、気を失って脱落する。
いやいや、そこで勝てないのなら、「フォーが助言する」という手順の意味が無くなるだろ。
おまけに、そこで脱落したのに、列車に飛び乗ったらエリックに受け入れられちゃうって、ルールも無意味にしちゃってるし。
そこは普通に「フォーの助言でピーターをKOし、順位を上げて脱落を免れる」ってことでいいだろうに。変に捻っても、話の盛り上がりを削ぐだけだ。

ピーターをノックアウトして順位を上げたら、その後の旗取りゲームでトリスが活躍し、それによって脱落を免れるという展開に繋げることは出来なくなる。
でも、「だったら旗取りゲームはバッサリでいいんじゃねえか」と思ってしまう。
訓練のシーンに長く時間を割いているけど、次第に「どうでもいいわ」と感じるようになってくるのよ。
どうせトリスが脱落しないのは分かり切っているし、旗取りゲームで勝とうが負けようが死ぬわけじゃないし。

「訓練なんかどうでもいいから、そんなことより異端者が云々という話はどうなったのか」と言いたくなるのよね。訓練シーンが続く中で、「トリスは異端者」ってことが使われるのかというと、これが全くなのよ。
彼女が異端者ってことを重視して物語を構築しないのなら、その設定の意味が無くなっちゃうでしょ。
第2段階に入ると、「幻覚訓練におけるトリスの行動が勇敢っぽくないから疑念が生じる」というトコで、ようやく「トリスが異端者」という要素は使われる。
ただ、そもそも「勇敢っぽくないから変だ」ってのが変でしょ。
だってトリスは表向き、無欲の適性があることになっているんだから、そりゃあ勇敢っぽくなくても当然でしょ。

トリスがガラスケースを割って脱出すると、フォーは「勇敢なら、そんな方法は取らない」と告げる。
しかし、早く脱出した方がいいはずなので、なぜ方法の違いによって評価が悪くなるということが起きるのか、サッパリ解せない。
っていうかトリスは勇敢の適性もあると出たのに、「勇敢っぽくない行動」と言われちゃうのも引っ掛かるし。
あと、そもそも何が勇敢らしくて、何が勇敢らしくないのか、その基準もボンヤリしているし。

トリスはナタリーから「誰も信用してはダメ。異端者だとバレたら殺される」と忠告されたのに、フォーを簡単に信用して異端者だということを明かす。しかも、フォーから聞かれたわけでもないのに、自分から明かしている。
しかし、そこから例えば「トリスが異端者だという噂が広まり、フォーがバラしたのではと疑う」といった展開に繋がることは無い。
「フォーは善玉でトリスの味方」ってのは、全く揺るがない。
そもそもフォーは最初からトリスをえこひいきしているしね。

トリスから異端者だと明かされたフォーは、「訓練しよう。俺の恐怖の光景に入るんだ」と持ち掛ける。
だが、「いかにも勇敢らしい行動を取るための訓練」として、なぜフォーの幻覚を使わなきゃいけないのかがサッパリ分からん。「助言するために同行する必要がある」ということなら、フォーが彼女の幻覚に入ってもいいはずで。
そんでマーカスの息子だとトリスに知られているけど、そりゃあテメエの幻覚を使ったら、そういうことが起きるのは容易に予想できるわけで。
そこは「フォーがマーカスの息子であることをトリスが知る」という段取りを消化するための展開ってのが、すんげえ下手な形で露呈しちゃってるわ。

最初に「5つの派閥」ってのを説明しているが、映画の大半では勇敢しか描かれておらず、そこに博学と無欲が少し絡んで来るだけ。残る高潔と平和は、最後まで全く登場しない(出身者は登場するけど)。
最初からシリーズ化が想定されており、第2作以降で登場するってことは分かるのよ。
ただ、それにしても全く登場しないってのは、「5つの派閥を設定した意味が無いわ」と言いたくなる。
博学の陰謀が進行したり反乱が起きたりする中でも、高潔と平和の動きが全く見えないってのは、ちょっと粗くねえかと。何かしらの形で、チラッと登場させるぐらいの作業はあっても良かったんじゃないかと。

勇敢のリーダーたちが、なぜ「意のままに操れる戦士を作り出す」という博学の計画に加担し、全面的に従っているのかが全く分からない。
志願者たちは注射で操られるけど、それを打ったのは勇敢のリーダーたちだからね。彼らが「無欲を始末して政権を奪う」という博学の野望に乗っかる根拠は、まるで分からないのよ。
「勇敢の連中はボンクラだから、博学によって簡単に騙された」ってことなのか。
だとしても、そういう裏工作の部分が描かれないから、映画そのものがボンクラ化しちゃってるぞ。

ケイレブは序盤、両親から博学の陰謀を聞かされた後、トリスに「両親のために派閥を選ぼう」と告げている。
彼は無欲ではなく博学を選ぶので、そこには「敵の内部に入り込んで計画を探る」という意味でもあるのかと思ったら、トリスの訪問を受けると「博学が政権を担うべき」と言う。
すっかり感化されている様子なので、ひょっとすると洗脳でもされたのかと思ったら、反乱が始まると博学を裏切って両親の元へ戻っている。どういうことなのか。こいつのキャラが全く把握できないわ。
結局、いかにも無欲らしい行動を自然に取ることが出来ていたにも関わらず、ケイレブが博学を選んだ理由は何だったのか、それも不明だし。

前半から「博学が政権を奪おうと目論んでいる」ってことに言及しており、終盤に入ると反乱が勃発する。
そういう展開の中で、「トリスは異端者」という設定は、ほとんど意味を持たない。
仮にトリスが異端者じゃないとしても、「家族を守り、反乱を阻止しようとする」という行動は変わらないし、一方で「そんなトリスを博学が始末しようとする」という行動も変わらない。
「トリスは異端者だから薬で操縦されない」という部分で異端者設定が使われているが、薬の投与は事前にフォーから教えられているので、そこは「フォーの協力で注射されたように見せ掛けて云々」みたいなことにしておけば、異端者設定が無くてもクリアできるのよね。

この映画は、話の構図が「博学が異端者を殲滅しようとする」という内容でもなければ、「異端者グループが結集して何かを始めようとする」という内容でもないし、「どこかの派閥が異端者の利用を企む」という内容でもない。
異端者という存在が、物語の中心に位置していない。
「博学が政権を奪うための計画を進め、無欲を襲う」という話に、異端者は全く必要性が無い。
そういう内容だから、「異端者」という設定は宙ぶらりんのままで映画が終わってしまうのだ。

(観賞日:2015年12月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会