『ダイ・ハード ラスト・デイ』:2013、アメリカ

ロシアでは元大物政治家であるユーリ・コマロフの裁判が迫る中、抗議デモが激しさを増していた。コマロフの逮捕には政治的陰謀が絡んでおり、政治家のチャガーリンが裏で糸を引いているという噂が広まっていた。チャガーリンはコマロフと面会し、「ファイルを渡せば人生を返してやる」と持ち掛けた。しかしコマロフが拒否したため、彼は「お前の話に耳を貸す奴などいないぞ」と言い放った。チャガーリンが動いたという情報がCIA本部に届き、すぐにモスクワの局員へ連絡が行く。ジャック・マクレーンはモスクワのクラブへ乗り込み、アントンという男に「コマロフが、さよならと伝えてくれってさ」と告げてから射殺した。
ニューヨーク市警のジョン・マクレーンは、数年前に息子のジャックと喧嘩別れしてから一度も会っていなかった。彼は同僚のマーフィーから、ジャックがモスクワで人を殺して逮捕されたことを知らされた。ジョンは娘のルーシーに見送られ、裁判に掛けられるジャックと会うためにロシアへ飛んだ。その頃、ジャックは検事と会って司法取引を持ち掛け、「俺のアントン殺しはコマロフの指示だ。証人として出廷する」と告げていた。
裁判所に到着したジョンは、連行されていく息子の姿を目撃した。裁判が始まろうとする中、チャガーリンに雇われた犯罪者のアリクは道路に並べた車を一気に爆破した。裁判所の壁に大きな穴が開き、武装した連中が突入した。ジャックはコマロフに声を掛け、外へ連れ出した。ジャックが盗んだ車にコマロフを乗せて逃亡を図ると、ジョンが立ちはだかった。ジョンが「降りろ」と怒鳴っていると、アリクの一味がコマロフに気付いた。ジャックは「邪魔なんだよ」とジョンに言い放ち、車で走り去った。
すぐにアリクの一味が装甲車で追跡を開始し、ジョンは近くにあった車を奪って後を追う。ジャックはCIAのコリンズと連絡を取り、予定から6分遅れていることを知らされる。CIAは飛行機による支援を中止し、ジャックに「プランBだ。隠れ家へ向かえ」と指示した。激しいカーチェイスが繰り広げられる中、ジャックは装甲車に追い付かれてしまう。しかしジョンが車を装甲車に激突させ、ジャックの危機を救った。ジョンの車が横転したため、ジャックは彼をピックアップしてアリク一味から逃亡した。
ジャックはジョンとコマロフを連れて、コリンズのいるアパートへ赴いた。ジョンが嫌味っぽい口調で「そうか、お前はスパイか」などと言うが、ジャックは無視した。コリンズから「ファイルを渡せば国外へ逃がす」と言われたコマロフは、「娘も一緒なら応じる」と告げた。ファイルの隠し場所について、彼は「貸金庫だ。鍵はホテル・ウクライナに」と答えた。コマロフは娘のイリーナに電話を掛け、「パパとママが初めてデートした場所へ行くんだ」と指示した。
一行が出発しようとした直後、アリクの率いる狙撃部隊がアパートを銃撃した。コリンズが殺された後、残る3人は銃撃をかわしつつ、アパートから逃走した。ジャックはジョンに怒りをぶつけ、「たった5分で、この3年間が台無しだ」と声を荒らげた。任務を続行するため、ジャックは2人を連れてホテル・ウクライナへ行き、イリーナと合流し。ジョンはイリーナに質問し、混雑していた道を通ったはずなのに早く到着した彼女への不審を抱いた。
コマロフが貸金庫の鍵を入手した直後、アリクの一味が現れた。イリーナはコマロフに銃を突き付け、金のために裏切ったことを明かす。彼女がコマロフを連れてホテルのヘリポートへ行き、アリクが待機させておいた戦闘ヘリに乗り込んだ。アリク一味はジョンとジャックを拘束し、暴行を加える。ジョンたちは隙を見て反撃し、銃を奪ってアリクの手下たちを始末した。アリクはヘリに乗り込み、機銃でホテルを撃つ。ジョンとジャックは窓ガラスを突き破り、何とかホテルから脱出した。
チャガーリンはアリクと携帯電話で話し、ファイルを入手したらコマロフ親子を始末するよう命じた。ジョンはジャックに、ファイルの中身を尋ねる。ジャックは彼に、それがチェルノブイリに関するファイルだと教える。かつてコマロフとチャガーリンは結託し、軍事用ウランの横流しで金を儲けていた。そのせいでチェルノブイリのメルトダウンが起きると、チャガーリンはコマロフを投獄した。事実が露呈すれば政治生命が断たれるため、チャガーリンはアリクを使ってファイルを奪おうと目論んでいるのだ。
「どうすればいいか分からない」と弱気になっていたジャックだが、ジョンの励ましを受けて戦う意欲を取り戻した。2人は大量の銃火器が積まれている車を盗み、チェルノブイリへ向かう。その頃、アリクたちは放射線防護服を着用して、閉鎖されたチェルノブイリの銀行に来ていた。チェルノブイリに入ったジョンとジャックは、戦いの準備を整える。ジョンはジャックに、父親として愛のある言葉を告げる。2人は改めて悪党退治の決意を固め、銀行へ乗り込んで行く…。

監督はジョン・ムーア、脚本はスキップ・ウッズ、製作はアレックス・ヤング&ウィク・ゴッドフリー、共同製作はデヴィッド・ウィリス&スティーヴン・J・イーズ&ピーター・ヴェヴァーカ、製作総指揮はトム・カーノウスキー&ジェイソン・ケラー&スキップ・ウッズ、製作協力はマーク・コストーン、撮影はジョナサン・セラ、編集はダン・ジマーマン、美術はダニエル・T・ドーランス、衣装デザインはボヤナ・ニキトヴィッチ、視覚効果監修はエヴェレット・バーレル、音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はブルース・ウィリス、ジェイ・コートニー、セバスチャン・コッホ、ユーリヤ・スニギル、ラシャ・ブコヴィッチ、コール・ハウザー、アマウリー・ノラスコ、セルゲイ・コルスニコフ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ロマン・ルクナール、ギャングスタ・ドッグレジー・ゾリー、ペトル・タカツィー、パシャ・D・リチニコフ、メガリン・エキカンウォーク、メリッサ・タング、リコ・シモニーニ、キャサリン・クレスゲ、エイプリル・グレイス、クーパー・ソーントン他。


「まだ続けるのかよ」と言いたくなるシリーズ第5作。
脚本は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』のスキップ・ウッズ、監督は『オーメン』(2006年版)『マックス・ペイン』のジョン・ムーア。
シリーズを通してのレギュラーはジョン役のブルース・ウィリスのみ。
ジャックをジェイ・コートニー、コマロフをセバスチャン・コッホ、イリーナをユーリヤ・スニギル、アリクをラシャ・ブコヴィッチ、コリンズをコール・ハウザー、マーフィーをアマウリー・ノラスコ、チャガーリンをセルゲイ・コルスニコフが演じている。
ルーシー役のメアリー・エリザベス・ウィンステッドは、前作に引き続いて出演している。

第1作の時点では、「シルヴェスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーのような肉体派のアクションスターが鍛え上げた己のマッチョなバディーを誇示し、知力や作戦に頼らずに真正面から敵に立ち向かい、その圧倒的な強さで問題を解決する」という当時の王道だったアクション映画の流れの中で、「敵にやられて痛みを表現し、不運を呪ってブツブツと喋りながら戦う」という主人公像が異例だった。
また、「閉鎖された環境の中で、主人公が孤立無援の戦いを強いられる」というパターンの流行も作り出したが、幾つもの伏線を散りばめてキッチリと回収していく見事な構成が他の亜流映画と一線を画していた。
しかし前作の批評でも書いたように、このシリーズは「こうあるべきだ」というルールが2作目で早くも壊れてしまい、3作目で完全に崩れた。

本作品についても、1作目と比較すれば「それは本当に『ダイ・ハード』の続編と言っていいのか」と引っ掛かる部分は色々とある。
しかし、もはや「ブルース・ウィリスがジョン・マクレーンとして主演している」ということだけが『ダイ・ハード』シリーズであることの条件なので、そんなことを気にしていたらダメなのだ。
具体的に例を挙げるなら、「事件の発生がクリスマス・シーズンではない」「舞台が閉鎖された一箇所に限定されていない」「ジョン・マクレーンが無敵の超人と化している」「ジョン・マクレーンが巻き込まれて仕方なく戦うのではなく、自分から厄介事に首を突っ込んでいる」「ジョン・マクレーンが絶体絶命の危機に陥って弱音を吐くことは無い」「ジョン・マクレーンが知恵や道具を駆使して戦うのではなく、何の作戦も無しに突っ込んでいる」といった部分を、いちいち気にせず華麗にスルーしておけってことだ。

前作では娘であるルーシーを登場させ、「人質に取られた彼女を救うためにジョンが敵と戦う」という図式を作ろうとしていた。しかし、ルーシーが人質に取られる以前からジョンは敵と戦っていたので、全くの無意味だった。ジョンが娘を人質に取られて窮地に追い込まれるということもなく、お構いなしで一味を攻撃するので、そっち方面でも無意味になっていた。
ただ、とりあえず家族は絡ませた方がいいんじゃないかってことなのか、今回は息子のジャックを登場させている。前作の人質作戦が失敗した反省からなのか、今回はジョンの相棒として一緒に行動させ、戦わせている。
しかし、今回の仕掛けも、やはり失敗に終わっている。
むしろ、戦闘能力の高い相棒を用意したことで、「ジョンが孤立無援の戦いを強いられて窮地に陥る」という状況を作り出せなくなるというマイナスばかりが目立つ。

ジョンは「ツキの無い男」というキャラ設定だったが、今回はジャックをツキの無い男にしている。序盤から、裁判所からコマロフを連れ出して救助してもらう作戦が、予定外の出来事によって変更を余儀なくされるのだ。
ただし、それを「親子の血は争えない」という風に見ることは、残念ながら出来ない。
なぜなら、ジャックの作戦を邪魔したのはジョンだからだ。
つまり今回のジョンは、何も知らないから仕方が無いとはいえ、結果的には息子の関わる重大なミッションを妨害しているのだ。だから、そこからジョンがアリクとの戦いで活躍しても、所詮はマッチポンプでしかない。
そう思うと、素直に応援できないし、気持ちが今一つ乗り切らない。

前述した部分が1作目と比較して全く異なるというだけでなく、『ダイ・ハード』としての共通項を外して単独の映画として捉えても、シナリオの仕上がりが大雑把。
まずジョンの戦う目的がボンヤリしている。
CIAの作戦は失敗したのだから、無理にアリク一味との戦いを続ける必要性は無い。本人が任務に当たっていたCIA局員であれば「使命感」というモチベーションもあるだろうが、彼は何の関係も無い。ただ息子が局員というだけだ。
「任務に失敗した息子のため」というのは動機として弱いし、そもそもテメエのせいで任務に失敗しているのに何の反省もしていないのはどうなのかと思うし。

そもそも、ジョンはニューヨーク市警察の刑事であり、ロシアでは何の権限も無いのだ。
権限が無いから事件解決という目的も無いのだが、そこから「事件解決という目的が無いから自由に暴れてもいい」という勝手な解釈になっている。
終盤に「俺の息子はCIAだ」と言っているが、それはロシアで大暴れて人を殺しまくってもいい理由にならんぞ。
一方、ロシアで権限を持つ地元警察や軍隊は、あれだけ派手に色んな連中が暴れているにも関わらず、最後まで出動しない。どうやらロシアの警察や軍隊は、かなりボンクラのようだ。

チャガーリンはコマロフに証言されると困るわけだが、それを阻止するために取ったのが「並べた車を爆破して裁判所の壁に穴を開け、武装した一味を突入させる」という作戦。
メチャクチャだな。もはや作戦と呼んでいいのかどうか迷うぐらいメチャクチャだ。
その裁判にはジャックが証人として出廷しているのだが、彼の目的は「コマロフを連れ出す」という任務を遂行することだ。だけど、コマロフを連れ出すために殺人を犯して逮捕されるって、すんげえリスキーだな。たまたま司法取引を検事がOKしてくれたから出廷できたけど、ちょっと調べりゃコマロフとの関係性が全く見えないことは分かるわけで。
司法取引を拒否されたら任務に失敗するだけでなく、良くて終身刑になるんだぜ。
もうちょっと上手い方法は無かったのか。CIAはアホなのか。

ジャックがコマロフを車に乗せて逃亡すると、コリンズは「6分遅れている」と告げる。
その遅れはジョンが車に立ちはだかったことによるものだが、ってことはCIAは最初から、チャガーリンが裁判所を爆破して壁に穴を開け、武装集団を突っ込ませることは予測していたのか。
変なところで妙に利口なんだな。
っていうか、知っていたのなら、チャガーリンの作戦を阻止しろよ。下手すりゃアリク一味にコマロフを拉致されるんだからさ。

ジョンは「息子を救うため」というよりも「息子に会うため」に、車を奪って追い掛ける。
激しいカーチェイスの中で、何の関係も無い大勢の市民に迷惑を掛けても平気な顔をしている。
2台の車を強奪しており、何も悪いことをしていない運転手の男を殴り倒す。
ルーシーから電話が掛かって来ると、ギリギリの状況のはずなのに余裕で会話を交わす。
どこか楽しそうで、この男、ノリノリである。

ジャックは逆襲を決意した後、駐車場で大量の銃火器が積まれている車を盗む。
なぜ大量の銃火器が積まれているのかという理由について、彼は「ここはチェチェン人が良く利用するクラブだけど、店内に銃は持ち込めないから車に積んである」と説明する。
それで納得できる人がどれぐらい存在するのかは不明だが、少なくとも製作サイドは「アメリカ人はその程度の説明で簡単に納得するだろう」と考えていただってことだな。

根本的にジョン・ムーアはアクションシーンの描写が下手で、観客を掴もうとしているのであろう約10分間に渡るカーチェイスからして、ゴチャゴチャしていて何がどう動いているんだか良く分からない。
何がどう動いているんだか良く分からないから、そこに生まれるはずの緊張感も乏しい。
そこに限らず、スケールのデカいアクションで派手に盛り上げようとしているのは分かるけど、そういうケレン味に関してはレニー・ハーリンの方が技量が遥かに上だろう。
たぶん苦手であろう人間ドラマの方も低調で、ジョンとジャックの「不和な親子が事件を通して和解する」という要素は薄っぺらいままで終わっている。

「とにかくアクションにアクションという構成にして、何も考えさせずにアクションだけで最後までノンストップで突っ走り、パワーと勢いだけで乗り切って、話の薄さや粗さに気付かれないようにしよう」という感じの中身なのに、そのくせ一本道で単純明快なシナリオでは満足できなかったのか、「実はイリーナが裏切っていた」「実はイリーナがコマロフを裏切っていたわけじゃなくて、2人がグルになっての作戦だった」というドンデン返しを用意している。
しかし、これが話を面白くするために作用しておらず、むしろ「そんなの無理して入れなくても良かったのに」と思ってしまう。
「まずドンデン返しありきのドンデン返し」でしかなく、そこを上手く機能させるための伏線や流れってモノを全く作り出せていない。
ドンデン返しってのは、急に話を捻って意外な展開を用意すればいいというものではないのだ。それは単に「唐突な展開」でしかないよ。

というか、まず「イリーナが裏切っていた」という部分に関しては、そもそも彼女とコマロフの親子関係が全く描写されていないので、ドンデン返しの前提になる条件の成立が甘い。
「娘だから裏切らないのが当たり前」というところに全て頼っているドンデン返しだ。
「実はイリーナとコマロフがグルだった」という部分に関しては、まさに「まずドンデン返しありきのドンデン返し」であり、「だったらイリーナがコマロフを裏切っている芝居を続けていた意味って無いんじゃないか」と思ってしまう。

そして映画は後半に入ると、『トータル・フィアーズ』や『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』を見た時と似たような、放射能に対するトンデモ描写が待ち受けている。
単純に知識や理解力が足りていないのか、分かっていながら「フィクションだから」という言い訳を付けているつもりなのかは知らないが、それは「いかにもアメリカ人的」と感じさせる描写だ。
「チェルノブイリ」というキーワードが出て来た時点でヤバい匂いは漂っていたが、やっぱり、やらかしている。

まず、アリク一味が放射能の防護服を着用して侵入した銀行に、ジョンとジャックが普通の格好で平然と入って行く描写に引っ掛かる。
車でチェルノブイリへ向かうシーンでジョンが「もう放射能は大丈夫だよな」と言っていたが、もう大丈夫だという設定なのか。しかし、だとしたらアリク一味が防護服を着用しているのは辻褄が合わない。
ってことは、ジョンとジャックは放射能を浴びても被曝しない特殊な体なんだろう。そうだ、そうに違いない。
って、そんなんで納得できるわけねえだろ。

金庫室の中は放射能の数値が異常に高くなっていることを知ったイリーナは、ある薬品を持って来させる。それを使えば放射能が瞬時に中和されるという、とても都合のいい薬品だ。
ちなみに、その薬の別名は「御都合主義」という。
そこで最初に感じるのは、「防護服を着ているのなら、中和する必要性は無いんじゃないか」ってこと。次に感じるのは、「荒っぽい裏稼業に手を染めなくても、その薬品を使えば大儲けできるんじゃないのか」ってことだ。
『ハドソン・ホーク』とは全く系統が違うはずなのに、ある意味では似たようなバカ映画になっちゃってるぞ、この作品。

(観賞日:2014年9月29日)


2013年度 HIHOはくさいアワード:3位

 

*ポンコツ映画愛護協会