『ディック&ジェーン 復讐は最高!』:2005年、アメリカ
西暦2000年。ディック・ハーパーはIT企業のグローバーダイン社で働き、妻のジェーンは旅行代理店で働いている。夫婦には一人息子のビリーがいて、メイドのブランカを雇っており、スポットと名付けた犬を飼っている。隣人のジョー・クリーマンが新車のメルセデス・ベンツを購入したので、ディックは羨ましく思う。出社したディックは、社内の幾つかの部署が厳しい状況に陥っていることを知らせるメールを受け取った。重役から呼び出しを受けたディックは、何があるのか確信して頬を緩ませた。
エレベーターで同僚のオズと話している間も、ディックはニヤニヤが止まらなかった。51階に到着したディックはCEOのジャック・マカリスターと面会しようとするが、ちょうど急用で外出したところだった。代わりに対応したCFOのフランク・バスコムは、辞任したビルの後釜として広報本部長に昇進させることを通達した。帰宅したディックはジェーンに昇進を伝え、仕事を辞めるよう促した。
月曜日、ディックはオリエンテーリング・ミーティングのために、マカリスターの邸宅を訪れた。バスコムも同席する中、ディックはマカリスターから、最初の仕事を指示される。それは午後のテレビ番組に出演し、今後の経営の見通しについてコメントする仕事だった。サム・サミュエルズが司会を務める生放送の経済番組に出演したディックは、グローバダイン社は絶好調だと話し始める。しかしサムからマカリスターがダミー会社を使って自社株の8割を売却していたことを聞かされ、ディックは困惑した。
ディックが会社に戻ると、社員たちは大混乱に陥っていた。何も知らされていなかったバスコムは、ヤケになって酒を煽っていた。何があったのか尋ねるディックに、彼は「今まで会社の赤字は全てダミー会社に入れていた。だからバランスシートは黒字だったんだ」と語る。マカリスターはディックの追及を軽く受け流し、ヘリコプターで逃亡した。ディックが帰宅すると、プールの工事が始まっていた。ジェーンが依頼すると、すぐに来てくれたのだという。
豪勢な食事を用意したジェーンは、旅行代理店を辞めたことを嬉しそうに告げる。ディックは会社が破綻したことを知らせ、戸惑いを示すジェーンに「何も心配は要らない。解雇手当が出る」と告げた。次の日、ビリーは学校へ行き、ジェーンは子供会の用事で出掛けた。ディックは家でノンビリするが、すぐに退屈してしまった。テレビ番組では、バスコムが詐欺とマネーロンダリングの罪で起訴されたことが報じられていた。マカリスターに繋がる証拠は、何も見つかっていなかった。
ディックは再就職に向けて動き出すが、新しい仕事が決まらないまま3ヶ月が経過した。ようやく面接に漕ぎ付けたディックだが、他にもオズを始めとして、グローバーダイン社の元社員たちが大勢押し寄せていた。しかしディックを見つけた面接担当者は、「面接なんて必要が無い」と彼を部屋に招き入れた。そこに会社の幹部たちが現れ、ディックを見て笑った。彼らは経済番組で醜態をさらしたディックをバカにするために、面接室へ通しただけだった。
帰宅したディックは、家計が厳しくなっていること、小切手が不渡りになったせいで芝生が剥がされたことをジェーンから聞かされる。「もう役員クラスの仕事にこだわるのは終わりにしたら?少しは妥協して、とにかく就職してくれないと」とジェーンが言っても、彼は「本部長になるのに15年も掛かった。ここで引いたら努力が水の泡だ」と譲らなかった。ジェーンは財産の全てがグローバーダイン社株だったこと、家の地価もグローバーダイン社の倒産でガタ落ちしていることを説明した。
深刻な状態になっていることを知らされたディックは、大型スーパーのコストマートで販売員の仕事を始めることにした。販売指導員のルーシーからアドバイスを受け、ディックは仕事に取り組むが、すぐにクビを宣告された。一方、ジェーンはフィットネスジムへ行き、トレーナーの面接を受ける。求めているのはジークンドーのトレーナーだと言われた彼女は、得意分野だと嘘をついた。隣人のヴェロニカ・クリーマンが生徒の中にいたので困惑しつつも、彼女はジークンドーのフィットネスを開始するが、すぐにクビを宣告された。
ディックとジェーンはブランカへの賃金を現物支給に切り替えて貰ったり、車を売って中古車にしたり、スプリンクラーで体を洗ったり、家財道具や家電を売り払ったりする。それでも苦しい状況に代わりは無いが、ディックは「何とかなる。400ドルさえあれば、もう1ヶ月は乗り切れる」とジェーンに言う。そんな中、ディックの仕事が決まらずに困っていることを聞いたブランカは、「私の従兄弟が仕事を紹介できるかも。安いけど、足しにはなる」と口にした。
ディックがブランカから紹介してもらったのは、不法労働者ばかりが集まる日雇いの仕事だった。それでもディックは働こうとするが、ライバルは多かった。彼は仕事を取り合った男にアゴを殴られただけでなく、財布を落とした。移民局が来た時に身分証明書が無かったため、彼は連行されてしまった。一方、ジェーンはボトックスと同じ効果を持つという新薬のモニターになるが、アレルギー反応で顔が腫れてしまった。深夜、ディックは脱走し、迎えに来たジェーンの車に乗り込んだ。
帰宅したディックはジェーンを休ませた後、外へ飛び出した。彼は周辺のゴルフ場や墓地、クリーマンの敷地など様々な場所から少しずつ芝生を切り取り、自宅の庭に運び込んだ。翌日、ディックは24時間以内に金を振り込まないと強制退去になるという銀行からの最終通告書を受け取り、強盗を実行しようと決意してジェーンに打ち明ける。ジェーンは軽く受け流し、「だったら付いて行くわ」と告げた。
車でコンビニの前まで行くと、ジェーンはディックに「もう気が済んだでしょ」と言う。「まだ実行してない」とディックが述べると、ジェーンは「だったら早くして。目撃者は消すのよ」と淡々とした口調で告げ、拳銃を渡す。ディックはレジに近付いて拳銃を取りだそうとするが、店員が屈強な男に交代したので、フラッペを飲み逃げしただけに留まった。ディックはATMで金を下ろした男を脅そうとするが、それは旧友のガースだった。ディックはドッキリだったように装い、その場を去った。別のコンビニで強盗を働こうとしたディックだが、老女の荷物を車まで運ぶ手伝いをしただけだった。
ジェーンは「世の中には強盗のセンスを持っている人と持っていない人がいるの。貴方は悪者にはなれないわ」と説くが、ディックはまだ諦めなかった。意地になった彼はマリファナ用品店に押し入り、店員に拳銃を向けて金を出すよう要求した。ジェーンが慌てて駆け付け、ディックを止めようとする。しかし最終通告書のことを知らされると、店員に「お金を出しなさい」と怒鳴った。ディックとジェーンはレジから金を奪い取り、車で逃走した。
ディックとジェーンは覆面やマスクで顔を隠したり変装したりして、コーヒーショップや寿司店、車の販売店へ次々に押し入って金を強奪する。2人は立ち退きを回避しただけでなく、プールに水を入れたり、一度は売却を余儀なくされた高価な家電を再購入したりする。以前のような裕福な生活が復活していく中で、なおもディックとジェーンは強盗を続ける。調子に乗った2人は、銀行強盗を遂行しようとする。手順通りに上手く進んでいたが、そこへ後から覆面姿の強盗コンビが現れた。駆け付けた警官隊に捕まった強盗コンビは、オズと妻のデビーだった。元同僚たちが犯罪に走って捕まっているというニュースを見たディックは、自分が起訴されることを知る…。監督はディーン・パリソット、オリジナル版脚本はデヴィッド・ガイラー&ジェリー・ベルソン&モーデカイ・リッチラー、脚本はジャド・アパトー&ニコラス・ストーラー、製作はブライアン・グレイザー&ジム・キャリー、共同製作はキム・ロス、製作協力はリンダ・フィールズ・ヒル&アシュレイ・クック、製作総指揮はジェーン・バーテルミ&ピーター・バート&マックス・パレフスキー、撮影はジャージー・ジーリンスキー、編集はドン・ジマーマン、美術はバリー・ロビソン、衣装はジュリー・ワイス、音楽はセオドア・シャピロ、音楽監修はランドール・ポスター。
出演はジム・キャリー、ティア・レオーニ、アレック・ボールドウィン、リチャード・ジェンキンス、アンジー・ハーモン、ジョン・マイケル・ヒギンズ、リチャード・バージ、カルロス・ジャコット、アーロン・マイケル・ドロージン、グロリア・ガラユア、ウォルター・アディソン、キム・ホイットリー、リック・オーヴァートン、ラルフ・ネーダー、マギー・ロウ、クリント・ハワード、エスター・スコット、ミシェル・アーサー、ステイシー・トラヴィス、スコット・L・シュウォーツ、ステフニー・ワイアー、ジェイソン・マースデン他。
ジョージ・シーガルとジェーン・フォンダが共演した1976年の映画『おかしな泥棒 ディック&ジェーン』のリメイク。
監督は『ギャラクシー・クエスト』のディーン・パリソット。
ディックをジム・キャリー、ジェーンをティア・レオーニ、マカリスターをアレック・ボールドウィン、バスコムをリチャード・ジェンキンス、ヴェロニカをアンジー・ハーモン、ガースをジョン・マイケル・ヒギンズ、ジョーをリチャード・バージ、オズをカルロス・ジャコットが演じている。今回のリメイク版がオリジナル版と大きく異なるのは、2001年に粉飾決算が露呈して破綻に追い込まれたエンロンの事件を下敷きにしていることだ。
クロージング・クレジットでは、エンロンや2002年に破綻したワールドコムの他、TycoやAdelphia、CendantやHealthSouthなど経営に問題のあった会社のCEOの名前が最初に表記される。
そして、そういう実際の企業破綻を投影させたことが、この映画にとって大きなマイナスとなっている。
例えば、この映画の時代設定が2000年になっているのはエンロン事件に合わせてのことだが、物語として、2000年である必要性や効果は全く無い。
だったら、そこだけの理由で2000年という中途半端な過去に設定するより、映画が公開された2005年にしておいた方がいい。それと、近々に起きた企業破綻をモチーフにした内容にしたせいなのか、コメディーなのに、今一つ笑いが弾け切れていないような印象になっている。
エンロンやワールドコムの破綻って、そこからわずか数年後の段階では、まだ笑い飛ばせるような状況になっていないんじゃないかと思うしね。
これがダーク・コメディーとして作られていれば何とかなったかもしれないが、そういうテイストでもないし。冒頭、ディックやジェーンが仕事をしている様子が写し出され、、「Dick has a good job」「Jane works hard, too」というスーパーインポーズが出る。ビリーやブランカ、スポットが画面に登場すると、「Here's Billy」「This is Blanca」「See Spot」といった文字が出る。庭に芝生を張る作業が行われており、そこへ4人&1匹が来たところで映像がイラストに変換され、題名が表示される。
まるでその4人&1匹を描く内容のように思えてしまうが、実際のところ、ディック&ジェーン以外のメンツは存在意義が皆無に等しい。
だったら、その始まり方は変だ。
っていうか、ホントにビリーやブランカやスポットは削ぎ落としても構わなかったし。ディックとジェーンは、それぞれ仕事先を見つけるが、すぐにクビを宣告される。
ジェーンの方はジークンドーなんて未経験だし、生徒に誤って蹴りを入れてしまっているので、クビになるのは分かる。
ただ、ディックの方は、なぜクビになるのかがイマイチ良く分からん。
ルーシーから「一人逃した」と言われて客を追い掛けたらパウダーを浴びせられて「店に入った時からジロジロ見てイライラしてたのよ。
このオッパイ狙いの変態」と罵られているので、セクハラの誤解でクビになったということなんだろうけど、クビになる展開として、ちと弱いんじゃないかと。ちっとも笑いになってないし。
もっと単純に、慣れない仕事でディックがヘマをしてクビってことで良かったんじゃないかと。前述した理由だと、誤解を受けただけであり、ディックは何もミスをしていないのでね。貧乏生活で追い込まれたディック&ジェーンが犯罪に手を出すのはオリジナル版と同じ展開なのだが、そこも引っ掛かってしまうんだよな。
貧乏になったからって、泥棒しても許されるわけではない。
いや、もちろん「映画であっても犯罪行為は絶対にダメ」とか、そういう頑固な考えを持っているわけではないよ。
例えば『オーシャンズ11』を見て「主人公が犯罪に手を染めているのが許せない」とか、そんなバカな意見を言ったりはしない。
ただ、この映画の場合、どうも素直にディック&ジェーンを応援できない雰囲気があるのだ。ディック&ジェーンが盗みを働く相手が大金持ちだとか、犯罪者だとか、嫌な性格の野郎だとか、そういう設定であれば、別に何とも思わなかったかもしれない。
しかしディック&ジェーンが盗みを働く相手は、ごく平凡で、普通に営業している店ばかりだ。
もちろん強盗のシーンはコメディー・タッチで描かれているし、ディック&ジェーンが脅しを掛ける相手が可哀想に見えるとか、犠牲者が出るとか、そんなことは無い。
だからディック&ジェーンに対して嫌悪感が生じるわけではないが、だからって応援する気は沸かない。もう1つ、応援できない原因があって、それは「金持ちだった奴らが、金持ちの生活に戻ろうとしている」ってことだ。
最初の強盗だけは「強制退去を回避するのに必要な金を工面するため、仕方なく強盗をやらかす」という言い訳があったが、それ以降の強盗によって、夫婦は売り払ったプラズマテレビを再び購入したり、プールに水を入れたりしている。
っていうか、そもそも最初の強盗にしたって、強制退去になっても、それで生活が出来なくなるわけではない。低賃金のアパートにでも引っ越せば済むことだ。
つまり、ディック&ジェーンの強盗は、裕福な生活レベルを落とさないための犯罪なのだ。
「ひもじい思いをしている貧乏な奴が、ギリギリのところまでに追い込まれている」というわけではないのだ。むしろ、強盗のおかげで以前より裕福になっている。
そんな奴ら、応援できねえよ。もっと根本的なことを言っちゃうと、「この話で、ディック&ジェーンが泥棒に手を染める展開って、ホントに必要だったのかな」と思ってしまうんだよな。
オリジナル版でもそういう展開なので、リメイク版で同じ展開を進むってのは当然っちゃあ当然なんだろう。
だけど、もっと「仕事を失った2人が再就職に向けて奮闘したり、生活を切り詰めるために苦労したりする」という部分を膨らませれば、泥棒をする手順を省いた構成に出来たんじゃないかなあと思うのだ。泥棒を繰り返す手順を省いた場合、「仕事を失ったディック&ジェーンが必死に生活を切り詰めるが、いよいよ立ち退きというところまで追い込まれる」というところから、「マカリスターが悠々自適に暮らしていることを知り、腹を立てて報復を決意する」という手順へ飛ぶことになる。
でも、それで何か問題があるわけではない。だから、そういう構成でも良かったんじゃないかなと思うんだよね。
もう少し細かいことを書くと、「貧乏になったディック&ジェーンが苦労する。いよいよ追い込まれて犯罪に手を出そうと考える。もしくは実際に犯罪に手を出そうとするが失敗したり、直前で思い留まったりする。そんな時にマカリスターの現状を知り、どうせ犯罪に手を染めるなら、彼から盗んでやろうと考える」という流れにしておけば、かなりスムーズな進行になるんじゃないかなと。
2人が銀行強盗を実行しようとしてオズ&デビーが捕まるシーンがあるが、ディック&ジェーンが最初に遂行を試みるのが、その強盗未遂ってことにしておいてもいいだろうし。それと、元同僚たちの哀れな姿&マカリスターの余裕たっぷりな現状を見て「悪事の報いを受けさせてやりたい」とディックは口にしているが、そこから「マカリスターに報復する」という行動に移るわけではなくて、「自分が起訴されることを知って荒れる」という経緯が入るんだよね。
その手順が入ることで、マカリスターの財産を盗む計画は、個人的な復讐ってことになる。
そうなると「仲間たちの哀れな現状に同情し、マカリスターに腹を立てる」という手順の意味が死んでしまう。
仲間の現状を知ってマカリスターに腹を立てるか、自分の起訴を知って報復に出るか、どっちかに限定しておいた方がいい。マカリスターの財産を盗む犯罪に関しては、相手が悪党だし、ディックや同僚たちを騙して陥れた相手だから、素直に応援できる。
だから、そこは巧みな作戦で見事に成功させるべきなのに、そこに来てマフケなミスを繰り返し、マカリスターにバレてしまうというお粗末さ。
結果的には成功しているし、たぶん「失敗したと観客に思わせておいて最後に大逆転」というドンデン返しを見せたかったんだろうけど、爽快感は無いなあ。
あと、その犯罪を成功させる前に実行した数々の強盗事件に関して、ディックとジェーンは全く反省していないし、罪滅ぼしもしていないのよね。
そこまでの強盗事件も全て正当化されてしまうのは、どうにも違和感が否めない。(観賞日:2013年11月5日)
第24回スティンカーズ最悪映画賞(2001年)
ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門
ノミネート:【最悪のカップル】部門[ジム・キャリー&ティア・レオーニ]
ノミネート:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[アーロン・マイケル・ドロジン]