『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』:2007、アメリカ

IDも入国許可証も所持していない密入国者の男が、妻子を射殺して自害するという事件が発生した。TVキャスターのブリーは現場に入り、リポートを開始する。その背後で死んだはずの男と妻子が立ち上がり、警官を襲撃した。ブリーも噛み付かれて命を落とした。カメラマンのブロディーが未放送部分も含めた映像をインターネット上にアップし、それをピッツバーグ大学の学生であるデブラ・モイナハンはダウンロードした。デブラは異変が起きた最初の3日間に関する映像をネットで集めたが、その大半はゴミ動画だった。彼女は恋人のジェイソンが録画した映像を編集し、インターネット上にアップした。
10月24日午後11時、ピッツバーグ大学映画学科のジェイソンは、卒業制作としてホラー映画を撮影していた。現場に集まったのは、仲間のトニー、トレイシー、エリオット、リドリー、トレイシーの恋人ゴード、メアリー、リドリーの恋人フランシーン、そして担当教授のマックスウェルだ。彼らはラジオのニュースで、死体が蘇って人々を襲う事件が起きていることを知った。トニーは本気にしなかったが、トレイシーやエリオットたちは怯えた様子を見せた。
金持ちの息子であるリドリーは「死ぬなら自宅で死にたい」と言い、豪華な邸宅へ戻ることにした。「来たければ付いて来い」と彼が口にすると、フランシーンは「私も行くと」告げる。2人が車で去った後、ジェイソンは「デブラを1人にしておけない」と恋人のデブラが暮らしている女子寮へ向かう。すると学生の姿は無く、泥棒の中年男が逃走していった。デブラは部屋に残っており、「家族に電話が繋がらない」と不安げな表情を浮かべた。
ジェイソンたちはメアリーの運転するトレーラーに乗り込み、大学を出発した。テレビのニュース番組では、「疾病管理センターが未知のウイルスによる集団精神障害との見解を出した」と報じられている。しばらく走っていると、事故を起こした車から黒焦げになった男が現れ、トレーラーの窓を激しく叩いた。スピードを上げて振り切ったメアリーは、蘇った3人の死体をはねた。ショックを受けた彼女は、車の外に出て拳銃自殺を図った。慌ててデブラたちが駆け寄ると、まだメアリーは息があった。
デブラたちはメアリーを病院へ運び込むが、人の姿が見当たらない。ようやく発見した医師と看護師は蘇った死体で、デブラたちを襲撃した。ゴードが2人を銃で始末し、一行は医師を捜索することにした。だが、ジェイソンだけは「カメラの充電がある」と部屋に留まった。すぐにデブラの悲鳴と銃声が聞こえてきた。デブラは他の部屋で見つけたというビデオカメラを持ち帰り、患者が襲って来てゴードが銃殺したことを語った。別の患者が蘇ったので、戻って来たゴードが銃弾を浴びせた。メアリーが死亡し、そして蘇った。マックスウェルが銃弾を浴びせ、一行は病院を去ろうとする。その際、ゴードが蘇った死者に噛まれた。
翌朝、一行はメアリーとゴードの死体を土に埋め、トレーラーで出発した。田舎道でトレーラーが故障したため、一行は見掛けた聾唖の農夫サミュエルに納屋を貸してほしいと持ち掛けた。サミュエルは黒板に「急げ」と記し、近付いてきた死者たちを手榴弾で始末した。トレイシーが車を修理している最中に、死者の群れが納屋へ襲い掛かって来た。サミュエルが死亡する中、一行は車で逃走した。
デブラの実家があるスクラントンヘ行くにはガソリンが足りないため、一行は町へ出て給油しようと考える。その途中、武装した黒人のグループと遭遇した一行は、「マシな場所に連れてってやる」と言われ、アジトである倉庫に案内された。リーダーの男は「ガソリンは全て頂戴した。目的地までなら分けてやる」と言う。そこに居る理由をデブラが尋ねると、彼は「初めて力を持った。白人は全て死んだからな」と告げる。「いずれ州兵が事態の鎮圧に来る」という言葉に対しては、「俺は隊員だ。州兵など来ない。だから自衛する」と口にする。そのために彼らは町で略奪し、必要な物資を揃えていた。
ジェイソンは奥の部屋を貸してもらい、撮影した映像を編集してネット上にアップした。デブラから「私たちは家に帰りたいの。もう映像をいじるのはやめて」と言われても、彼は「真実を伝えるんだ。世界中が見てる」と聞く耳を貸さなかった。デブラは弟ビリーから届いたメールで生存を知り、喜んだ。ジェイソンのパソコンにはリドリーからのテレビ電話が入り、彼がフランシーンと陽気に過ごしている様子が写し出された。
心臓病持ちの男が死亡して姿を消したため、黒人グループとデブラたちは手分けして捜索する。黒人グループの1人が人違いで殺された後、その男も始末された。デブラはグループのリーダーに対し、武器と食料と水を要求した。拒否するリーダーに対し、彼女は「くれるまで動かないわ。殺す?死なれるよりも条件を飲んだ方が得策よと」と強気に交渉する。リーダーは承諾し、武器と物資を引き渡した。
デブラたちはトレーラーで出発した後、ユーチューブにアップされた日本からの映像を見た。日本の女性が「東京は酷い有り様よ。死体を埋める前に頭を撃って」と呼び掛けたところで、回線が途絶えた。テレビは全く映らなくなっていた。デブラは実家に到着すると、他の面々に車で行くよう促した。しかし他の面々もデブラの家へ行ってみることにした。屋内に入ると、死者となったビリーとデブラの母が襲い掛かって来た。マックスウェルが弓矢で始末し、一行はすぐに出発することにした。
一行はジェイソンの提案で、フィラデルフィアにあるリドリーの豪邸へ行くことにした。その途中、州兵の集団と遭遇した一行は安堵した。だが、州兵たちは一行に銃を突き付け、物資を全て奪って逃走した。一行はリドリーの邸宅に到着するが、玄関のドアが開いていたので警戒する。屋内に入ると、避難部屋から飛び出してきたリドリーは陽気な態度で歓迎する。だが、彼はフランシーンと家の人間が全て死亡したため、正気を失っていたのだ。噛まれて傷を負っていたリドリーは死んで蘇り、一行に襲い掛かった…。

脚本&監督はジョージ・A・ロメロ、製作はピーター・グルンウォルド&アルトゥール・スピーゲル&サム・イングルバート&アラ・カッツ、共同製作はポーラ・デヴォンシャイア、製作協力はマイケル・ドハーティー&ドナ・クローチェ、製作総指揮はダン・ファイアマン&ジョン・ハリソン&スティーヴ・バーネット、撮影はアダム・スウィカ、美術はルパート・ラザラス、編集はマイケル・ドハーティー、衣装はアレックス・カヴァナー、特殊メイクアップ効果プロデューサーはグレッグ・ニコテロ、音楽はノーマン・オーレンスタイン。
出演はミシェル・モーガン、ジョシュ・クローズ、ショーン・ロバーツ、エイミー・ラロンド、ジョー・ディニコル、スコット・ウェントワース、フィリップ・リッチョ、クリス・ヴァイオレット、タチアナ・マズラニー、ミーガン・パーク、R・D・レイド、アラン・ヴァン・スプラング、ローラ・デカーテレット、トッド・ウィリアムズ・シュローダー、ジャネット・ロー、ジャック・バーマン、スコット・ギブソン、ティノ・モンテ、ジェイミー・ブロック他。


ゾンビ映画の巨匠、っていうかゾンビ以外の映画がパッとしないのでゾンビ映画に戻るしかなかったジョージ・A・ロメロの監督作。
デブラ役のミシェル・モーガンは、これが映画デビュー。
ジェイソンをジョシュ・クローズ、トニーをショーン・ロバーツ、トレイシーをエイミー・ラロンド、エリオットをジョー・ディニコル、マックスウェルをスコット・ウェントワース、リドリーをフィリップ・リッチョ、ゴードをクリス・ヴァイオレット、メアリーをタチアナ・マズラニーが演じている。
アンクレジットだが、ジョージ・A・ロメロが警察署長の役で出演している。同じくアンクレジットだが、ウェス・クレイヴン、ギレルモ・デル・トロ、スティーヴン・キング、スティーヴン・キング、サイモン・ペッグ、クエンティン・タランティーノがニュースの声を担当しており、トム・サヴィーニが病院のラジオで「頭を撃て」と叫んでいる声を担当している。ジョージ・A・ロメロ以外の面々に関しては、「very special thanks to」として名前が表記されている。

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が火付け役となったPOV(主観映像)によるモキュメンタリー・ホラー映画を、巨匠のジョージ・A・ロメロもやってみようってことなんだけど、あまり上手く行っているとは思えない。
まずPOVに関して言うと、「ジェイソンの撮影した映像をデブラが編集し、恐怖心を高めるために音楽も付けている」という設定であり、しかも途中からカメラが2台体制になっている。
同じ場面が繰り返して使われたり、参考映像が挿入されたり、カットが割られたり、後から付けたナレーションがあったりするので、もはやPOV方式にしている意味がまるで無くなっているんじゃないかと。

POV方式にすることで、それを撮影している人物(ジェイソン)がクソ野郎で、まるで同調できないという問題が生じている。
どういうことかと言うと、POV方式だから、ジェイソンは周囲の人々がゾンビに襲われる様子をずっと撮影している。目の前で仲間がゾンビに襲われても、助けようとせずに、カメラで撮影することを優先する。
そんな奴、人間のクズでしょ。
でも、基本的には彼が撮影している映像が使われるので、そんなクズが終盤まで生き残るってことになる。
脇役やチョイ役ならともかく、物語の中心人物がヘドの出るようなクズ野郎ってのは、かなりキツいものがあるよ。

モキュメンタリー方式に関して言うと、そもそも私はモキュメンタリーとホラーが優れたマッチングだとは思っていない。
それはひとまず置いておくとしても、この映画はモキュメンタリーとしての作り込みが甘い。
まず、映像の揺れが少なすぎる。幾ら映画学科の学生でズブの素人じゃないにしても、ゾンビが襲い掛かって来る中で撮影を続けていたら、もっとブレブレになってもおかしくないと思うが。
それと、ゾンビが襲うのが撮影者のジェイソンじゃなくて、必ずカメラが捉える人物ってのも都合が良すぎる。
撮影している最中に、背後からゾンビが襲って来るようなことも無いし。

事件発生当日からジェイソンがずっとカメラを回し続けているというのは、都合が良すぎる。
それだと、最初からジェイソンはゾンビ出現を信じているってことになる。
でも、それにしては、ジェイソンは電話が繋がらずに不安げなデブラに対して「回線が込んでるだけだろ」とクールに言ったりする。
ものすごく冷静なんだよね。
ゾンビ出現を信じているとすれば、そこまで落ち着き払っているのは不可解だ。もう少し焦るのが普通じゃないかと。

っていうかジェイソンに限らず、ラジオのニュースで事件を知った時に、トニー以外の面々は最初から死体の復活を信じている。
そして、かなりビビっているのだが、そこに違和感を覚える。
まだラジオの情報だけでは、かなり胡散臭いネタにしか思えんのだが。
その後も一行は、かなりビビっている様子だ。
でも、まだ周囲でゾンビが現れたわけでもないのに、異様にビビりすぎているように感じられる。
あの黒焦げゾンビを見るまでは、怯える様子をもう少し抑制しておいてもいいんじゃないかと。

大学の女子寮には誰もいないのだが、なぜなのかが良く分からない。
もしもゾンビに襲われたのであれば、死体やゾンビの姿が見つかるはずだ。それが無いってことは、みんな怖がって逃げ出したと解釈すればいいのだろうか。
でも、これが「大学の構内で事件が起きた」ということなら逃げ出すのも分かるが、全く別の場所で事件は起きているはずだから、「怖いので学生寮を逃げ出す」ってのが良く分からん。そこを避難したからって、それで安全が確保できるってわけでもないでしょ。
その一方、映画学科の連中は、家族と連絡を取ろうとしているのがデブラだけで、他の奴らは全く連絡しようという素振りを見せないのね。
そのくせ、早く大学を離れて実家に戻ろうとはしているみたいだし、どういう思考回路なのか、サッパリ分からん。

ロメロ先生は作品に必ず社会風刺を盛り込むのだが、それが押し付けがましい形になって表れている。
マックスウェルが「戦争では、殺しは身近に存在する。傍観者は気楽だ。君のような者は多い。何でも記録に残そうとする傍観者だ。相手を人間と思わなければ、残虐性も正当化され、殺しさえ平気になるんだ」とジェイソンに対して語り掛けるのは、ものすごく唐突だし、やけに説明的な台詞だ。
それ以外にも、デブラの「恐ろしい光景は私たちの目を釘付けにする。ハイウェイで事故を見れば、私たちは素通りできない。助けるためではなく、傍観するために立ち止まるのだ」とか「今や私たちが情報を伝える側だった。物事の見方とは不思議なものだ。レンズを通して見ることで、体験者ではなく傍観者になる。徐々に感覚は麻痺し、何を見ても平気になる。慣れるのは視聴者だけではない。撮る方も同じ。撮影しながら惨劇に対して免疫が出来て来る。身の周りでどんなことが起きても、日常として捉えられるようになる」といった語りなども、ロメロ先生の主張が不自然な形で声高にアピールされているという印象だ。
伝えたいメッセージを、映像やドラマではなく、セリフやナレーションといった言葉だけで説明しちゃうのは、映画として格好の良いものではない。

後半、テレビが写らなくなり、「主要な放送網は崩壊した。今や情報網はブロガーやハッカーや子供たち」というデブラのナレーションが入るが、テレビやラジオといった放送網が崩壊したのに、インターネットの情報網だけは何の支障も無く使えているってのは、都合が良すぎるぞ。
それと、ネットだけじゃなく、どうやら電気の供給も全く止まっていないんだよね。そりゃ都合が良すぎるわ。
あと、そのネット上にアップされた日本の女性の「東京は酷い有り様。埋める前に頭を撃って」というコメントは、他の国の人は全く気にならないのかもしれないが、日本人からすると違和感を禁じ得ない。
と言うのも、日本では死者が出れば主に火葬されるので、「埋めた死体が蘇って襲って来る」という状況は、ほとんど起きないはずなのだ。
もちろん、火葬する前に死者が蘇ることはあるだろうけど、「埋める前に頭を撃って」というコメントは、ちょっと奇妙に思える。

(観賞日:2013年5月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会