『デビルズ・ノット』:2013、アメリカ

1993年5月5日、アーカンソー州ウエスト・メンフィス。8歳のスティーヴィーは親友のマイケルが遊びに来たので、自転車で遊びたいと母のパムに頼む。パムは夕方5時からレストラン「ボージャングル」の仕事があるため、4時半までに戻るよう約束させて承知した。帰宅した継父のテリーは娘のアマンダがテレビを見ているのを確認した後、テリーと話してスティーヴィーが遊びに出掛けたことを知らされる。スティーヴィーとマイケルは友人のクリスと合流し、ロビン・フッドの森へ向かった。
4時半を過ぎてもスティーヴィーが戻らないので、パムはテリーに車でレストランまで送ってもらいながら捜索するが見つからなかった。仕事を終えた彼女は、まだスティーヴィーが戻らないことをテリーから聞く。婦人警官のレジーナ・ミークスはクリスの父であるJMから話を聞いていたが、ボージャングルに血まみれの黒人男性が現れたという連絡を受けて急行する。支配人のマーティー・キングは彼女に、取り乱した様子の男が女子トイレへ直行したこと、顔に血が付着していたこと、どこかへ姿を消したことを説明した。
警察だけでなく市民も協力して捜索する中、ロビン・フッドの森を調べていた刑事たちが全裸で川に沈んでいる3人の遺体を発見した。パムとテリーは刑事から、・ダンジェロという青年について質問される。ボビーは友人のクリストファー・モーガンと共に、かつてアイスの移動販売をやっていた。2人はパムの家を訪ねたことがあり、クリストファーはスティーヴィーの写真を欲しがった。ドクロの指輪を渡したいと彼は言っており、パムは息子の写真を差し出した。
クリストファーはオーシャン・サイド警察署へ赴いて刑事の事情聴取を受け、スティーヴィーを最後に見たのは1年半前にアイスを売った時だと証言した。主婦のヴィッキー・ハッチソンは警察署へ赴き、息子のアーロンは3人の少年と仲が良かったと告げた。アーロンは刑事の質問を受け、殺害現場に自分もいたことを証言する。彼は逃げ出したがジェシー・ミスケリーに縛られたこと、手を掴まれてナイフでクリスを切らされたことも語った。
ブライアン・リッジ刑事はジェシーを尋問し、ジェイソン・ボールドウィンからウエスト・メンフィスへ行こうと誘われたこと、ダミアン・エコールズも含めた3人で森へ出掛けたことを話す。さらに彼は、ダミアンとジェイソンが子供たちを殴ったこと、自分は逃げようとしたマイケルを捕まえて立ち去ったこと、ジェイソンがナイフで切り付けるのを見たことを証言した。警察はジェシーを逮捕し、ダミアンとジェイソンの元へ赴いて2人を拘束した。
6月4日、調査会社代表のロン・ラックスは、ギッチェル警部の記者会見をテレビで見た。犯行動機についてギッチェルは語らなかったが、市民の間では悪魔崇拝が原因だという噂が広まっていた。検察は容疑者3名に対し、死刑を求刑することを断言した。死刑反対派のロンは、3人の公選弁護士に無料で協力することを決めた。秘書は「もしも本当に彼らが犯人なら?」と反対するが、彼は「冤罪なら?例え犯人だとしても、犠牲者の死で充分だ」と述べた。
ロンは容疑者3人の弁護士であるダン・スティッドハム、ポール・フォード、ヴァル・プライスと会い、詳しい話を聞く。ジェシーは知能の発達が遅れており、医者は6歳から8歳レベルだと言っていた。ダミアンは生活保護を受け、家族でトレーラー・パークで暮らしていた。彼は警察沙汰の事件を起こし、少年鑑別所に入っていた過去があった。保護観察官に会ったロンは、「ダミアンはオカルトに傾倒していた。精神科の入院歴もある」と告げられた。
ロンはダミアンと面会し、助かりたければ正直に話すよう要求した。ダミアンは彼に、「俺は悪魔崇拝のリーダーじゃない。パワーを得て支配するため、魔術に興味があるだけだ」と語った。パムはテレビ取材を受けた際の態度をテリーに批判され、「貴方はスティーヴィーに厳しかった。私と一緒に寝ると叱っていた。嫉妬してたわね」と指摘した。テリーは物を壊して激しく苛立ち、常に嘆き悲しんでいる母親として振る舞うよう命じた。
1993年8月4日。ジェシーは弁護士のダンを通じて自白を撤回し、分離裁判になることが決定した。ロンは別れた妻のマギーから電話を受け、ダイナーで会った。マギーは彼に、「州警察が来て、貴方の過去について訊かれた。離婚訴訟のことも全て知ってた。離婚で恨んでると思って、貴方に不利なことを言わせる気よ。汚い手口だと言ってやったわ」と話す。マギーから送った協議書について質問されたロンは、無くしたと嘘をついた。マギーが「また送るわ」と告げると、彼は「探してみるよ」と述べた。
ジェシーの裁判でスティーヴィーの遺体写真が提示されると、傍聴していたパムは耐え切れなくなって外へ出た。ダンはギッチェルに対し、ジェシーの取り調べで幾つもの矛盾点が出ていたことを指摘した。ギッチェルは「ジェシーは混乱していただけだ」と説明し、陪審員はジェシーに有罪判決を下した。ロンはJMがテレビの撮影スタッフに血の付着したナイフを渡していたという情報を掴み、ギッチェルに「なぜ黙っていたのか」と詰め寄った。ギッチェルは「発表されたのは昨日だ」と言い、DNA検査で鑑識に送ったと述べた。
ダミアンとジェイソンの裁判で、弁護士は取り調べにおける発言の矛盾点を追及した。アーロンの証言が気になったロンは彼の家へ行くが、ヴィッキーが「何も話せない。ブレイ刑事に聞いて」と追い払った。ブレイに会ったロンは、なぜヴィッキーが警察署へ来たのか尋ねた。ブレイはカード詐欺に加担した疑いでヴィッキーを呼んだこと、スティーヴィーたちが消えた翌日にアーロンを連れて来て「彼は役に立つ情報を持ってる」と語ったことを説明した。
ヴィッキーはブレイから悪魔崇拝について問われ、協力して調べることを約束した。ヴィッキーはジェシーに紹介してもらい、ダミアンとジェイソンに接触した。彼女はブレイに「ダミアンたちに誘われて悪魔崇拝の集会へ行き、死の危険を感じた」と話していたが、ロンは真っ赤な嘘だと確信した。検察はジェシーの自白以外に何の切り札も持っていなかったが、警察は他の容疑者を探そうともせず3人が犯人と決め付けていた。ロンは弁護士たちに、「我々がやるしかない。無実を立証できないなら、警察の捜査ミスを証明するしかない」と話す。彼はマーティーと会い、協力を要請した…。

監督はアトム・エゴヤン、原作はマーラ・レヴァリット、脚本はポール・ハリス・ボードマン&スコット・デリクソン、製作はエリザベス・フォウラー&リチャード・サパースタイン&クラーク・ピーターソン&クリストファー・ウッドロウ&ポール・ハリス・ボードマン、製作総指揮はモリー・コナーズ&マリア・セストーン&サラ・ジョンソン・リードリヒ&ホイト・デヴィッド・モーガン&ジェイソン・ボールドウィン&ジェシー・ミスケリーJr.&マーラ・レヴァリット&ホリー・バラード&スコット・デリクソン&デヴィッド・アルパー&ジェイコブ・ペチェニック&マイケル・フリン、共同製作はポーラ・グレイビル・スミス&シャラ・ケイ&アルメン・アゲアン&スコット・ユルゲンスメイヤー&バブス・シモンズ&アマンダ・ボウワーズ&エドワード・モクタリアン&ゲイリー・ケイ&メリッサ・ケイ、撮影はポール・サロッシー、美術はフィリップ・バーカー、編集はスーザン・シプトン、衣装はカリ・パーキンス、音楽はマイケル・ダナ、音楽監修はローラ・カッツ。
出演はコリン・ファース、リース・ウィザースプーン、デイン・デハーン、ミレイユ・イーノス、ブルース・グリーンウッド、イライアス・コティーズ、スティーヴン・モイヤー、アレッサンドロ・ニヴォラ、エイミー・ライアン、ロバート・ベイカー、ケヴィン・デュランド、マイケル・グラディス、ジェームズ・ハムリック、マーティン・ヘンダーソン、クリス・ヒギンズ、ブライアン・ハウ、マット・レッシャー、セス・メリウェザー、レックス・リン、クリストファー・ポラーハ、コレット・ウォルフ、テッド・ハッカビー、ケリー・ケイヒル、ジェット・ユルゲンスメイヤー、ポール・ハリス・ボードマンJr.、ブランドン・スピンク他。


冤罪の可能性が高いとされる1993年の殺人事件を題材とする、マーラ・レヴァリットのノンフィクション著書を基にした作品。
監督は『スウィート ヒアアフター』『秘密のかけら』のアトム・エゴヤン。
脚本は『ルール2』『エミリー・ローズ』のポール・ハリス・ボードマン&スコット・デリクソン。
ロンをコリン・ファース、パムをリース・ウィザースプーン、クリストファーをデイン・デハーン、ヴィッキーをミレイユ・イーノス、バーネットをブルース・グリーンウッド、ジェリーをイライアス・コティーズ、ジョンをスティーヴン・モイヤー、テリーをアレッサンドロ・ニヴォラ、マーガレットをエイミー・ライアンが演じている。

ザックリ言うと、「こういう事件がありました」という事実をなぞっているだけだ。
一応は「こいつが真犯人じゃないか」と匂わせているが、それは以前から1つの見方として出ていたモノだ。大胆な仮説を提示するとか、鋭いメッセージを発信するとか、そういう意識は全く感じない。
実際の事件を題材にする時、そういうのが絶対に無きゃダメとは言わない。
ただ、じゃあ他に何を売りにしているか、どういうトコに観客を引き付ける力があるのかというと、特にこれといって見当たらない。

そんなわけだから、これは単なる再現ドラマになっている。しかも情報が全く整理できておらずゴチャゴチャしているため、再現ドラマとしても品質は低い。
例えば遺体発見の直後、刑事がパムとテリーを訪ねて「ボビーは来たか」「誰が一緒だったか」と質問するシーンがある。だが、なぜ警察がボビーに注目したのかはサッパリ分からない。
クリストファーの事情聴取の後、別の刑事がどこかへ電話を掛けて彼の印象を訪ねているが、その相手が誰なのかは全く分からない。
刑事は「もう一度、彼と面談を。八方塞がりで」と言うが、その台詞だけでは捜査に行き詰まっていることが全く伝わらない。

八方塞がりと言うぐらいだから、きっと「大勢で必死に捜査していたが何の手掛かりも無く、そんな中でクリストファーがようやく容疑者として浮上してきた」ってことなんだろう。
ただ、そういう経緯があったとしても、映画を見ているだけでは全く伝わらない。
しかも、そこで粒立てていたクリストファーを警察が容疑者として調べるのかと思ったら、すぐに別の3人が逮捕される展開へ移ってしまう。
そうなると、クリストファーの線は何のために用意されていたのかと言いたくなる。

クリストファーとの再度の面会について刑事が言及した直後、ダミアンとジェイソンの悪魔信仰を示すようなシーンが入る。
だけど、その見せ方は明らかに間違っている。
そういうのは、「警察が捜査する中でダミアンたちの存在が浮上し、彼らに関する情報が提示される」という流れにすべきじゃないかと。そっちの方が、絶対にスムーズだよ。
この映画、「警察が捜査して情報を集め、容疑者を特定して」という進め方をせず、色んなトコへ視点を飛ばしているから、話に集中できないのよね。

八方塞がりと言っているぐらいだから、「なかなか犯人が特定できずに苦労して」という日数の経過があるのかと思いきや、アローンの尋問シーンは遺体発見の翌日だ。
だったら、そこで情報は出ているはずなんだから、ちっとも八方塞がりじゃないでしょ。
その直後にはダミアンとジェイソンが訪ねて来た刑事の質問を受けているシーンがあるが、なぜ彼らが疑われたのか全く分からない。
この映画は時系列をシャッフルしながら進めており、その次には5月から6月までアーロンの面談があったことを示している。そういう捻った構成は無意味に取っ付きにくくしているだけで、何の効果も生んでいない。
ダミアンたちが疑われた理由は少し経ってから明らかになるが、そこの手順を逆にしているのもデメリットしか無いよ。

ロンは途中からしか事件に関わらないのに、なぜか冒頭から無意味に登場している。
しばらくは何のために登場しているのか分からないし、余計なトコへ目が散るだけの存在だ。
どうせ時系列を行ったり来たりさせるぐらいなら、「ロンが事件に興味を持って関与する」というトコからでも話を始めれば良かったんじゃないのか。
それがベストな選択かどうかは正直に言って微妙だけど少なくとも本作品の構成に比べれば、かなりスッキリと整理されるんじゃないか。

ただし、ロンのモチベーションが弱すぎて、物語を牽引する力が不足しているという問題はあるのよね。
「死刑反対派だから無料で弁護士に協力する」ってのは、メインを張るキャラを突き動かす力としては厳しい。
いっそのこと、「依頼を受けて調査を始める」という形の方が、動機としては受け入れやすいのよね。
それが調査を進める中で「3人は犯人じゃないのでは」と感じるようになり、無罪を勝ち取るため積極的に行動するという変化を見せるなら、そっちの方が入り込みやすいんじゃないかと。

警察は初動捜査から色々とミスを犯しており、そのせいで容疑者の特定が困難になったはずなのだが、そういう部分には触れないまま話が進んでいく。
市民が悪魔崇拝に怯えてデタラメな噂が広まっていく様子、ダミアンたちを犯人と決め付けて攻撃的な空気が高まっていく様子は全く伝わらない。
そういうトコは断片的な光景を無造作に散らしていることもあり、途中でロンが「警察が犯人を決め付けている」と語るシーンはあるが、その頃には、既に取り調べにおける矛盾点が裁判で指摘されたりしているのよね。
それは捜査ミスじゃなくて、偏見といった別の問題になっちゃってるのよ。

っていうか、刑事が取り調べで矛盾点を感じても無視していたり、判事が通販で簡単に博士号を取得した人間を証人として認めたりという描写で「皆がダミアンたちを犯人と決め付けている」ってのをアピールしているんだけど、その辺りが散文的になっちゃってんのよね。
それに対するロンの憤りやパムの疑念に突っ込んでいく意識も弱いし。
ロンなんかは、意図的かもしれないけど、たまにしか感情を表現しないので、その状況に対して何を感じているのか、どう思っているのか、ほとんど分からない。

裁判が始まった後、パムは自宅でスティーヴィーの幻影を見たり、彼が事件前に済ませてあった宿題を小学校教師に採点してもらったり、スティーヴィーのクラスメイトに抱き付かれたりする。
そういうのは、パムへの同情心を誘うためのシーンだろう。
ただ、基本的には淡々と事象を連ねているのに、そこだけは感情に訴え掛けるような演出を入れるのはバランスが悪い。
そもそも、「心に深い傷を抱えた母親」という部分ばかりを描くのなら、そんなに大きく扱う意味が無いなと。この映画の軸からはズレた掘り下げ方だ。

ロンが妻と離婚していて協議書が送られているという設定があるが、そういう個人的な問題は全く要らない。それが彼を突き動かす気持ちと関連しているわけでもないので、何のために持ち込んでいるのかサッパリ分からない。
キャラクターに厚みを持たせようってことかもいれないが、だとしても邪魔になっているだけだ。「探偵が事件を解決する」というハードボイルド・ミステリーならともかく、そういう作品でもないんだし。
事件を巡る内容が淡々としていて盛り上がりに欠けるので、そういう要素で飾りを付けようとしたのかもしれない。
でも何のプラスにも繋がっていないので、結果としては無意味でしかない。

(観賞日:2019年2月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会