『デュースワイルド』:2002、アメリカ&ドイツ

1958年、夏。ブルックリンに暮らす青年ボビーは、三人兄弟の真ん中だ。末弟アリー・ボーイは3年前、マルコ率いるグループ “ヴァイパーズ”にヤク漬けにされて死んだ。それ以来、母は精神を患ってアリーのことばかり口にしている。兄レオンは街を守るという 名目で、ヴァイパーズに対抗するグループ“デュース”を結成した。デュースは毎日のようにウィリーの店でたむろし、タバコを闇で 売るなどして金を稼いでいる。ただし、絶対に麻薬には手を出さないというルールが定められている。
ボビーもデュースの一員で、他にティノやリトル・ジャックらの仲間がいる。アル中の父を持つ少年スクーチも一員で、レオンは彼を 可愛がられている。8丁目の一角がデュースの縄張りで、通りの向かい側はヴァイパーズの縄張りになっているため、足は踏み入れない。 レオンはアルド神父から、「刑務所にいるマルコが戻ってくるが、挑発には乗るな」と忠告される。
街を仕切っているのはフリッツィーというギャングで、彼にはデュースもヴァイパーズも逆らえない。デュースとヴァイパーズは敵対関係 にあるが、3年前から休戦協定が結ばれている。そんなある日、デュースの縄張りにあるフリッツィーの空き店舗を、ヴァイパーズの フィリー・ベイブが買い取ろうとした。フィリーが店を麻薬の取り引きに使うと分かっているボビーたちは、彼の乗っている車にアパートの 屋上からブロックを落とし、病院送りにした。レオンは、休戦協定を破ったボビーに激怒した。
レオンはフリッツィーに呼び出され、「俺の店を誰に貸すのも勝手だ」と告げられる。ボビーは近くに引っ越してきた女性に手伝いを 頼まれ、心を惹かれる。ボビーはレオンから、それがヴァイパーズの一員ジミー・ポケットの妹アニーだと知らされる。レオンはボビーに、 アニーには構うなと釘を刺した。アニーが母と共に引っ越してきたのは、ジミーの部屋だ。だが、ジミーは精神を患っている母親と妹を 同居させることに乗り気ではなく、悪態をついた。
ボビーはレオンの警告に従わず、ダイナーでアニーに声を掛けるが軽くあしらわれる。フィリーはマルコに面会し、「デュースを襲え」と いう命令を聞く。フィリーたちはウィリーの店を襲おうとするが、警官が来たために退却した。レオンはデュースに対して「挑発に乗るな」 と指示を出すが、ボビーは戦おうとしない兄に反発する。
ボビーはカーニバルの会場でアニーと出会い、デートする。リトル・ジャックは夜道でヴァイパーズに襲撃され、重傷を負う。ボビーは 知り合いのフレディーからリトル・ジャックのことを聞かされ、急いで駆け付ける。ボビーは仲間を引き連れ、フィリーたちとの決闘へ 赴く。恋人ベッツィの部屋にいたレオンは伝令役スクーチから事情を聞かされ、急いで決闘場へと向かう。デュースは劣勢だったが、 レオンの到着で形勢は逆転し、ヴァイパーズを蹴散らした。アニーは怪我をしたボビーを介抱した。
ついに出所したマルコは、迎えに来たジミーにレオンの行動を監視するよう命じた。マルコはスクーチをレオンの目の前で可愛がり、挑発 する。ボビーはプールでアニーを見つけ、彼女の元へ行く。レオンが呼び戻すと、アニーは行かないよう求めた。それでもボビーがレオン の元へ行くと、アニーは不機嫌になって帰ってしまった。あらためてボビーがアニーに会いに行くと、彼女は普通の恋人のように振舞って ほしいと告げた。ボビーはアニーの頼みを聞き入れると約束し、「恋人だ」と大声で叫んだ。
フィリーたちはデュースの縄張りを荒らし、店を破壊し、車に火を付けた。レオンはヤクで大きく稼ぐため、売人モーリスと取り引きの約束 を交わした。アニーはヴァイパーズが大金を持っていると知り、ジミーを酔わせて隠し場所を聞き出した。アニーはボビーに会い、金を 盗み出す協力を頼んだ。その金を持って、アニーはブルックリンを出るつもりだ。
マルコは昔の恋人ベッツィーとヨリを戻そうとするが拒否されたため、暴力を振るってレイプした。ベッツィーから話を聞いたレオンは激怒し、 フィリーの店に車で突っ込んだ。フリッツィーはレオンとマルコを呼び寄せ、和解の握手をするよう求めた。しかしレオンは拒絶し、 デュースとヴァイパーズは決闘することになった…。

監督はスコット・カルヴァート、脚本はポール・キマティアン&クリストファー・ガンベイル、製作はポール・キマティアン&マイケル・ セレンジー&ウィリ・バール&フレッド・カルーソ、共同製作はメリッサ・バーレット&チャーリー・ローヴェンタール&スコット・ ヴァレンタイン、製作協力はシーラ・レヴィン、製作総指揮はマリオ・オホーヴェン&エバーハード・ケイサー&マーク・スフェラッツァ、 撮影はジョン・A・アロンゾ、編集はマイケル・R・ミラー、美術はデヴィッド・L・スナイダー、衣装はマリアンナ・アストロム= デ・フィーナ、音楽はスチュワート・コープランド。
出演はスティーヴン・ドーフ、ブラッド・レンフロー、フェアルーザ・バーク、バルサザール・ゲティー、フランキー・ムニッズ、 ノーマン・リーダス、マックス・パーリック、ドレア・デマッテオ、ヴィンセント・パストーレ、 ナンシー・カサーロ、ジェームズ・フランコ、ジョシュ・レナード、アルバ・アルバネーゼ、ダニー・シストーネ、ルイス・ ロンバルディー、ジョニー・ノックスヴィル、メルヴィン・ロドリゲス、ロバート・ミランダ、シェイマス・マーフィー、ロニー・マーモ 、ポール・サンプソン、モーリス・コンテ、マット・ディロン、デボラ・ハリー他。


『バスケットボール・ダイアリーズ』のスコット・カルヴァートが監督した青春ヴァイオレンス映画。
レオンをスティーヴン・ドーフ、ボビーをブラッド・レンフロー、アニーをフェアルーザ・バーク、ジミーをバルサザール・ゲティー、スクーチをフランキー・ムニッズ、 マルコをノーマン・リーダス、フレディーをマックス・パーリックが演じている。
他に、ベッツィーをドレア・デマッテオ、アルド神父をヴィンセント・パストーレ、レオンとボビーの母エスターをナンシー・カサーロ、 フリッツィーをマット・ディロン、アニーの母ウェンディーをデボラ・ハリーが演じている。
また、デュースのメンバーの中には、後に『ジャッカス』で有名になるジョニー・ノックスヴィルもいる。

ものすごく簡単に本作品を表現すると、『ウエスト・サイド物語』からミュージカルを排して劣化させたヴァージョンである。
若者ばかりのチンピラ集団(一応はギャングということになっているが、チンピラと言った方が合っている)の2グループが対立しており、一方の 男が対立グループの一員の妹に惚れる。
まんま『ウエスト・サイド物語』である。
登場人物の設定、筋書き、構成に目新しさがあるわけではない。
映像演出やアクションシーンに惹き付けるようなモノがあるわけでもない。
音楽によって感情を高ぶらせるわけでもなく、キャスティングに強い訴求力があるわけでもない。
何の変哲も無い、ごく普通の青春チンピラ映画である。
そういう作品を2002年になって新たに作った製作サイドの精神には、恐れ入谷の鬼子母神である。
勝てる要素が全く見当たらないのに勝負を挑むのだから、果敢な特攻精神である。

チンピラ集団はスクーチのような例外(彼だけはガキンチョだからね)を除き、全員が同じような髪型に同じような服装なので、誰が誰 なのかを見分けることが難しい。
ただし、見分ける必要性は無い。
どうせ誰が誰であろうと、個性が没していようと、話には何の影響も無い。
区別が必要なのはレオン、ボビー、マルコ、ジミーの4人ぐらいだ。

最初に「この映画、ダメだな」と思ったポイントは、ヒロインだ。
アニーが登場するシーンで、ボビーは「イカしてる」と言うのだが、ちっともイカした女に見えないのである。
ポニーテールにすればイケてる女になるというモノではない。
ハッキリ言うが、フェアルーザ・バークの器量で本作品のヒロインを務めるのは明らかに役者不足(というか見た目不足)である。
アニーは気が強くて跳ねっ返りというキャラクター設定で、ボビーに対して生意気なことを言ったり軽くあしらったりする。
そういう性格は、見た目が可愛らしいタイプであれば、上手く行ったのだろう。
ところがフェアルーザ・バークがそういうキャラを演じると、その表情は、ホントにタカビーでイヤな女に見えてしまうのである。

プールでレオンから呼ばれたボビーに対して命令口調でアニーが「行かないで」と告げるのも、不貞腐れて帰るのも、ただのワガママで身勝手な女 に見えてしまう。
後半に入るとジミーに酒を飲ませて金の各場所を聞き出すシーンがあるが、その時の企み顔の悪そうなことと言ったら。
フェアルーザ・バークはヒロインよりも、例えば「敵側の一員の恋人だけど正義感があり、ボビーがピンチになった時は密かに助けてやる」 みたいに姐御肌タイプのキャラを演じさせた方が似合っていたような気がするぞ。
あと、そもそもアニーのキャラ設定自体、もっと優等生タイプであったり真面目であったりということにしておいた方が良かったんじゃ ないかねえ。
前述したように彼女はヴァイパーズの金を盗んで逃げようとするんだが、そのためにボビーを利用したりするのは、ヒロイン としてふさわしい行動なのかと首をかしげてしまうんだよな。

ヴァイパーズがデュースの縄張りで店を壊したり通り掛かりの人々に暴行を加えたりしても、レオンが手出しせずに黙っている理由が、 サッパリ分からない。
ヤクザであれば、「ヴァイパーズが乗り込んでくる口実を与えないため、挑発に乗らず我慢している」という名目も 成立するだろう。
だが、この作品ではヴァイパーズは抗争のために挑発として暴れているわけではないし、レオンが報復しようがしまいが ヴァイパーズの動きは変わらないのだ。
既に休戦協定は破られているし、暴力を振るわないという誰かとの約束があるわけでもない。
そうなると、ただ弱腰なだけにしか思えないのである。

で、それまで黙っていたレオンが、ベッツィーをレイプされると烈火の如く怒って抗争に突入する。
個人的なことになると、すぐカッとなっている。
ってことは、やはり今までは弱腰だっただけじゃねえのかと。
ただ、そうなっても「銃は使うな」と指示するんだよな。
彼の怒りは、そこでルールを定められるレヴェルのモノらしい。

後半、ジミーが警察にチクッたせいでマルコがムショに入ったため負い目があることが明らかにされる。
で、だからマルコの指示に従うということなんだが、そんな設定を持ち出す意味が分からない。
負い目があろうとなかろうと、ジミーはマルコの忠実な手下なんだから。
それに、「負い目があるからアニーとボビーの交際を阻止しようとする」という流れにしたいようだが、そうじゃなくても反対してた だろうに。
そもそも、アニーに対して冷たく接していたのに、そこだけ「妹思い」みたいな感じにするのも変だし。


第25回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の助演女優】部門[デボラ・ハリー]

 

*ポンコツ映画愛護協会