『ディープ・インパクト』:1998、アメリカ

バージニア州のリッチモンド。高校の天文学クラブに所属するレオ・ビーダーマンは、恋人のサラ・ホッチナー達と共に野外観測をしている時、彗星らしきものを発見。彼は写真を撮影し、それをアリゾナ州のエイドリアンピーク天文台に送る。
その写真に未知の彗星が写っているのを見つけた天文学者マーカス・ウルフは、一刻も早くアリゾナ大学のシューメーカー博士に連絡しようとするが、電話もメールも繋がらない。彼は車を飛ばして直接会いに行こうとするが、トラックと衝突して事故死してしまう。
1年後、ニュースリポーターのジェニー・ラーナーは、財務長官を辞任したアラン・リッテンハウスを探っていた。リッテンハウスが「エリー」の存在を気にしていたことを突き止めたジェニーは、エリーという女性が大統領の恋人だったのではないかと推測する。
だが、「エリー」とは女性の名前ではなく、彗星衝突を示す政府の極秘コードだった。ジェニーの動きを知ったトム・べック大統領は記者会見を開き、発見者の名前を取った巨大なウルフ・ビーダーマン彗星が1年後に地球に衝突することを発表する。
アメリカはロシアと共同で宇宙船メサイア号を建造し、彗星の表面に着陸して核爆弾を仕掛けることによって、彗星の軌道を変えようとする計画を発表。メサイア号に乗り込む6人のメンバーの中には、引退していた大ベテランの元宇宙飛行士スパージャン・タナーの姿もあった。
メサイア号は彗星に着陸して核爆弾を仕掛けようとするが、ガスの噴出によってメンバーの1人パテンザが犠牲になり、リーダーのモナシュも負傷する。タナーの指揮によって作戦は続行されるが、彗星は軌道を変えず、大小2つに分かれて地球へ近付いてくる。
作戦の失敗により、大統領はアメリカ国民を“アーク”と呼ばれる地下シェルターに収容する計画を進めることを発表。ただし、シェルターの収容人数は100万人。そのため、政府が選定した各分野の専門家20万人と、抽選で選ばれた50歳までの人間が収容されることになった…。

監督はミミ・レダー、脚本はブルース・ジョエル・ルービン&マイケル・トルキン、製作はデヴィッド・ブラウン&リチャード・D・ザナック、製作総指揮はジョーン・ブラッドショー&ウォルター・パークス&スティーヴン・スピルバーグ、撮影はディートリッヒ・ローマン、編集はポール・チチョッキ&デヴィッド・ローゼンブルーム、美術はレスリー・ディリー、衣装はルース・マイヤーズ、視覚効果監修はスコット・ファーラー、音楽はジェームズ・ホーナー。
出演はロバート・デュバル、ティア・レオーニ、イライジャ・ウッド、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、モーガン・フリーマン、マキシミリアン・シェル、ジェームズ・クロムウェル、ロン・エルダード、ジョン・ファヴロー、ローラ・イネス、メアリー・マコーマック、リチャード・シフ、リリー・ソビエスキー、ブレア・アンダーウッド、ダグレイ・スコット、ゲイリー・ワーンツ、ブルース・ウェイツ、ベッツィー・ブラントリー、オニール・コンプトン他。


そもそもは、アーサー・C・クラークの「神の鉄槌」とエドウィン・バルマー&フィリップ・ウイリーの「地球最後の日」を原作として構想された作品らしい。
だが、どうやら作っている間に、ほとんど映画オリジナルのストーリーになってしまったらしく、両作品とも原作としてのクレジットは無い。

序盤、彗星の危険性を知ったマーカス・ウルフが事故死する。
だが、そんなエピソードで時間を割く必要があるのだろうか。
それで彗星の情報が埋もれてしまうのならともかく、政府には伝わるわけだから、連絡する流れを普通に見せていいんじゃないの。
あと、ジェニーが大統領のセックス・スキャンダルを追うような展開も要らないと思う。
とにかく、彗星が衝突しようとしていることを観客に知らせるまでに、無駄なエピソードで引っ張りすぎ。どうせ観客は最初から彗星衝突の映画だって知ってるはずだから、それだけジラすことの意味は無いだろうし。

おセンチな物語はあるけれど、カタルシスは全く無い。
SF映画ではあるけれど、SFの醍醐味はラスト15分ぐらいしか味わえない。
パニック映画だと思っていたら、パニックは起きない。
この映画は感動を売るタイプの映画だったのね。
家族愛を売りにする映画だったのね。

ディープ・インパクトではなく、チープ・インパクト。
緊張感のカケラもありゃしない。
ちっとも盛り上がっていかないし。
スペクタクルシーンの醍醐味をアピールすることよりも、人間ドラマに比重が置かれているようだ。しかし、その人間ドラマがショッパイのね。

主要メンバーが多すぎるせいか、どうもまとまりに欠けている感じがある。
もっとメインキャラを減らした方が良かったのでは。
まずジェニーは要らないんじゃないか。あと、ビーダーマンも要らないかな。この話、タナーと周囲の人々の関係に絞って人間ドラマを練り上げた方が良かったかもしれない。
もしくは、もっとメンバーを増やして、バリエーション豊かなそれぞれの人間ドラマを描き分ける形にしてみるとか。3つのドラマを同時進行させる形になっているんだけど、どれも同じようなテイストの内容になってしまっているのね。それが問題。

彗星衝突の情報を大統領が発表した後、ビーダーマンの学校では彼を主役にした質問大会で盛り上がる。メサイア号に乗り込むメンバーは、パーティーで騒いでいる。
彗星が衝突したら確実にみんな死ぬと思うんだけど、それにしては呑気だ。

ジェニーがヒロインらしいポジションにいるのは、前半だけ。
彗星衝突が発表されてからは、その対応を伝えるだけの傍観者。
まあ、職種がニュースリポーターだから仕方が無いんだけど。
だから、最初からリポーターを主役にすることに無理があるんじゃないのかね。

メサイヤ号を使った作戦が失敗した後は、アメリカ政府は新しい作戦を実行することもなく、ひたすら衝突を待つばかり。
で、彗星が衝突するまでは何も出来ないもんだから、それなりの人間ドラマを、それなりに処理しつつ、ノンビリとした雰囲気で物語は進んでいく。
どこがSF映画なんだか分からなくなってくる。

しかし、人類の危機が訪れているんですぜ。
もっとパニック状態が起きてもいいんじゃないのか。
ずっと神様に祈っている奴とか、大金を払ってシェルターに入れてもらおうと画策する奴とか、もっと様々な人がいてもいいんじゃないのか。
みんなが同じような行動しか取らないのは奇妙だぞ。

それにしても、彗星が衝突して被害を受けるのはアメリカだけじゃないのよね。
だけど、出てくるのはアメリカとロシアの名前だけ。
映し出されるのはアメリカの人々の様子だけ。
この映画の設定上では、地球にはアメリカとロシア以外の国は無いのかもしれない。

で、別にアメリカ万歳という作品になってても構わないよ。
『インデペンデンス・デイ』だってそうだったし。
ただ、『インデペンデンス・デイ』は極端にヤリ過ぎたおかげでギャグの領域にまで達していたけれど、この作品はマジの範囲内からは抜け出せていないのね。


第21回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪な総収益1億ドル以上の作品の脚本】部門
ノミネート:【最悪の助演女優】部門[ティア・レオーニ]

 

*ポンコツ映画愛護協会