『デス・レース』:2008、アメリカ&ドイツ&イギリス

2012年、アメリカの経済は崩壊し、失業率は過去最高を記録した。犯罪は多発し、刑務所の収容能力は限界に達した。そのため、民間企業 が営利目的で全ての刑務所を運営するようになった。ターミナル・アイランド刑務所はケージ・ファイトをネットで中継して人気を呼び、 そこは現代版グラディエーターたちのコロッセオとなった。しかし観衆はすぐに飽きてしまい、更なる刺激を求めた。こうしてデス・ レースが誕生したのである。
デス・レースの出場者であるマスクの囚人フランケンシュタイン、通称フランクは、マシンガン・ジョーと激しい勝負を繰り広げていた。 前を行くフランクの装甲車に、ジョーが激しく銃撃を浴びせていた。フランクは「墓石」と呼ばれる鉄板を外して攻撃するが、武器を使う ことが出来ず、死を覚悟した。彼はナビゲーターの女囚ケースに、脱出するよう指示を出した。ケースは助手席の脱出装置を作動させ、 車外へと飛び出した。直後、フランクの車は砲撃を受けて吹っ飛び、炎に包まれた。
しがない労働者のジェンセンは、勤務していた製鉄所が閉鎖され、仲間のロスたちと共に最後の給料を受け取った。手数料と称して賃金が 減らされ、300ドルしか受け取れなかった。ジェンセンが不満を漏らしていると。そこに機動隊がやって来た。彼らは労働者を威嚇し、 いきなり襲い掛かった。ロスが銃撃されたのを見て激怒したジェンセンは、殴ってきた機動隊の警棒を奪って反撃した。
夜になって帰宅したジェンセンは、キッチンにいる妻スージーにキスした後、産まれたばかりの娘パイパーの部屋に行く。彼が台所へ行く と、スージーが倒れていた。突然、背後から覆面を被った男にスプレーを噴射され、ジェンセンは気を失った。意識を取り戻すとスージー は血まみれで、彼は血の付着したナイフを持っていた。そこに警官2名が突入し、ジェンセンを殺人犯として取り押さえた。
半年後、ジェンセンはターミナル・アイランドに収容された。看守のウーリックは、彼を荒くれ者たちの房に入れた。ウーリックは暴行を 受けることを期待してニヤつくが、ジェンセンは全員を叩きのめした。食堂に現れたジェンセンを見て、囚人のコーチは仲間のガナーと リスツに何者かと尋ねる。リスツは、ジェンセンがサーキットの最速記録を持つレーサーだったことを説明した。
パチェンコという囚人が現れ、ジェンセンにケンカを仕掛けてきた。ジェンセンは応戦して格闘するが、看守たちに取り押さえられた。 ジェンセンはウーリックによって、女性所長ヘネシーの部屋へ連行された。ヘネシーは、フランクのことを話し始めた。彼はクラッシュで 潰れた顔を隠すため、常にマスクを着けていた。「視聴者は彼の復活を待ち望んでいる。でも公表されていないけど、彼は最後のレース後 に手術台で死んだ」と彼女は語った。
ヘネシーはジェンセンに、フランクとしてレースに出るよう持ち掛けた。「5回勝てば釈放するのがルールで、フランクは4勝している。 だから、あと1勝で釈放よ」と彼女は言う。次のレースは金曜だ。取引を承諾したジェンセンを、ヘネシーはフランクのメカニックである コーチ、ガナー、リスツに紹介した。ジェンセンは表向き、メカニックの新入りとしてチームに加わることになった。
刑務所の中には、それぞれの車ごとに修理工場がある。コーチはジェンセンに、「フランクがレースに出なくなって視聴者が半減し、利益 が減ったから、お前が必要なのだ」と告げた。リスツは、あるスペースを所長が1ヶ月ほど隔離し、何かを作っていることを語った。 コーチたちは、ジェンセンが乗る車の武装について説明した。所長は全ての武器を止めるスイッチを持っているため、その武装で襲うこと は出来ないとコーチは言う。
レースの死亡率平均は62.2パーセントで、これまでフランクは20人の囚人を殺している。レースは1日1レースで、3日間に渡って開催 される。コーチは「最初の2レースでは敵を消していき、最後のレースはスピード勝負だ」と言う。女子刑務所から送られてくる美女が ナビゲーターを担当するが、マシンガン・ジョーだけはゲイなので男が担当する。他の出場者には、中国系アメリカ人の14K、ヘネシーを 女神と崇めるグリム、元花形レーサーのコルト、パチェンコといった面々がいる。ジョーはジェンセンたちのピットに現れ、「フランクに 会ったら言っておけ。今度は病院送りじゃ済まさないぞ」と告げた。
ステージ1の当日、ジェンセンはフランクのマスクを着け、彼がしていたという指輪をヘネシーに嵌められる。スタートの直前になって、 ナビゲーターの女囚たちが護送車で連行されてきた。ケースは、自分のパートナーがフランクではないと知っている。彼女は警官の夫を 殺して収監されていた。コーチはジェンセンに、「レースは3周で、2周目から武器が使えるようになる」と説明した。
いよいよレースがスタートした。1周目が終わると、ヘネシーは「剣と盾をオンに」と部下に命じた。床のパネルが作動した。そのパネル を車で踏むと、剣は銃が使えるようになり、盾はナパームとスモークとオイルが使えるようになる。さらにヘネシーは、ドクロのパネルを オンにした。それを踏むと、車を捕まえて押し潰す仕掛けが作動する。パネルを踏んでも武器が作動しないというトラブルに見舞われた ジェンセンだが、脱出装置でナパームを発射してコルトを始末した。
レース中、パチェンコの挑発ポーズを目にしたジェンセンは、彼が妻を殺した覆面男だと確信した。結局、ステージ1ではグリム、コルト 、サイアドが死亡し、パチェンコがトップでゴールした。以下は14K、リギンズ、ジョー、カーソン、そして最下位がジェンセンだった。 ジェンセンはヘネシーの元へ行き、ステージ2の出場を拒否した。するとヘネシーはパイパーの養父母の写真を見せ、娘に会いたければ 出場するよう脅した。
ジェンセンはコーチに、なぜ囚人番号が無いのかと質問した。コーチは「3年前に仮釈放になって、今は囚人じゃないからだ」と答える。 彼はシャバに出るのが怖くて、刑務所に留まっているのだ。そんな彼に、ジェンセンは「所長が俺をフランクに仕立て上げるために妻を 殺したと言ったら、どう思う?」と問い掛けた。深夜、ジェンセンはパチェンコ一味に殺されそうになるが、リスツが助けに来た。反撃 したジェンセンはパチェンコを追い詰め、「所長の命令でやった、ウーリックもグルだ」と妻の殺害を白状させた。ジェンセンは彼を始末 しようとするが、ウーリックに麻酔銃を撃たれてしまった。
翌日のステージ2で、ジェンセンはわざとスローなスタートを切った。彼はケースに「フランクを殺したのか?」と尋ね、脅しを掛けた。 コーチは「武器を使えなくした。そうすれば釈放すると所長が約束した。フランクにレースを続けさせるためよ。昨日はジェンセンの邪魔 をしろと命じられた」と打ち明けた。一気にスピードを上げたジェンセンはパチェンコの車を執拗に狙い、彼を殺害した。
レースが続く中、ヘネシーは極秘に製作していた大型トレーラーを出撃させ、無差別攻撃を開始する。リギンスとカーソン、14Kが次々に 殺された。ジェンセンはジョーと無線で通信し、協力して大型トレーラーを始末した。ヘネシーはウーリックに、ステージ3でジェンセン を始末するよう命じた。その夜、ジェンセンはフランクのピットを訪れ、話を持ち掛けた。翌朝、ヘネシーが囚人たちにスピーチをして いる間に、ウーリックはジェンセンのピットへ行き、車に高性能爆薬を取り付けた…。

監督はポール・W・S・アンダーソン、映画原案&脚本はポール・W・S・アンダーソン、製作はポーラ・ワグナー&ジェレミー・ボルト &ポール・W・S・アンダーソン、製作総指揮はロジャー・コーマン&デニス・E・ジョーンズ&ドン・グレンジャー&ライアン・ カヴァナー、撮影はスコット・キーヴァン、編集はニーヴン・ハウィー、美術はポール・デンハム・オースタベリー、衣装はグレゴリー・ マー、視覚効果監修はデニス・ベラルディー、音楽はポール・ハスリンジャー、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はジェイソン・ステイサム、タイリース・ギブソン、ジョアン・アレン、イアン・マクシェーン、ナタリー・マルティネス、 ジェイコブ・バルガス、マックス・ライアン、ジェイソン・クラーク、フレデリック・コーラー、ロバート・ラサード、ロビン・ショウ、 ジャスティン・メーダー、ベンズ・アントワーヌ、ダニー・ブランコ・ホール、クリスチャン・ポール、ジャナヤ・スティーヴンス、 ジョン・ファロン、ブルース・マクフィー、コーリー・ファンティー、ラッセル・フェリアー他。


1976年の映画『デス・レース2000年』をリメイクした作品。ただし内容も登場人物も大幅に異なっている。
ポール・W・S・アンダーソンは、これをオリジナル版のプリクエルという解釈で作ったらしい。彼は1994年のデビュー作『ショッピング 』の頃にロジャー・コーマンと出会い、『デス・レース2000年』のリメイクを希望したそうだ。それが実現しない間に、トム・クルーズ 主演でリメイク企画が進行したが、納得できるスクリプトが完成しなかったために彼は降板した。
ジェンセンをジェイソン・ステイサム、ジョーをタイリース・ギブソン、ヘネシーをジョアン・アレン、コーチをイアン・マクシェーン、 ケースをナタリー・マルティネス、ガナーをジェイコブ・バルガス、パチェンコをマックス・ライアン、ウーリックをジェイソン・ クラーク、リスツをフレデリック・コーラー、グリムをロバート・ラサード、14Kをロビン・ショウが演じている。
また、『デス・レース2000年』で主人公のフランケンシュタインを演じていたデヴィッド・キャラダインが、フランクの声を担当している。

『デス・レース2000年』のリメイクと言うよりも、『バトルランナー』(原作小説じゃなくて映画版の方ね)の亜流という印象だ。
まず初期設定がおとなしいと感じた。ポール・W・S・アンダーソン監督ってB級アクション映画を多く手掛けているけど、あまり突き 抜けた荒唐無稽はやらずに、そつなくまとめようという人なんだよね。
もっと言えば、「どこかで見たような設定」を使う人だ。「そんなメチャクチャな世界観、ありえねー」と笑えるようなところまでの爆裂 っぷりは無い。
まあ、だからこそ「B級映画を手堅く仕上げられる人」ということで仕事が続けられるのかもしれんけど、なんか小さく まとまっちゃってるのよね。

もちろんリメイク版がオリジナル版と同じことをやる必要は無いし、むしろトレースするだけならオリジナル版を見れば充分ってことに なるので、シナリオに手を加えるのは当然の作業だ。
特にオリジナル版はロジャー・コーマンの製作なのだから、「そりゃあ手を加えにゃ、どうにもならんだろ」という風には思う。
しかし、「一般市民を殺せばポイント獲得」という、オリジナル版における最大の面白味を削除するってのは、ものすごく愚かしい行為 だろう。
「赤ん坊や老人を殺してポイントを稼ぐ」というのは悪趣味すぎる設定だから、やめておこうというモラルが働いたんだろうか。そういう トコは、妙に真面目なんだよなあ。
むしろ、そこを一番の売りにして、その部分をもっと活用する脚色をしてほしいぐらいなんだけど。
だって、そこを削り落としたら、これといった売りが無い凡庸なB級アクションになっちゃうじゃん。
殺し合いのデス・レースじゃなくて、市民をブチ殺して喜ぶデス・レースだから面白かったんじゃないのかなあ。

冒頭で機動隊がジェンセンたちを急襲するシーンを用意し、「一般市民が困窮し、警官は横暴に振舞って労働者を痛め付ける」という様子 を描くので、その「警官の横暴」や「労働者の不満」といった要素が物語の進行に何か関係してくるのかというと、何も無い。
で、そこでジェンセンは警官に殴り掛かったのに、なぜか拘束もされていない。警官は横暴なのかユルい連中なのか、どっちなんだよ。
食堂でリスツがコーチに説明するという形で、初めてジェンセンが元レーサーということがセリフで示される。
でも、ただの製鉄所の労働者にしか見えなかったけどね。だったら、レーサーとして活躍しているところを最初に見せればいいような ものなのに。
あと、なぜトップレベルの実力だったジェンセンがレーサーを辞めたのか、なぜ免許を剥奪されたのかは、全く説明されないままだ。

ジェンセンは食堂でケンカをやって、看守に取り押さえられる。
でも、その前に「威嚇無しに発砲する」という警告文が画面にデカデカと出ていたのに、看守は銃を向けて「動くな」と言うだけで、発砲 しないのね。
ケンカする奴は、いきなり射殺されるぐらいメチャクチャな設定でもいいのに。
で、だけど所長の犬だけは殺されずに済むという理不尽が罷り通っている設定にするとかさ。

ヘネシーは部屋にジェンセンを呼び、「視聴者はフランクを待っている。感動を呼び心を揺さぶる男よ」と説明するが、冒頭のレースでも 、視聴者が熱狂している様子は写っていないので、「レースで庶民が熱狂し、特にフランケンを応援していた」ということが全く伝わって 来ない。
冒頭に限らず、この映画、最初から最後まで、一度も「レース中継に熱狂する多くの視聴者」は登場しない。
コーチがジェンセンに模範囚を指差し、「模範囚はコースの整備をする。泳いで逃げないためGPSを装着させられる」と説明するシーン がある。
何かの伏線かと思ったら、全く使われないまま終わっている。
ステージ1の当日、ジェンセンはフランクがしていたという指輪をヘネシーに嵌められる。
わざわざ指輪をするんだから、何か意味のあるアイテムかと思ったら、そのまま終わっている。

女囚たちがナビゲーターをする設定は、物語としては何の意味も無い。
もっとハッキリ言うならば、そもそもデス・レースにナビゲーターなど必要が無い。
劇中では「視聴率を上げるために美女を使っている」という説明があるが、この映画自体における彼女たちの存在意義も、そのまんまで ある。
「美人のネーチャンがいた方が客も食い付くだろう」という、分かりやすい理由で配置されている。

『デス・レース2000年』よりも予算は格段にアップしているはずだが、話のスケールは小さくなっている。
レースの場所も、刑務所のある小さな島という閉じられた空間に限定されている。
レースの出場者に関してはセリフで軽く触れる程度なので、ほとんど特色が分からない。そいつらが何をしようが、どうなろうが、「誰 だっけ?」という感じ。
そして、そんな状態であっても、まるで支障が無い。

レースは、そもそもコースの全体像が良く分からないし、走っている最中も、どの辺りを走っているのか良く分からない。
「剣と盾をオンに」とヘネシーが言うと床のパネルが起動するが、その時点で、「ああ、いつの間にか1周してたのね」と初めて気付く。
それと途中で「近道があるわ」と言い出したりするが、「決められたコースを走る」というルールさえ無視していいのかよ。それに近道が あるのなら、なんで全員が使おうとしないのか。
あと、ステージごとに舞台やルールが変化するわけではなく、同じ場所で同じことを繰り返しているだけなので、飽きてくる。
っていうか正直、もうステージ1の段階で退屈を感じたけどね。

ヘネシーは極秘に製作していた大型トレーラーを出撃させて無差別攻撃を開始するが、もはや「レーサー同士の戦い」というルールさえ、 いきなり破るのね。
で、ジェンセンとジョーにトレーラーを破壊されるとヘネシーは「畜生」と悔しがってるけど、お前、そのまま全員を始末するつもり だったのかよ。
そうなったら視聴者が見たがっているはずのフランクとジョーの対決も無くなるし、ステージ3が出来なくなるんだぞ。
どういう計算をしていたんだよ。視聴率アップのために投入した設定だけど、悪化するだろ。
っていうか、ルールに無かったものを急に持ち込んだら、その時点で視聴者は離れると思うぞ。

ジェンセンは妻殺しの汚名を着せられて投獄されたのだから、「真犯人は誰なのか、目的は何なのか」というミステリーが提示されている 。
だから、その謎を探る流れが、そこから描かれていくと考えるのが普通だろう。
だが、ポール・W・S・アンダーソン監督の映画なので、そんなのは無意味に等しい。
ジェンセンはデス・レースに集中しており、自分の無実を証明しようとか、妻を殺した真犯人を捜そうとか、そんなことは全く念頭に 無い。

パチェンコの挑発ポーズで、ジェンセンは彼が覆面男だと確信するが、なんて淡白な処理。
そりゃあ早い段階で所長が黒幕だってのはバレバレだけどね。
ただ、悪党の目的が「レースにジェンセンを出場させるため」ってのは、なんかショボいよな。
さらに困ったことに、実行犯のパチェンコは、フランクのライバルではないのよね。レースでの最大の敵はジョーなのね。
その時点で設定としてどうかと思うが、おまけに、フランクに対して殺意を抱いており、ナビゲーターを物扱いで惨殺するような凶悪な ワルだったはずのジョーが、終盤になるとジェンセンの味方になってしまうという見事な腰砕けっぷり。

ジェンセンはヘネシーへの強い憎しみを示していたんだし、当然の流れとして「レースの勝利云々より、ともかくヘネシーとウーリックを 殺して妻の仇討ちを果たす」という目的を果たすのがクライマックスになるのかと思いきや、なんと彼はジョーと一緒に脱獄して しまう。
それまで「脱獄」というのは全く話の中で提示されていなかった目的なのに、急にそんな展開になるのだ。
所長とウーリックは生き延びるわけじゃなくて爆死するんだけど、それをやるのはジェンセンじゃないので、復讐のカタルシスは無い。

大体さ、あんだけ「脱獄は不可能」と説明しておきながら、綿密な計画を練って色々な細工を施すわけじゃなくて、ちょっと改良した車で 特攻したら脱獄できちゃうって、なんだよ、それは。
せめて、そのまま車で脱走してくれりゃいいものを、途中でジェンセンはケースにハンドルを任せて車から降りちゃうし。
「そうした方が脱獄しやすい」という計算かもしれないが、そういうマトモな計算なんて、この映画に不要でしょ。
普通に考えたら車で脱走なんて無理だろうけど、無茶だと分かっていても突破しろよ。
いや、そういう問題じゃなくて、そもそも目的が仇討ちじゃなく脱獄になっている時点で間違いなんだけどね。

(観賞日:2010年11月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会