『デッドフォール 極寒地帯』:2012、アメリカ&フランス

山里の農家で生まれ育ったアディソンとライザの兄妹は、仲間のセオと組んで現金を強奪した。ライザにとっては初めての仕事だったが、興奮を抑え切れない様子だった。3人は車で雪道を移動していたが、横転事故を起こした。運転していたセオは死んだ。アディソンは事故を目撃した警官を射殺し、ライザに金を運び出させた。ミシガン州デトロイトのウェイン矯正施設に収監されていたジェイ・ミルズは、模範囚として仮出所した。町に出た彼は、父のチェットと母のジューンに電話を掛けた。ジューンは感謝祭に会えると喜び、「父さんは明日の朝、狩りに出るわ。その時にいらっしゃい」と話した。
ジェイは北京オリンピックで銀メダルを獲得した元ボクサーだが、八百長試合が露見して逮捕されていた。彼は密告したのが会長のロニーだと見抜いており、所属していたジムへ乗り込んだ。ジェイは自分に罪を着せたロニーを罵り、ファイトマネーを返せと要求した。ロニーに暴行されたジェイは、すぐに反撃して殴り倒した。頭を打ち付けたロニーが動かなくなったので、ジェイは慌てて警察に電話を掛けた。しかし彼は何も話さず、ジムから逃げ出した。
元保安官のチェットは「あいつが家族を捨てた」と息子への怒りを見せていたが、ジューンが許すよう促した。そんな2人の元へ、ジェイの幼馴染である保安官補のハンナ・ベッカーがやって来た。彼女は夫妻に、「昨夜、先住民のカジノが2人の覆面強盗に襲われた。今朝、交通事故を目撃した警官が撃ち殺されてた。道路を封鎖して犯人を捜索中だけど、警戒して」と述べた。アディソンはライザに、「お前は見られてない。二手に別れよう」と告げる。ライザは嫌がるが、彼は「ヒッチハイクで北を目指せ。カナダで合流するまで俺のことは忘れろ」と口にした。アディソンはライザに拳銃を渡し、「お前は俺の物だ」と言い残して別れた。
ハンナが保安官事務所へ戻ると、父である保安官のマーシャルが部下たちに犯人捜索の指示を出していた。ハンナが担当場所を尋ねると、マーシャルは「無い。お前は行くな」と命じた。ジェイは車で逃走する途中、吹雪の中で凍えているライザを発見した。彼はライザを車に乗せ、先へ進む。徒歩で雪道を移動していたアディソンは、スノーモービルを直している男を発見した。アディソンは男を襲い、スノーモービルを奪おうと目論む。男の反撃を受けたアディソンは左手の小指を失うが、何とか男を殺害した。
ライザはジェイが国境近くの実家へ向かうと知り、そこまで乗せてほしいと頼む。しかしジェイは「無理だ」と断り、給油所で降ろすと告げた。ハンナは事務員のドリスから、FBIアカデミーの合格通知が届いたことを知らされた。迷いを示すハンナに、ドリスは「アンタの父さんは最低よ。ここを出て行くべきよ」と告げる。しかしハンナは、「父は母が家出してから変わっただけ」と擁護し、面倒を見るために残るべきか悩んでいた。
ジェイはサルーンに到着し、ライザを降ろして別れようとする。しかし道路が吹雪で封鎖されることを知り、仕方なく一泊することにした。ライザはジェイが公衆電話を借りている間に車へ行き、彼の鞄から手紙を見つけ出した。彼女は携帯電話を使い、アディソンの留守電にメッセージを吹き込む。ライザは「今夜は動けない。国境近くに実家がある人と出会った。そこへ行く」と言い、ミルズ家の住所を教えた。ライザはジェイとサルーンで飲み、経営者のマンディーに新婚夫婦だと偽った。
動かなくなったスノーモービルを乗り捨てたアディソンは、森の中から一軒家を観察する。ちょうどエイミーが幼い連れ子のリサと赤ん坊を連れて、再婚相手のボビーから逃げ出そうとしているところだった。しかし吹雪が激しかったため、ボビーから戻るよう諭されたリサは家に入った。ボビーは家へ乗り込み、ライフルを構えてマーヴィンを脅した。彼はリサに「ライザ、外へ出ろ」と言い、丘の上にいる母親たちの元へ向かうよう指示した。
リサが家を出ると、アディソンはボビーを撃ち殺した。彼は死体を運び出し、エイミーたちを家に戻らせた。ジェイはライザに惹かれ、国境まで送ると約束した。2人はモーテルへ移動し、肉体関係を持った。アディソンはエイミーの家で酒を飲み、留守電のメッセージを確認した。リサが赤ん坊の世話をすると、彼は「俺もガキの頃、妹の面倒を見てた」と言う。「今はどこに?」と問われたアディソンは、「どこかにいる」と答えた。するとリサは、「妹を放っておいてあげて」と口にした。
次の朝、エイミーの母であるヴィッキーが、保安官事務所を訪れた。彼女はハンナに、「昨夜、娘は孫たちと家へ来るはずだったのに、現れなかった。ボビーは酷い暴力男よ。昨日、離婚の話をするはずだった。山奥の小屋にいるから、電話も無い」と語る。彼女から娘の無事を確かめてほしいと頼まれ、ハンナは承諾した。ライザはバスルームに入り、兄への留守電に「私を乗せてくれた男は最低な奴だった。黙って消えた」と吹き込む。しかし真っ赤な嘘で、ライザの方がジェイに内緒で他の車に乗り込もうとする。気付いたジェイが激怒すると、ライザは「ただの遊びよ。私の名前も知らないくせに」と反発した。
ハンナは検問中のトラヴィス保安官補たちの元へ行き、エイミーの様子をに見に行くことを告げた。トラヴィスはハンナを馬鹿にした態度を見せ、ブライスと共に同行する。ライザはジェイに、「10歳の時に目の前で父親が撃ち殺された。私は父の体を洗い、誰かが来るのを待った。兄さんが来て、私を止めた。父はモンスターだった。ふさわしい死に方よ」と語った。彼女はジェイにキスされて、初めて名前を明かした。ジェイとライザは、激しく互いを求め合った。
ハンナは乗り捨てられているスノーモービルを発見し、ボビーの家へ到着した。彼女が応援を呼ぼうとすると、トラヴィスは「ベッカーは呼ぶな。引っ込んでろ」と言って無線機を投げ捨てた。ブライスは家に歩み寄り、ノックしてボビーを呼ぶ。川に捨てられたボビーの死体を発見したハンナは、慌ててブライスに「逃げて」と叫ぶ。しかしアディソンはブライスを撃ち殺し、スノーモービルを奪って逃亡した。トラヴィスはハンナのスノーモービルを奪い取って追跡するが、アディソンの罠に落ちて命を落とした。
ジェイはライザに、「両親に君を紹介したい。感謝祭だからね」と告げた。マーシャルはハンナから「逃亡犯は負傷したはず。鹿革の上着を着てた」と言われ、「来るなと言っただろ。お前が首を突っ込むと死人が出る」と声を荒らげた足に怪我を負ったアディソンはミルズ家へ侵入し、ジューンにライフルを向けて脅した。ジューンがアディソンに怪我に気付いて手当てしようとしていると、狩りから戻ったチェットがライフルを構えた。しかしアディソンに脅されるとライフルを下ろし、ジューンと共に人質となった…。

監督はステファン・ルツォヴィツキー、脚本はザック・ディーン、製作はゲイリー・レヴィンソン&シェリー・クリッパード&ベン・コスグローヴ&トッド・ワグナー、製作総指揮はマーク・キューバン&ジョゼット・ペロッタ&アダム・コルブレナー&ヴィンフリート・ハンマヒャー&オリヴィエ・クールソン&ロン・ハルパーン、撮影はシェーン・ハールバット、美術はポール・デナム・オースタベリー、編集はアルチュール・タルノウスキ&ダン・ジマーマン、衣装はオデット・ガドーリー、音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はエリック・バナ、オリヴィア・ワイルド、シシー・スペイセク、クリス・クリストファーソン、チャーリー・ハナム、ケイト・マーラ、トリート・ウィリアムズ、ジェイソン・キャヴァリア、マキシム・サヴァリア、カイル・ゲイトハウス、サラ・ハンセン、ティール・ビショップリック、アル・ゴーレム、ジョン・ロビンソン、デニス・ラフォンド、キャサリン・コルヴェイ、アニー・パスカル、トモミ・モリモト、ノブヤ・シマモト、ジョセリン・ズッコ、パトリック・カートン、クワシ・ソングイ他。


『ハルク』『ミュンヘン』のエリック・バナと『トロン:レガシー』『カウボーイ&エイリアン』のオリヴィア・ワイルドが共演した作品。
監督は『アナトミー』『ヒトラーの贋札』のステファン・ルツォヴィツキー。
脚本のザック・ディーンは、これがデビュー作となる。
アディソンをエリック・バナ、ライザをオリヴィア・ワイルド、ジューンをシシー・スペイセク、チェットをクリス・クリストファーソン、ジェイをチャーリー・ハナム、ハンナをケイト・マーラ、マーシャルをトリート・ウィリアムズが演じている。

ザックリ言うならば、「欲張り過ぎちゃったねえ。まとめ切れなかったねえ。とっ散らかっちゃったねえ」という作品である。
まず冒頭、アディソンとライザの兄妹が登場する。この2人がメインなのかと思いきや、すぐにジェイが登場する。
この段階で、やがて3人が出会う筋書きになることは誰でも容易に想像できるし、その通りになる。
ただし、この3人の関係を描くドラマなのかというと、そこまで徹底されているわけでもない。そこが軸に据えられているのは間違いないが、集中力は散漫だ。

アディソンたちの他にも、ただの駒ではなく中身が与えられた複数のキャラクターが登場する。
ジューンは素直に息子を愛し、夫との関係を取り持とうとする。チェットは息子を愛しているが、事件を起こしたことで素直に受けいれることが出来なくなっている。マーチャルは妻が家出したことで変貌してしまい、娘への態度にも影響が出ている。ハンナは父を心配し、地元に残ろうかどうか迷っている。
そんな風に、それぞれの単独のドラマを描いても成立するぐらいの初期設定が用意されている。
その7人だけでなく、途中でリサという幼女にもスポットが当てられる。アディソンと妹の関係を描くために使われる存在ではあるが、登場シーンでは大きな役割を担っている。
いっそのこと、他の部分を削ぎ落とし、「逃走犯であるアディソンと、暴力的な継父と暮らしていたリサの交流」という要素を膨らませて1本の話にしてもいいんじゃないかと思うぐらいだ。
とにかく、多くのキャラクターに厚みを与えるような設定を用意しているわけだ。

多くのキャラクターに厚みを与えようとするのは、もちろん悪いことではない。そんな人物たちが絡み合い、充実したドラマが展開される内容に仕上がるのであれば、言うことは無い。
しかし残念なことに、全く処理できていないのだ。
ハッキリ言って、この映画で処理できる限界は、メインの3人のドラマだけだ。他の連中に与えられている設定は、ほぼ使いこなせていない。
だから他の面々は「メイン3人のドラマを引き立てるキャラ」として、割り切ってしまうべきだったのだ。

「他の連中に与えられている設定は使いこなせていない」と書いたが、じゃあメイン3人はどうなのかというと、こちらも散らかっている。
それは「他の連中に手間と時間を費やした弊害」という部分も大きいが、それだけではない。そもそもの捉え方からして、失敗していると感じる。
メイン3人のドラマが重要ではあるのだが、厳密に言うとキャラ設定として考えるべきは兄妹の部分だけだ。
ここに厚みを用意しておけば、ジェイは「そんな兄妹の関係を変化させる新たな人物」というだけで構わないのだ。

アディソンは唯一の肉親である妹を変質的に溺愛し、ある意味では支配下に置こうとしている。
一方、ライザも兄を愛しており、ほぼ依存しているような状態だ。しかしライザはジェイと出会い、真実の愛に目覚める。それによって彼女は、兄の呪縛から解き放たれようとする。
そういうドラマこそ、この映画が他の何もかも差し置いて描くべき事柄だ。
だからジェイは、「ライザを解き放つ男」としての人間的な魅力さえ発揮してくれれば事足りるのだ。元ボクサーで八百長したとか、ムショ帰りで会長を暴行して逃げているとか、そういうのは厚みを与える要素と言うより、むしろ邪魔な設定なのだ。

そんな2人の恋愛劇を描く部分も、これまた上手くない。
ライザはジェイと関係を持った翌朝、兄への留守電に「自分を乗せた男は最低で、黙って消えた」と吹き込んでいる。そしてジェイを捨てて、他の車で去ろうとする。しかし激怒したジェイに呼び止められると、本名を明かして再びセックスする。
その手順は、無駄でしかない。最初にセックスした段階で、もう「ジェイに惚れた」という形を取るべきだ。
わざわざ2度もセックスさせて、そういうトコを売りにしたかったのか。

この映画はアディソンのドラマ、ライザのドラマ、ジェイのドラマと、それぞれを描こうとしている。だが、それぞれが別々で行動している時間が長く、特にアディソンは終盤までジェイ&ライザと合流しない。
単独で行動している間は、リサと絡む時に少し触れる以外に、ライザとの関係がドラマとして使われることは無い。
一方、ライザにしても、「父が殺されて兄が来て」と過去を語る程度。暴力的な父を殺した兄に彼女は感謝しているってことが終盤になって明かされるが、そこまでは「兄への強烈な依存」という要素のアピールが弱い。
他のキャラと絡む中で、兄妹の互いに対する思いが充分に表現されているなら、何の問題も無い。
だが、そこが弱いのだから、どうにもならないのである。

終盤に入り、ミルズ家で兄妹&ミルズ一家&ハンナが集まったところでライザが「感謝してるけど自由にして」とアディソンに頼むシーンが訪れる。
だが、そこに至る彼女の心情の経緯が描かれていないため、「残り時間が少なくなったので、慌てて片付けようとしている」という印象になってしまう。
しかも、そんな残り時間わずかな段階に入っても、まだ「マーシャルとハンナの父娘関係」を使おうとしている始末だ。
いや、持ち込んだからには、ちゃんと使い切ろうとするのは間違っちゃいないよ。だけど正解でもないぞ。
そもそも持ち込んだことが失敗なんだから。

最終的に、アディソンはジェイに銃口を向けるが、ライザに撃ち殺される。これで人質事件は解決するが、まだ色々と問題は山積みだ。
しかし映画は、そこで終わってしまう。
ロニーは脳震盪で済んでいたが、ジェイが暴力を振るったことは事実だ。また、ライザは強盗事件の一味であることも確かだ。
つまり、この2人は犯罪者なので、「アディソンが死んだので、ライザは自由になってジェイと新たな生活を始めます」というわけにはいかない。
「今後の2人に明るい未来が待っているわけではない」という狙いで、そういう終わり方にしているのであれば別に構わない。だが、この映画の場合、投げっ放しで終わっているとしか思えない。

(観賞日:2018年1月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会