『デッド・サイレンス』:2007、アメリカ

ジェイミー・アーシェンと妻のリサが暮らす家のブザーが鳴った。ジェイミーがドアを開けると誰もおらず、小包が置かれていた。差出人は不明で、中身はビリーという名の腹話術人形だった。リサは能天気に喜び、「子供の頃の詩を思い出したわ」と言う。それは「メアリー・ショウに気を付けて。彼女は人形が好き」という内容だった。ジェイミーが外出している間にビリーがリサを襲い、命を奪った。
部外者が侵入した形跡は無く、指紋も検出されなかったため、リプトン刑事はジェイミーに殺人の容疑を掛けた。ジェイミーは「故郷では人形が死の予兆とされている」と言うが、もちろん全く相手にされない。ジェイミーは死体を発見する直前にリサと話していたが、彼女は舌を引き抜かれていた。つまり、話せたはずがないのだ。それもリプトンがジェイミーを疑う要因の1つだった。釈放されたジェイミーが帰宅して人形の入っていた箱を調べると、蓋の部分に「メアリー・ショウ&ビリー」「レイヴンズ・フェア」と書かれていた。
ジェイミーはビリーを持ち出し、故郷であるレイヴンズ・フェアへ向かった。久々に実家へ戻ると、若い女性が出て来た。ジェイミーが困惑していると、彼女は義母のエラだと自己紹介した。家に入ると、父のエドワードは医療器具を付けて車椅子に座っていた。エラはジェイミーに、エドワードが2ヶ月前に脳卒中で倒れたことを教える。ジェイミーは父に、幼少時代に母から読んでもらった詩のことを尋ねた。それは「メアリー・ショウに気を付けて。彼女は人形が好き。夢で彼女に会っても決して叫んじゃダメ」という詩で、ジェイミーの周囲では子供だけでなく大人たちも怖がっていた。
ジェイミーは母を自殺に追い込んだ父のことを憎んでおり、早々に実家を去った。彼は葬儀屋のヘンリーを訪ねて話をした後、モーテルに宿泊する。夜中にビリーが話し掛けて別の場所に動いたので、ジェイミーは怯える。しかし灯りを付けて確認すると、ビリーはジェイミーが最初に置いた場所で留まっていた。検死を終えて運ばれてきたリサの死体を見たヘンリーは、顔を強張らせた。妻のマリオンは床下に逃げ込み、「彼女がいるわ。ここなら見つからない」と口にした。
葬儀の後、ヘンリーはマリオンから、「彼女を見た?いつ彼女は奥さんを殺したの?」と訊かれる。マリオンは例の詩を口ずさんだ後、「彼女がここにいる。時間が無いわ。すぐに人形を埋めて」と警告した。ジェイミーは霊園で、草木に覆い隠されているメアリーの墓を見つけた。深夜に霊園へ戻った彼は、ビリーの墓を発見した。ジェイミーは墓を掘り返し、空っぽの棺桶にビリーを入れて埋めた。
モーテルへ戻ったジェイミーがシャワーを浴びて部屋に戻ると、ビリーがベッドに鎮座していた。室内にはリプトンが来ており、「なぜ人形を埋めた?」と尋問する。ジェイミーは「この辺りには昔からメアリー・ショウの伝説がある。彼女は収集していた人形と共に埋葬された」と語る。リプトンは軽く聞き流し、証拠品としてビリーを持ち去った。彼はそのまま、宿泊している隣の部屋へ入った。
次の日、ジェイミーはリプトンが車で出掛けたのを確認し、ビリーを持ち出した。彼はビリーを持って葬儀屋へ行き、マリオンに「貴方はメアリーが妻を殺したと言った。どういうことだ?」と尋ねる。マリオンが「何も言ってない」と怯えた様子を見せていると、ヘンリーが現れた。ヘンリーはジェイミーに、「その人形を持っていたらダメだ。それは彼女の物だ」と忠告する。ジェイミーが鋭い口調で追求すると、ヘンリーは重い口を開いてメアリーのことを語り出した。
ヘンリーが少年の頃、レイヴンズ・フェアには劇場が建設された。そこに出演していたのが腹話術師のメアリーで、ビリーを使って観客を楽しませていた。ある少年が「唇が動いてる」と馬鹿にしてショーを妨害した時、メアリーは怒りの表情を示した。数週間後に少年が失踪し、メアリーに嫌疑が掛かった。だが、そのメアリーは舌を引き抜かれて殺され、遺言によって彼女が子供と呼んでいた101体の人形と共に埋葬された。失踪した少年は発見されず、メアリーを殺した犯人は捕まっていない。ヘンリーの父は遺言に従い、メアリーの死体を人形のように仕立てた。メアリーの死後、町では人々が舌を抜かれて殺される事件が続発した。
ジェイミーはメアリーが住んでいたロスト・レイクの劇場へ行き、完璧な人形を作るための設計図と失踪事件のスクラップ記事を発見した。失踪した少年の写真を見つけたジェイミーは、彼がマイケル・アーシェンという名前だと知った。一方、ヘンリーはマリオンがビリーと話している様子を目にした。ヘンリーはビリーを奪い取り、埋葬しようと考える。マリオンの声が聞こえたので、ヘンリーは床下に入った。すると扉が閉じられ、ヘンリーは閉じ込められる。そこにメアリーが現れ、ヘンリーを惨殺した。
ジェイミーは実家へ戻り、エラと食事中のエドワードに「マイケル・アーシェンや我々一族とメアリー・ショウは関係があるのか」と質問した。するとエドワードは、「マイケルはお前の大叔父だ。一族はメアリーを犯人と断定して舌を切り取り、他の町民と共に殺害した。その後、殺害に関与した面々と血縁者が次々に舌を切り取られて殺された。彼女の呪いから遠ざけるため、お前に冷たくして町から追い出したのだ。メアリーは我々を迎えに来るだろう」と語った…。

監督はジェームズ・ワン、原案はジェームズ・ワン&リー・ワネル、脚本はリー・ワネル、製作はグレッグ・ホフマン&オーレン・クールズ&マーク・バーグ、製作総指揮はピーター・オイラタゲレ、撮影はジョン・R・レオネッティー、美術はジュリー・バーゴフ、編集はマイケル・N・クヌー、衣装はデニース・クローネンバーグ、音楽はチャーリー・クロウザー。
出演はライアン・クワンテン、アンバー・ヴァレッタ、ドニー・ウォールバーグ、ボブ・ガントン、マイケル・フェアマン、ジュディス・ロバーツ、ローラ・レーガン、ジョーン・ヘニー、ドミトリー・チェポヴェツキー、キーア・ギルクリスト、スティーヴン・テイラー、デヴィッド・タルボット、スティーヴ・アダムス、シェリー・ピーターソン他。


『ソウ』のジェームズ・ワン監督と脚本のリー・ワネルが再びコンビを組んだホラー映画。
ジェイミーをライアン・クワンテン、エラをアンバー・ヴァレッタ、リプトンをドニー・ウォールバーグ、エドワードをボブ・ガントン、ヘンリーをマイケル・フェアマン、メアリーをジュディス・ロバーツ、リサをローラ・レーガン、マリオンをジョーン・ヘニー、リチャードをドミトリー・チェポヴェツキー、少年時代のヘンリーをキーア・ギルクリスト、マイケルをスティーヴン・テイラーが演じている。

ビリーは明らかに不気味な人形なのに、しかも差出人が不明で手紙やメッセージが同封されていないってのも薄気味悪いのに、なぜかリサは浮かれた様子で人形を操り、ジェイミーもそのまま放置する。
ジェイミーが外出した後、人形をベッドに寝かせたリサが得体の知れない不安を抱いて、そこで一気に恐怖の雰囲気へと移り変わるのだが、まあ転換が急速なこと。
で、そこでは「ビリーがリサに襲い掛かった」というのを、まるで隠そうとしない。「犯人は人形かもしれないし、違うかもしれない」という謎も残さない。
ある意味では「潔い」と言えるが、違う言い方をするなら淡白な描写になっている。

ジェイミーが帰宅する前に、もうリサがビリーに殺されたことを観客は分かっている。
だから、戻ったジェイミーが血痕を見て慌てるとか、リサの声を聞いて反応するとか、そういうので引っ張っても大して意味が無い。
シーツを外したらリサの死体が寝かされていて、その顔をいじっているゴア描写のインパクトはそれなりにある。
だけど、ジェイミーが帰宅する前に「リサがビリーに殺された」ってのをハッキリと観客に教えるより、「リサが不安を抱くような現象が起きる」というところで留めておき、ジェイミーが死体を見た時に初めて彼女が殺されたことを観客が明確に認識するような形にしておいた方が効果的じゃないかと。

部外者が侵入した形跡はなく、指紋も検出されていない。ジェイミーはリサと話したと証言しているが、死体の舌は引き抜かれていたので話せるはずがない。
そういったことから、リプトンはジェイミーを犯人だと決め付けている。
それなのに、彼はジェイミーを逮捕しない。
物的証拠が無いから逮捕しないってことかもしれないが、取り調べのために警察署へ留まらせることもしないってのは不可解だ。
わざと泳がせて証拠を掴もうという狙いかと思ったら、そうでもないし。

で、ジェイミーは釈放されると、すぐに自宅へ戻る。
そこは殺害のあった場所であり、立ち入り禁止のテープが張られているのに、なぜか簡単に入ることが出来る。見張りの警官もいない。
だからジェイミーは、楽々とビリーを運び出すことが出来ている。
もう鑑識の仕事は終わったから殺害当時の状況を保存しておく必要は無いってことかもしれんが、それにしても事件現場が無防備に放置されている。
まだ事件が起きた翌日でしかないのに。

ジェイミーはリサが殺された直後から、「ビリーが犯行に関与している」と確信している。
普通の感覚だと、「ビリーが届いた直後に妻が殺された」ということを少しは気にするかもしれないが、でも人形の関与を最初から確信することなんて無いんじゃないだろうか。
なぜジェイミーが最初からビリーの関与を確信するのかというと、故郷では人形が死の予兆とされているからだ。その設定があるので、最初から関与を確信するところは説明が付く。
しかし、その一方で、「故郷で人形が死の予兆とされているのなら、なぜビリーが届いた直後、リサとビリーを残して平然と買い物に出掛けたのか」という疑問が生じる。
さっさとビリーを捨てるべきではなかったか。捨てるのも怖いってことなら、とりあえずは人形や箱を詳しく調べるべきではないか。
それが死を暗示する存在だと分かっているのに、平気で買い物に出掛ける神経はどうかしてるぞ。

ジェイミーはビリーを連れてレイヴンズ・フェアへ行くが、じゃあビリーについて詳しく調べようとするのかと思ったら、そうじゃなくてリサの葬儀が帰郷の目的だった。
説明は無いが、どうやらジェイミーとリサは同郷のようだ。
ってことは、リサも人形が死の予兆であることを知っていたはずだよね。それにしては、能天気に浮かれていたよね。
ジェイミーだけじゃなくて、リサも感覚が鈍いのか。

ジェイミーはビリーを棺桶に埋めたのに、モーテルに戻るとビリーがベッドに鎮座している。
それは「埋めたはずのビリーが自らの力で戻って来た」という描写なのかと思ったら、リプトンが掘り起こして運び込んでいた。
つまり、リプトンはジェイミーを尾行し、ビリーを埋める様子を観察し、ジェイミーが立ち去ってからビリーを掘り起こし、モーテルに侵入してベッドに置き、ジェイミーがシャワーから出て来るのを待っていたってことだ。
なんだ、その奇妙な行動は。

で、リプトンは証拠品としてビリーを押収したはずなのに、それを部屋に置いたまま車でどこかへ出掛ける。だから簡単にジェイミーがビリーを盗み出してしまう。
杜撰な管理だこと。
っていうかさ、リサは舌を引き抜かれて殺されており、その容疑者がジェイミーってことなんでしょ。つまりジェイミーは惨殺事件の容疑者であり、決して警察が目を離してはいけない対象なのよ。
それなのに、ジェイミーを張り込んだり調べたりするのがリプトン一人だけって、どんな捜査体制なんだよ。

ヘンリーからジェイミーに電話があって「君の無実を証明できる。劇場まで来てくれ」と告げた時、観客は既にヘンリーが殺されていること、その声を奪ったメアリーが電話を掛けたことを知っている。
そこを明かした状態で、「ジェイミーはヘンリーがいると信じて劇場へ行く」という展開を描くことは、得策に思えない。ヘンリーが閉じ込められた後、メアリーが現れたところで終わらせ、つまりヘンリーが殺されたことを明示しないまま、電話のシーンに行った方がいいんじゃないかと思うんだよなあ。
もちろん、殺害シーンを隠したとしても、ヘンリーがメアリーに殺されたことは薄々分かっちゃうだろうけど、そこをハッキリ描くのとボカしておくのとでは、随分と印象が変わって来るように思うんだよな。そこをボカしておいて、ジェイミーが劇場から逃げてヘンリーの家に行ったら彼の無残な死体を見つけて驚く、という形にした方が、恐怖を醸し出すにはいいんじゃないかと。
ジェイミーがヘンリーの死体を見つけるシーンは、この映画だとすんげえ淡白な処理なんだけどさ。

全てビリーが犯人なのかと思ったら、ヘンリーが床下に潜った時にはメアリーが出現しているので、ちょっと困惑してしまう。
その後、ビリーを燃やすとメアリーが消えるのだが、たぶんビリーは実在するけどメアリーは悪霊ってことなんだろう。
でも、わざわざ悪霊としてメアリーを登場させる意味が無いわ。むしろ邪魔だわ。
「メアリーの怨念を受けた人形が動いて殺人を繰り返している」というだけにした方がスッキリするぞ。

ホラー映画ってのは、ある程度の矛盾や整合性の無さは容認されるジャンルだ。
ただし、なんでもかんでも許されるわけじゃなくて、その種類や度合いによる。
また、「無理を通す勢いや、見ている間は気付かせない巧みさがある」というのも重要だろう。
しかし、この映画は、許容範囲を余裕で超えてしまっているし、それを誤魔化し切れていない。
例えば、「メアリーはエーシェン一族を全滅させるために妊娠しているリサも殺したのに、なぜジェイミーは後回しだったのか」という疑問の答えは用意されていない。

最後には「実はエドワードも人形でした」というオチが用意されているが、それは無理があり過ぎるわ。
ずっとジェイミーはエドワードと近距離で話していたじゃねえか。テメエの父親が人形になっていたのに全く気付かないとか、どんだけボンクラなんだよ。
そもそも、エドワードを腹話術人形に作り変えて生きているように見せ掛け、エラが操ってジェイミーと話している目的は何なのよ。
そんなことをする必要性は全く無いでしょうに。メアリーはジェイミーも殺したいんだから、さっさと殺せばいいだけでしょ。

エドワードをエラが腹話術で動かしている設定も要らん。
彼女にメアリーが憑依しているってことらしいんだけど、じゃあビリーを処分した時に消えたのは何なのか。
それに、メアリーの悪霊は他にもヘンリーの家や劇場で出現していたけど、エラに憑依しているなら辻褄が合わないでしょ。
っていうか、だからさ、メアリーは要らんって。ビリーだけでいいっての。
「腹話術人形が動いて人を殺す」ってのと「人間の死体を人形化する」ってのと、両方の怪奇を持ち込んでいるんだけど、そのせいでピントがボヤけてしまっている。

(観賞日:2014年5月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会