『デッドマン・ダウン』:2013、アメリカ

ヴィクターは赤ん坊を抱いた仲間のダーシーから、「人生は思いがけないことばかりだ。ガキなんて欲しくなかった。でも女房が言った。人生は誰かと繋がっていくものだって。俺は家庭を築き、テオが産まれた。女房の言う通りだった。俺にも分かったよ。人は一人じゃない。どんなに打ちのめされても立ち直れるとも、女房は言った」と聞かされる。ダーシーはテオを妻に渡した直後、電話を受けた。彼はヴィクターや手下たちと共に、ボスであるアルフォンスの屋敷に急行した。
一行が地下室へ行くと、氷漬けにされたポールの死体があった。そこへ連絡を受けたアルフォンスも側近のキルロイとテリーを伴って戻り、ポールの死体を確認した。ポールの手には「719、お前は死ぬ」というメモが握らされており、口には写真の一部分が入っていた。これまでアルフォンスの手下は次々に殺され、今回と同じように写真の一部分が添えられていた。それを組み合わせると、一枚の写真が完成するようになっていた。
連続殺人は3ヶ月前から続いており、アルフォンスの元には脅迫状が送り付けられていた。アルフォンスはハリーが犯人だと確信し、彼の元へヴィクターたちを引き連れて乗り込んだ。3ヶ月前、アルフォンスは麻薬取引を巡ってハリーとトラブルになっていたのだ。ハリーは潔白を主張し、長きに渡って一緒に仕事をしてきたダーシーも彼を擁護する。アルフォンスはメモを見せ、ハリーの筆跡と酷似していることを指摘した。
ハリーは「アンタに俺は殺せない。それが掟だ」と告げるが、アルフォンスは容赦なく銃殺した。ハリーの一味とヴィクターたちは激しい銃撃戦になった。弾切れになったアルフォンスは追い込まれるが、ヴィクターが駆け付けて彼を救った。アパートに戻ったヴィクターは、向かいのアパートに住むベアトリスという女に目を留めた。するとベアトリスもヴィクターに気付き、軽く手を振った。ベアトリスは母のヴァレンタインから、「彼が気になるならデートに誘いなさいよ。生きてるんだから楽しまなきゃ」と勧められた。
翌日、ベアトリスはヴィクターに手紙を贈った。ヴィクターは彼女に電話を掛け、レストランで一緒に夕食を取ることにした。ベアトリスの顔の右側には、ハッキリと目立つ傷跡があった。仕事について問われ、ヴィクターは不動産関係だと答えた。ヴィクターが逆に尋ねると、ベアトリスは「去年、交通事故に巻き込まれるまではエステティシャンをしてたわ」と告げた。「手術は受けたけど、この顔だと、もう美容のアドバイスなんて出来ないでしょ」とベアトリスは自虐的に語った。
レストランを出た後、ベアトリスはヴィクターに車を停めさせ、「猿芝居はやめて。目的は分かってる。用心深い人ね。私がアレを見たか確かめに来たんでしょ」と言う。ヴィクターが沈黙していると、ベアトリスは彼がポールを殺害したのを目撃したことを明かし、その時に撮影した映像を見せた。彼女は「私が秘密を漏らすかどうかは貴方次第よ」と言い、飲酒運転で事故を起こして自分に傷を負わせた加害者のアレックスを殺すよう要求した。ヴィクターが狼狽していると、ベアトリスは彼を睨み付けて「私が警察に届けずに貴方を救ったの。貴方は従うしかない」と告げた。
ヴィクターは伯父のグレゴールと会い、港でアンドラスという男を紹介された。ヴィクターはアンドラスの船で銃を見せてもらい、購入する取引をした。船を出た後、グレゴールはヴィクターに「アルフォンスの組織に潜入して14ヶ月が経つ。なぜ君が仕事を済ませないのか、アンドラスは知りたがっていた。君のように幸運なら、自分で復讐すると彼と言っていた」と述べた。「相手をじっくり苦しませるためだと言っておいたが、私にも実行しない理由が分からん」とグレゴールが語ると、ヴィクターは黙り込んだ。
ヴィクターはベアトリスの部屋へ行き、彼女が調べ上げたアレックスの資料を受け取った。「いつ片付く?」と問われたヴィクターは、「下準備が終わったら」と答えた。ダーシーはアルフォンスに送り付けられた写真を持って街を移動し、撮影された場所を突き止めた。彼は近くに住む老人に質問し、以前にポールが来て撮影者について尋ねていたことを知った。ヴィクターは組織の連中の電話を盗聴しており、アルフォンスが裏社会の大物であるロンから叱責される会話も聞いていた。ハリーの一味を皆殺しにしたことをロンは厳しく批判し、カフェへ来るようアルフォンスに要求した。
アルフォンスはカフェでロンと会い、ハリーを殺した理由を説明した。するとロンは、自分の同業者たちに写真が送り付けられたことを明かした。ビルの屋上からアルフォンスを狙撃しようと銃を構えていたヴィクターは、ダーシーからの電話を受けた。ダーシーは「睨んだ通りだった。脅してたのはハリーじゃない。アルフォンスが危ない」と告げ、カフェへ向かうよう指示した。ダーシーも仲間に連絡して向かうと言ったので、ヴィクターは焦りの色を隠せなかった。
ロンはアルフォンスに、「この写真は、お前に融資するのは危険だと教えてくれている。それだけでも価値のある写真だ。お前と手を切る。集金役は降りる」と告げた。さらに彼は「お前宛ての手紙が送られてきた」と言い、一枚の紙を渡す。それとポールの持っていた紙を繋ぎ合わせると、一つのメッセージが完成するようになっていた。ロンは鍵が同封されてたことを明かし、「帳簿と不動産の証書を全て持って来い」と要求した。
アルフォンスが店を出たところでヴィクターは発砲するが、暗殺は失敗に終わった。アルフォンスの手下たちは狙撃ポイントに気付き、すぐにビルヘと走った。ヴィクターは一味のゴフとチャールズ、ブロットを殺害し、ビルから脱出した。路地裏を走っているとベアトリスが車で現れ、彼を乗せて逃走した。ダーシーたちが来たのでヴィクターは車を停めた。彼はベアトリスにキスし、恋人と一緒にいたように偽装した。ヴィクターは何も知らないフリをして、ダーシーから状況説明を受けた。
アルフォンスが来ると、ダーシーは「写真を撮っていた男は、白タクで去ったらしい。どうやらポールも探っていたらしい」と報告した。すぐにアルフォンスは、白タクを調べるよう指示した。ダーシーはヴィクターに、犯人を突き止める手柄を立てて出世する野心を明かした。彼は「金があれば家族に何でも買ってやれる。家族のために出世するんだ」と言う。ヴィクターは「肩の力を抜け。ポールの二の舞だ」と告げるが、ダーシーは耳を貸さなかった。
帰宅したヴィクターはベアトリスに電話を掛け、「なぜ付けて来た?」と尋ねた。するとベアトリスは、「初めてじゃないわ。貴方のことが知りたくて」と述べた。ベアトリスはヴィクターの元へ行き、「貴方は何者?」と問い掛けた。ヴィクターはハンガリー移民であること、数年前に妻子を連れて渡米したことを離す。しかし住んでいたアパートがアルフォンスの組織の地上げに遭い、追い出すための脅しとして部屋に弾丸を撃ち込んだ。その弾丸はドアを突き抜け、寝ていた娘が死亡した。
ヴィクターと妻は訴訟を起こし、アルフォンスが犯人だと証言しようとした。しかしアルフォンスはアルバニア人を使って2人を襲撃させ、ヴィクターの妻が死んだ。アルバニア人はヴィクターも死んだと思い込んだが、彼は深手を負いながらも生き延びた。ヴィクターは自分が死んだように偽装して別人に成り済まし、復讐のためにアルフォンスの組織へ潜入したのだ。その話を聞いたベアトリスは、「ママが言うのよ、希望を見つければ痛みも和らぐって。だけど希望なんて一瞬で、すぐに憎しみが蘇る」と語った。
ベアトリスは以前に働いていた店へ出向き、友人のフローレンスと久々に再会した。フローレンスからセラピストのニコラスに頼るよう勧められた彼女は、「他の人が見つかって。信頼できる人よ」と告げた。ヴィクターは倉庫でリモコンが起動しないこと、警報装置が設置されたことを知り、グレゴールに報告した。グレゴールと電話で話している時、ベアトリスが部屋に来た。ヴィクターはグレゴールに内緒で彼女を部屋に入れ、そのまま会話を続けた。
グレゴールはヴィクターに、「妨害電波がある以上、内側から爆破するしかない」という。ベアトリスは奥の部屋へ行き、ヴィクターが用意している武器を目にした。ヴィクターはアルバニア人も含めた全員を倉庫に集め、建物を爆破しようと計画していた。「爆発したら、貴方も吹き飛ばされる。死ぬ気なんでしょ」とベアトリスが言うと、ヴィクターは「心配するな。君との約束は果たす」と告げた。
ヴィクターはアルバニア系マフィアのボスであるイリルに、監禁した弟の写真を送り付けた。一味は写真のピースを組み合わせ、少女が写っていることに気付いた。ヴィクターはダーシーから、白タクを見つけたことを聞かされた。ダーシーはヴィクターを連れて、ポールがタクシーを降りた場所へ赴いた。彼は近くの寺院に不審を抱くが、門が施錠してあったので「ポールの写真を持って、また来るよ。何か分かるかもしれない」と口にした。
ヴィクターは目隠しさせたイリルの弟に「アルフォンスの倉庫にいると証言しろ」と要求し、その様子をビデオに撮ってから射殺した。彼はダーシーからの電話で、「墓地の管理人を見つけたぞ」と聞かされる。ダーシーは「忙しいなら俺一人で会う」と言うが、ヴィクターは「俺も行く」と告げた。彼はベアトリスと会い、動画を送付する仕事を頼んだ。ヴィクターが墓地へ行くと、ダーシーは「ポールはここでハンガリー人の墓を調べてたらしい」と話す。ヴィクターはグレゴールと会い、「墓地を突き止められた。もうすぐバレる」と言う…。

監督はニールス・アルデン・オプレヴ、脚本はJ・H・ワイマン、製作はニール・H・モリッツ&J・H・ワイマン、製作総指揮はオリ・マーマー&レイド・シェーン&ピーター・シュレッセル&スチュアート・フォード&マイケル・ルイジ&ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ&ディーパック・ナヤール、共同製作総指揮はジョセフ・ゾルフォ&スティーヴン・スキランテ、撮影はポール・キャメロン、編集はフレデリック・トラヴァル&ティモシー・A・グッド、美術はニールス・セイエ、衣装はレネー・アーリック・カルファス、音楽はヤコブ・グロート、音楽監修はマギー・ロドフォード、音楽製作総指揮はジェームズ・ギブ。
出演はコリン・ファレル、ノオミ・ラパス、F・マーレイ・エイブラハム、ドミニク・クーパー、テレンス・ハワード、イザベル・ユペール、アーマンド・アサンテ、ウェイド・バレット、ルイス・ダ・シルバJr.、フランキー・G、デクラン・マルヴェイ、ジョン・セナティエンポ、ロイ・ジェームズ・ウィルソンJr.、マイルス・ハンフス、スティーヴン・ヒル、アーロン・ヴェクスラー、ジェームズ・ビベリ、アンドリュー・スチュワート=ジョーンズ、クリスタル・ティニ、ウィリアム・ジーリンスキー、ジェシカ・ジーン・ウィルソン他。


『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のニールス・アルデン・オプレヴ監督とノオミ・ラパスが再びタッグを組んだ作品。
脚本はTVドラマ『FRINGE/フリンジ』のJ・H・ワイマン。
ヴィクターをコリン・ファレル、ベアトリスをノオミ・ラパス、グレゴールをF・マーレイ・エイブラハム、ダーシーをドミニク・クーパー、アルフォンスをテレンス・ハワード、ヴァレンタインをイザベル・ユペール、ゴードンをアーマンド・アサンテ、キルロイをウェイド・バレット、テリーをルイス・ダ・シルバJr.が演じている。
ちなみにウェイド・バレットは俳優ではなく、本職は英国のプロレスラーだ。

まず序盤の構成に難がある。
難があるというか、無駄にコネているというか。上述した粗筋で分かるだろうが、ようするに「ポールの死体を見たアルフォンスがハリーを犯人と決め付けて射殺する」→「アルフォンスの危機をヴィクターが救う」→「ヴィクターとベアトリスは互いに相手が気になっている様子」→「ベアトリスの手紙を受けたヴィクターがディナーに誘う」→「実はヴィクターがポールを殺害する様子をベアトリスが目撃しており、黙っている代わりに殺人を要求する」という流れだ。
つまり「ポールを殺したのはヴィクター」ってことを最初は隠してエピソードを描き、その直後に明かす構成だ。そして「ヴィクターとベアトリスが互いに好意を抱いている」という風に見せ掛け、実はベアトリスの目的は違っていたってことを直後に明かす構成だ。
だけど、そんな短いスパンで種明かしをするような秘密を2つ用意している序盤の構成が、無駄に分かりにくいと感じるのだ。

そうじゃなくて、ヴィクターがポールを殺す様子を最初から見せておいたり、ベアトリスがヴィクターに惚れているようなミスリードを排除したりした方が、スッキリしていいんじゃないかと思ってしまうのだ。
具体的に構成を書くなら、「ヴィクターがポールを殺す」→「ポールの死体を送り付けておきながら、ヴィクターは何も知らないフリをする」→「ヴィクターはベアトリスが気になっており、彼女から手紙が来たので食事に誘う」→「ベアトリスは最初からデートの雰囲気なんて全く見せず、いきなり事実を指摘して殺人を依頼する」という流れにすればいいんじゃないかなと。
ヴィクターがアルフォンスの忠実な手下じゃなくてポールを殺していたとか、ベアトリスがヴィクターに好意を抱いていたわけじゃなくて殺人を目撃していたとか、そんな小さなサプライズのために、変にコネコネしてるという印象を受けるんだよな。
で、それって手間を掛けている割には実りが少ないように感じるんだよな。

ただし、ベアトリスは最初から復讐の目的だけでヴィクターと接触したのかと思ったら、「貴方のことがもっと知りたい」ってことをアピールするんだよな。
そうなると、「最初から恋心はあったけど、それはそれとしてヴィクターに復讐を依頼する」ってことなのかもしれない。
ただ、そうだとしても、ややこしいわ。
それと、恋愛劇のヒロインとしての機能させようとするのなら、そういう部分で魅力的な女性じゃなきゃいけない。でも実際には、ベアトリスってちっとも魅力的じゃない。
それは「顔に傷があるから」ということではなく、中身の問題だ。

っていうか、恋愛劇を考えても、やはりヴィクターの目的や過去をさっさと明かした方が得策だと思うんだよな。そうすればベアトリスもヴィクターが復讐目的で生きていることを知るわけで、「同じ境遇としてヴィクターとベアトリスが共感し、惹かれ合う」という恋愛劇を構築できるでしょ。
この映画だと、ベアトリスがヴィクターの境遇を知るのは半分ぐらい過ぎてからだ。ってことは、彼女がヴィクターに惹かれるのは全く別の理由ってことになるんだが、彼のどこに、なぜ惹かれたんだかサッパリ分からんし。
あと、「ベアトリスが気になって、手を振られたので手を振り返す」とか、「手紙を貰ったので電話を掛けてデートに誘う」とか、「事実を指摘されて殺人を依頼されて狼狽する」とか、そういうヴィクターの振る舞いが、すんげえ情けない男に見えちゃうんだよね。
こいつは復讐を果たすためにアルフォンスの組織に入っているわけで、つまり「復讐の鬼」になっているはずなのに、そんなトコで簡単にオロオロしちゃうような様子を見せるのは、得策とは思えないんだけど。

もう一つ得策とは思えないことがあって、それは「ヴィクターの目的を観客に明かす前に、ベアトリスの依頼を受ける展開が描かれる」という構成だ。
「先にヴィクターの目的を明かしてから、ベアトリスが依頼するシーンを描く」という構成と比べた時に、後者の方が観客を引き付ける力が強いと思うのだ。
前者だと「ヴィクターがポールを殺した目的」の部分にミステリーがあるが、それが観客を引き付ける力としては弱いと感じる。
一方で後者だと、ベアトリスの依頼があった時点でヴィクターの目的は分かっているから、「本人の復讐とベアトリスの復讐が重なる」という部分でドラマを感じることが出来るし、「達成すべき目的があるのに障害が生じた」という部分にサスペンスを感じることも出来る。
もちろん、それを感じられるかどうかは演出次第なんだけど、少なくとも秘めている力としては後者に分があるように思えるのだ。

グレゴールはヴィクターにアンドラスを紹介する時、「君の墓の遺体を用意した男だ」と説明している。だが、「君の墓の遺体」ってのが何のことやらサッパリ分からない。
その直後の描写で、どうやらヴィクターが妻子を亡くしていること、その復讐でアルフォンスの組織に潜り込んだことは伝わって来るが、詳細は分からないままだ。
また、ヴィクターが妻子の映像を見るシーンの後、男を監禁している様子が写し出されるが、そいつが誰なのか、監禁の目的が何なのかは分からない。
誰かの弟であること、兄貴は外国系の組織のボスであることは示されているが、その兄貴が何者なのかも良く分からない。

ヴィクターがベアトリスに「アルフォンスはアルバニア人を使って自分と妻を襲わせた」と説明するシーンが訪れて、ようやく「ってことは、監禁したのはアルバニア人組織のボスの弟なんだな」ってことが分かる。でも、そこまで引っ張るメリットが何も無い。
っていうか、その説明がある頃には、もう「ヴィクターが誰かの弟を監禁している」という事実さえ忘れていたぐらいなんだよな。
ヴィクターの過去を隠したまま話を進めることは、もちろんミステリーには繋がっている。
しかし、そのミステリーが映画を面白くする要素に繋がっているかと言うと、答えは残念ながら「ノー」と言わざるを得ない。むしろ、話が分かりにくくなるというマイナスに作用している。

「私にも実行しない理由が分からん」とグレゴールは言うが、確かにヴィクターが復讐を実行しない理由はサッパリ分からない。
ハリーの一味と銃撃戦になった時だって、アルフォンスを助けているのだ。
これが例えば、「最初は復讐するつもりだったけど、潜入することでアルフォンスが人間的に素晴らしい男だと感じるようになり、復讐心が薄まった」ということなら理解できる。しかしアルフォンスは、決して人格者というわけではない。
また、「復讐の相手がアルフォンスではないんじゃないかと感じるようになった」ということでも理解できるが、彼が復讐相手であることはハッキリしている。

ヴィクターはアルフォンスの手下を一人ずつ殺害し、脅迫状や写真の一片を送り付けるという作業を3ヶ月に渡って続けているのだが、そんな手間を掛ける意味や必要性がサッパリ分からない。
脅迫状や写真に「アルフォンスに復讐の目的を教えるため」という目的でもあるならともかく、ヴィクターが生きていることがバレちゃマズいので、そんな目的など込められていない。そんでモタモタしていたせいで、ポールに嗅ぎ付けられて口封じのために殺さざるを得なくなっている。
っていうか、ポールの時もゴフたちの時も後から写真の一片を送り付けているけど、それは復讐の一環としてやっていることじゃなくて、「ミスしたせいで殺さざるを得なくなった」というだけだからね。
それを後から「それも復讐の一環」という風に扱うのは、こじ付けでしかないぞ。

ヴィクターは潜入から今まで何度も復讐のチャンスがあったはずなのに1年以上もズルズルと引き延ばして、ようやくアルフォンスがカフェヘ入った時に狙撃を試みる。
だが、「遠い場所から狙撃する」という方法が彼にとって「確実に復讐を遂行できる方法」なのかと考えると、大いに疑問が湧く。
後から「母国で兵役に就いていた」という説明が入るので、銃の扱いには慣れているんだろうけど、もっと確実に仕留められる方法が幾らでもありそうなんだよね。
狙撃するのなら、組織に潜入したことのメリットは薄いでしょ。

しかもヴィクターは、アルフォンスが店を出て来た時、わざわざ非通知で電話を掛けて、命を狙われていることをバラしてから狙撃する。
もうね、アホかと。「これから命を狙いますよ」ってことを教えてあげる意味が、どこにあるのかと。
あと、狙撃ってのは撃つことよりも逃走経路を確保しておくことの方が遥かに重要なのに、それをキッチリとやっていた気配が無い。
だから一味の2人を殺さざるを得なくなっているし、ベアトリスが車に乗せてくれなかったら確実に捕まっていただろう。やっぱりアホだぜ。

アルフォンスが復讐相手としてチンケすぎるってのは、復讐劇としての盛り上がりに欠ける要因の1つだ。
例えばハリーの一味と銃撃戦になった時、彼はすぐに弾切れとなってベッドの裏に逃げ込むが、簡単にバレて2人の男に追い込まれている。郵便ポストを開けるシーンでは、腰が引けてビビりまくっている。
別にヘタレな部分があっても、残忍さや狡猾さがあれば、それはそれで憎々しいキャラという印象になるだろう。
しかし彼は大物としての貫録も無ければ、卑怯者としての悪辣さを見せるわけでもない。基本的に正面から力で攻めたがるタイプで、そのくせ弱気で情けない部分を平気で露呈するというキャラなのだ。

そもそも、ヴィクターの復讐心に観客を引き付けたいのであれば、妻と娘が殺された時の映像は挿入した方がいい。
そこを台詞による説明だけで処理しちゃうのは、かなり淡白に感じる。
で、今一つ復讐心が伝わらず、今一つ復讐劇が盛り上がらないまま、ようやくヴィクターが復讐計画を遂行するのは娘の命日なんだけど、まるで最初からその日を狙っていたかのようになっているけど、それまでに狙撃に失敗しているわけで。
だから、今さら娘の命日を実行日に選んでも、あまり意味が無いだろ。

あと、写真のピースは全て組み合わせるとヴィクターの家族写真が完成するんだけど、もしも敵が早い段階で気付いちゃったらどうするつもりだったのか。
それと、そんな風に「自分のことがバレるかもしれない」という情報を漏らすリスクを負っているのなら、復讐を遂行するのをズルズルと引き延ばしている場合じゃねえだろ。
あと、そのピースを一片ずつ送っているけど、どのタイミングでアルフォンスを狙うつもりだったんだよ。
自分の顔が出たらマズいけど、まるでピースが揃わないタイミングで始末してもピースを送り付けている意味が無くなっちゃうし。

っていうか、それは「相手に自分の素性を知らせる」という目的のメッセージなんだけど、その一方で素性がバレたらヤバいわけだから、行動としてはアホにしか思えないんだけど。ちょうど相手が写真の意味に気付き、ヴィクターの素性を突き止めたピッタリのタイミングで復讐計画を遂行できればいいけど、そんなに上手く行くとは限らないし。
で、そんな風に無駄だったり愚かだったりとしか思えない手間や時間を掛けて計画したのに、最終的には「イリルが動画を見てアルフォンスに弟を殺されたと誤解し、同士討ちで死亡する」という形だ。その上、それはヴィクターの計画じゃなくて、ベアトリスが動画を再生したからだ。
つまり、復讐劇の締め括りが「本人ではない人間の行動によって御都合主義的に終了する」という形なのだ。
締まりが悪いなあ。

(観賞日:2015年5月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会