『ダークマン』:1990、アメリカ

ギャングのロバート・デュラントと子分たちは、エディー・ブラックと手下たちがいる湾岸倉庫へ赴いた。デュランとエディーは縄張りを巡って対立していたが、エディーの組織が数では圧倒的に上だった。エディーは身体検査で武器を取り上げ、余裕の態度でデュランを脅した。しかしデュラント一味は隠し持っていた銃を発砲し、あっという間にエディーの手下たちを皆殺しにした。デュラントはエディーを捕まえ、彼の指を切り落とした。
科学者のペイトン・ウェストレイクは助手と共に、人工皮膚の研究を続けていた。しかし、時間が経つと人工皮膚が崩壊してしまうという問題は、未だに解決できていなかった。安定させるための要素が見つかっておらず、99分が経過すると皮膚が崩れてしまうのだ。一方、ペイトンの恋人である弁護士のジュリー・ヘイスティングスは、ウォーターフロント開発計画に絡む収賄事件の証拠書類を持っていた。それは不動産業界の大物ルイス・ストラックが賄賂を渡したことを示す支出記録だった。
ジュリーと同棲中のペイトンは、仕事に出掛ける彼女に「結婚しよう」と持ち掛けるが、返事は先延ばしにされてしまった。ジュリーはストラックの元を訪れ、書類について質問した。するとストラックは一向に悪びれず、賄賂を渡したことを認めた。さらにストラックは、「夢であるウォーターフロント開発のためなら嫌な仕事でも平気でやる」と言う。かれはジュリーに、デュラントがウォーターフロントを狙っており、そのために書類を欲しがっていることを話した。
ペイトンが助手と共に研究所で人工皮膚の実験を行っている最中、ヒューズが飛んで停電になった。すると、人工皮膚の細胞は99分を経過しても崩れなかった。ペイトンは暗闇の中で人工皮膚が安定することに気付くが、そこへデュラント一味が乗り込んできた。いきなりペイトンを暴行した一味は、書類を渡すよう要求した。正直に「何のことか分からない」とペイトンが答えると、一味は助手を殺害した。一味はペイトンが持って来たジュリーの書類を見つけた。
デュラント一味はペイトンの両手を電極で焼いて大火傷を負わせ、顔を薬品に沈めた。一味はガスを充満させて研究室を後にした。研究室は大爆発を起こし、ペイトンは激しく吹き飛ばされて川に落ちた。ジュリーはペイトンが死んだものと思い、遺体が発見されないまま葬儀を済ませた。しかし、ペイトンは死んでいなかった。彼は身許不明のまま病院に運ばれ、治療を受けて一命を取り留めていた。
全身の40パーセントに火傷を負っていたペイトンは、脳に苦痛を伝達する神経を遮断されていた。その処置には副作用があり、疎外感、孤独、怒りが制御不能となる。そしてアドレナリンの大量流出により、驚くべき力を得ることになる。そのため、担当医は彼を拘束していた。しかしペイトンは拘束具を外し、窓から逃げ出した。包帯を全身に巻かれた状態で夜の街を徘徊した彼は、ジュリーを目撃して声を掛けた。しかしジュリーは相手がペイトンだと気付かず、怯えて逃げ出した。
焼け落ちた研究所に辿り着いたペイトンは包帯を取り、鏡で自分の変わり果てた姿を見て絶望感に打ちひしがれた。しかし装置が生きていることを知った彼は、それを廃工場を運び込んだ。ペイトンは自分の顔写真をスキャンして取り込み、人工皮膚を作ろうと考える。その完成には長い時間が必要であり、皮膚を安定させることは困難な作業だった。ストラック産業のパーティー会場を覗いたペイトンは、ジュリーがストラックに誘われてダンスをしている様子を目撃した。
そのパーティー会場でペイトンは、デュラント一味の1人、リックの姿に気付いた。路地裏に1人で出て来たリックを捕まえたペイトンは、彼を脅してボスがデュラントであることを聞き出した。許しを請うリックを、ペイトンは容赦なく始末した。ペイトンは一味を張り込み、写真を隠し撮りした。現金の受け取り役であるポーリーのデータを装置に取り込んだ彼は、人工皮膚を作り出した。ペイトンは人工皮膚を使い、ポーリーに変身する。そして本物のポーリーを薬で眠らせ、彼に成り済まして現金を受け取った。
デュラント一味はポーリーの部屋に乗り込み、「金はどこだ」と詰め寄った。「寝過ごして受け取りに行かなかった」と釈明するポーリーだが、部屋にはペイトンが置いたリックと2人分の航空券があった。それを見つけたデュラントは、ポーリーが金を盗んで高飛びする気だったと思い込む。ペイトンは現金を受け取った時に使った服を、ポーリーが眠っている間に着せていた。そのため、デュラントは彼の釈明に耳を貸さず、窓から突き落として始末した。
研究所に戻ったペイトンは、自分は何者なのか分からなくなり、激しく荒れ狂う。我に返った彼は、落ち着くよう自分に言い聞かせた。その時、コンピュータが再生プログラムの完了を告げた。ペイトンの人工皮膚が完成したのである。後日、ジュリーがペイトンの墓参りに行くと、人工皮膚を被った彼が現れた。「死んだはずなのに」と怖がる彼女に、ペイトンは「昏睡状態で病院にいた」と説明した。彼はジュリーを抱き締め、「僕にはやるべきことがある。時間をくれ」と告げた。
ペイトンはデュラントの声を録音し、彼の人工皮膚も作り上げた。ペイトンはデュラントに成り済ましてコンビニ強盗を働き、わざと監視カメラに向かって「俺はロバート・G・デュラントだ」と告げた。デュラントが逮捕されている間に、ペイトンは彼に成り済まして手下を引き連れ、香港料理店に赴いた。ペイトンはデュラントが会う予定だったホンという男に、金を出すよう要求した。しかしホンは言い訳を並べ、金を払わずに帰らせようとする。人工皮膚の限界が迫る中、ペイトンはホンを脅して金を出させた。
金の入った鞄を持って外に出たペイトンは、釈放されて香港料理店に駆け付けたデュラントと鉢合わせした。「そいつを撃て」と両方に言われた手下のグスマンは、混乱して発砲できない。ペイトンはデュラントを殴り倒すが、直後に人工皮膚のタイムリミットが来てしまう。ペイトンは慌てて逃げ出し、途中で人工皮膚を捨てた。後日、ペイトンは遊園地でジュリーとデートする。ペイトンは自分の本当の姿を明かそうとするが、フリークスが見世物にされているのを目撃し、何も言えなくなってしまった。
ペイトンは時間を気にしながら、的当てゲームをやる。しかし店主から文句を言われた彼は感情のコントロールを失い、激昂してしまう。彼は店主の指をへし折り、激しく投げ飛ばした。人工皮膚が崩れ始めたペイトンは、慌てて逃げ出した。ペイトンを追って廃工場に足を踏み入れたジュリーは、放置してある人工皮膚が溶けるのを目にした。「なぜ黙ってたの?力になりたいの。もう何も隠さないで」と呼び掛けるジュリーだが、物陰に隠れたペイトンは返事をしなかった。
ジュリーはストラックの元へ行き、ペイトンが生きていることを打ち明けた。ストラックが電話に出ている最中、ジュリーはデスクの上に失われたはずの重要書類が置いてあるのに気付いた。「彼を襲ったのね」という質問に、ストラックは何食わぬ顔で「私じゃない。私の仕事を代行する人間がいる」と告げた。彼は「証拠は無いし、警察に行っても相手にされない」と余裕を見せた。ジュリーが去った後、ストラックはデュラントを呼び出し、ペイトンが生きていることを教えた。デュラント一味は廃工場へ赴いたジュリーを尾行し、彼女を拉致してペイトンを銃撃した…。

監督はサム・ライミ、原案はサム・ライミ、脚本はチャック・ファーラー&サム・ライミ&アイヴァン・ライミ&ダニエル・ゴールディン&ジョシュア・ゴールディン、製作はロバート・タパート、撮影はビル・ポープ、編集監修はバド・スミス&スコット・スミス、編集はデヴィッド・スティーヴン、美術はランディー・サー、衣装はグラニア・プレストン、メイクアップ効果はトニー・ガードナー&ラリー・ハムリン、音楽はダニー・エルフマン。
出演はリーアム・ニーソン、フランシス・マクドーマンド、コリン・フリールズ、ラリー・ドレイク、ネルソン・マシタ、ジェシー・ローレンス・ファーガソン、ラファエル・H・ロブレド、ダニー・ヒックス、セオドア・ライミ、ダン・ベル、ニコラス・ワース、アーロン・ラスティグ、アーセニオ・“ソニー”・トリニダード、サイード・ファラジ、ネイサン・チュン、プロフェッサー・トール・タナカ、ジョン・リスボン・ウッド、フランク・ヌーン他。


『死霊のはらわた』『XYZマーダーズ』のサム・ライミが監督を務めた作品。
ライミが音楽担当のダニー・エルフマンと初めてコンビを組んだ映画である。
ペイトンをリーアム・ニーソン、ジュリーをフランシス・マクドーマンド、ストラックをコリン・フリールズ、デュラントをラリー・ドレイク、ペイトンの助手をネルソン・マシタ、エディーをジェシー・ローレンス・ファーガソンが演じている。
アンクレジットだが、ペイトンの治療を担当した外科医役でジェニー・アガターが出演している。彼女はサム・ライミの友人であるジョン・ランディス監督から頼まれて出演しているのだが、そのジョン・ランディスも医師の1人として出演している。

原案となったゲームをプレーしたことは無いが、「女性キャラのオッパイがユサユサと揺れまくる対戦格闘ゲームで、コスプレしまくるし、スピンオフ作品では水着でビーチバレーもやるよ」という内容なのは知っている。
そういうゲームを実写映画化するのだから、重要視すべきは「エロとアクション」だ。
女優陣のバストサイズに関してはともかく、エロの要素を持ち込もうという意識は感じられる。

元々、サム・ライミは北米で有名なヒーロー“シャドー”の映画化を希望していた。
シャドーとは、1929年にラジオ番組で登場し、後にWalter B. Gibsonの小説やコミックなどで広く知られるようになったキャラクターである。
しかし映画化権を取得できなかったため、彼はシャドーっぽいキャラクターを生み出し、コミック的なダーク・ヒーロー活劇として本作品を撮った。
ちなみに本家『シャドー』の方は、1994年にアレック・ボールドウィンが主演し、ラッセル・マルケイが監督を務めて映画化されている。

当初、ライミは盟友であるブルース・キャンベルにダークマンを演じてもらいたかった。
しかし配給したユニヴァーサル・ピクチャーズがキャンベルの主演に難色を示したため(観客動員を考えると無理も無いが)、リーアム・ニーソンが起用されている。
しかしブルース・キャンベルも、実は少しだけ、ダークマンを演じているのだ。
映画のラストシーン、顔を変えたペイトンが写るのだが、それがブルース・キャンベルなのである。

この映画、脚本や編集の段階でユニヴァーサル・ピクチャーズが何度も介入し、かなり作業が難航したらしい。
アンクレジットだが、ライミの親友であるコーエン兄弟が脚本の手直しに携わっている。
そしてジョエル・コーエンの妻であるフランシス・マクドーマンドが、当初はジュリア・ロバーツやデミ・ムーアも候補だったジュリーを演じているわけだ。
そのマクドーマンドは本作品に対する考えの違いから、サム・ライミとかなり揉めたらしい。

ただ、そもそもペイトンやルイスから美女扱いされているヒロインがフランシス・マクドーマンドという時点で、かなり違和感が強い。
あと、恋人を失って失意に沈んでいるはずのジュリーが、なぜか不正を暴く対象であるはずのストラックが主催するパーティーに参加し、一緒にダンスを踊ってヒロインとしての好感度を下げる行動を取る辺りのデリカシーの無さも、いかがなものかと思うしね。
ストラックにペイトンのことを相談し、そのせいでペイトンを窮地に追い込むのも、迷惑な女だなあと思うし。
もちろんジュリーは彼がデュラントと繋がっていることを知らないんだけど、だからって、なぜ相談相手がストラックなのかと。アンタが収賄事件を暴こうとしていた相手だったんじゃねえのかと。
なんでストラックが賄賂を認めて以降、すっかり「信頼できる友人、もしくは友人以上の感情がある関係」になっちゃってんのかと。

脚本や編集に製作サイドが深く関わって揉めたのは、この映画の「どっちで行きたいの?」と思わせる仕上がりと関係があるかもしれない。
「どっちで行きたいの?」ってのは、「マジで行きたいのか、そうじゃないのか」ってことだ。
ダークマンは復讐に燃えるダーク・ヒーローなのだから、本来ならば、かなりシリアスで暗い雰囲気に包まれたテイストになるはずだ。
ところが、なぜか本作品は、妙に軽かったりコミカルだったりするトコロがあるのだ。

たまに垣間見える軽いノリ、コミカルなテイストってのは、サム・ライミの持つB級魂がさせている可能性が高い。
だから、サム・ライミとしては、そういう「バカバカしさの強いアメコミ的映画」にしたくて、もっとマジなダーク・ヒーロー物にしたい製作サイドが、そっちサイドに寄せるために介入したのかもしれない。
そうだとしたら、それは「余計なお世話」と言わざるを得ないんだけどね。
中途半端にバカバカしさを残すぐらいなら、徹底的にバカバカしい映画にした方がいいでしょ。

冒頭、倉庫に入る前に身体検査されたデュラント一味が、武器として拳銃だけでなくヌンチャクを持っている時点で、既に「ちょっとマジじゃない感じ」が漂っている。
一味が義足に銃を隠しているとか、わずか7人で傷一つ負わずに大勢のギャング団を簡単に片付けるとか、その辺りも荒唐無稽なノリを感じさせる。
考えてみれば、冒頭シーンでデュラント一味がデカい組織と戦うシーンを描く必要など無くて、研究所を襲撃するシーンが初登場でも一向に構わない。
そのギャング団との戦闘シーンを冒頭に持って来ることで、「これはマジな映画じゃないんですよ」というサインを出しているのかもしれない。

ダークマンは正義のヒーローではなく復讐鬼なので、悪党の倒し方が残酷だ。
リックの時は、下水道に連れ込んで脅した後、首から上だけをマンホールから出させる。そして走って来たトラックに、彼をひかせて死に至らしめる。
その調子で、次々にデュラント一味を残酷な手口で始末していく展開にしてくれたら、もっと面白くなったんじゃないかとは思うんだけど、それ以降、復讐のための行動がバッタリと止まるんだよな。
そんで終盤になって一気に片付けるんだけど、ヘリコプターを使った派手なアクションとか要らないわ。
この映画に求めるケレン味って、そういうことじゃないんだよな。

ペイトンは手術の副作用で力が強くなったり痛みを感じなくなったりという変化はあるけど、空を飛ぶとかビームを出すといった特殊能力を持っているわけではない。
なので、敵を倒す方法も、ヒーロー的にカッコよく活躍するわけではない。
写真を隠し撮りしてデータを取り込み、人工皮膚でポーリーに成り済まし、現金を受け取るという行動を取る。
ただ、それって、そもそも復讐のための行動じゃないよね。金を横取りすることは、復讐じゃないよね。

そもそも、ポーリーの寝室まで忍び込んでいるなら、その時点で彼を始末することは出来たはずなのに、そこには頭が回らないのね。
デュラントとリックは殺したいけど、他の連中への復讐心は無いってことなのか。そういうわけでもあるまいに。
結果的には、勘違いで激怒したデュラントがポーリーを始末しているけど、そこから現金を受け取ったの奴が偽者だとバレる可能性だってあったわけで。
冷静に考えると、杜撰な作戦だよなあ。

ペイトンがデュラントの屋敷を張り込み、彼の声を盗聴して録音するシーンがある。
だけど、屋敷の警備が厳重なわけでもないし、1人でいるわけだから、潜入して始末することも出来そうなんだよな。
それなのに彼は、ペイトンに成り済ましてコンビニ強盗を働く。そして本物が警察に拘束されている間にデュラントとしてホンと会い、組織に入るはずだった金を横取りする。
また金の横取りが目的なのかよ。

どうやらペイトンは、研究資金を手に入れているためにデュラントの組織を利用しているようだ。
復讐の遂行よりも、まずは金ってことなのね。そんなわけだから、ちっとも「復讐の鬼」という印象が強くならないんだよね。
で、資金調達を優先して復讐を後回しにするもんだから、敵に気付かれてピンチに陥っちゃうのよね。
アホじゃねえか。
醜い姿で病院から脱走した後、「奴らのせいでこんな姿になった」と復讐心を燃え上がらせていたはずなのに、その気持ちはどこへ行ったのかと。

ただ、色々と文句を付けたし、駄作映画100選の候補には入っているけど、そんなに嫌いじゃないなんだよね、この映画。 後にサム・ライミは本物のアメコミ映画である『スパイダーマン』3部作を手掛けることになるけど、そっちよりも本作品の方が好きだわ。B級魂も悪ふざけの感覚も、この頃は残っているし。
そりゃあ、最初はB級魂を持っていた監督だって、大物になろうとすれば、そのB級魂を捨てる必要がある。ジェームズ・キャメロンはB級魂を捨てて『タイタニック』を撮ったから、「巨匠」と呼ばれる存在にまで成り上がったわけで。
一方、B級魂を持ち続けたジョー・ダンテやジョー・カーペンターは、いつしかパッとしない人になってしまった。
だから生き方としては、B級魂を捨てる方が利口なのは確かなんだけど、サム・ライミには本作品を撮っていた頃のようなB級魂を忘れないでほしいなあ。

(観賞日:2013年9月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会