『D-TOX』:2002、アメリカ&ドイツ

警官ばかりが標的とされる連続殺人事件が発生した。事件を担当するFBI捜査官ジェイク・マロイは手掛かりを全く掴めず、友人を殺害される。犯人は次の標的としてマロイを狙い、彼に電話で通告してから恋人メアリーを殺害した。強いショックを受けたマロイは、酒に溺れるようになってしまい、ついには手首を切って自殺未遂を図った。
3ヵ月後、未だにショックから立ち直れないマロイは、同僚のヘンドリックスに勧められ、ワイオミング州にある警察官専用の治療施設D-TOXに半ば強引に連れて来られた。そこは、厳寒の大地に建つ要塞の如き秘密施設である。元警察官のドクが所長を務め、助手ハンク、精神科医兼看護婦のジェニー、看護士ジャック、コックのマニー、雑用係ギルバートが働いている。
施設には、優秀であるがゆえに精神を患った各国の9名の警官が収容されていた。麻薬課勤務のジャウォルスキー、ロンドン市警察のスレイター、SWATのノア、ロス市警の婦警ロペス、カナダの騎馬警官隊マッケンジー、ジョーンズ、コナー、ウィークス、ブランドンといった面々だ。ノアはコナーを虐め、マッケンジーをバカにする。
激しい雪がブリザードに変わる中、コナーが自殺体で発見された。送電線が切断されたため、外部への連絡は不可能になった。ウィークスはアル中の禁断症状に襲われ、病室に運び込まれた。翌朝、ブランドンが洗面台で首吊り死体となって発見された。ジャックは姿を消し、スノーモービルが一台無くなっていた。ボイラーは故障し、夜にはドクも行方不明となった。一方、ジェイクに会いに行こうとしたヘンドリックスは、D-TOXに収容されるはずだった警官の死体を雪道で発見する…。

監督はジム・ギレスピー、原作はハワード・スウィンドル、映画原案&脚本はロン・L・ブリンカーホフ、製作はリック・キドニー、製作協力はケヴィン・キング、製作総指揮はモーリーン・ペイロット、撮影はディーン・セムラー、編集はスティーヴ・ミルコヴィッチ&ティム・アルヴァーソン、美術はゲイリー・ウィスナー、衣装はキャサリン・アデア、音楽はジョン・パウエル。
主演はシルヴェスター・スタローン、共演はトム・ベレンジャー、チャールズ・S・ダットン、クリス・クリストファーソン、ショーン・パトリック・フラナリー、クリストファー・フルフォード、スティーヴン・ラング、ディナ・メイヤー、ロバート・パトリック、ロバート・プロスキー、コートニー・B・ヴァンス、ポリー・ウォーカー、ジェフリー・ライト、アンジェロ・アルヴァラド・ローサ、ランス・ハワード、アラン・C・ピーターソン、ロスガー・マシューズ、ティム・ヘンリー、ミフ、ジェームズ・キドニー他。


ハワード・スウィンドルの小説を基にした作品。
マロイをシルヴェスター・スタローン、ハンクをトム・ベレンジャー、ヘンドリックスをチャールズ・S・ダットン、ドクをクリス・クリストファーソン、コナーをショーン・パトリック・フラナリー、スレイターをクリストファー・フルフォード、ジャックをスティーヴン・ラング、メアリーをディナ・メイヤーが演じている。
他に、ノアをロバート・パトリック、マッケンジーをロバート・プロスキー、ジョーンズをコートニー・B・ヴァンス、ジェニーをポリー・ウォーカー、ジャウォルスキーをジェフリー・ライト、ロペスをアンジェロ・アルヴァラド・ローサ、ギルバートをアラン・C・ピーターソン、マニーをロスガー・マシューズ、ウィークスをティム・ヘンリー、ブランドンをミフが演じている。

トム・ベレンジャーにチャールズ・S・ダットン、クリス・クリストファーソン、ディナ・メイヤー、ロバート・パトリックなどなど、B級映画オールスター・キャストの如き配役が素晴らしい。
これで主演がスライじゃなくカート・ラッセルだったら、そして監督がジョン
・カーペンターだったら良かったんだが。
ついでに更生施設を舞台にしたサイコ・スリラーじゃなくてスネーク・プリスケンが活躍するSFアクションなら大喜びしたんだが。
って、もう完全に別の映画じゃねえか、それは。

まあともかく、これだけ豪華(ある意味ではね)な俳優陣を揃えているんだが、しかし監督が『ラストサマー』のジム・ギレスピーで、スタローンが主演で、そこに何を期待しろと言うのだ。
大体、サイコ・スリラーとスライの噛み合わせが悪すぎる。
例えば『セブン』の主人公をスタローンにしたらどうなるか、考えてみてほしい。
そりゃ別の意味で恐ろしいわ。
1999年に撮影されたのに3年間もお蔵入りになっていて、製作したユニヴァーサルが他の会社に売り払った理由が良く分かる。
最初から勝ち目が無いのだ。

大体、主人公は弱っている奴なんだが、スライの見た目から強さが滲み出てるし。
マロイは精神を病んでいる設定だけど、その心の傷は『ランボー』的な心の傷にしか見えんぞ。
つまり弱っている奴には見えないってこと。
それに、話が進行する中で心の傷を克服していくわけでもないし、ただ陰気なムードを作り出すのに貢献しているだけじゃん。
そんな貢献は要らないし。
結局、弱ってる奴が恐ろしいシリアル・キラーを退治するというより、屈強な男が残忍な方法で犯人を処刑するという形になってるぞ。

犯人の行動目的が良く分からない。
警官を殺すのが目的だったはずが、映画の冒頭でマロイ殺害に目的が変更されちゃうし。
そのマロイを狙うのも、殺人事件の担当者がマロイだったからなのか、それとも4年前の事件での恨みからなのか、どっちか良く分からない。
あと、その4年前の事件でどういう恨みを持ったのかもハッキリしない。
マロイをすぐに狙わず、元同僚や恋人を狙うのは「マロイを苦しませる」ということで理解できる。
ただ、なんでD-TOXに潜入して狙うのかが分からん。それまでの3ヶ月、お前は何をしていたんだと。
しかもD-TOXに潜入してからも、全くマロイに手を出さずに、他の連中を殺しているし。しかも、最初は自殺に見せ掛けている。
お前、これまでは猟奇殺人をやってたんだろうに。そこに至って、なんで偽装工作なんてやってんのよ。

犯人がD-TOXに潜入できたのは、狡猾だったからではなく管理が甘すぎるから。
殺人の過去がある元患者ジャックを雇っている辺りからして、マトモな施設じゃないんだよな。
犯人がどうこうという以前に、施設そのものが怪しい。
それは意図的なものかどうか不明だが、意図的であろうと意図しないものであろうと失敗していることに変わりは無い。

一応は「この中に犯人がいる」ってことになるんだが、各人の存在を把握できない内にどんどん死んでいくので、ミステリーとしての充実なんて全く無い。
例えばブランドンなんて、「そんな奴いたっけ?」というぐらい印象に無い内に殺されている。他の連中も、大した見せ場も与えられないままで最後まで話が進んでいく。
だからってスライの俺様映画ってわけでもなく、スライも精彩が無い。

集まっている連中が全て警官だという設定も、そこが更生施設だという設定も、何の意味も無いと言い切っていい。
さらに、せっかく隔離された状態にあるのに、建物の外に何度も場面を移して閉塞感を薄くしている。その建物の中も、見取り図が把握できないので、キャラクターの位置関係、部屋の位置関係が良く分からない。

もう観客はコナーの死体が見つかった段階で「連続殺人鬼が来てるんだな」と予想できてしまうんだが、そこからマロイが殺人鬼の襲来に気付くまでに、かなり時間が掛かる。
このタイムラグは、デメリット以外の何も生まない。
マロイが殺人鬼の襲来を確信すると、すぐに犯人がスレイターだと気付いてしまう辺りも構成としてマズすぎるだろう。

 

*ポンコツ映画愛護協会