『ダレン・シャン』:2009、アメリカ
高校生のダレン・シャンは成績優秀で女子にはモテモテであり、人生は順調だった。彼は親友のスティーブに誘われ、授業をサボった。スティーブは石を投げて学校の照明器具を割り、ダレンにも同じことをやるよう促した。ダレンも石を投げ、照明器具を割った。彼は両親から、スティーブとの付き合いを反対された。ダレンとスティーブは、フリーク・ショーのサーカスである「シルク・ド・フリーク」のチラシを拾った。2人は興味を抱くが、教師のカーシーは「違法だから行ってはいけない」と注意した。
ダレンは夜中に窓から家を抜け出し、スティーヴと合流してシルク・ド・フリークの会場へ向かう。赤い輪の月を目にしたスティーブは、「あれには意味がある。バンパイアの本に書いてあった」と言う。スティーブは吸血鬼に夢中で、ダレンは蜘蛛の虜だった。2人は会場である建物に入り、客席に座った。団長のミスター・トールによる紹介で、舞台には半狼人間のウルフマン、再生能力を持つコーマック・リムズ、ガリガリに痩せているアレクサンダー・リブス、強靭な歯を持つガーサ・ティース、2つの胃袋を持つラムス・ツーベリーズといったフリークスが次々に登場した。
蛇少年のエブラ・フォンは失態を犯し、トールに注意された。未来を予知するヒゲ女のトラスカは、ダレンを助手に任命した。ダレンの未来を読み取ったトラスカは、顔を強張らせてステージ裏に戻った。彼女は次の出番を待つラーテン・クレプスリーに、「早く済ませて町を出ましょう。嫌な予感がする」と告げる。しかしクレスプリーは「客席に友人がいる」と言い、トラスカの警告を気にしなかった。舞台に登場した彼は、毒蜘蛛のマダム・オクタをフルートで操った。
ダレンはオクタを見て「美しい蜘蛛だ」と漏らし、スティーブはクレスプリーを見て「奴は偽名を使ってる。吸血鬼のバー・ホーストンだ。本の挿絵と何もかも同じだ」と口にした。クレスプリーはスティーブに近付き、警告の言葉を発した。そこへ警官が現れ、「保健検査官の命令で閉鎖する」と通告した。ショーは中止になり、ダレンはクレスプリーの楽屋へ忍び込んでオクタを駕籠から出した。クレスプリーが友人のガブナー・パールを連れて戻って来たので、ダレンはオクタを捕まえたまま隠れた。
クレスプリーは「バンパイアの勇気に」と言ってガブナーと乾杯し、「赤い輪の月を見たか。50年ぶりだぞ」と口にする。ガブナーは彼に、「ビンセントが血を一滴残らず吸われて死んだ。次は俺たちの番だ。バンパニーズは俺たちを殺す」と険しい表情で話す。クレスプリーが「バンパイア議会の意見は?」と訊くと、彼は「バンパニーズと戦う気は無い腰抜けだ」と吐き捨て、「タイニーが戻った。資料室で魂の本をいじっていた。俺たちを全滅させる気だ。バンパニーズも何か企んでるぞ。タイニーと関係がある」と述べた。
ガブナーがビンセントの復讐を持ち掛けると、クレスプリーは「やめとくよ。訳ありで、もう戦わない」と断った。そこへスティーブが来て、クレスプリーに「アンタの正体を知ってる。俺をバンパイアにしてくれ」と訴える。クレスプリーは彼の血を味見し、「邪悪な味がするぞ。諦めろ」と突き放した。するとスティーブは憎しみの顔付きになり、「今に見てろよ。いつかアンタを仕留める」と睨む。激怒したクレスプリーをガブナーがなだめ、スティーブを部屋から追い出した。
ガブナーが「マウンテンに戻って、腰抜けどもをバンパニーズと戦うよう説得する」と言うと、クレスプリーは「一人でも殺せば全面戦争になる」と懸念する。ガブナーは「いいじゃないか」と笑い、姿を消した。クレスプリーはオクタが消えたことに気付き、ダレンは慌てて逃げ出した。彼が道路に出ると、タイニーが車で通りかかって「乗れ」と促す。ダレンが車に乗り込むと、タイニーはバンパニーズのマーロックと一緒にいた。
ダレンを見たマーロックが「指導者と言うより、血の詰まった袋ですぜ」と口にすると、タイニーは「この子は大物になるぞ」と告げる。彼は記念品と称して、ダレンの毛髪を一本抜き取った。そして「簡単なテストで君の運命を探ろう」と言い、ダレンを家の前で降ろした。翌日、ダレンはオクタを鞄に隠して登校する。それを知ったスティーブは、「バンパイアの蜘蛛だ。殺されるぞ」と驚く。彼はオクタを鞄から出し、じっくりと眺めた。しかし駕籠からオクタが逃げ出してしまい、大騒ぎになった。
スティーブはオクタを追って叩き潰そうとするが、ダレンが制止した。スティーブはオクタに噛まれ、意識不明の状態に陥った。ダレンはショーが開かれていた建物へ赴き、クレスプリーに助けを求めた。するとクレスプリーは、バンパイアとして自分の手下になるよう要求した。ダレンが承諾すると、クレスプリーは彼を半バンパイアに変身させた。クレスプリーはスティーブが運び込まれた病院へ行き、体内に解毒剤を注入した。
翌朝、ダレンが学校へ行くと、スティーブは元気に回復していた。帰宅したダレンは、妹であるアニーを襲いたい渇望に見舞われる。動揺しながら自分を制したダレンだが、寝室で泣いた。そこへクレスプリーが現れ、「ここには住めない。永遠に家族の元から去るのだ」と述べた。ダレンが何も知らない家族への挨拶を済ませると、クレスプリーは薬を飲ませた。ダレンは仮死状態に陥り、周囲からは死んだと思われた。葬儀が執り行われ、棺が埋葬されたところでダレンは意識を取り戻した。
深夜、クレスプリーは墓地へ赴き、ダレンの棺を掘り起こした。ダレンが外へ出た直後、マーロックが現れた。彼はクレスプリーを襲撃し、ダレンを連れ去ろうと目論む。クレスプリーはマーロックを撃退し、ダレンを背負ってシルクの冬季キャンプ地までフリットした。彼はトールから「シルクは中立だから生き残って来られた」と言われ、「君を巻き込まず、静かに暮らす」と述べた。「なぜタイニーは、あの少年を狙う?」と問われたクレスプリーは、「分からんが、奴の欲しがる物は渡さん」と告げた。
ダレンがトールのテントに聞き耳を立てていると、シルクの少女であるレベッカが通り掛かった。ダレンはレベッカを誘い、一緒にトールとクレスプリーの会話を盗み聞きしようとする。それに気付いたトールは、2人をテントの中へ引っ張り込んだ。トールはレベッカに、ダレンをエブラのテントへ案内するよう指示した。彼はダレンに、「エブラと同居させる。みんなと協力して働け」と述べた。自分の仕事が残っていたレベッカは、リトル・ピープルのハーキャット・マルズにダレンの案内を任せた。
タイニーはスティーブに接触し、「ダレンは君の夢を横取りした。その夢は、人を殺して血を飲むことだ」と言う。彼は「戦争の愛好者で、素晴らしい戦いが見たいのだ」と自身の目的を語り、「強い味方が欲しい。2人の少年は親友で、どちらかだ。ところで、君のDNAが気に入ったぞ」と述べた。一方、ダレンは雑用をこなしたり、ギターのエブラとドラムで合奏したりして、キャンプ地での日々を過ごす。スティーブが気になった彼は、電話を掛けてみた。しかし留守電になっており、「伝言を」という声が聞こえると電話を切った。そこへクレスプリーが来てダレンの携帯電話を破壊し、「外部の人間と話すな」と釘を刺した。
タイニーの車がキャンプ地に来たので、クレスプリーはダレンに「エブラのテントに入っていろ」と命じた。タイニーはトールのテントでクレスプリーと会い、嫌味っぽい態度を取った。「なぜ彼を欲しがる?予言を実現させるためか」とクレスプリーが訊くと、彼は「この休戦協定も長くは続かない。新しい指導者が現れる。血に飢えた少年。運命は決まっている」と話す。クレスプリーは「だったら、なぜ構う?どうも怪しい」と疑問を呈するが、タイニーは軽く受け流す。タイニーはトールに、ダレンの身柄を引き渡すよう要求した。トールが「面倒が嫌いだから従って来たが、この件は考えさせてくれ」と言うと、タイニーは「欲しい物は必ず手に入れる」と告げて去った…。監督はポール・ワイツ、原作はダレン・シャン、脚本はポール・ワイツ&ブライアン・ヘルゲランド、製作はローレン・シュラー・ドナー&ポール・ワイツ&ユアン・レスリー&アンドリュー・ミアノ、共同製作はジョン・スワロー、製作総指揮はコートニー・プレジャー&サラ・ラドクリフ&ダン・コルスラッド&ケリー・コハンスキー&ロドニー・リバー、撮影はジェームズ・ミューロー、美術はウィリアム・アーノルド、編集はレスリー・ジョーンズ、衣装はジュディアナ・マコフスキー、視覚効果監修はトッド・シフレット、特殊メイクアップ&クリーチャー効果はアレック・ギリス&トム・ウッドラフJr.、音楽はスティーヴン・トラスク。
出演はジョン・C・ライリー、渡辺謙、ジョシュ・ハッチャーソン、サルマ・ハエック、ウィレム・デフォー、クリス・マッソグリア、レイ・スティーヴンソン、パトリック・フュジット、オーランド・ジョーンズ、マイケル・セルヴェリス、ジェーン・クラコウスキー、フランキー・フェイソン、パトリック・ブリーン、コリーン・キャンプ、ドン・マクマナス、ジェシカ・カールソン、クリステン・シャール、モーガン・セイラー、トム・ウッドラフJr.、ドリュー・ヴァリック、ジョン・クロフォード、リッチー・モンゴメリー、テッド・マンソン、アン・マッケンジー他。
作家のダレン・シャンによる児童向けファンタジー小説シリーズを基にした作品。ソフト化の際には『ダレン・シャン 〜若きバンパイアと奇怪なサーカス〜』と副題が付けられた。
監督は『アメリカン・パイ』『アバウト・ア・ボーイ』のポール・ワイツ。
脚本はポール・ワイツと『マイ・ボディガード』『ボーン・スプレマシー』のブライアン・ヘルゲランドによる共同。
クレプスリーをジョン・C・ライリー、トールを渡辺謙、スティーブをジョシュ・ハッチャーソン、トラスカをサルマ・ハエック、ガブナーをウィレム・デフォー、ダレンをクリス・マッソグリア、マーロックをレイ・スティーヴンソン、エブラをパトリック・フュジット、リブスをオーランド・ジョーンズが演じている。最初にダレンのモノローグで「成績優秀、女にはモテモテ」ってことが語られ、「友達も優秀」ってことが映像も含めて示される。その上で、小太りの同級生に関しては「彼は例外。小学5年生では友達だったけど、今はキモい」と冷たく言う。
そんな主人公には、まるで好感が持てない。
これが「最初は嫌な奴だったけど、人間的に成長したことで考え方が変化する」という展開に向けての前フリであれば、理解できなくもない。
しかし、少なくとも小太り同級生を「キモい」と拒絶する部分に関しては何の変化も無いので、いけ好かない奴という印象は残ったままになる。そんなダレンがスティーブと親友ってのは、どうにも違和感が強い。
彼は「優秀な同級生」だけを選んで友達付き合いをしているのに、なぜスティーブだけは特別なのか。
ダレンはスティーブに誘われて授業をサボッたり、石を投げて照明器具を壊したりするけど、その辺りも「なんで?」と思ってしまう。
しかも石を投げることを要求される時は、ダレンが手に載せていた蜘蛛を潰されているのだ。
蜘蛛が好きなダレンからすると、それは許し難い行為じゃないのか。ダレンは両親からスティーブとの付き合いを反対されても、「親友だ」ってことで付き合いを続行する。
だけど、両親が反対するのは納得できるのよ。
スティーブってのは「不良っぽく見えるけど根は優しい奴」とか「住んでいる地域が悪いだけで本人は真面目」というキャラではなくて、ホントにヤバい奴なのよ。親友として付き合っちゃダメな奴なのよ。
彼の魅力が全く見えないので、なぜダレンが親友として付き合っているのか、まるで理解できない。終盤、スティーブはタイニーやマーロックと結託し、ダレンの家族を拉致する。そして家族を人質にして、ダレンを脅す。
スティーブと戦ったダレンは追い込むが、殺すことが出来ずに反撃を食らい、最終的には逃げられる。
そこでダレンがスティーブを殺せなかったのは、もちろん「親友だから」ってことだし、その逡巡に観客が共感できる形になっているべきなのだ。
しかし実際のところ、スティーブは醜悪なクズ野郎でしかないので、「さっさと殺せよ。ためらうとか、バカじゃねえのか」としか思えないのだ。そもそもダレンとスティーブの友情ってのは、ダレンが台詞で「大切な親友」と言うほどには伝わって来ない。
だから、話が進む中で用意されている「友情から反目へ」というドラマも、まるで活きない。
また、ダレンはモノローグで「スティーブはバンパイアに夢中、僕は蜘蛛の虜」と言うけど、こちらも台詞で説明するほどには2人の熱が伝わって来ない。
早くシルク・ド・フリークを登場させたいのは理解できるけど、まだ準備運動が不足している状態で試合を始めるような状態になっている。そこまでのネタ振りが不充分なので、ダレンがオクタを見て「美しい蜘蛛だ」と魅了されたり、スティーブがクレスプリーを見て「奴は偽名を使ってる。吸血鬼のバー・ホーストンだ。本の挿絵と何もかも同じだ」と指摘したりしても、段取り芝居という印象がハンパない。
それと、スティーブがクレスプリーを吸血鬼だと決め付けるのはともかく(当たっているしね)、「俺をパンパイアにしてくれ」と訴える行動に至っては、ただのボンクラにしか思えない。
クレスプリーから「バンパイアは家族や友人を捨てる」と覚悟が必要なことを告げられたスティーブは、「親父に捨てられ、お袋は酒浸り。最低の人生さ。誰にも言ってないが本当だ」と語る。そこで彼の同情すべき家庭環境を示したり、「パンパイアになりたい」という動機を説明したりすることを狙っているんだろう。
ただ、何しろ「誰にも言ってない」ってことで、こっちからしても初耳なので、台詞で言及しただけでは説得力に繋がらない。クレスプリーとガブナーの会話で、ダレンは彼らがパンパイアだと知ったはずだ。だからホントは「正体を知って驚いたり慌てたりする」という反応が欲しいところだ。
しかし、そういう手順が無いまま、話が先へ進んでしまう。
そこに限らず、ダレンの感情表現が乏しいのは本作品にとって大きなマイナスだ。
彼はバンパイアになることをクレスプりーから要求された時、即決を迫られたという事情があるにせよ、あっさりと決めている。半バンパイアになった後も、妹を襲いたい渇望に動揺したり寝室で泣いたりするシーンはあるが、それだけで終了する。家族との別れを求められると、あっさりと挨拶を済ませて簡単に薬を飲む。
様々な場面で彼の心情の動きは鈍く、苦悩や悲哀が全く見えないので、ちっとも感情移入できないのだ。タイニーは自分の目的を「戦争の愛好者で、素晴らしい戦いが見たいのだ」と説明するが、ラスボスのポジションを担うキャラとしては、何ともフワッとした企みだし、今一つピンと来ない。
ひょっとすると、その向こうには「大惨事を引き起こして世界を支配する」という狙いがあるのかもしれないが、この映画では分からないし。
それと、こいつが黒幕ってことをクレスプリーやガブナーは知っているのに、なぜ退治しようとしないのかサッパリ分からない。
バンパニーズと戦って全面戦争に突入するよりは、遥かに利口な考えでしょ。そもそもバンパニーズとの全面戦争ってのはタイニーの狙い通りだし。タイニーが圧倒的に強いのかもしれないが、それも本作品では分からないし。
っていうか、彼が圧倒的に強かったとしても、退治を目指さない理由にならないし。この映画で何より厳しいのは、「バンパイアとバンパニーズの戦いとか、どうでもいいわ」と感じてしまうことだ。シルク・ド・フリークの面々が見た目からして個性的なので、その面々を使ってストーリーを構築した方が面白くなるんじゃないかと思えるのだ。
「バンパイアとバンパニーズの戦いにダレンとスティーブが巻き込まれる」という話だと、どうしてもシルクの面々は脇へ追いやられ、その大半は背景に近い状態と化してしまう。
ひょっとすると話が進む中で戦いに参加して活躍することになるのかもしれないが、少なくとも本作品では、シルクの魅力が充分に発揮されているとは到底言えない。
あと、「シルクを使った方が面白くなりそう」と思わせてしまうってことは、それだけ本筋が面白くないってことだからね。ダレンは全く活躍しないし、何のカタルシスも無いし。原作小説は全12巻という大人気の作品であり、この映画もシリーズ化を想定して製作された。
製作したユニバーサル・ピクチャーズからすれば、同じく児童向けファンタジー小説の映画化である『ハリー・ポッター』シリーズのような大ヒットを狙っていたはずだ。
しかし残念ながら酷評を受けて興行的にも惨敗し、この1本だけで終了となった。
監督のポール・ワイツは製作総指揮を務めた『ライラの冒険 黄金の羅針盤』も続編の計画が中止になっており、そのリベンジに失敗する形となった。(観賞日:2016年9月4日)