『チャイルド44 森に消えた子供たち』:2015、アメリカ&イギリス&チェコ&ロシア

1933年、スターリン政権がウクライナに招いた飢饉によって、一日に2万5千人が餓死した。この飢えによる虐殺「ホロドモール」は、多くの孤児を生んだ。孤児院を脱走した1人の少年は、将校に拾われた。名前を問われた少年は、「名前は捨てた」と答えた。すると将校は、獅子を意味する「レオ」という名を彼に与えた。1945年、レオ・デミドフはソ連軍の兵士として、ベルリンで戦っていた。彼は仲間のアレクセイたちと勇敢に戦うが、ワシーリーは怯えて発砲できなかった。ベルリンが陥落すると、レオは旗を掲げる役目を任された。その写真が新聞に掲載され、レオは「ソ連の英雄」として紹介された。
1953年、モスクワ。レオはMGB(国家保安省)の捜査官として活動し、妻のライーサと暮らしている。ある時、彼は反逆者である獣医のブロツキーを捕まえるため、部下のアレクセイやワシーリーを従えて団地へ乗り込んだ。しかしブロツキーが逃亡していたため、レオは彼の友人であるジーナを脅して情報を吐かせた。レオは部下たちを伴い、田舎にあるセミヨン・オクンの一軒家へ赴いた。セミヨンは妻とエレーナ&タマーラという幼い娘の4人で暮らしていた。
レオは逃走を図るブロツキーを発見し、追い掛けて投降を呼び掛ける。するとブロツキーは「俺を殺せ」と要求し、彼に襲い掛かった。ブロツキーは揉み合いの中で自らの腹を突き刺すが、レオは何とか取り押さえた。ワシーリーがセミヨンと妻を銃殺したので、娘たちは泣き出した。レオが激しく詰め寄ると、ワシーリーは「裏切り者の末路を見せて学ばせようと」と説明した。レオは激怒して彼を殴り倒し、アレクセイに制止された。
レオは尋問で暴行を受けたブロツキーと会い、「スパイじゃない」と告げられる。レオが逃げた理由を訊くと、彼は「君らに捕まったら、有罪決定だからだ」と答えた。ブロツキーは自白剤を注射され、ワシーリーが英国大使館の情報を伝えた全員の名前を聞き出す役目を指示された。レオは上司のクズミン少佐に呼び出され、アレクセイの息子が列車事故で死んだことを知らされる。しかし遺体を見ると明らかに事故ではなく、アレクセイも「息子は殺された」と主張していた。
クズミンはレオに、「スターリン曰く、殺人は資本主義の病だ。アレクセイは反逆罪に問われかねん。何とかしろ」と告げる。アレクセイの家を訪れたレオは、彼と家族に事故の報告書を読んで聞かせる。しかしアレクセイの妻は報告書とは異なり息子が裸だったことを主張し、「殺されたんだわ」と訴えた。レオはアレクセイに、「家族を守るために説得しろ」と諭す。アレクセイは息子のユーラを連れた男を線路の近くで目撃した女性がいることを話し、「その男が犯人だ」と口にした。
レオはヨーラの事故が気になり、検視医のボリスに検視報告書の提供を要請した。クズミンに呼ばれた彼は、ブロツキーが7人の名前を出して処刑されたことを知らされる。クズミンが「最も厄介な1人を担当してくれ。詳しい情報を集めて、スパイなら連行しろ」と告げて渡した写真には、ライーサが写っていた。ライーサを張り込んだレオは、小学校教師である彼女が同僚のイワンと学校から出て来る様子を確認した。ライーサとイワンの目の前で、MGB捜査官が同僚の女性を連行した。
レオは養父母の元へ行き、ライーサにスパイ疑惑が掛けられていることを話す。ブロツキーの証言を取ったのはMGBの同僚であり、捏造の可能性も考えられた。養父はレオに、「単純に考えろ。家族4人の命か、1人の命か」と告げた。ライーサが来たので、4人で夕食を取ることになった。ライーサはレオたちに、妊娠したことを打ち明けた。翌日、ライーサが出勤している間に、レオは家宅捜索を行った。ワシーリーは同僚を引き連れて捜索に参加するが、スパイの証拠は見つからなかった。
ライーサは同僚のエヴァがMGBに連行されるのを目撃し、帰宅してレオに告げる。レオから「ブロツキーが君の名前を出した。スパイなのか」と問われた彼女は否定し、「私たちの番ね」と静かに告げた。レオはボリスから、ヨーラと同様の列車事故が起きたことを聞く。裸の少年が線路脇で遺体となって発見され、溺死として処理された。しかし近くに川や湖は無く、胃が綺麗に摘出されていた。絞殺した時のような内出血もあったことも、ボリスは説明した。
レオはクズミンに、ライーサは無実だと告げた。深夜、レオとライーサの家にMGBの連中が乗り込み、荒々しい態度で荷造りを命じた。ライーサのスパイ疑惑は、レオの絶対服従を試すテストだった。彼はヴォリスクという田舎町の民警に左遷され、ライーサと共に列車で移動した。ヴォリスクの民警を仕切るネステロフ将軍は、異例の人事だとレオに告げた。レオは安アパートを与えられ、ライーサは小学校の教師ではなく清掃員として働かされることになった。
ヴォリスクで少年の不審な遺体が発見され、レオは現場へ赴いた。ヨーラと類似した案件だったため、レオは強い関心を示した。するとネステロフはレオに詰め寄り、「なぜMGBが興味を持つ?私や部下を貶めたり、捜査が杜撰だと報告したりしたら、君を殺してやる」と凄んだ。少年の身許は、X州に住む小学生のイサーク・ルデンスキーと判明した。X州は7駅も先の地域である。遺体の第一発見者であるアレクサンドルは散歩中だったと証言していたが、ネステロフはゲイの相手と会っていたことを見抜いていた。
ワシーリーは部下2名にライーサを捕まえさせ、電話を掛けた。彼が「酷い扱いを受けてるんだろ。君はモスクワへ戻り、復職も出来る。レオと別れて、俺と一緒になれ。どうせレオを憎んでいたはずだ」と持ち掛けると、ライーサは断った。するとワシーリーは部下たちに命じ、彼女に恐怖を与えた。その夜、帰宅したレオは妻がいないため、捜索に出た。列車で遠くへ去ろうとするライーサを見つけた彼は、「今が苦しくても、ここしかないんだ」と説いた。
レオはライーサを家へ連れ帰り、「二度とするな」と厳しく注意した。するとライーサは、「私も貴方の囚人?」と怒りをぶつけた。彼女は「家族4人の命か、1人の命か」という言葉を聞いていたことを告白し、そのままでは不利になると考えて妊娠したという嘘をついたと話す。驚くレオに、ライーサは「妊娠していなくても、私を庇った?」と問い掛ける。「なぜだ?」とレオが言うと、彼女はMGBだから出会った時から怯えていたこと、断ったらどうなるか怖かったのでプロポーズを承諾したことを明かした。
ネステロフはアレクサンドルに、ゲイの事実を内緒にする代わりに少年を好む仲間数名の名前を挙げるよう要求した。数名の小児性愛者が連行された後、アレクサンドルは列車に飛び込んで自殺した。レオが深夜に線路沿いを調べていると、ライーサが現れた。何をしているか問われたレオは、「アレクサンドルには殺せない。不可能だ。アレクセイの子供も、同じ奴が殺した。証明しなければ」と告げる。「この国で真相を求めるのは危険よ。粛清される」とライーサが言うと、彼は「もう俺たちは死んでる」と述べた。
レオはライーサと共にネステロフの家へ行き、「これからも犯人は殺し続ける。捕まえたい」と話す。彼はモスクワへ行く考えを明かし、子供の死亡記録を集めてほしいと依頼する。ネステロフは難色を示したが、自分にも2人の子供がいるため、結局は承諾した。その頃、犯人のマレヴィッチはロストフで男児に声を掛け、新たな殺人を遂行していた。ネステロフは資料を調べ、犠牲者が43人で9歳から14歳、線路沿いで発見されていること、切開された痕跡があること、全ての事件で犯人が逮捕されて解決していることを知った。
ネステロフはレオに調べた情報を話し、ロストフへ行くことにした。レオはライーサと共に、監視の目をかいくぐってモスクワへ戻った。アレクセイに会ったレオは「間違っていた。連続殺人だ」と言い、協力を要請した。彼は憤るアレクセイを説得し、目撃者のガリーナに会わせてもらう。しかしガリーナの夫と仲間たちに追い払われ、何の情報も聞き出せなかった。一方、ロストフを訪れたネステロフは、その周辺だけで9人が犠牲になっていることを知った。
ライーサはレオを連れてイワンの元へ行き、協力を依頼する。レオの事情説明を受けたイワンは、「知り合いに頼めば町を出られる」と口にした。彼は隠し持っていた電話を使い、その知り合いに連絡する。その時、ライーサは同僚が逮捕されるきっかけとなった本を室内で発見した。そのことを知らされたレオは、イワンに襲い掛かった。イワンは「反逆者どもめ。殺しておけば良かった」と漏らし、レオたちを睨み付けた。レオは彼を始末し、ライーサと共に立ち去った。
レオとライーサは見つからないよう注意しながら列車に乗り込み、ヴォリスクへ戻った。ネステロフと合流したレオは、「ロストフが殺人ルートの中心点だ」と告げられる。ネステロフは犯人がヴォリスクへ来た目的について、自動車工場ではないかと推測していた。ロストフにはトラクター工場があり、彼は「そこで犯人が勤めていれば、見つかる」と口にした。レオが帰宅すると、ワシーリーが手下を率いて待ち受けていた。彼はレオを拘束して薬を注射し、ライーサを脅して言うことを聞かせようとする…。

監督はダニエル・エスピノーサ、原作はトム・ロブ・スミス、脚本はリチャード・プライス、製作はリドリー・スコット&グレッグ・シャピロ&マイケル・シェイファー、共同製作はマシュー・スティルマン&デヴィッド・ミンコウスキー、製作総指揮はアダム・メリムズ&エリーシャ・ホームズ&ダグラス・アーバンスキー&ケヴィン・プランク&モリー・コナーズ&マリア・セストーン&サラ・E・ジョンソン&ホイト・デヴィッド・モーガン、撮影はオリヴァー・ウッド、美術はヤン・ロールフス、編集はピエトロ・スカリア&ディラン・ティチェナー、衣装はジェニー・ビーヴァン、音楽はヨン・エクストランド。
出演はトム・ハーディー、ゲイリー・オールドマン、ノオミ・ラパス、ヴァンサン・カッセル、ジェイソン・クラーク、ジョエル・キナマン、パディー・コンシダイン、ファレス・ファレス、マーク・ルイス・ジョーンズ、ニコライ・リー・カース、チャールズ・ダンス、タラ・フィッツジェラルド、ジョセフ・アルティン、サム・スプルエル、フィンバー・リンチ、ネッド・デネヒー、アグニェシュカ・グロホフスカ、ヘザー・クラニー、ウルシーナ・ラルディー、マイケル・ナードン、バルボラ・ルケショヴァー、ロレイン・アッシュボーン、グザヴィエ・アトキンズ、ジェマ・オブライエン、ロッティー・ステア、クリスティナ・レイチトヴァ、イゴール・ファルバク、ペトゥル・ヴァネク、ヤナ・ストリコヴァ、マリー・ヤンソヴァ、フリン・マシューズ他。


トム・ロブ・スミスのミステリー小説『チャイルド44』を基にした作品。
監督は『デンジャラス・ラン』のダニエル・エスピノーサ。
脚本は『シャフト』『フリーダムランド』のリチャード・プライス。
レオをトム・ハーディー、ネステロフをゲイリー・オールドマン、ライーサをノオミ・ラパス、クズミンをヴァンサン・カッセル、ブロツキーをジェイソン・クラーク、ワシーリーをジョエル・キナマン、マレヴィッチをパディー・コンシダイン、アレクセイをファレス・ファレスが演じている。

冒頭、「1933年、スターリン政権がウクライナに招いた飢饉によって、一日に2万5千人が餓死した」といったテロップが入り、孤児院を抜け出したレオが将校に拾われる様子が描かれる。続いて、1945年にレオがベルリン陥落の戦闘に参加し、旗を掲げる役目を任される様子が描かれる。そういう前フリがあってから、1953年の物語に入って行く。
だから、1933年と1945年の内容は1953年の物語と密接に関わってくるんだろうと思うのは当然だろう。
しかし実際のところは、ほぼ意味が無いのである。
もちろん、何の関係も無いってわけではない。1933年のエピソードに関しては、「レオが孤児なので、オクン夫妻の娘たちが孤児になったことに同情心を抱く」というトコへ繋げている。1945年のエピソードに関しては、「その戦闘で屈辱を感じたワシーリーが、レオに身勝手な恨みを抱く」というトコへ繋げている。
しかし、その繋がりは、ものすごく薄弱で説得力に乏しい。序盤の描写があっても、「なぜレオは」とか「なぜワシーリーは」という疑問は残るので、結局は「ほぼ意味が無い」ってことになるのだ。

時代が1953年に入ると、まずレオたちがブロツキーを反逆者として連行するシーンがある。
彼がスパイじゃないことは明らかだが、そこを使って物語を進めて行くんだろうと感じる。
ところが、すぐにブロツキーのスパイ疑惑とは何の関係も無いヨーラの「列車事故」が発生する。
そうなると、今度は「レオがヨーラの事件を調べる」という筋書きが始まるのかと思いきや、ライーサにスパイ疑惑が掛けられるという展開が訪れる。
これもヨーラの事件とは、何の関係も無い。

ライーサがスパイじゃないことはバレバレなので、そこを使ってミステリーの面白味や緊迫感を出そうとしても破綻している。
ただし、ライーサの同僚は次々に連行されているので、ブロツキーの案件も含めて「スパイじゃないのに疑惑を掛けられ、処刑される恐怖政治」ってのを描くつもりなのかとも思った。
ところが、ライーサのスパイ疑惑は忠誠心を確かめるテストだったことが明らかとなり、レオが左遷されて、あっさりと片付けられてしまう。
ライーサにスパイ疑惑が掛けられる中で、新たな「列車事故」も起きている。だが、ヨーラの案件も含めて、レオが捜査を進める様子は無いまま舞台がヴォリスクへ移動する。

ワシーリーがヴォリスクで酷い扱いを受けているライーサに電話を掛けるシーンで、彼が横恋慕していたことが明確になる(実は1953年の冒頭でも、彼のライーサに対する恋心が示されていた)。
でも、それを「レオを憎んで反発する動機」として設定されているのは、かなり陳腐だと感じる。
当時の政治状況も絡んだ重厚な話のはずなのに、「動機は嫉妬心」って、なんじゃそりゃと。
それに、そういう動機を用意してしまうと、ますます「1945年のシーンは要らないでしょ」ってことになるし。

「連続殺人事件」「レオとライーサの夫婦関係」「ワシーリーの妬み」「捏造によってスパイが生み出される恐怖」といった複数の要素が盛り込まれているのだが、ちっとも上手く絡み合っていない。
それらが相乗効果を発揮していれば何の問題も無いが、全てがバラバラのままで進行するのである。どれも薄味でボンヤリしてしまい、互いを打ち消し合っている。ただ単に、焦点が絞り切れていないだけにしか感じない。
こっちとしては、基本的に「連続殺人事件の捜査」というミステリーへと意識が向いている(これは勝手な思い込みではなく、映画を見ていれば、おのずとそういう意識になるように出来ている)。
なので、それとは全く関係の無い他の要素は、ただの余計な物でしかないという印象になってしまう。

レオはアレクサンドルが自殺した後、ライーサに「アレクサンドルは殺せない。不可能だ」と言う。
だけど、そもそもアレクサンドルが犯人だと決め付けられ、追い込まれて自殺したってわけではないでしょ。ネステロフにしても、彼が犯人とは思っていないからこそ、仲間の名前を吐くよう要求し、そいつらを次々に連行したわけで。
だからレオの発言は、ピントがズレているとしか思えない。
ただ、その後でネステロフがレオと会話を交わすシーンを見ると、どうやら彼は「アレクサンドルが犯人」ってことで捜査を終わらせてるみたいなのよね。
だけど、それは分かりにくいぞ。そういうことなら、前述したレオの台詞が出る前に、もっと明確に示すべきだわ。

レオは連続殺人事件を捜査しようと決意し、ライーサに「この国で真相を求めるのは危険よ。粛清される」と言われると、「もう俺たちは死んでる」と口にする。
だけど、実際には死んでいないわけで。でも粛清されると、ホントに殺されちゃうわけでね。
そりゃあ、「実質的に死んでいる」という表現をするのは分かるけど、実際に殺されるのとは全く別物であって。
なぜ今になって積極的に捜査を進めるのか、なぜモスクワ時代とは違うのかってのが引っ掛かる。「政府やMGBに逆らい、命懸けで事件を調べる」というモチベーションは、まるで分からない。
ライーサの方は、そこに輪を掛けて分からない。

レオやネステロフが突き止めるより随分と前から、マレヴィッチは「私が犯人ですよ」ってことを明確にアピールした状態で登場している。
その一方で、名前や職業などの個人情報は全く明かされないので、そいつが何者なのかはサッパリ分からない。レオの周辺にいる人物でもない。だから、ミステリーとしての面白さは全く感じられない。
それはフーダニットだけじゃなくて、ホワイダニットやハウダニットとしても同様だ。犯行方法や動機が分かったところで、「だから何なのか」という感想しか沸かない。
っていうか、そもそも犯行方法や動機への関心が全く湧かないからね。

おまけに、「犯人を見つけたい」という強い思いで行動を開始したレオは、モスクワで何の情報も入手できないままヴォリスクへ戻っている。
子供たちが殺された事件の情報を集めるのはネステロフで、ロストフに犯人がいる可能性が高いことを突き止めるのもネステロフ。途中から参加したネステロフが、事件を解決に導くための貢献度でレオを圧倒しているのである。
レオの方は、「何の手掛かりも得られずモスクワを去りました」ってだけではマズいと思ったのか、「見つからないよう警戒する」とか「イワンがMGBのスパイだと知って殺害する」といった手順は盛り込まれているが、そんなのは事件の捜査に何の関係も無いわけでね。「事件の背後に政府やMGBが絡んでおり、それを知られると困るからイワンやMGBがレオを粛清しようとする」ってことならともかく、そうじゃないわけで。
ライーサに横恋慕したワシーリーの策謀も含めて、そんなトコでスリルを煽られても「そこじゃないでしょ」と言いたくなるのよ。

(観賞日:2017年2月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会