『チキン・リトル』:2005、アメリカ

オーキー・オークに住むチキン・リトルは、1年前に大きな騒動を起こした。学校にある半鐘を鳴らし、集まった住民やマスコミの前で 「空が落ちて来る。ストップ・サインみたいな空のカケラが落ちて来た」と騒ぎ立てたのだ。しかし周囲に空のカケラなど見当たらず、 あったのはドングリだけだった。父親のバック・クラックは、息子がドングリを空のカケラと間違えたのだと確信し、マスコミや住民たち に謝った。それ以来、リトルは町中の笑い者となっている。彼を題材にした映画も作られた。
その日、学校ではウーレンズワース先生の授業が行われていた。生徒のアビーやラント、フィッシュやフォクシーたちが授業を受ける中、 リトルは遅刻して教室に来ていない。体育館でドッジボールが始まった頃、ようやくリトルが現れた。休憩に入り、彼は友人のアビーに 「計画がある。チャンスさえあれば、1年前の事件をみんなが忘れてくれる。父さんも僕を誇りに思ってくれる。空が落ちて来たのを 父さんは信じてくれなかった。それで僕は傷付いている」と話した。
リトルはアビーから「現実から目を背けないで。お父さんと話をすれば問題は解決するわ」と諭されるが、その意見を受け入れようと しない。フォクシーがアビーにボールをぶつけたので、リトルは激しく抗議した。するとフォクシーはリトルを捕まえ、窓に投げ付けた。 リトルは落下する時に火災報知機を鳴らし、スプリンクラーを作動させてしまった。クラックは校長に呼び出され、「野球チームでエース だった君のことは尊敬しているけど、息子は全く違う」と注意された。
校長室から出て来たクラックに、リトルは「僕のせいじゃなくてフォキシーが」と説明しようとする。しかしクラックは「もういいんだ、 何も話さなくていい」と言葉を遮った。リトルは帰りの車で、「僕が野球チームに入ったら、どう思う?」と持ち掛ける。クラックは困惑 し、「お前に野球は合わないんじゃないか。チェスクラブやグリークラブはどうだ。希望を高く持ちすぎない方がいい」と告げた。妻の クロイが死んだ後、クラックは息子への接し方に悩んでいた。
リトルは野球チームに入るが、シーズンが開幕しても出場することさえ出来なかった。しかしチームはフォクシーの活躍で勝ち進み、決勝 まで辿り着いた。ライバルであるオークレイとの決勝戦は、1点をリードされたまま9回裏になった。チームは複数の選手が怪我を負って おり、ベンチに残っていたリトルが代打で出場することになった。コーチは彼に、「お前はストライクゾーンが狭いんだから、バットを 振らずに四球を狙え」と指示した。
リトルはコーチの指示に従わず、初球から思い切りバットを振るが、まるで当たらない。しかし追い込まれた3球目、ボールはバットに 当たって外野へ飛んだ。ランナーが生還して同点となり、敵チームがミスをしている間にリトルもホームに戻って来た。リトルは逆転優勝 の立役者となり、チームメイトから胴上げされた。バック・クラックは「あれがウチの息子だ」と観客に言って大喜びした。
その夜、リトルはクラックから、「これで町の人々も事件を忘れてくれる」と言われる。クラックが部屋を出て行った後、リトルは星を 見上げて「チャンスをくれてありがとう」と感謝した。直後、1年前と同じ空のカケラが、リトルの部屋に降って来た。悲鳴を耳にして クラックが駆け付けると、リトルは慌てて空のカケラを隠し、「何でもない」と誤魔化した。リトルはアビー、ラント、フィッシュを呼び 、空のカケラを見せて相談した。
フィッシュがカケラに付いているボタンを押すと、それは震えて動き出した。カケラがフィッシュを乗せて飛び去ったので、リトルたちは 慌てて後を追い掛けた。リトルたちが野球場に辿り着くと、そこに巨大な宇宙船が飛来した。リトルたちが物陰に隠れて様子を見ていると 、宇宙船から2体のロボットが出現し、どこかへ走り去った。リトルたちが宇宙船に目をやると、フィッシュの姿があった。
リトルたちは宇宙船に侵入し、フィッシュを発見した。外に出ようとした彼らは、銀河系図を発見した。すると、複数の惑星にバツ印が 付けられており、地球には丸と矢印が書き込まれていた。「次は地球が襲われる」と怖くなったリトルたちは、慌てて脱出しようとする。 そこへロボットたちが戻って来るが、リトルたちは何とか宇宙船から逃亡した。リトルたちは畑に身を隠すが、すぐに見つかってしまう。 彼らは鐘を鳴らして住民に知らせるため、学校へ向かった。
リトルは鐘を鳴らし、集まって来た人々に「付いて来て、エイリアンが」と告げて野球場へ案内する。しかし彼らが到着した時には、もう 宇宙船が飛び去った後だった。またもリトルは嘘つき扱いされてしまい、クラックも息子のことを信じなかった。落ち込んでいるリトルの 前に、カービーという名の小さなエイリアンが現れた。彼は宇宙船から外に出ていたため、置き去りにされてしまったのだ。直後、空が 割れて無数の宇宙船が出現する。カービーの両親が息子を連れ戻しに来ただけだったが、住民たちは侵略だと思い込んで逃げ惑う。中には 攻撃を仕掛ける者もいたが、ロボットによって消滅させられる。リトルはカービーを両親の元へ戻そうとするのだが…。

監督はマーク・ディンダル、原案はマーク・ディンダル&マーク・ケネディー、脚本はスティーヴ・ベンチック&ロン・J・フリードマン &ロン・アンダーソン、製作はランディー・フルマー、製作協力はピーター・デル・ベッチョ、編集はダン・モリーナ、プロダクション・ デザイナーはデヴィッド・ウオマスリー、デザインはマック・ジョージ、アート・ディレクターはイアン・グッディング、視覚効果監修は スティーヴ・ゴールドバーグ、CGスーパーバイザーはケヴィン・ガイガー&カイル・オダーメント、音楽はジョン・デブニー。
声の出演はザック・ブラフ、ゲイリー・マーシャル、ジョーン・キューザック、スティーヴ・ザーン、エイミー・セダリス、パトリック・ スチュワート、フレッド・ウィラード、キャサリン・オハラ、アダム・ウェスト、ウォーレス・ショーン、ドン・ノッツ、ハリー・ シェアラー、パトリック・ウォーバートン、マーク・ウォルトン、マーク・ディンダル、ダン・モリーナ、ジョー・ワイト、ショーン・ エルモア、エヴァン・ダン、マシュー・ジョステン、ケリー・フーヴァー、ウィル・フィン、ダラ・マクギャリー、マーク・ケネディー他。


それまでピクサーのフルCGアニメ映画を配給してきたディズニーが、初めて自前で制作したフルCGアニメ映画。
リトルの声をザック・ ブラフ、クラックをゲイリー・マーシャル、アビーをジョーン・キューザック、ラントをスティーヴ・ザーン、フォクシーをエイミー・ セダリス、ウーレンズワースをパトリック・スチュワート、カービーの父をフレッド・ウィラード、カービーの母をキャサリン・オハラが 担当している。
監督は『キャッツ・ドント・ダンス』『ラマになった王様』のマーク・ディンダル。

序盤、授業が始まっているのに、まだリトルは来ていない。
だったら、そこにリトルが遅刻して現れ、先生に注意されたりクラスメイトからバカにされたりするのがセオリーでしょ。
なんでリトルが来ないまま、体育の授業に移っているのかと。
教室に来ないなら来ないで、その時にリトルがどこで何をしているのかを描くべきでしょ。
リトルが出て来ないまま次の授業に移るって、どんな構成だよ。

しかも体育館にリトルが来る時は、ドッジボールに何気無くスーッと参加している。
リトルが1年前の事件から笑い者にされているという設定なんだから、そこは遅刻して体育館に来る時も何かヘマをすべきだし、クラス メイトに笑われるべきじゃないのか。
なぜ他の生徒たちも、普通にドッジボールを続けているのよ。
そこは「他のみんなはリトルを笑うけど、アビーとラントとフィッシュだけは普通に仲良くしてくれる」というのを示すべきシーンじゃ ないのか。

体育館に現れたリトルはアビーと話しているけど、いつの間にかラントやフィッシュが近くにいるという描写では全くダメでしょ。
他のクラスメイトたちも、ちっともリトルをバカにした態度を取らないし。
会話が終わった後、フォクシーがボールをアビーにぶつけてきて、怒ったリトルが抗議したら窓に投げ付けられて笑われるという展開が あるが、それだと手順が逆でしょ。
先にリトルがバカにされて、その後でアビーたちと話す手順へ行くべき。

あと、アビーがクラスメイトにイジメられ、それをリトルが助けに入るという展開も、欲張り過ぎだと感じる。
何が欲張り過ぎかと言うと、アビーがイジメられているという部分。
クラスメイトからバカにされるのは、リトルだけに限定しておいた方がいい。
どうせ、その後に「バカにされていたアビーがやり返す」とか、「フォクシーと立場が逆転する」とか、そんな展開は用意されていないん だし。

リトルは「チャンスさえあれば全ては変わるんだ」と自信を持っており、いきなり野球チームに入って活躍しようとする。
活躍するために誰よりも努力しよう、血のにじむような特訓を積もうとか、そういうことは無い。
アビーたちに手伝ってもらい、トレーニングをする様子がチラッと写るだけ。
まあ尺の問題はあるが、リトルがダメなりに少しずつ成長していくとか、そういうことも描かれない。

そもそも、父親がエースだったからって、リトルが野球に固執する必要は無いのだ。
クラックの言うように、チェスだって合唱だって、何だって構わない。本人の好きなことや得意なことが何かあるはずで、そこで頑張れば いいだけだ。
そりゃあ物語によっては、「その競技、そのジャンルでなくてはいけない」という主人公の気持ちに共感できるモノもあるだろう。
しかし本作品の場合、リトルには全く共感できないのよ。

大体さ、クラックは野球で活躍しなくても、どんなことで活躍したとしても、きっとリトルを誉めてくれるよ。 誇りに思ってくれるよ。
リトルが野球にこだわるのは、アビーが言うように、父親とのコミュニケーション不足が原因だ。
ちゃんと会話が出来ていれば、野球じゃなくても構わないことは分かったはず。
「別に野球じゃなくても良かったんだよ」とリトルが気付くという展開になるなら、それはそれでいいんだけど、そうじゃないんだよね。
クラックも能天気に喜ぶだけ。
まあ、息子のヒットで優勝できたわけだから、そこで喜ぶのは父親として当たり前のことで、そこで喜ばせるのが間違っているわけじゃ なくて、その前の段階で間違っているのだ。

その決勝戦での「活躍」だが、リトルはコーチの指示に全く従わず、クソボールを思い切り振っている。
その時点でダメでしょ。
チームの勝利を考えれば、彼は四球で出塁し、次の打順であるフォクシーに回すべきなのだ。
しかし彼は、自分のことしか考えていない。
ただのエゴイスティックな奴になっているのだ。
それで結果的にヒットを打ったとしても、そんなのを称賛したいとは思えないよ。

そんでリトルは2ストライクと思い込まれてからヒットを打つけど、それも「今まで必死に特訓してきた成果が出た」ということではなく 、たまたまバットに当たっただけだ。ラッキーなだけだ。
しかも、敵チームが幾つもミスをやらかしたおかげでランニングホームランになっているけど、それもリトルの実力ではない。
彼は何も考えずに暴走したのに、向こうのミスでセーフになっただけだ。
そこで観客のテンションを上げようとしても、そりゃ難しいわ。

空のカケラが部屋に降って来た時、リトルがクラックには内緒にしようとしているが、それは不可解。
1年前、空のカケラが落ちて来たことを父親に信じてもらえなくて、それで悲しい思いをしたんでしょ。
今そこに、1年前の出来事を証明できるモノがあるんでしょうに。
それこそ「チャンス」が訪れたわけで、そのチャンスを無駄にしてどうすんのよ。隠す理由がサッパリ分からない。
「あの時に言っていた空のカケラは、これだよ」と父親に言えばいいでしょ。

アビーはリトルから「空のカケラのことを父さんには言わなかった」と聞き、「ちゃんとお父さんと話しなさい」と諭す。 ようするに、そういうことなのよ。
「ちゃんと父親と会話しなさい」ってのが何よりの解決方法であって、そこからリトルが逃げたままなのに、「野球で活躍して、父に 褒められて満足」という展開を作っているのも、いかがなものかと。
本当の解決に達していない内は、リトルが「これで父親に認めてもらった」と心底から喜ぶシーンはダメでしょ。

っていうか、空のカケラは実際にあったわけだから、それを父親も含めた町の人々に分かってもらうまでは、本当の意味での問題解決とは 言えないわけで。
だったら、そういう展開に早く移るべきじゃないの。
リトルが野球で活躍するとか、そういうのって余計な寄り道にしか思えないんだが。
っていうか、この映画が描きたいのって、父子が分かり合うドラマなんだよな。
それを描くのに、エイリアンが宇宙船でやって来て激しく暴れ回るという終盤の展開が、ちょっと邪魔になっているようにも思えるんだが。

(観賞日:2012年5月21日)


第28回スティンカーズ最悪映画賞(2005年)

受賞:【最悪のアニメーション映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会