『チーチ&チョンのコルシカン・ブラザース』:1984、アメリカ

フランスのパリ。パントマイマーが路上パフォーマンスをしている広場にトレーラーが現れ、マルクス兄弟が率いるロックバンドが大音量で演奏を始めた。周囲の面々が抗議すると、マネージャーは金を徴収して演奏を中止した。マルクス兄弟がカフェに入ると、ジプシーの女が「2人ともマークがある」と興奮した様子で話し掛けた。女は「重要な話がある」と告げ、金を要求した。兄弟が金を渡すと、その女は「昔々、遠い島で」と語り始めた。
裕福な父と奔放な母の間に、双子のルイとルシアンは誕生した。母は実の父が別人だと夫に知られ、慌てて逃走した。父は双子の実父と決闘し、2人とも命を落とした。双子は貧しい農家で育てられ、9年が経過した。養母が市場へ出掛けた後、双子は誤って家に火を付けてしまった。慌てて逃げ出した双子は「竜が来て火を放った」などという作り話を思い付き、養母に説明するため家に戻ろうとする。しかし双子は全く別の道を「こっちだ」と指差し、そのまま別れて立ち去った。
21年後、ルイは森へ戻り、久々にルシアンと再会した。ルイはルシアンに、「ずっとメキシコにいた。あっちじゃ大地主だ」と告げる。一方、ルシアンはルイに、「ここでは悪人が国を支配し、人々を投獄して殺している」と話す。彼はイモ爆弾を作り、剣術の稽古を重ねて革命に備えていた。悪徳貴族のフケアーは森の近くで庶民を痛め付けていたが、飼っているプードルがいなくなったので家来に捜索を指示した。ルイとルシアンがプードルを可愛がっていると、フケアーの家来たちに包囲された。
双子は城に連行され、処刑されそうになる。2人は抵抗して戦うが、すぐに捕まった。しかしフケアーは集まった民衆に対し、双子の命を救うと約束した。バルコニーから双子見ていた女王の娘たちは、恋心を抱いた。フケアーは女王の毒殺を企てるが、失敗に終わった。双子は地下牢に監禁されるが、隙を見て脱出する。ルシアンは「厩舎に馬がいる。村の酒場で会おう」とルイに告げ、彼を逃がして囮になった。ルシアンが女王の長女の部屋に侵入すると、「待ってたのよ」と熱烈なキスをされた。
厩舎に忍び込んだルイは、女王の次女が来たので息を潜めるが馬の背中に落ちる。馬は勢い良く走り出し、ルイを乗せたまま城の外へ出た。ルシアンが酒場へ行くと、先に来たルイが飲み比べで金を稼いでいた。ルイは次女のハンカチを持っており、「俺に惚れた女がくれた」と言う。ルシアンは相手が長女だと勘違いし、「俺の女だ」と告げた。しかし翌日、長女と次女が同時に双子の元に現れ、互いに惚れた相手が違うと判明した。ルイと次女、ルシアンと長女は、それぞれ2人きりで楽しい時間を過ごした。
その夜、ルイはルシアンに、「城へ侵入する方法を思い付いた」と告げる。翌日に女王の誕生パーティーがあり、ヒッキー侯爵の同伴者として侵入するというのが彼の作戦だ。ルイは女王のお抱え美容師とノストラダムスを誘い出し、ルシアンが一撃を食らわせて失神させた。次の日、ルイは美容師、ルシアンはノストラダムスに成り済まし、城への潜入に成功した。ルイは女王に国王のことを尋ね、「フケアーと狩りに出たまま戻らない」と聞く。手鏡を見たルシアンは、化粧のせいでフケアーそっくりになっていると気付いた。
ルシアンは化粧を落とし、ルイと武器を取りに行く。2人は壁に飾ってある剣を外そうとするが、部屋にいた女性たちに誘惑される。そこへ女王の娘たちが現れ、驚いて走り去る。双子は釈明するため、慌てて後を追った。ルシアンはルイがフケアーに捕まったと悟り、助けに向かう。2人は正体に気付いていないフケアーを拘束し、部屋を抜け出した。ルイは逃げようとするが、ルシアンは「ここで戦う」と宣言して大声で衛兵を呼ぶ。しかし女王の長女が人質になったため、すぐに降伏した。双子が正体を明かすと、フケアーは地下牢へ連行した。ルシアンは鉄格子を曲げて地下牢から脱出するが、食欲に負けたルイは意識を失って倒れた。ルシアンはルイを救うって圧政を打倒するため、同志を集めて城へ向かう…。

監督はトミー・チョン、脚本はチーチ・マリン&トミー・チョン、製作はピーター・マグレガー=スコット、製作総指揮はジョセフ・マニス&スタン・コールマン、撮影はハーヴェイ・ハリソン、美術はダニエル・バディン、編集はトム・アヴィルドセン、衣装はキャサリン・ゴーン、音楽はGEO。
出演はチーチ・マリン、トミー・チョン、エディー・マックラーグ、ロイ・ドートリス、シェルビー・フィデス、リッキー・マリン、ロビー・チョン、レイ・ドーン・チョン、ケイ・ドートリス、ジェニー・C・コス、マーティン・ペッパー、イヴァン・チフレ、ダン・シュウォーツ、ジャン=クロード・ドレイファス、セルジュ・フェドロフ、ベルナール・ザボ、デヴィッド・ギャビソン、レスリー・レイン、クロード・オーファウレ、ドミニク・デジョルジュ、ジョンズ・ラジョンソン、マイケル・デハーン、ジョエル・ドバート、アンナ・ゲイラー、ジャック・キャンセリエ、ジル・タミズ他。


アレクサンドル・デュマの小説『コルシカの兄弟』を基にしたパロディー映画。
ミュージシャン&コメディアンとして1980年代に活躍した人気コンビ、チーチ・マリンとトミー・チョンがダブル主演を務めた6本目の作品。トミー・チョンが監督と脚本、チーチ・マリンが脚本も兼ねている。ルイ役がチーチ・マリンで、ルシアン役がトミー・チョン。
王女(長女)をトミー・チョン夫人のシェルビー・フィデス、王女(次女)を当時のチーチ・マリン夫人のリッキー・マリン、3人目の王女をトミー・チョンと最初の妻の長女のロビー・チョン、ジプシー女をトミー・チョンと最初の妻の次女のレイ・ドーン・チョンが演じている。
他に、女王をエディー・マックラーグ、フケアーをロイ・ドートリス、産婆をケイ・ドートリスが演じている。

チーチ&チョンはドラッグやヒッピー文化を扱うことで人気を集めたコンビで、今までの主演作は全てアメリカ映画協会(MPAA)によるレーティングでR指定(17歳未満の観賞は保護者の同伴が必要)になっていた。
しかし本作品はチーチ&チョンの主演作で唯一、PG指定(年齢制限無し)になっている。
でも内容を見ると、アヘンを吸っているシーンはあるし、思いっきり下ネタも言ってるんだけどね。
どこでPG指定で線引きがあるのか、ちょっと良く分からんな。

アレクサンドル・デュマの小説だと、日本では『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』が有名だろう。
一方で『コルシカの兄弟』に関しては、ほとんど知られていないのではないか。
しかし海外に目を向けると、実はサイレント時代から何度も映画化されている。
特に有名なのは、ダグラス・フェアバンクスJr.が主演した1941年のハリウッド版だろう。っていうか日本で公開されたのは、この1本だけだ(ちなみにパロディー映画だと1970年の『004/アタック作戦』がある)。
なので、決して無名な原作をネタにしているわけではないが、日本人にはパロディーとしての面白味を感じるのが難しい作品になっている。

最初から最後まで、幾つものネタが仕込まれていることは良く分かる。
「ここで笑いを取ろうとしているんだな」ってことは、かなり明確に分かるような作品だ。
しかし、そこで笑えるかどうかは別問題であり、ハッキリ言っちゃうと全く笑えない。
これは「時代の変化で笑いが古くなった」とか、「日本とアメリカの笑いの感覚が違う」とか、「前述したように『コルシカの兄弟』を知らないと笑えない」とか、そういう問題ではないだろうと思われる。
単純に、喜劇としての質が低いのではないかと思われる。

さて、それで笑えるかどうかはひとまず置いておき、笑わせようとしている箇所をザッと並べていくことにしよう。
マルクス兄弟はカフェで注文するが、フランス語が下手なので別の料理が運ばれてくる。
ジプシー女は「重要な話があるけど、その前に金を」と兄弟に言い、「もっと」と大金をせしめる。
双子の父は、妻の寝室にロープやヤットコを持った男たちが入って行くので困惑する。彼らは出産の手伝いをしているわけではなく、用意した道具で寝室の窓を開けている。

ルイとルシアンは生まれた時からヒゲが生えており、完全にオッサンだけど赤ん坊として泣いている。
父親同士の決闘では、双方とも近い距離なのに狙いを外し、別の銃を使うと弾が出ない。諦めて和解しようとすると、立会人の持っていた銃か暴発して2人とも死亡する。
貧しい農家で育てられた双子は、食事を投げ合ったりして喧嘩する。その不作法極まりないシーンに、「貧しい家庭に育ったものの、高貴な生まれは隠せなかった」という語りを入れる。
2人が部屋を出る時、服の背中の部分がザックリと開いている。

養母が市場へ出掛けた後、双子は女性の裸の絵(かなり下手な絵)を眺めたり、アヘンを吸ったりする。
火を付けてしまった双子は別の道を行き、そのまま21年後まで再会しない。
空腹を吐露したルイの前をプードルが走り抜け、フケアーが家来に捜索を命じた後、双子が肉を焼いている様子が写し出される。プードルを捕まえて食べたのかと思いきや、双子の近くにいる。
宮殿へ連行されたルイが「そんなに酷いことにはならないよ」と言うと、目の前で男が処刑される。
ルシアンが「俺はコルシカ人だ。死は怖くない」と堂々たる態度で言うと、ルイは「俺はメキシコ人だ。死ぬのは怖い」と吐露する。

女王は美味しそうなイチゴを食べようとするが、娘に「毒見させないと」と言われて仕方なく毒見役にイチゴを食べさせると即死する。
フケアーはルイを騙して熱した鉄を頭から浴びせようとするが、すぐに指定した場所から離れるので実行できない。
苛立ったフケアーが自分で立って「ここにいればいいんだ」と言うと、ルシアンが熱した鉄を浴びせる。
ルイは誤って尻に火が付き、落ち着かせようとするルシアンの尻にも火が付いている。
老人が汚れた水を捨てると、入って来た衛兵たちの顔に命中する。

些細な誤解から双子が決闘になり、自分の肉体を攻撃すると相手が痛がる。
ルイが女王の次女と話しながら馬の世話をしていると、右腕が肛門にズッポリと入ってしまう。
ルシアンが剣について「荒っぽく使いすぎて壊れた。何にでも突き刺した。土に刺したら折れた」などと語ると、女王の長女はチンコのことだと誤解する。
ルイは酒場で「あの男を見ろ」とヒッキーを見るよう促すが、ルシアンが「あの男か」と言った相手は別人で、彼は何度も間違える。
ルイが美容師やノストラダムスを誘い出す作戦を提案すると、ルシアンは相手とセックスするのだと思い込んで「俺には無理だ」と断る。

ルイは女王の髪を洗うがゴッソリと抜けてしまい、彼女が寝ている間にカツラを被せて逃げる。ルイは次女に釈明するため後を追い、彼女だと思って体に触れると相手はフケアー。
ルシアンは長女に「あの部屋に腰の物があったが、きくつて外せない」と言うが、チンコのことだと誤解される。フケアーがSMプレーでルイを鞭打つと、彼ではなくルシアンが悲鳴を上げる。
地下牢に監禁されたルシアンは、誰かが投げ入れたフランスパンで鉄格子を殴り付けて曲げる。最後の戦いでは、他の面々が戦っている最中にルイが食事を始める。
そんな感じで、「まあ下ネタのトコはちょっと面白いかな」という程度だね。

なお、最初に現代のパリから始めたんだから、最後はそこに戻ってジプシー女が「なので実はこういうことが」とマルクス兄弟に教える手順が無きゃ映画としては着地しない。
ところが双子の物語が終わると、「The End」と出てしまう。
その後にはマルクス兄弟がチャック・ベリーの『NADINE』を演奏するシーンがあるけど、ジプシー女の「重大な話が」というネタ振りとは全く繋がっていない。
せめて、そこはキッチリと構成すべきでしょうに。無雑作に投げ出して終わらせちゃダメでしょ。

(観賞日:2020年12月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会