『チャーリーズ・エンジェル』:2019、アメリカ
リオデジャネイロ。チャーリーズ・エンジェルのサビーナ・ウィルソンは横領犯のジョニー・スミスとホテルの一室で会い、誘惑して囮になった。彼女がジョニーを殺そうとしていると、チャーリーズ・エンジェルのジェーン・カノたちが現れた。ジェーンはジョニーの手下たちを次々に倒し、会計士を脅して金庫を開けさせた。一味が退治されると、ジョン・ボスレーがやって来た。彼が任務の終了を告げると、サビーナはバカンスに出掛けることを告げる。彼女はジェーンにバルコニーから落とされるが、ヘリコプターで飛び去った。
1年後、ハンブルグ。IT企業で新型エネルギー装置「カリスト」の主任プログラマーを務めているエレーナ・ハフリンは、危険性の高い欠陥があることを上司のピーター・フレミングに報告した。彼女はプログラムの修正を訴えるが、フレミングは「開発には5年も掛けた。カリストは販売する」と却下した。廊下を歩いていたエレーナは、イングリッドという社員からタウンゼント・エージェンシーの名刺を「落としたわよ」と渡される。それはエレーナが落とした物ではなかったが、イングリッドは「必要になるかも」と告げた。
ジョンがロサンゼルスにあるタウンゼント・エージェンシーの本部に戻ると、レベッカやエドガーなど世界中のボスレーたちが退職を祝福した。レベッカは「貴方が欧州支局を開設して組織を国際化したおかげで、私たちはここにいる」と感謝し、チャーリーは腕時計を贈った。エレーナは同僚のラングストンと共に、会社の創設者で現在は後援者になっているアレクサンダー・ブロックにカリストをプレゼンする場に同席した。フレミングは永久磁石でクリーンエネルギーを作り出すカリストの機能を披露し、その安全性を保証した。
パリ。エドガーは元MI6のジェーンに「今度のクライアントは企業内部告発者だ。チームを組んだ」と説明し、サビーナを呼んだ。カフェへ赴いたエドガーは、エレーナと会って話を聞く。ウェイトレスとして潜入していたジェーンは、殺し屋のホダックがいることに気付いてエドガーに知らせた。エドガーはエレーナを連れて逃げ出し、ジェーンは時間稼ぎのためにホダックと戦う。彼女は店外へ飛び出すと、エドガーが運転する車に乗り込んだ。
ジェーンは追って来るホダックと撃ち合うが、エドガーが命を落とす。駆け付けたサビーナはホダックを制圧しようとするが、逃げられてしまった。レベッカが3人の元へ来て、ボスレーは組織の階級名で警部補のような意味だとエレーナに説明した。ホダックが重装備だったことから、ジェーンは自分たちも監視されていたのではないかと推理した。ホダックは世界中で姿を目撃されていたが、データベースには何の情報も無かった。
エレーナはサビーナたちに、カリストにはハッカーが電磁パルス兵器に変えられる欠陥があることを話す。カリストを使えば殺人の記録が残らないため、多くの人間が欲しがることは確実だった。カリストは会社の保管室に試作品が6個、研究室に修復用が1個あるとエレーナは告げる。サビーナとジェーンは会社に潜入し、先に出社したエレーナと合流する。ジェーンは「サビーナは保管室、エレーナは研究室」と指示し、自分は警備の人間を引き受けると述べた。
サビーナが保管室へ行くとカリストは無くなっており、アクセスログを調べるとフレミングが持ち去っていた。サビーナがIDを盗んだ社員のプラディープが戻って来たため、警備員のラルフたちが動き出した。外で待機していたレベッカは、サビーナたちに「バレたわ」と知らせる。エレーナは研究室のカリストを回収し、サビーナは防犯カメラの前で滑稽な動きをしてラルフたちを引き付ける。サビーナとジェーンは追って来た警備員を昏倒させ、エレーナと共にレベッカの車で逃走した。
サビーナたちはベルリン支局へ行き、エンジェルをサポートするセイントと会う。レベッカは防犯カメラの映像を調べ、フレミングが荷物を持ってドイツを出たことを突き止めた。彼女はフレミングがカリストを闇で高く売り、エレーナを始末する気だと説明した。フレミングがイスタンブールに着いたという情報を入手したレベッカは、サビーナとジェーンに「黒幕が分かるまで身を潜めて」と指示した。彼女は密かに1人の女性と接触し、標的の居場所がイスタンブールの時計修理屋であることを示すスマホを渡す。「エレーナはどうします?」と彼女が訊くと、「聞くまでもない」と女性は告げた。
ジョンはイスタンブールの時計修理屋で店長のシュミットと会い、プレゼントされた腕時計を調べてもらった。シュミットは「追跡装置も信号も無い」と告げるが、ジョンは疑いを拭い切れなかった。シュミットは彼の背広を調べ、付着している液体で追跡されていることを教えた。すぐにジョンは、レベッカの仕業だと確信した。サビーナたちはイスタンブールへ飛び、ジェーンはMI6時代の情報提供者であるファティマと会う。ファティマは彼女を嫌っており、すぐに去ろうとする。ジェーンは謝罪を入れ、「必要な物は用意する」と約束する。「診療所を再開して」と彼女が言うと、ファティマは「アンタを信じて全てを失った」と非難した。
レベッカは必要な物資を全て用意し、ファティマに提供した。ファティマは車も引き渡すよう要求した上で、フレミングがバシャ・ホテルにいることを教えた。サビーナはホテルに潜入し、フレミングの通信記録を盗み出した。ジェーンとレベッカは外出したフレミングを尾行し、スマホに発信器を取り付けた。フレミングが翌日にダービーでカリストを売るつもりだと突き止めたレベッカは、競馬場で取引相手を見つけるようサビーナとジェーンに指示した。エレーナが手伝わせてほしいと申し出ると、レベッカは了承した。
翌日、レベッカは車で待機し、サビーナはジョッキーに化けて競馬場に潜入する。エレーナは防犯カメラをハッキングし、ジェーンは彼女を塔からサポートする。競馬場に来るフレミングを見つけたエレーナは、サビーナに知らせる。フレミングの近くにホダックがいるのを見つけたジェーンは麻酔銃を撃つが、狙いを外してしまう。フレミングが車で逃走したので、サビーナたちはレベッカと合流して追跡した。一味が採石場に着いたので、レベッカが外で待機して他の3人が潜入することになった。
ジェーンは事務所でパソコンを見つけ、操作を引き受ける。サビーナとジェーンは倉庫へ行き、バイヤー代理人としてジョニーが来たので驚いた。ジョニーはフレミングに対し、カリストの性能を確かめるために誰か殺すよう要求した。フレミングが躊躇していると、ホダックが射殺した。ジョニーは「予定外だ」と腹を立て、サビーナはホダックが彼の側にいる人間だと知った。ホダックたちが車で逃げようといるので、サビーナとジェーンはレベッカに指示を仰ぐ。しかし通信しても応答は無く、一味に見つかった2人は仕方なく戦う。手下は一掃したサビーナとジェーンだが、ホダックとジョニーには逃げられた。待機場所の建物に戻ったサビーナたちは、レベッカがいないので裏切り者ではないかと疑う。そこへジョンから電話が入り、そこは危険だと警告した。その直後、建物で大爆発が起きる…。監督はエリザベス・バンクス、原案はエヴァン・スピリオトポウロス&デヴィッド・オーバーン、脚本はエリザベス・バンクス、製作はダグ・ベルグラッド&エリザベス・カンティロン&マックス・ハンデルマン&エリザベス・バンクス、製作総指揮はマシュー・ハーシュ&レナード・ゴールドバーグ&ドリュー・バリモア&ナンシー・ジュヴォネン、共同製作はクリストフ・フィッサー&ヘニング・モルフェンター&チャーリー・ウォーバッケン、製作協力はアレックス・オークリー、撮影はビル・ポープ、美術はアーロン・ヘイ、編集はアラン・バウムガーテン&メアリー・ジョー・マーキー、衣装はキム・バーレット、音楽はブライアン・タイラー、音楽監修はジュリアンヌ・ジョーダン&ジュリア・ミシェルズ。
出演はクリステン・スチュワート、ナオミ・スコット、エラ・バリンスカ、パトリック・スチュワート、エリザベス・バンクス、ジャイモン・フンスー、サム・クラフリン、ノア・センティネオ、ナット・ファクソン、ジョナサン・タッカー、クリス・パング、ルイス・ジェラルド・メンデス、デヴィッド・シャッター、ハンナ・フークストラ、ジェーン・チーワ、エムレ・ケントメノグル、ムラリ・ペルマル、セバスチャン・クローナート、フランツ・クサーヴァー・ザッハ、アンドレアス・シュローダース、マリー=ルー・セレム他。
1970年代のTVドラマをリメイクした2000年の『チャーリーズ・エンジェル』と2003年の『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』に続くシリーズ第3作。
監督&脚本は『ピッチ・パーフェクト2』のエリザベス・バンクス。
サビーナをクリステン・スチュワート、エレーナをナオミ・スコット、ジェーンをエラ・バリンスカ、ジョンをパトリック・スチュワート、レベッカをエリザベス・バンクス、エドガーをジャイモン・フンスー、ブロックをサム・クラフリン、ラングストンをノア・センティネオ、フレミングをナット・ファクソンが演じている。映画の最後にはエレーナが新人エンジェルとして研修を受ける様子が描かれ、ここではゲスト出演者が次々に登場する。
まずTVシリーズのレギュラーだったジャクリーン・スミスが、当時と同じケリー・ギャレット役で登場。
ドライビング・インストラクターを務めるのは、元レーシングドライバーのダニカ・パトリック、ファイト・インストラクターは元総合格闘家のロンダ・ラウジー、爆弾インストラクターは女優のラヴァーン・コックス。
エレーナと同じエンジェル候補生として、女優のヘイリー・スタインフェルドとリリ・ラインハート、スノーボード選手のクロエ・キム、元体操選手のアリー・レイズマン、美容ブロガーのフーダ・カタンが出演している。前述したように「続編」「シリーズ3作目」という扱いなのだが、「リブートで良くない?」と言いたくなる。
これを「3作目」として作っている意味が全く見えないのよ。どうせ出演者はゴッソリと入れ替わっているし、設定も大きく異なるんだし。
リブートとして作った上で、TVシリーズや映画2作と絡めたような描写をサービス的に盛り込めば良かったんじゃないかと。
っていうか、「リブートです」と説明されたとしても、何の違和感も覚えないぞ。今回はメイン3人の内の1人がエンジェルではなく、企業のエンジニアという状態から映画を始めている。
だけど、どう考えてもマイナスの方が遥かに大きい。3人ともエンジェルとして始めた方が得策だろう。
序盤から「そうなるんだろう」と誰もが予想できる予定調和として、最終的にはエレーナもエンジェルの一員になっている。なので、ひょっとすると「新生エンジェルの誕生篇」という意図だったのかもしれない。
でも、もしも「誕生篇」的な意味合いで作るのなら、逆に全員が新人という状態でスタートさせた方がいいし。フレミングがカリストをブロックにプレゼンするシーンはあるが、どういう物なのかはフワッとしている。
しかし、ここはマクガフィンのようなモノなので、どうでもいい。
「カリストが兵器になる危険性のある装置で、フレミングが闇で売りさばこうと目論んでいて、それをサビーナたちが阻止しようとする」という図式さえ分かれば事足りる。
途中でエレーナがカリストの試作品を使うシーンもあるけど、そこで機能が良く分からないのは、大した問題ではない。冒頭、サビーナが「女は何だって出来る」と言うと、ジョニーが「でも、しない方がいいこともあるだろ」と告げる。
彼が具体例を挙げると、サビーナは「私は自分で選択して決めたい」と返す。ジョニーが「僕が君を選んだ」と言うと、彼女は「私が振り向かせた」と口にする。
今回は女性監督ってこともあり、世界的に大きな潮流となって特にハリウッドでは嵐が吹き荒れたジェンダー問題の影響を受けた内容になっている。
「女はこうあるべき」というマチズモ的な決め付けに反旗を翻し、「プリキュア」シリーズのように「女は何だって出来る」というメッセージを発信しようとしているわけだ。ただ、やりたいことは分かるけど、「そういうのを生真面目に捉えて声高に主張する類の作品なのかねえ」と疑問を覚えてしまうのよね。
まあワシも一応は男のはしくれなので、「男には女のことなんて分からんだろ」とフェミニズム団体から叱られるかもしれないよ。
ただ、決して女性を応援するメッセージの発信がダメってことではないのよ。そうじゃなくて、もう少し上手くやってくれないかなと。
表面的には純然たる娯楽映画で、「実はこんなメッセージが」というぐらいでも良かったんじゃないかなと。
メッセージを発信しようという意識が強すぎて、娯楽映画としての面白さが大きく削られているような気がしてならないのよ。女性差別に関連した真面目なメッセージが込められているからと言って、ずっとシリアスなテイストで進めているわけでない。基本的には軽妙なタッチで描いているし、荒唐無稽なシーンも多い。
ただ、今一つ弾け切れていない印象を受けるんだよね。
劇場版1作目&2作目の時は、良くも悪くも「おバカなアクション・コメディー」に振り切っていたからね。
まあ、それが酷評を受けたから方向性を変えたのかもしれないけど、そのせいで妙におとなしくなっちゃったかなと。派手さやケレン味が弱くなったかなと。ジョンの退職を祝うシーンでは、彼がTVシリーズや劇場版1作目&2作目のエンジェルと一緒にいる写真が出てくる。つまり、ジョンが組織を創設し、歴代のエンジェルと一緒に仕事をしてきた初代ボスレーという設定になっているわけだ。
でも、これってリブートじゃなくて続編という扱いなんでしょ。
だったら、TVシリーズのデヴィッド・ドイルや劇場版のビル・マーレイ&バーニー・マックの存在を完全に無かったことにするのは絶対にダメだろ。
それは卑劣な捏造にしか思えないぞ。「ボスレーは最初からパトリック・スチュワートだけ」という歴史の改変だけでも嫌な感じなのだが、もっと酷い設定が用意されている。
完全ネタバレを書くが、今回は「ジョン・ボスレーが悪党の黒幕」という設定なのだ。
ってことは、これまでのエンジェルが信頼して一緒に仕事をしてきたボスが、ずっと裏切っていたってことになるだろ。
それは今まで『チャーリーズ・エンジェル』という作品を見て来たファンに対する、重大な裏切り行為だわ。ひょっとすると、「ウーマン・リヴ的なテーマを掲げた以上、ボスが男性では何かと都合が悪い」という考えが働いたのかもしれない。
だけど、それならTVシリーズや劇場版の2作品とは組織の設定が異なるんだから、「現在のボスはエンジェル出身の女性」という設定にしておけば済む話であって。
「初代ボスレーが悪党」ってのは、仮にアイデアとして浮かんだとしても、真っ先に却下しなきゃいけないぐらいダメなヤツだぞ。粗筋で触れたように、サビーナたちがレベッカの裏切りを疑った直後に爆発が起きる。無事だったエレーナが立ち上がると、レベッカが現れる。するとジョンがレベッカを撃ち、エレーナを連れて立ち去る。
この流れだと、しばらくは「レベッカが悪党」とい観客に思わせて話を進めるのが常套手段だろう。
ところがシーンが切り替わると、もう「ジョンはホダックのボスで、闇市場でカリストを売り捌こうと目論んでいる」ってのを明らかにするのだ。
なんちゅう淡白な処理なのかと。「ジョンを悪党にするのは大間違い」という問題はひとまず置いておくとして、「レベッカが裏切り者かもしれない」というミスリードを用意するのであれば、しばらく引っ張らないと意味が無いでしょうに。
サビーナたちが疑った直後に真相を明らかにするって、どういう計算なのか。しかも観客に「ジョンが悪党」と明かすだけでなく、同じタイミングでサビーナたちも知る形になっているし。どういう計算なのか。
まあ、どっちにしても、初代ボスレーを悪党にしているだけで完全にアウトではあるんだけどね。
その設定1つだけを取っても、万死に値する愚行なんだけどね。(観賞日:2021年11月28日)
2020年度 HIHOはくさいアワード:第5位