『チャッピー』:2015、アメリカ&南アフリカ

近未来。ヨハネスブルグでは犯罪が多発し、警官が犠牲になるケースは増える一方だった。そこで警察は、テトラヴァール社が製造したロボット警官隊を導入した。この計画が成功を収めたことで、テトラヴァール社の株価は一気に上昇した。ハッキングを心配する声に対し、テトラヴァール社が「ガードキー・システムを採用しており、ソフトウェアの更新は、ごく一部の社員しか出来ないので何も心配は要らない」とコメントしていることをニュース番組のアンカーマンは説明した。
人工知能で動く人間型警官ロボットが導入される以前、有力候補とされていたのはムースと呼ばれるロボットだった。元兵士で開発者のヴィンセント・ムーアは、人間の脳波をトランスミッターで送るムースに自信を持っていた。一方、ニンジャ、ヨーランディー、アメリカ、ピットブルの4人組は強盗に失敗し、ギャングのボスであるヒッポから償いを要求された。ヒッポはピットブルを射殺し、1週間以内に金を用意しろとニンジャに要求した。そこへロボット警官隊が襲来して銃撃戦が勃発し、ニンジャたちは慌てて逃亡した。
テトラヴァール社は警察からロボット百体の追加注文を受け、人間型警官ロボットの開発者であるディオン・ウィルソンは同僚から祝福された。テトラヴァール社CEOのミシェル・ブラッドリーはヴィンセントに対し、「明日、警察へのプレゼンがあるからコストを削減して」と告げられる。「無理だ。危険感知機能には金が必要だ」とヴィンセントが訴えると、彼女は「危険感知機能は要らない。操縦する人間がムースに伝えればいい。コストをカットして」と冷たく告げた。
ディオンは警官ロボットの22号が出撃する度に損傷していることを整備担当者から知らされ、廃棄して金属をリサイクルするよう指示した。ニンジャはヒッポからの電話で、「1週間以内に金を用意しなかったらアジトへ乗り込むぞ」と脅される。ニンジャが現金輸送車の襲撃を提案すると、ヨーランディーはロボットをリモコンで操るアイデアを口にした。彼女がディオンを襲撃しようと提案すると、ニンジャは即座に飛び付いた。
帰宅したディオンは、独自で開発していた人工知能の完成に漕ぎ付けた。しかしテストが必要なため、彼は工場へ行って22号の粉砕を中止させる。ディオンはミシェルと会い、「完全な人工知能が出来ました。人間より賢いかもしれないコンピュータ・システムです」と熱く語る。廃棄の決まったロボットでテストさせてほしいと彼は頼むが、ミシェルは「ロボットには保険が掛かってるの」と却下した。納得できないディオンは、ミシェルに内緒で22号を工場から持ち去った。しかし車で帰る途中、彼はニンジャたちに襲撃された。
ヴィンセントは警察幹部にムースをプレゼンするが、「よっぽど治安が悪化しない限り、こんなにデカくて高価なのは要らない」と一蹴された。ニンジャたちはディオンをアジトに連行して暴行し、ロボットのリモコンを渡せと要求される。「リモコンなんて無い」という言葉は信じなかった一味だが、車に積まれた22号を見ると「こいつが味方になるようプログラミングさせよう」と考える。「これは新しいプログラムだから、色々と教え込む必要がある。どれぐらい時間が掛かるかは分からない」というディオンの説明を受け入れた一味は、ロボットを組み立てさせた。
ディオンは一味に、バッテリーの交換は出来ず、5日程で切れることを話した。彼はソフトウェアをインストールし、ロボットの電源を入れた。赤ん坊の状態で起動したロボットは、一味を怖がる様子を見せる。言葉も分からない状態だったが、ディオンとヨーランディーが優しく呼び掛けた。ロボットは恐る恐る近付き、ディオンの腕時計に興味を示す。ディオンはロボットに言葉を教え、ヨーランディーは「チャッピー」と名付けた。
ニンジャは激しい苛立ちを示し、ディオンに銃を向けて「二度と来るな」と告げる。ディオンは「僕が作ったんだ。明日も来る」と言い、車で走り去った。一方、ヴィンセントはガードキーが22号にインストールされ、持ち出されているのを知った。ニンジャはチャッピーに銃の撃ち方を教えようとするが、ヨーランディーが「まだ早いよ。子供なの」と注意した。ニンジャが外出している間に、ヨーランディーとアメリカは新たな言葉を教えた。
ヴィンセントは会社から車で出て行くディオンを尾行し、ニンジャたちのアジトを突き止めた。ディオンはチャッピーに自分が創造者であることを教え、絶対に犯罪はしないと約束させた。彼は幼児を養育する道具を持参しており、絵本や絵画セットを渡した。ヴィンセントは物陰から様子を観察し、チャッピーの存在を知って立ち去った。ニンジャがアジトへ戻り、チャッピーに絵を描かせているディオンを殴り付けて追い払った。
2日後に現金が輸送される情報を得たニンジャは、チャッピーに「現実の世界を見せてやる」と告げて車で連れ出した。彼はチャッピーをスラムに放置し、戦闘能力を覚えさせようと企てた。チャッピーはギャングに襲われ、火炎瓶を叩き付けられる。逃げ出したチャッピーだが、ヴィンセントの発砲を受けて捕まった。ヴィンセントはチャッピーの左腕を切断し、ガードキーを抜き取った。彼は部下たちに処分を命じるが、チャッピーは何とか逃亡した。
アジトに戻ったチャッピーの姿に驚いたヨーランディーとアメリカは、ディオンが残した部品で左手を修復した。ヨーランディーはママとしてチャッピーに絵本を読み聞かせ、「貴方を愛してる」と告げた。次の日、ニンジャはチャッピーに口先だけの謝罪を示し、「タフでクールにしてやる。今から俺は、お前のパパだ」と告げる。彼はギャングとしての振る舞いを教えるが、銃の打ち方を教えようとすると「犯罪は出来ない。約束した」と言われたので苛立つ。そこでアメリカは「ナイフで突き刺せば相手は眠る」と嘘をつき、ニンジャと2人で銃以外の武器の使い方を教えた。
ニンジャは「パパの盗まれた車を取り戻せ」と指示し、目を付けた人間を次々に襲わせた。騙されて車泥棒は手伝ったチャッピーだが、ニンジャが現金強奪に言及すると「犯罪だから出来ない」と断った。そこでニンジャは、「バッテリーが切れたら、お前は死ぬ。創造者は死ぬ体をお前に使った。新しいバッテリーを買うには大金が必要だ。そのためには強奪しか無い」と説得した。ディオンはアジトへ赴き、チャッピーを取り戻そうとする。しかしチャッピーはディオンを拒否し、「どうして創造者なのに、死んじゃうように作ったの?」と非難めいた口調で問い掛けた。
ヴィンセントはチャッピーのガードキーを使ってコンピュータにアクセスし、警官ロボットにウイルスを仕掛けて機能停止に陥らせた。街には暴徒が溢れ、大混乱に陥った。チャッピーも機能停止し、ディオンは連れ帰ることにした。彼は銃でニンジャを脅し、チャッピーを車に乗せて工場へ連れて行く。ヴィンセントが隠れて様子を伺う中、ディオンはチャッピーを復旧させた。チャッピーは新しいボディーを見つけて「これで助かる」と言うが、ディオンは「ボディーだけの問題じゃないんだ。意識はコピーできない」と説明する。チャッピーは「僕が解明して、新しいボディーに意識を転送する」と言い、トランスミッターを奪って走り去った…。

監督はニール・ブロムカンプ、脚本はニール・ブロムカンプ&テリー・タッチェル、製作はニール・ブロムカンプ&サイモン・キンバーグ、共同製作はヴィクトリア・バークハート&ジェームズ・ビトンティー、製作総指揮はベン・ウェイスブレン、撮影はトレント・オパロック、美術はジュールズ・クック、編集はジュリアン・クラーク&マーク・ゴールドブラット、衣装はダイアナ・シリアーズ、視覚効果監修はクリス・ハーヴェイ、音楽はハンス・ジマー。
出演はシャールト・コプリー、デヴ・パテル、ヒュー・ジャックマン、シガーニー・ウィーヴァー、ニンジャ、ヨー=ランディー・ヴィッサー、ホセ・パブロ・カンティージョ、ブランドン・オーレット、ジョニー・K・セレマ、アンダーソン・クーパー、モーリス・カーペード、ジェイソン・コープ、ケヴィン・オットー、クリス・シールズ、ビル・マーチャント、ロバート・ホッブス、マーク・K・クルー、シャールドン・マレマ、シャヒード・ハジー、ジェームズ・ヘンドリックス、ジュリアン・ブリッツ他。


『第9地区』『エリジウム』のニール・ブロムカンプが監督を務めた作品。
脚本はニール・ブロムカンプ監督と『第9地区』のテリー・タッチェルによる共同。
チャッピーのパフォーマンス・キャプチャーと声を担当したのは、監督の名優であるシャールト・コプリー。
ディオンをデヴ・パテル、ヴィンセントをヒュー・ジャックマン、ミシェルをシガーニー・ウィーヴァー、アメリカをホセ・パブロ・カンティージョ、ヒッポをブランドン・オーレットが演じている。
芸名と同じ役名で出演しているニンジャとヨー=ランディーは、ケープタウン出身のラップグループ「ダイ・アントワード」のメンバー。

『エリジウム』の評価が今一つだったことを受けての判断なのかどうかは分からないが、ニール・ブロムカンプは今回の作品で長編映画デビュー作『第9地区』と同じフェイク・ドキュメンタリー的な撮影手法を採用している。
それはオープニングだけで終了するが、実は大枠で言えば『第9地区』と似たような世界観や内容になっている。
同じテーマを追い続けるタイプの映画監督もいるから、それだけで批判的に捉えるのは間違っているかもしれない。
ただ、何しろ撮影手法まで同じってこともあって、「ひょっとすると極端に引き出しが少ないのか」と思ってしまう。

「ロボットが人間の心を持つ」とか、「人工知能の学習能力が開発者の想像を超える」とか、「意識と身体の問題」とか、そういうのは色んな映画や小説などで何度も使われてきたモチーフである。だから、そこに新鮮味は全く無い。使い古された要素を新しい角度から掘り下げるとか、意外な形で描写するとか、そういったことでもない。
だからって、それだけでダメな映画になるわけではない。
しかしながら、持ち込んでおきながら雑な処理で終わらせているのは、いかがなものかと。
あと、「『アップルシード』のブリアレオスからデザイン的な影響を受けたチャッピーの可愛さに頼る部分がデカすぎやしないか?」と言いたくなってしまうわ。

この映画で致命的なのは、「ディオンという男がクズでしかない」ってことだ。
本来なら、チャッピーを子供のように思う彼に対しては、共感や同情心を抱く内容になっていなけりゃ駄目なはずだ。
ところが、これっぽっちも共感できないどころか、不快感を抱いてしまう人物になっているのだ。
それが皮肉や風刺を込めた意図的な描写なら、まだ分からんでもない(だとしても失敗だと思うが)。
しかし、どう考えてもニール・ブロムカンプは「好感の持てる人物」として彼を描いているわけで、そりゃ根本的にアウトだろう。

まずディオンのダメなポイントは、「実はニンジャと大して変わらない思考の持ち主」ってことだ。
ニンジャは現金を強奪するために、チャッピーを騙してギャングとして育てようとする。もちろん、それが非道な行為であることは言うまでもない。
しかし、そんなニンジャを批判してチャッピーをコントロールしようとするディオンも、「自分の思い通りに染めようとする」という意味では同じだ。
「君に出来ないことなんて無いんだ。君の可能性を誰にも奪わせるな」と彼は言うが、実は可能性を限定しようとしている。

ディオンは起動したばかりのチャッピーにチキンを見せたり、絵本を読むよう勧めたり、絵を描かせたりする。一見すると、チャッピーを自由に育てているようにも思える。
しかし、そうではないのだ。
ヨーランディーの「どうして彼を支配しようとするの?自由にさせて」という指摘は、ディオンの心に全く響いていないが、的を射ている。
ディオンはチャッピーを「自分の子供」として愛しているのではなく、「自分の野心や欲望を満たすための道具」として支配下に置きたがっているだけなのだ。

もちろん、ロボットじゃなくて実際の子供であっても、そのような扱いをしてしまう愚かな親は少なくない。自分がイメージする人間に育てようとして、子供の意志を無視してしまうケースは珍しくない。
だから、そういうケースのメタファーとして描いている可能性はあるだろう。
ただし、そうだとしても、途中でディオンが自らの過ちに気付く展開は用意すべきだ。これは必須事項だと断言できる。
ところがディオンは、最後まで自分が間違っていることに気付かないのである。

警官ロボットが機能停止して街が大混乱に陥った時のディオンの行動も、ヘドが出るほど腐っている。
暴徒が大量発生して大変な事態になっているのだから、警官ロボットの開発者であるディオンは、まず何よりも「原因を究明し、一刻も早く警官ロボットを復旧させる」ということを考えて必死に行動すべきだろう。
ところが彼は、「チャッピーを復旧させて家に連れ帰ろう」ってことしか頭に無い。
ミシェルの命令を受けるとコンピュータに向かって作業を開始するが、そこに「自分のミスで大勢の人々が危険に陥ったのかも」という意識は全く見えないし、責任感や使命感も全く感じられない。

ディオンはコンピュータを操作し、警官ロボットの機能停止がヴィンセントの仕業だと突き止める。だったら真っ先にミシェルへ報告し、彼を拘束させるべきだろう。
ところがチャッピーが現金強奪事件を起こしたことをニュースで知ったディオンは、なぜかヴィンセントに「このままで済むと思うな。
みんなにバレるぞ」と言い残し、会社を去ってチャッピーの元へ向かってしまうのだ。
つまり彼は「街の混乱を解決する」という重大な仕事よりも、「チャッピーを助ける」という個人的な問題を優先しているのだ。
ディオンが問題を放置したまま出掛けてしまうもんだから、ヴィンセントはミシェルに「現金を強奪したロボットはディオンの物だ。あれには人工知能が搭載されている。ムースを出動させよう」と提案して承諾されてしまう。
ヴィンセントの策略を知り、それを制止できる唯一の人物であったにも関わらず、ボンクラなディオンが放置したせいで、ますます問題は大きくなってしまうのだ。そしてムースの投入に伴い、大勢の犠牲者が出てしまうのだ。

ディオンはアジトでチャッピーと会い、「大きな危険が迫ってる。そいつは君を傷付けに来る」と告げ、持ち出した武器を見せる。
つまり彼はチャッピーを救うために、激しい戦闘を推奨しているのだ。
しかしチャッピーが言うように、どうせ彼はバッテリーが切れて死ぬのだ。だったら、そんな奴を助けるために激しい戦闘を勃発させることは、本当に正しい判断なのかと。
むしろ、ムースが襲来する前に機能停止させてやった方がいいんじゃないのか。

そもそも、すぐにディオンが「全てはヴィンセントの仕業」とミシェルに報告していれば、ムースが出動することは無かったはずでしょ。
それを許しておいてチャッピーに「ムースが来るから武器を使え」と言うのは、どう考えても行動として間違っている。
しかもディオンが会社を抜け出してアジトへ行ってしまったから、もちろん警官ロボットの復旧は全く進まない。その間、暴徒による犯罪は続いているのだ。
チャッピーを救おうとして大勢の犠牲者を出しているんだから、ディオンは紛うことなきクズだよ。

この映画、終盤に入ると、たぶん監督が意図していないであろう部分で完全なるバカ映画になる。
ムースがアジトを攻撃してからの戦闘シーンが、やけに派手な演出で飾られる辺りにも、その兆しは感じられた。しかし、ムースの攻撃を受けたディオンが瀕死の重傷を追った時、バカ映画へのハッキリとした突入を感じることが出来る。
まずチャッピーが「意識を移せば助かる」と考え、ディオンを病院へ連れて行こうとしない時点で「いやアホか」と言いたくなる。
それは学習していなかったから仕方が無いにしても、まだディオンは意識があるんだから「病院へ連れて行ってくれ」と頼めばいいでしょ。

そしてチャッピーはディオンを工場へ運び込んでトランスミッターを装着させ、意識をロボットのボディーに転送する。つまりディオンは、ロボットとして復活するのだ。
いやいや、なんちゅうオチだよ。
それを「ディオンが助かって良かったね」というハッピーエンドとして受け取れってのか。そこに皮肉が込められているようにも思えないしなあ。
「他に選択肢が無いから止むを得ず」ってことなら、何とか受け入れることは出来たかもしれない。
だけど、病院へ運んでいれば助かった可能性があるのよ。なので、チャッピーとディオンの選択が愚かしいとしか思えないのよ。

(観賞日:2016年10月24日)


2015年度 HIHOはくさいアワード:第7位

 

*ポンコツ映画愛護協会