『月のキャットウーマン』:1953、アメリカ

船長のレアード・グレンジャー、副操縦士のキップ・ライズナー、航海士のヘレン・サリンジャー、整備士のウォルト・ウォルターズ、通信士のダグ・スミスは調査活動のため、月ロケットに乗っていた。眠っていた彼らは応答を求める地球からの通信で目を覚まし、宇宙に来たことを知った。「クルーの声を聞かせてくれ」と求められたグレンジャーは、順番に挨拶させた。ヘレンは「アルファ、行くわ」と、奇妙なことを口走った。
隕石の衝突でロケットはバランスを失い、メンバーはシートベルトを装着して安定を待った。クルーは地球との通信を再開しようとするが繋がらず、原子炉は爆発の危機に見舞われた。キップが防護服に身を包み、原子炉へ向かった。彼は白煙に包まれる原子炉の中で作業し、原子炉の修復に成功した。ヘレンはレイアードから「アルファ」という発言の意味を問われ、覚えていないと答えた。着陸地点を探すよう指示された彼女は、「決まってるわ、月の裏側の谷よ」と即答した。
レイアードが「表側に降りて裏へ行けばいい」と言うと、ヘレンは「完璧な地点なの。なぜか分からないけど確信がある」と主張した。レイアードはヘレンの意見を尊重し、ロケットを月の裏側に着陸させた。ウォルトはロケットの修理を優先すべきだと意見するが、ヘレンは早く探査に向かうよう主張した。結局はヘレンの意見が採用され、クルーは宇宙服を装着してロケットの外へ出た。ヘレンはクルーに、「上から見えたの。向こうに洞窟がある」と告げた。
クルーが洞窟を見つけると、キップは「着陸視点から、ここは見えない」「月の裏側にこだわってた」と疑問を抱く。ヘレンは先を急ぎ、一行は後に続いた。ヘレンは「夢で見たままだわ」と呟き、グレンジャーたちが戻ろうとすると「こっちよ」と奥へ進む。しばらく歩いていると、水も無いのに鍾乳石があった。洞窟に大気があることが判明し、全員が宇宙服を脱いだ。クルーは巨大蜘蛛に襲われ、男たちが戦って退治した。ヘレンはグレンジャーたちに、休憩させてほしいと頼んだ。
キップとウォルトは宇宙服を取りに戻り、グレンジャーとダグは奥の様子を見に行く。ヘレンが休息していると、女性が背後から近付いた。ヘレンが触られて悲鳴を上げると、女性は逃げ出した。ヘレンはグレンジャーからロケットに戻ると聞かされ、「怖気付いたの?探検に来たのよ。一人でも行くわ」と激しく反発した。そこへ戻って来たキップたちは、宇宙服が無くなっていること、引きずった跡があったことを話す。ヘレンは「戻れないなら行くしか無いわ」と奥へ進み、グレンジャーたちは後に続いた。
洞窟を抜けた向こうには、大きな宮殿が見えた。一行が宮殿に入ると、ヘレンは「高度な生命体が住んでいた」と口にした。ヘレンは見て回りましょうと言ってダグを連れ出し、女に襲われるのを冷淡に眺め、そのまま姿を消した。ダグの助けを求める声でグレンジャーたちが駆け付けると、女は逃亡した。グレンジャーたちが手分けして捜索しようとすると、女たちに襲われる。ダグが一人を捕まえるが、一瞬で姿が焼失した。グレンジャーはキップたちに、ヘレンを待とうと告げた。
ヘレンは宮殿の住人であるアルファの元へ行き、副官のベータとラムダを紹介された。彼女が「分からないことがたくさんあるの」と言うと、アルファは「貴方は仲間よ。何でも聞いて」と告げた。彼女たちの文明は地球より遥かに進んでおり、それを使ってヘレンを導いた。ヘレンが「なぜ私だったの?」と尋ねると、アルファは「男は接触も操作も出来ない」と答えた。彼女は祖先がミスを犯して酸素も残り少なくなっていることを説明し、だから自分たち3人を地球へ連れ帰ってほしいのだと告げた。ロケットの操縦は出来ないが、弱点をついて男に教えさせると彼女は語った。
1時間が経過した頃、グレンジャーたちは物音に気付いて隣の部屋に移動した。するとヘレンがアルファたちと共に現れ、「友好関係を築いていた。銃は使わないで。約束したの」と話す。アルファが英語で「お帰りの時に返します」と話したので、グレンジャーたちは驚く。キップは宇宙服の返却を要求し、アルファが明朝に返すと約束しても反抗的な態度を示した。ヘレンはグレンジャーに、「アルファはテレパシーが使える。私にメッセージを送ってた」と語った。
キップ以外のクルーは、会食の誘いに応じた。グレンジャーはアルファに、「どうやって一瞬にして消えたんだ。どうやってヘレンに連絡を取った?」と質問した。アルファが「ロケットの操縦法を教えてくれたら教えるわ」と持ち掛けると、彼は「今は任務中だから、いつか教えるよ」とはぐらかした。ウォルトはベータが腕に付けている金の装飾品に気付き、「いい土産になりそうだ」と言う。ベータが「洞窟にたくさんあるわ。ロケットを見せてくれたら案内する」と話すと、彼は誰にも言わないと約束で取引を承諾した。彼はベータをロケットへ案内し、操縦法を教えた…。

監督はアーサー・ヒルトン、原案&特殊視覚効果はジャック・ラビン&アル・ジンバリスト、脚本はロイ・ハミルトン、製作はアル・ジンバリスト&ジャック・ラビン、撮影はウィリアム・ウィットリー、美術はウィリアム・グラスゴウ、編集監修はジョン・ブシェルマン、ダンス・ディレクターはベティー・アーレン、音楽はエルマー・バーンスタイン。
出演はソニー・タフツ、ヴィクター・ジョリー、マリー・ウィンザー、スーザン・モロー、ダグラス・フォーリー、ビル・フィップス、キャロル・ブリュースター、ベティー・アーレン、スーザン・アレクサンダー、ロクサン・デルマン、エリー・マーシャル、ジュディー・ウォルシュ他。


編集マンのアーサー・ヒルトンが『誇りを汚すな』に続いて監督を務めた、Z級映画マニアの間では有名な作品。
グレンジャーをソニー・タフツ、キップをヴィクター・ジョリー、ヘレンをマリー・ウィンザー、ラムダをスーザン・モロー、ウォルトをダグラス・フォーリー、ダグをビル・フィップス、アルファをキャロル・ブリュースター、ベータをスーザン・アレクサンダーが演じている。
ラムダ以外のキャット・ウーマン役は、「The Hollywood Cover Girls」というグループとして紹介されている。

1つ目のポイントは、プロデューサーのアル・ジンバリスト。
ジャック・ラビンと共に原案と特殊視覚効果も兼任しているジンバリストは、Z級映画の世界においては重要人物と言ってもいい。
この人は本作品と同じ1953年、アメリカ合衆国が世界に誇る4大サイテー監督の一人、フィル・タッカーの『ロボット・モンスター』で製作総指揮を務めている。
そして1955年には『バート・I・ゴードンの 恐竜王』、1957年には『昆虫怪獣の襲来』、1959年には『類猿人ターザン』も手掛けている。

2つ目のポイントは、主演俳優のソニー・タフツ。
彼は1940年代に大手メジャーのパラマウント・ピクチャーズと契約し、メインキャストとして活躍していた俳優だ。
1943年には『陽気な女秘書』でオリヴィア・デ・ハヴィランドの相手役、1945年の『初恋時代』ではリリアン・ギッシュの相手役を務めている。
しかしZ級映画マニアの間では、大根役者として有名だ。
そもそも前述の『陽気な女秘書』からして、ポンコツ映画として広く知られている作品だし。

3つ目のポイントは、音楽を担当したエルマー・バーンスタイン。
古いZ級映画だと、後に有名になるスタッフやキャストが参加しているケースもある。本作品の場合、それに該当する唯一の存在がエルマー・バーンスタインだ。
後に彼は『荒野の七人』『大脱走』など数々のヒット作で音楽を担当し、1967年の『モダン・ミリー』でアカデミー作曲賞を受賞する。
ただ、彼が映画音楽の仕事を始めたのは1952年であり、これは駆け出しの頃の作品だ。
ちなみに、同年の『ロボット・モンスター』でも彼は音楽を担当している。

レイアードたちはロケットの中で、普通のベッドに横たわって眠っている。クルーは普通の椅子に座り、普通の机にある普通の引き出しを開ける。
実際の宇宙空間や無重力を理解していない時代であっても、さすがに宇宙船の内部の装飾が適当すぎる。
それは無重力が云々という問題じゃなくて、シンプルに「未来を表現する意匠」として貧弱すぎる。
ロケットは原子炉で動いておりのも、原子炉へ入るハッチは薄くて簡単に外れる。キップが原子炉に入ると白煙がモクモクと充満しており、ごく普通の消火器で消火する。

地球からの通信員は、レイアードに対して「クルーの声を聞かせてくれ」と要求する。そんな必要は全く無いのだが、それはキャラ紹介のための手順だ。
なので通信機を渡されたクルーは「副操縦士のキップ・ライズナー」「航海士のヘレン・サリンジャー」と、ちゃんと自分の役職と名前を口にしている。
この時にヘレンは「アルファ、行くわ」と妙なことを言うのに、その時点では誰も気にしない。
そして後になってレイアードが「アルファとは何ぞや」と質問するが、タイミングが明らかにズレている。

洞窟へ向かって歩く途中、隕石が急に出現してクルーに飛んで来るシーンがある。このシーンでは、隕石がカメラの向こうからこっち側に向かって飛んで来る映像が使われる。
アメリカでは3D映画として公開されたので、「飛び出す映像」を意識したシーンが用意されているわけだ。
ただし、それならそれで何発も「飛び出す映像」を挟めばいいものを、それぐらいしか無いんだけどね。
飛び出す映像を挟めるチャンスなんて幾らでもあるんだけど、そこへの意識が薄いのなんのって。

で、洞窟へ向かう道中は、そんな隕石のシーンを除くと、しばらくは「カメラが横にパンし、横移動しているクルーを同じ画角で映し出す」という単調な映像が続く。
そして洞窟に入った後も、真横からの映像が続く。
洞窟に入ったクルーは、火が付いただけで空気があると断定する。空気があっても有毒物質が含まれている可能性はあるはずだが、それは全く確認せずに宇宙服を脱ぐ。
緊迫感が必要なシーンであっても、緩み切った空気の中で登場人物が行動するのは、いかにもZ級映画らしい。

物音を耳にして隣の部屋に移動する直前、グレンジャーは「1時間経った」と言う。
1時間も同じ場所に待機して、ずっとヘレンを待っていたのかよ。どんだけ辛抱強い連中なんだよ。
その後の会食のシーンは、テーブルで食事をする男たちに1人ずつウーマンが寄り添い、接待している。ただのキャバレーだ。
この手のポンコツ映画ではテンポが悪くてダラダラするのが定番だが、このシーンもそんな感じだ。無駄な会話がダラダラと続き、もちろん緊迫感など皆無だ。

終盤、ヘレンはキップに詰め寄られて正気を取り戻し、アルファたちが皆殺しにしてロケットを奪うつもりだと教える。
そこまではいいが、「私を操ってる。貴方が好きなのに、レアードとくっ付けようとしてる」ってのは、どういうことなのか。それは全く必要が無い操縦だろうに。あと、そのタイミングでキスシーンも全く要らないし。
その後、ヘレンから「レアードには内緒よ。その内に私から話す」と言われてキップが承諾するのは、完全にイカれてる。
ヘレンに「私が拒否すれば平気だから」と言われて、それで納得してどうすんのよ。キップのウォルトへの心配も、すっかり無くなっちゃうし。ワケが分からんよ。

クルーが眠りに就くと、アルファたちは妙な踊りを始める。何かの儀式なのかと思ったが、特に説明は無い。
そこへダグが行くとラムダが抱き合ってキスするが、その唐突な恋模様は何なのか。
ラムダの策略なのかと思ったら、そうじゃなくてマジで惚れた設定なのでワケが分からん。いつの間に、どのタイミングで惚れたんだよ。
そんでラムダはダグにロケットを奪う計画をバラすけど、だったら余計にヘレンがキップにバラすのは要らないだろ。

キップからダグとラムダのことを聞いたヘレンは「危険な女だから追い掛けないと」と警告するが、どこまで本気なのか分からん。
そんでキップが去ってからヘレンはレアードとラブラブになり、戻って来たキップに見せ付けるけど、これもどういうつもりなのかサッパリだよ。
そんなことをしたら、ロケットの計画を喋られる恐れもあるだろうに。
あと、アルファが急に「ロケットを奪えば全世界を征服できる」と言い出すけど、そんな大それたことを目論んでいたのかよ。

キップはダグから「ヘレンは操られてると」聞いて「馬鹿言うなよ」と信じないのだが、なんでだよ。
で、レアードから情報を聞いているヘレンを見て、ようやくキップは「船を盗もうとしてヘレンを操ってる」と言い出すけど、それは既に知っていたことだろうに。
あと、腕を軽くひねられただけで正気を取り戻すヘレンもアホみたいだが、「本当に愛してるのはキップ」と訊いた途端にレアードが怒ってキップに殴り掛かるのは輪を掛けてアホすぎる。くだらない喧嘩をしてる場合かよ。もう残り時間は3分ぐらいしか残ってないのに。
そんで最後はラムダがアルファたちを止めようとして殺され、画面に映らない場所でキップがアルファとベターを殺した設定。
全てがモッチャリしており、クライマックスなのに全く盛り上がらないまま終幕へ突入するのだった。

(観賞日:2025年7月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会