『007 カジノロワイヤル』:1967、イギリス&アメリカ

特別警察のマティスはボンドを名乗る男に信任状を見せ、一緒に来てほしいと要請した。英国秘密情報部のマクタリはCIAのランサム、KGBのスメルノフ、フランス軍情報部のルグランを伴い、引退したジェームズ・ボンドの屋敷を訪ねた。マクタリたちは大勢の諜報員が同じ敵に殺されていることを説明し、協力して解決に当たるので復帰してほしいとジェームズに要請する。しかし恋人のマタ・ハリを任務のせいで死なせて引退した彼は、その頼みを断った。
マクタリはジェームズを復帰させるため、軍に指示して屋敷を砲撃させる。しかし砲撃のせいで、マクタリは死んでしまった。ジェームズの復帰を知ったスパイ撲滅組織「スメルシュ」は、刺客として女性たちを差し向けた。マクタリの妻であるミミも、工作員の1人だった。ジェームズがマクタリの遺品を届けると、ミミは泊まっていくよう勧めた。マクタリには11人の娘がいて、ヘザーとメグがジェームズを浴室へ案内した。ジェームズが浴室に行くとバターカップという娘が待っており、彼の体を洗った。
夕食で酒を飲んだミミと娘たち、それに宴会を盛り上げていたバグパイプ奏者の男たちは、次々に眠り込んだ。ジェームズが寝室で就寝しようとしているとミミが現れ、自分を抱くよう求めた。ジェームズが断ると、彼女は「パイプ吹きの罰を受けよ」と言う。彼女は6人のバグパイプ奏者を呼び寄せ、ジェームズは重い石球を投げ合う対決に挑もうとする。しかし相手の5人は勝手に自滅し、6人目も簡単に敗北する。ミミはジェームズの力強さに惹かれ、それを知った工作員のイライザやマリアたちは彼女を部屋に閉じ込めた。
ジェームズが鳥のハンティングに出掛けると、イライザたちは鳥型のミサイルで始末しようとする。ミミは部屋から抜け出し、ジェームズを救った。彼女はジェームズに、国際家政婦協会から「奴の名声をくじけ。失敗したら殺せ」と命じられていたことを教えた。ジェームズがスコットランドを出ると、工作員のジャグが接触した。スメルシュは起爆装置を積んだ牛乳配達車を差し向け、ジェームズを始末しようと目論む。しかし失敗に終わり、ジャグが爆死した。
マクタリのオフィスに到着したジェームズは、マネーペニーの娘やハドリーの息子に会った。2人は親と同様に、マクタリの秘書や助手として働いていた。ジェームズはハドリーから、スパイが次々に殺されていること、自分の後継者は除名されたこと、甥のジミーはカリブ海で1ヶ月も連絡が取れていないことを聞いた。ジミーは軍に捕まって処刑されそうになるが、何とか逃げ出した。女性に対抗できる人材が必要だと考えたジェームズは、補助員を調べるようマネーペニーに指示した。
マネーペニーは補助員を集めてチェックし、セックスの上手いクーパーを選んだ。ジェームズはクーパーに対女性スパイ装置(ATSD)の起動を宣言し、これからは全員を007のジェームズ・ボンドと呼ぶと説明した。彼は大勢の女性を集め、クーパーは誘惑されても惑わない訓練を積んだ。ジェームズは実業家になったヴェスパー・リンドを訪ね、協力を要請した。借金の督促を分割払いにして割引するというジェームズの提案を受け、ヴェスパーは協力を快諾した。
ヴェスパーはギャンブラーのイヴリン・トレンブルに接触し、誘惑して自宅に招いた。カードの名人であるルシッフルに勝てるかと質問されたトレンブルは、「間違いなく成功するには10万ポンドが必要だ」と言う。ヴェスパーは10万ポンドを見せ、儲けは半々にすることを持ち掛けた。「僕が相手では、彼は受けないだろう」とトレンブルが話すと、彼女は「名前をジェームズ・ボンドに変えるのよ」と告げる。トレンブルはボンド訓練所へ行き、Qからスパイ道具を受け取った。
ジェームズはハドリーから、国際家政婦協会がスメルシュの隠れ蓑だと聞かされる。ジェームズは協会に潜入させるスパイとして、娘のマタ・ボンドを使おうと考える。彼は3歳で孤児院に入れてから会っていなかったマタの元へ行き、かつてマタ・ハリのスパイだった場所にある国際家政婦協会への潜入を要請した。マタはベルリンへ飛び、国際家政婦協会の建物を訪れた。すると母の師であるホフナーと執事のポロがいた。2人はマタ・ボンドがマタ・ハリの娘だと知り、歓迎の態度を示した。
マタはポロから、ルシッフルが代理人を通じて美術品を競売に掛けることを聞き出した。タクシー運転手に化けていた外務省のカールトン・タワーズは、ルシッフルに金を渡さないようマタに指示した。マタは競売を妨害し、襲って来る連中を蹴散らしてタワーズと逃走した。代理人はルシッフルに電話を掛け、「失敗しました。ドクター・ノアにもバレました」と報告する。ルシッフルは「バカラで資金を作る」と言い、代理人を始末した。
トレンブルは税関職員を殴り倒し、マティスの運転する車に乗り込んだ。ジェームズはヴェスパーに連絡を入れ、トレンブルに二重スパイの可能性があることを伝えた。トレンブルがホテルの部屋にいると、工作員のミス・グッドサイズが現れて誘惑した。トレンブルは彼女を抱くが、睡眠薬を盛られて眠りに落ちた。ヴェスパーは彼を起こし、グッドサイズは退治したのでルシッフルとの勝負に備えるよう指示した。トレンブルは準備を整えてカジノへ赴き、ボンドを名乗ってルシッフルと対決する…。

監督はジョン・ヒューストン&ケネス・ヒューズ&ヴァル・ゲスト&ロバート・パリッシュ&ジョゼフ・マクグラス、原案はイアン・フレミング、脚本はウォルフ・マンコウィッツ&ジョン・ロウ&マイケル・セイヤーズ、製作はチャールズ・K・フェルドマン&ジェリー・ブレスラー、製作協力はジョン・ダーク、撮影はジャック・ヒルドヤード、追加撮影はジョン・ウィルコックス&ニコラス・ローグ、美術はマイケル・ストリンガー、編集はビル・レニー、衣装はジュリー・ハリス、音楽はバート・バカラック、テーマ曲演奏はハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラス、主題歌作曲はバート・バカラック、作詞はハル・デヴィッド、歌唱はダスティー・スプリングフィールド。
出演はピーター・セラーズ、ウルスラ・アンドレス、デヴィッド・ニーヴン、オーソン・ウェルズ、ジョアナ・ペテット、ダリア・ラヴィー、ウディー・アレン、デボラ・カー、ウィリアム・ホールデン、シャルル・ボワイエ、ジョン・ヒューストン、クルト・カッツナー、ジョージ・ラフト、ジャン・ポール・ベルモンド、テレンス・クーパー、バーバラ・ブーシェ、アンジェラ・スコーラー、ガブリエラ・リクディー、トレイシー・クリスプ、エレイン・テイラー、ジャッキー・ビセット(ジャクリーン・ビセット)、アレクサンドラ・バステド、アンナ・クウェイル他。


イアン・フレミングのスパイ小説『カジノ・ロワイヤル』を基にした作品。
トレンブルをピーター・セラーズ、ヴェスパーをウルスラ・アンドレス、ジェームズをデヴィッド・ニーヴン、ル・シッフルをオーソン・ウェルズ、マタをジョアナ・ペテット、デテイナーをダリア・ラヴィー、ジミーをウディー・アレン、ミミをデボラ・カー、ランサムをウィリアム・ホールデン、ルグランをシャルル・ボワイエ、マクタリをジョン・ヒューストン、スメルノフをクルト・カッツナー、クーパーをテレンス・クーパー、マネーペニーをバーバラ・ブーシェが演じている。
俳優のジョージ・ラフトが本人役で、ジャン・ポール・ベルモンドがフランス外人部隊の隊員役で出演している。
アンクレジットだが、ミミの配下の1人としてアンジェリカ・ヒューストン、バグパイプ奏者の1人としてピーター・オトゥール、フランケンシュタインの怪物役でデヴィッド・プラウズ、中国の将軍役でバート・クォーク、スメルシュの指令室にいる女性の1人としてキャロライン・マンローが出演している。

監督としてクレジットされる人物が、なんと5人もいる。
一緒に監督を務めているわけではなくて、パート別に担当する形を取っている。
スコットランドのシーンは『イグアナの夜』『天地創造』のジョン・ヒューストン、ベルリンのシーンは『やくざ特急』『人間の絆』のケネス・ヒューズ。
『昨日の敵』『スパイがいっぱい』のヴァル・ゲスト、『フレンチ・スタイルで』『渚のたたかい』のロバート・パリッシュ。
そしてビートルズのMVを手掛けていたジョゼフ・マクグラスも、それぞれ別のパートを担当している。

脚本家として表記されるのはウォルフ・マンコウィッツ&ジョン・ロウ&マイケル・セイヤーズの3名だが、最初にシナリオを担当していたのはベン・ヘクトだった。この時点ではパロディー映画ではなく、純然たるスパイ映画として企画されていた。
しかし、その方向性で進めていた幾つかの交渉が全て失敗に終わり、パロディー映画の企画に変更された。
これを受け、ビリー・ワイルダーが全面的に脚本を書き直した。
その後、クレジットされた面々が執筆に関わり、また別の内容になった。

話はデタラメでツギハギだらけになっており、1本の筋がビシッと通っているとは到底言えない。
コメディー映画ではあるが、その場その場のギャグを最優先し、ストーリーを二の次にした結果として、ツギハギ状態になっているわけでもない。
本来ならば、もっと整った形になるはずだったのだ。その予定が大幅に狂ってしまったのだ。
それは「監督が5人」という部分に繋がる。
最初から「5人で別々のパートを撮影し、それを組み合わせて1本の映画を作る」という企画だったわけではないのだ。

最終的に「監督が5人」という大所帯になってしまった原因は、ピーター・セラーズにある。
彼こそが、この映画をデタラメな仕上がりにした諸悪の根源だ。
そもそも、この映画はピーター・セラーズの主演作としてスタートした。しかし彼はオーソン・ウェルズとの共演に対して不安を抱き、異常なほど神経質になってしまった。
彼は友人のジョセフ・マクグラスを監督に起用したが、些細なことで腹を立てた。マクグラスは解任され、後任にロバート・パリッシュが起用された。

セラーズはウェルズと一緒に演技をすることを嫌がり、「共演」のシーンでも別々に撮影することを要求した。それだけで問題は解決せず、セラーズは撮影に姿を現さなくなってしまった。
彼が実質的に途中降板してしまったため、製作サイドは根本的に企画を練り直す必要に迫られた。
そこで「複数の人間がボンドになる」というアイデアが持ち上がり、新たに何名かの脚本家を雇ってシナリオを大幅に変更した。
追加撮影によってデヴィッド・ニーヴンの出番が大幅に増やされ、何とか完成に漕ぎ付けた。
しかし、そんな経緯を経ているもんだから、おのずとしてポンコツ丸出しの仕上がりになってしまったわけだ。

引退していたジェームズが復帰を要請されるのなら、彼の活躍を追う内容にすればいいはずだ。
しかし復帰した彼の行動をメインに描いているのは最初だけで、すぐに「対女性スパイ装置のためのスパイを選ぶ」という展開になる。そしてクーパーがマネーペニーに選ばれ、訓練を受ける様子が描かれる。
なので彼を「ジェームズの後継者」として追うのかと思いきや、すぐにヴェスパーが仕事を依頼される展開へ移る。
さらにトレンブルが登場し、続いてマタが仕事をする様子も描かれる。
そのように視点がどんどん切り替わっていくのだが、これによって作品に広がりが出て面白くなるなんてことは全く無い。

シーンが上手く繋がっていないことが、かなりハッキリと分かってしまう箇所も幾つかある。
例えば、ホテルを出たヴェスパーが拉致されてトレンブルが奪還しようとするシーン。
カットが切り替わると、タキシードだったトレンブルがレーシングスーツ姿に変身している。彼はスポーツカーを奪って発進させるが、カットが切り替わるとルシッフルに捕まっている。
どういう経緯で捕まったのか、全く分からない。しかも、レーシングスーツから再びタキシードに戻っている。
メチャクチャである。

トレンブルが捕まると、拉致されていたはずのヴェスパーが現れてルシッフルを倒す。トレンブルは何も活躍しない上に、ここで出番が終了してしまう。
そして終盤に入ると、ジェームズとドクター・ノアが対決する展開になる。肝心なクライマックスで、主演のはずのピーター・セラーズは1カットも登場しない。
どう頑張って編集しても、途中で投げ出すまでに彼が出演したシーンを使って、クライマックスを構築することが出来なかったようだ。
こうして、最初から最後までデタラメでグダグダの失敗作は幕を閉じるのであった。

(観賞日:2020年9月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会