『ダウト〜偽りの代償〜』:2009、アメリカ

TVリポーターのC・J・ニコラスは、次の標的としてマーク・ハンター検事に目を付けていた。ハンターは裁判で連勝し、次の知事候補として注目を浴びていた。裁判所へ赴いたニコラスは、22歳のルシンダという女性が黒人のアンドレ・ベンソンに殺害された事件の裁判を傍聴した。ハンターはベンソンの犯罪を厳しく糾弾し、有罪判決を勝ち取った。裁判の後、ニコラスはハンターの部下のエラ・クリスタル検事補に声を掛けて「警察の尋問について調べてる。録画テープを貸してくれ」と頼んだ。彼はディナーにも誘い、中華レストランでエラと食事を取った。
ニコラスは同僚のコリー・フィンリーと共に上司のマーティン・ウェルドンと会い、「ハンター検事は証拠を捏造している」と言う。彼はハンターについて、「3年前に続いて敗訴した後、17連勝している」と告げる。ベンソン事件で現場の遺留品は吸殻だけだったが、それに関してニコラスは「薬莢さえ拾った犯人が、吸殻を残すのは変だ」と主張する。さらに彼は尋問の録画テープを見せ、マーチャント警部補がベンソンに煙草を吸わせたことに注目して「この吸殻を使った」と述べた。
マーチャント警部補はハンターの刑事時代の同僚で、勝訴した事件を全て担当していた。勝訴の決め手になったのは、全てDNAだった。ウェルドンはニコラスの主張に信憑性が乏しいと判断した上で、「視聴率が酷いので調査報道班は廃止になった。一般報道に異動だ」と通告した。「大スクープは?」とニコラスが反発すると、彼は「マトモな証拠を持って来い。ハンター検事はどうやって吸殻を被害者の横に置いた?尋問が行われたのは、現場写真の3日後だぞ」と述べた。
ニコラスは一般報道の仕事に不満を抱き、必ずハンターの不正の証拠を掴むと決めた。エラとデートした彼は、自宅に連れ込んでセックスした。エラが優秀賞のトロフィーに気付くと、ニコラスは「当時はバッファローの局にいた。タイーシャという女性のドキュメンタリーだ。15歳で母親の再婚相手の子を妊娠し、冬に家を追い出された。寒さを凌ぐため、体を売った。その後、出産したが胎児は死んだ」と説明した。ドキュメンタリー番組を見せてもらったエラが「その後、彼女は?」と尋ねると、ニコラスは「インタビューの2週間後、薬の過剰摂取で死んだ」と答えた。
ニコラスはフィンリーに、「ハンターの不正を証明する。殺人事件を利用する」と語る。彼は「被害者はヤク中か売春婦がいい。物的証拠は漠然としていて、動機は不明。状況証拠で僕を犯人にする」と述べ、協力を要請する。意味の分からないフィンリーに、彼は「事件後に証拠を買い集める様子を撮影してくれ。ハンターは必ずDNAを出して来る。その時に君が撮った映像を提出するんだ」と説明した。リスクの大きい計画だと感じたフィンリーは難色を示すが、ニコラスは熱い言葉で説得した。
ニコラスとフィンリーはドロレス・オーウェンズというヤク中の売春婦が殺された事件を知り、それを利用することにした。ニコラスはニッカーソン刑事に接触し、現場写真と報告書を入手した。彼は犯人に関する情報を確認し、飛び出しナイフやスキーマスクを購入した。さらにモンタルヴォのスニーカーや、ジャック・テリアのハーフも手に入れた。ニコラスは酒を飲んで車を運転し、わざと警官に捕まった。彼は警察署で釈放される時、ニッカーソンが見ていることを意識しながらモンタルヴォのスニーカーを履いた。
ニコラスの思惑通り、ニッカーソンは捜索令状を取って彼の家を調べた。ニコラスはドロレス殺しの容疑者として、その場で逮捕された。そこへマーチャントが来て、ニッカーソンに「検事の指示で私が尋問する」と告げた。裁判が始まると、ニコラスはフィンリーに「検事が偽の証拠を出すまで動くな」と指示した。ニコラスにはスポタ弁護士が付き、検察側と互いの証人を立てて尋問が行われた。ハンターはマーチャントから「ニコラスは事件の2日後にビデオカメラやスウェット、スキーマスクを購入し、保護センターから犬を引き取ってる」と聞かされ、自分を罠にハメるつもりだと確信して「そうはさせない」と口にした。
次の公判で、ハンターはスウェットの再調査を依頼したことを明かした。ニコラスは血液から自分のDNAが検出されたことを聞き、すぐにフィンリーへの合図を出した。フィンリーは車を走らせて部屋に戻るが、何者かに荒らされて撮影したDVDが盗まれていた。慌てた彼が銀行へ向かうと、マーチャントが尾行した。フィンリーは貸金庫からDVDを引き出して裁判所へ向かうが、マーチャントの追跡を受ける。マーチャントは車を衝突させ、フィンリーに事故を起こさせた。彼は車に火を放ち、フィンリーを爆死させた。
フィンリーが裁判所に来ないため、スポタは休廷を申し入れた。シェパード判事は許可し、公判は月曜日に延期された。月曜日、ニコラスは自ら証人になり、ハンターの捏造を証明するために犯人に成り済ましたと主張した。スポタは証拠として、スウェットやスキーマスクを購入した時のレシートを提出した。ハンターは「それが証拠だと?」と軽く笑い、「改めて尋ねる。証拠はあるか?」とニコラスに質問した。ニコラスが「同僚が撮ったDVDがある。だが、同僚は事故死した」と話すと、ハンターは「DVDが存在した証拠は?」と訊く。ニコラスは「証拠は僕の言葉だ」と言うが、陪審員は有罪判決を下した…。

監督はピーター・ハイアムズ、原案はダグラス・モロー、脚本はピーター・ハイアムズ、製作はリモー・ディアマント&テッド・ハートリー&マーク・ダモン、製作総指揮はアラン・ゼマン&コートニー・ソロモン&ローラ・アイヴィー&ステファニー・ケイレブ&アーロン・レイ&マイケル・ヘルファント&ファイサル・S・M・アル・サウード&スティーヴン・サクストン、共同製作はマイケル・P・フラニガン&ジョナサン・S・マーシャル&ケヴィン・コーニッシュ&ジェームズ・ポートリース&タマラ・ストゥパリヒ・デ・ラ・バラ、製作協力はオルガ・ティムシャン&ジョン・ハイアムズ、撮影はピーター・ハイアムズ、美術はジェームズ・A・ジェラードン、編集はジェフ・ガーロ、衣装はスザンナ・プイスト、音楽はデヴィッド・シャイア。
出演はジェシー・メトカーフ、アンバー・タンブリン、マイケル・ダグラス、ジョエル・デヴィッド・ムーア、オーランド・ジョーンズ、ローレンス・ベロン、シーウェル・ホイットニー、デヴィッド・ジェンセン、シャロン・ロンドン、クリスタル・コフィー、ランデル・リーダー、ライアン・グロリオソ、ジョン・マッカーシー、グラント・ジェームズ、エリック・ギプソン、ジェリー・メイ、カール・セイヴァリング、ケルヴィン・ペイトン、ミシェル・ウィリアムズ、アーランド・スミス、ダン・ハーヴィル、フレッド・エリス、ウォレス・メルク他。


フリッツ・ラングが監督を務めた1956年の映画『条理ある疑いの彼方に』を基にした作品。
ただし内容は大幅に異なっている。
監督&脚本は『エンド・オブ・デイズ』『サウンド・オブ・サンダー』のピーター・ハイアムズ。
ニコラスをジェシー・メトカーフ、エラをアンバー・タンブリン、ハンターをマイケル・ダグラス、フィンリーをジョエル・デヴィッド・ムーア、ニッカーソンをオーランド・ジョーンズ、マーチャントをローレンス・ベロン、ウェルドンをシーウェル・ホイットニー、スポタをデヴィッド・ジェンセン、シェパードをシャロン・ロンドンが演じている。

ニコラスは「ハンターの不正の証拠を必ず掴む」「ハンターの捏造を暴く」と燃えているが、正義感や使命感で動いているわけではない。大きなスクープをモノにして、注目を浴びたいだけだ。
それは早い段階でハッキリと分かる。何しろニコラスは、「ハンターは証拠を捏造している」とは言うが、「無実の人間を有罪にしている」とは一言も言わない。
ようするに、「有罪だけど証拠が足りないから捏造している」ってことであっても、そこはどうでもいいのだ。
ハンターの捏造さえ暴くことが出来れば、それでいいのだ。

タイーシャのドキュメンタリー番組に触れるシーンは、「ニコラスは本気で社会正義のために動いている。ジャーナリズム精神に溢れた熱い男である」ってことをアピールする狙いがあるのかもしれない。
でも、そこにミスリードの効果は全く無い。
ハンターの不正を暴くという目的に対する異常なほどの固執によって、ニコラスに名声欲しか無いことは明白だ。
フィンリーにも「ピューリッツァー賞を取ろう。掴むべきチャンスが目の前にあるんだ」と熱く語っているしね。

検事も刑事も、情報管理に対する意識はガバガバだ。
エラはニコラスからデートに誘われ、簡単に尋問の録画テープを渡す。ニッカーソンはアメフトのシーズンチケットをプレゼントされ、簡単に現場写真と報告書を渡す。
ハンターの捏造も問題だけど、こっちも問題だろうに。マーチャントはハンターとグルだけど、エラやニッカーソンは違うわけで。
特にエラなんかは、ハンターを信じている頃から「惚れた相手だから」ってことでニコラスに情報を漏洩しているわけで、それは検事補として失格じゃないかと。

ニコラスの醜い思惑が明らかになった時点で、彼の計画が順調に進まないことは何となく予想できる。ピンチが訪れるどころか、最悪の場合はそのまま犯人として収監される羽目になるだろうってのも予想できる。
ただ、その段階では「ニコラスみたいな奴は痛い目を見ればいいんじゃねえの」と思うのだが、ハンターがマーチャントを使ってフィンリーを抹殺させる展開が訪れると、また話が変わってくる。
そうなると、もはやハンターには「法で裁けない悪を裁くために証拠を捏造している」という可能性が完全に消えるからね。
歪んだ正義感や行き過ぎた正義感で動いているのではなく、ただ野心のために動いているクズってのが断定できるからね。

ただ、実はハンターの行動って、ちっとも利口じゃないのよね。
まず17連勝という時点で「やり過ぎじゃね」と思うが、しかも担当が全て元同僚のマーチャントで、勝訴の決め手は全てDNA。
そんなの、ニコラスじゃなくても誰かが疑って調べるだろ。次の知事候補ってことになれば、対立候補の陣営も動くだろ。
あとさ、全ての裁判で証拠を捏造しなきゃ勝てないって、捜査した警察はどんだけボンクラなのよ。そんな事件ばかりが続くって、どう考えても変だろ。

ハンターがニコラスの策略に気付くと、それを阻止するためにマーチャントを使ってフィンリーを始末させる。ここではマーチャントがフィンリーを追い掛けるカーチェイスが描かれる。
その辺りで派手な見せ場を作りたかったんだろうとは思うけど、「法廷サスペンスだけで頑張れよ」と言いたくなる。
安易にアクションに頼るのは、ものすごくカッコ悪いわ。
それに、そんな目立つ行動を取るのはリスクがデカすぎるだろ。フィンリーの車が追跡を受けて暴走している様子は、多くの人々に目撃されているはずだし。

ニコラスが死刑判決を下されたら、ホントなら無実の罪を着せらせたことに対して同情心を抱かなきゃいけないはずだ。そして、彼の無実を証明するためにエラが行動を開始したら、彼女を応援したい気持ちにならなきゃいけないはずだ。
でも、そんな気持ちは全く湧かない。
「ニコラスがバカな策略に出て失敗しただけなので、自業自得でしょ」と冷めた気持ちになる。
そして、そんな奴のために頑張るエラに対しても、「バッカじゃなかろか」と冷めた気持ちになる。

そりゃあ、ニコラスのやったことに比べると、それで死刑になるってのは割に合わないかもしれない。だけど、そもそも失敗したら死刑になるリスクがあることは分かり切っていたわけで。
それなのに、「絶対に成功する」と高を括って余裕たっぷりだったので、「ざまあ」としか思えないのよね。
っていうか、ニコラスもハンターもバカだし、そしてクズなんだよね。
だから、これはバカどクズな奴らの醜い争いでしかない。
そんな攻防を見せられても、ハラハラもドキドキもしないよ。

ハンターが証拠を捏造していることは、彼の言動から早い段階で明らかになっている。なので、調査を進めたエラが捏造を知って驚いても、こっちからすると「とっくに分かってることだし、何を今さら」と冷めた気持ちになるだけだ。
もちろんエラは確固たる証拠を入手するわけで、それは大きな進展と言っていいだろう。でも、それは予定調和の既定路線を粛々と辿っているだけでしかないのよね。「ハンターにバレるかも」というピンチも、ほぼ皆無に等しいし。
証拠を入手してからマーチャントに命を狙われるけど、それぐらいしかピンチは無い。
しかも、そのピンチが訪れた段階で本編の残り時間は10分程度なので、「遅いし少ないし」と言いたくなる。

もちろんエラの行動によってハンターの悪事は露呈し、ニコラスは釈放される。
その後、「実はニコラスが賞を獲得した番組はやらせで、タイーシャは生きていた。そのタイーシャに脅されて金を要求されたので、ニコラスは殺害した。それがドロレス」ってことをエラは悟る。彼女は警察を呼び、ニコラスに「くたばれ」と吐き捨てて去る。
でもエラは、そんなクズ野郎に惚れて、彼のために上司を裏切ったわけで。
ただのアホでしかなかったので、そのドンデン返しも全くスカッとしないんだよね。

(観賞日:2021年11月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会