『閉ざされた森』:2003、アメリカ

11月1日、パナマ。ハリケーン警報が出る中、ネイサン・ウエスト軍曹率いる米軍クレイトン基地のレンジャー部隊が脱出訓練に向かった。 ジャングル上空を飛ぶヘリの中で、ウエストは隊員6名に「2人1組で3チームを作れ」と命じた。その17時間後、レンジャー部隊からの 定時連絡が無いため、軍用ヘリが捜索に出た。ジャングル上空から捜索していた兵士たちは、隊員1名が負傷した仲間を背負って歩く姿を 発見した。その隊員は、追い掛けてきた別の隊員と銃撃戦になっていた。
基地に戻ってきたレンジャー部隊は3名で、その内、ミュラーは銃撃戦で死亡していた。負傷していたケンドルは病院へ運ばれ、彼を 背負っていた隊員の尋問が行われることになった。男は認証票からダンバーだと判明した。残り4名は行方不明のままだ。クレイトン基地 の警務隊長ジュリー・オズボーン大尉が尋問を担当するが、ダンバーは黙秘を続けた。彼は紙に「基地以外のレンジャー隊員になら話す」 と記し、その下に8という数字を書いた。
基地司令のビル・スタイルズ大佐は、尋問のために同期生のトム・ハーディーを呼び寄せることにした。元レンジャー隊員のトムは現在、 麻薬捜査官となっている。だが、ディーラーが彼を買収したと証言したため、捜査から降ろされていた。部外者のトムに尋問を任せること に、オズボーンは反発した。そんな彼女に、トムは「3分で口を利かせる」と自信満々で言う。トムはダンバーの前で野球について語り 、彼に口を開かせた。
トムは「自分も昔、ウエストの訓練を受けた」と話し、4人が死んでいるという情報をダンバーから引き出す。だが、ダンバーは「事件に ついては何も話せない」と言う。そこでトムは、「それならウエストや仲間のことを話せ」と持ち掛けた。ダンバーは、ウエストが黒人の パイクを毛嫌いしていたことを話した。グリーンヘル訓練では、黒人嫌いのミュラーでさえ同情するほど、パイクはウエストに苛められた 。そこから戻った直後に、脱出訓練を命じられたのだという。
訓練に参加した隊員はケンドル、ダンバー、パイク、カストロ、ミュラー、そして紅一点ニューネズの6名だった。それだけ話すと、 ダンバーは「これ以上は喋らない」と告げた。トムはオズボーンと共に、ケンドルの収容された病院へ向かう。トムと軍で同期だった ヴィルマーが、そこの院長をしていた。ケンドルが証言を拒むと、トムは荒っぽい態度で「ダンバーが何を喋ったか知らないから冷や汗を かいてるんだろ」と言い放って病室を出た。それは彼の作戦だった。ケンドルはトムとオズボーンを呼び戻した。
ケンドルはトムたちに、自分が同性愛者であること、4ヶ月ほど前に恋人が出来たことを明かす。将軍である彼の父親はそのことを知り、 スキャンダルを恐れた。彼はケンドルをウエストの訓練コースに入れた。ウエストは腹を立て、ケンドルが同性愛者だと言いふらした。 脱出訓練の時、ウエストはダンバーとミュラー、パイクとニューネズ、ケンドルとカストロを組ませた。その時のジェスチャーを見て、 ケンドルはウエストが自分を殺すつもりだと確信した。
ケンドルはトムたちに、「ウエストは俺を嫌ってるカストロと組ませた。カストロに金を渡して、俺を事故に見せ掛けて殺すつもりだと 確信した」と語る。ジャングルを進んだ2人は、白煙弾を背中に受けたウエストの黒焦げ死体を発見した。そこにニューネズが現われるが 、パイクがいない。「途中ではぐれた」と言うので、3人は小屋へ向かう。そこにはダンバーとミュラーが待っていた。
遅れて小屋に来たパイクは、堂々とした態度で「ウエストは俺が殺した」と告げた。ミュラーが殴り掛かるのをケンドルたちが制止し、 パイクを憲兵に引き渡すことに決定した。みんなが眠った頃、パイクはケンドルを呼び、「俺たちが英雄になるチャンスだ。ミュラーと ニューネズを始末しよう。後の2人は協力するはずだ。そうすりゃウエスト殺害犯を退治した英雄になれる。後は話の辻褄さえ合わせれば いい」と持ち掛けた。ケンドルは愕然として「本気か」と漏らし、その話に乗らなかった。
その後、眠っていたケンドルが目を覚ますと、パイクがダンバーを呼んで同じ作戦を持ち掛けていた。ダンバーがミュラーを射殺しようと したため、慌ててケンドルは止めに入った。しかしカストロに弾丸が当たり、ケンドルは意識を失った。気が付くと彼はダンバーの背中に いて、ミュラーが追い掛けてきた。そこまで証言すると、ケンドルは「ダンバーが全員を殺した」と告げた。
トムは基地に戻り、スタイルズに「パイクがウエストを殺し、ダンバーがカストロ、ミュラー、ニューネズを殺害した」と報告した。 しかしスタイルズは「物的証拠が無い以上、ダンバーの自供が必要だ」と告げる。トムはダンバーの元へ戻り、ケンドルの証言について 語った。するとダンバーは「あいつは嘘をついてる。ケンドルとミュラーは麻薬の商売に手を出していた。病院のドラッグを売っていた」 と言い出した。トムが挑発的な態度を取ると、ダンバーは掴み掛かった。
トムが腹を立てて基地を去ろうとすると、スタイルズが呼び止めた。トムは「お前はウエストの酷いやり方を黙ってた。あいつを殺したい と思う奴いても当然だ」と非難した。オズボーンはトムに「このままだと事件は表沙汰にならず、ウエストの酷い行為も闇に葬られるだけ 。私は諦めない」と告げる。トムは「ダンバーはウエストを撃ってないと言った。だがウエストは撃たれたんじゃない。白煙弾でやられた とケンドルは証言してる。ダンバーは死体を見ていないんだ」と彼女に語った。
尋問に戻ったトムは、ダンバーから「死体は運河の水際にあった。白煙弾は爆発したが、近くにウエストはいなかった」と聞かされる。 ダンバーの証言によれば、彼がケンドルたちと共に小屋へ行くと、ミュラーが一人でいた。パイクとは、途中ではぐれたという。そこへ 来たパイクが白煙弾を持っていなかったため、ケンドルたちは彼をウエスト殺害の犯人と断定し、両手を縛った。
みんなが眠りに就いた頃、パイクはダンバーを呼び、「やったのはミュラーとカストロだ。きっと麻薬のことがバレたから殺したんだ」と 言い、ミュラーから貰ったというドラッグカクテルを見せた。ダンバーはパイクに頼まれ、縄を切ろうとする。それに気付いたミュラーは 、カッとなってパイクを射殺した。カストロとニューネズは、ダンバーとケンドルに銃を構えた。その3人がグルだったのだ。ハリケーン で小屋が崩れる中、銃撃が起きた。ダンバーはケンドルを背負い、追ってきたミュラーを射殺したのだという。
証言を聞いたオズボーンが「物的証拠が必要よ」と言うと、ダンバーはドラッグカクテルを見せた。彼は「パイクの話だと、横流しを やってたのはヴィルマーだ」と告げた。トムとオズボーンは病院へ行ってヴィルマーを脅し、「共犯者はミュラーとケンドルだ」という 証言を引き出した。彼は「ウエストにバレてたのは知らなかったし、ジャングルで何があったのかは知らない」と語った。
オズボーンは、「たかがヤクを捌くためだけに懲役20年の刑を犯すだろうか」と腑に落ちないものを感じた。ケンドルが誰かを庇っている と考えたオズボーンだが、トムから報告を受けたスタイルズは「ケンドルには近付くな」と命じる。しかしオズボーンは命令に逆らい、 トムと共に病室へ戻った。ケンドルは適当にはぐらかし、肝心なことは何も言おうとしなかった。
ケンドルの発言を聞いたオズボーンは、彼がダンバーと話を合わせ、護送機が来るまで時間稼ぎをしていると推理した。だが、その刹那、 ケンドルは大量に吐血した。彼はオズボーンの掌に血で「8」と書き残し、息を引き取った。トムはオズボーンに、スタイルズから聞いた 話を明かした。スタイルズはトムに、基地に特殊任務を帯びた秘密部隊が存在すること、軍を離れて麻薬を扱う組織になったこと、彼らが セクション8と呼ばれていたことを話していた…。

監督はジョン・マクティアナン、脚本はジェームズ・ヴァンダービルト、製作はマイク・メダヴォイ&アーニー・メッサー&マイケル・ タドロス&ジェームズ・ヴァンダービルト、共同製作はアンドリュー・D・ギヴン&リー・ネルソン&ルイス・フィリップス&ドロー・ ソレフ、製作協力はアンソン・ダウンズ&リンダ・ファヴィラ、製作総指揮はモリッツ・ボーマン&ベイジル・イヴァニク&ジョナサン・ D・クレイン&ナイジェル・シンクレア、共同製作総指揮はブラッドリー・J・フィッシャー、撮影はスティーヴ・メイソン、編集は ジョージ・フォルシーJr.、美術はデニス・ブラッドフォード、衣装はケイト・ハリントン、音楽はクラウス・バデルト。
出演はジョン・トラヴォルタ、コニー・ニールセン、サミュエル・L・ジャクソン、ティム・デイリー、ジョヴァンニ・リビシ、 ブライアン・ヴァン・ホルト、テイ・ディグス、ダッシュ・ミホク、クリスチャン・デ・ラ・フエンテ、ロゼリン・サンチェス、ハリー・ コニックJr.、ジョージア・ハウザーマン、マーガレット・トラヴォルタ、ディナ・ジョンストン他。


『ダイ・ハード』などアクション畑を中心に活躍してきたジョン・マクティアナンが監督したミステリー映画。
トムをジョン・トラヴォルタ、 ジュリーをコニー・ニールセン、ウエストをサミュエル・L・ジャクソン、スタイルズをティム・デイリー、ケンドルをジョヴァンニ・ リビシ、ダンバーをブライアン・ヴァン・ホルト、パイクをテイ・ディグス、ミュラーをダッシュ・ミホク、カストロをクリスチャン・デ ・ラ・フエンテ、ニューネズをロゼリン・サンチェス、ヴィルマーをハリー・コニックJr.が演じている。

とにかくドンデン返しをやってやろう、『羅生門』的な構成から意外な真相へ繋いでやろうという意識が強すぎて、「策士、策に溺れる」 の典型的なパターンにハマっちゃったかなあという印象だ。
ドンデン返しがあれば、ミステリーとして面白くなるとは限らないのよね。
効果的にドンデン返しを作用させるには、綿密に伏線を張り巡らせて、それをキッチリと回収する作業が重要になる。
意外な真相が明らかになった時に、「あのセリフ、あの場面は、そういう意味だったのか」とポンと手を打たせるモノになっていないと いけない。

この映画には、真相が明らかになるドンデン返しの場面が訪れても、パズルのピースが集まってガチッとハマるような醍醐味、爽快感が 全く無い。
その理由は簡単で、そもそも、そこまでの話がイマイチ把握できていないからだ。
「それはアンタの理解力が低いからだろ」と言われれば、そうなのかもしれない。
だが、この映画で、一度見ただけで把握できる人は、少ないんじゃないかと思う。

話を把握する上で何がネックになっているかというと、最も問題なのは、やはり「誰が誰なのかサッパリ分からない」ってことだろう。
回想シーンの映像は悪天候で薄暗いし、その行動を起こしたのか誰なのか分かりにくい。
なんせ全員がレンジャー部隊だから服装では見分けが付かない。
そこでキャラの区別が付かないと、どうしても話を把握するのは難しくなる。
そんな状態で、ダンバーとケンドルの語る内容がその度に全く違うので、頭がこんがらがって良く理解できない。

それだけではなく、この映画は、ちょっとアンフェアなやり方をしている。
ダンバーがトムに仲間のことを話し始めると回想シーンになるが、そこで描かれる映像は、実は偽りの内容だ。
完全ネタバレだが、本当はダンバーとして取り調べられている彼こそがパイクなのだ。
回想シーンで「パイク」として登場するのはダンバーだ。
小説の叙述トリックなら文章だけだが、そのように映像で見せてしまうと、これは本格ミステリーから逸脱し、アンフェアなモノとなる。

しかし、そこにある問題は、そういうことではない。
問題なのは、「その証言が観客を騙すためのモノでしかない」ということだ。
これも完全ネタバレになるが、ダンバーを装っているパイクは、実はトムとは仲間なのだ。
だからトムは、相手がパイクだということも、その証言が捏造だということも分かっている。
つまり本来なら、そこで嘘の証言をする必要性は皆無のはずなのだ。

一応、尋問にはオズボーンも同席しているので、「彼女を騙すため」という理屈を付けることは出来る。
しかし、そもそもトムとパイクは結託しているのだから、「他に同席者がいたら証言しない」とパイクが主張すれば済むことだ。
本来ならば、この物語において、パイク(ややこしいけど、ダンバーに成り済ましている男ね)が偽りの証言で騙さなきゃいけない人物 など存在しないはずなのだ。

ケンドルの証言が始まってからの回想でも、やはりパイクは黒人として登場している。
だが、ケンドルはパイクが白人だと知っているはずなので、その表現は相当に卑怯だ。
さらに言えば、それを「証言を聞いている側がイメージした映像」と解釈するにしても、やはりパイクが黒人なのはおかしい。なぜなら、 その証言を聞いているトムは、パイクが白人だと知っているからだ。
その中でパイクが黒人だと思っているのは、オズボーンだけだ。尋問を主導する役割をトムではなくオズボーンにしておかないと、「証言 を聞いている側がイメージした映像」という言い訳も成立しない。
まあ、そうだったとしても、やっぱりアンフェアな手口だとは思うけど。

劇中、ダンバー、ケンドル、トムがそれぞれ「話の辻褄さえ合えばいい」と口にしていて、それはオズボーンがトムを疑うキーポイントに なっているのだが、この物語において、その肝心の辻褄が合っていない。
そもそも、偽物ダンバーやトムの目的が何なのか、それさえも良く分からないのだ。
彼らはセクション8のメンバーなのだが、それが明かされても、何のために偽物ダンバーが嘘の証言を重ねたのか、なぜトムが証言を 信じている芝居を続けたのか、それがサッパリ分からない。

完全ネタバレだが、トム、ウエスト、偽物ダンバー、偽物パイク、カストロ、ニューネズはセクション8のメンバーで、トム以外の面々は 麻薬密売を探るため基地に潜入していた。
ミュラー、ケンドル、ヴィルマーが関与について、ウエストスタイルズに報告した。
だが、スタイルズもグルだったので、ミュラーとケンドルにウエストの始末を命じた。
そこでトムはウエストを救出するための作戦を練り、それに関連してジャングルでの訓練が行われたという流れだ。

で、それは理解できても、「その目的のために、そこまで込み入った作戦を取らなきゃいけないのか」という疑問は消えない。
そもそも、セクション8を統括しているのは、軍の上層部なのか、それとも完全に独立した組織なのか、それさえ良く分からないし。
あと、肝心のミュラーたちが死んでもヘラヘラと笑っていられるってことは、「裁判に持ち込むための証拠を集める」という作業も絶対に 達成しなきゃいけない目的ってわけではなさそうだ。
軍内部で起きた犯罪を秘密裏に処理することを目的とする組織だとしたら、ウエストさえ救出すれば、後は犯罪に加担した連中を脅して 白状させ、処理すりゃいいだけでしょ。

(観賞日:2010年12月6日)


第26回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最もインチキな言葉づかい(男性)】部門[ジョン・トラヴォルタ]
ノミネート:【最もインチキな言葉づかい(女性)】部門[コニー・ニールセン]

 

*ポンコツ映画愛護協会