『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』:2011、アメリカ&ニュージーランド

少年記者のタンタンは、市場で似顔絵を描いてもらう。愛犬のスノーウィーはスリのシルクを見つけ、後を追う。タンタンが完成した似顔絵を受け取ったところへ、スノーウィーが戻って来た。タンタンはユニコーン号という帆船の模型に目を奪われ、それを購入した。そこへ小太りの男が走って来て、倍額で買い取りたいと申し入れた。タンタンが断ると、男は「君のために言ってるんだ。とんでもない危険に足を踏み入れている。すぐに手放せ。連中は優しくないぞ」と警告して立ち去った。
男が去った直後、サッカリンという男がタンタンに声を掛けた。彼はアドック卿の所有していたムーランサール城を購入したばかりであることを告げ、その模型は城に飾られていた物なので言い値で買いたいと申し入れた。やはり売らずに帰宅したタンタンは、模型に何か秘密があるのではないかと考えた。窓から侵入してきた野良猫をスノーウィーが追い回した時、模型が棚から落ちてマストが折れた。そこから金属の筒が落ちたが、タンタンは気付かずに棚の下へ蹴り込んでしまった。
タンタンは図書館へ出掛け、ユニコーン号について調べる。ユニコーン号は最後の航海で海賊に襲われ、船長だったアドック卿を除く船員が皆殺しにされた。秘密の積み荷があったという噂が広まる中、アドック卿は「アドック家の名を継ぐ者だけがユニコーンの秘密を知る」と死の間際に言い残していた。タンタンが帰宅すると、模型が盗まれていた。彼はムーランサール城に潜入し、模型を見つけて運び出そうとする。だが、そこへサッカリンと執事のネストルが現れた。タンタンは「これは僕の模型だ」と主張するが、マストが折れていないのに気付いた。それはサッカリンの所持品だった。
タンタンはアドック卿が同じ模型を2つ作ったこと、サッカリンが2つの同じ模型を欲しがったことに疑問を抱いた。ネストルはタンタンを城から送り出す際、「マストが壊れたのでしょう?部品が揃えばいいのですが。早くお探しなさい」と口にした。その言葉を不思議に思いながらタンタンが帰宅すると、部屋が荒らされていた。スノーウィーの鳴き声に導かれたタンタンは棚の下を調べ、筒を発見した。筒の中には羊皮紙が入っており、「3隻のユニコーンが集い、大海原を進みて知る。行く手を照らす鷲の十字」といったメッセージと謎の記号が記されていた。
小太りの男が下宿を訪れるが、タンタンは玄関のドアを開けずに応対する。小太りの男は「君の命が危ない」と警告した直後、何者かに撃たれた。タンタンがドアを開けると、発砲した人物は車で逃走した。小太りの男は持っていた新聞紙に血文字で「カラブジャン」というメッセージを残した。翌日、インターポールの刑事であるデュポンとデュボンは、死んだ男が同僚のバーナビーであること、しかし何を調査していたのかは知らないことをタンタンに説明した。
タンタンは羊皮紙を入れた財布をシルクに盗まれたため、唯一の手掛かりとなったカラブジャンというメッセージについて考える。そこへサッカリンの手下であるアランやトムたちが現れ、タンタンを荷箱に詰めて連行した。一味はタンタンを貨物船カラブジャン号に乗せて羊皮紙を探すが、もちろん発見できない。サッカリンは自分の羊皮紙を取り出し、タンタンに「これと同じ物があっただろう」と詰め寄る。タンタンは推理を巡らせ、模型が他にも存在するのではないかと考えた。
貨物室を出たサッカリンは、船長のハドックが目を覚ましたという報告を受け。サッカリンはハドックに酒を飲ませ、カラブジャン号を乗っ取っていたのだ。タンタンは忍び込んでいたスノーウィーにロープを切ってもらい、牢から抜け出した。彼は窓から脱出し、船長室に入り込んだ。サッカリンはアランたちに、タンタンは殺してもいいがハドックは殺すなと命じた。彼は「私らの間には深い因縁がある。その落とし前を付ける」と口にした。
タンタンはハドックがアドック卿の血筋だと察し、ユニコーン号について調べていることを話した。するとハドックは、祖父から遺言として秘密を聞かされたことを語る。しかし酒を飲み過ぎたせいで、何を言われたかは全く覚えていなかった。彼はタンタンに、アドック卿に3人の息子がいたが子孫は自分だけだと教える。それを聞いたタンタンは、ユニコーン号の模型が3つ存在すること、サッカリンが3つ目を探していることに気付いた。
タンタンは無線室に近付き、アランたちが「ミラノのマイチンゲール舞い降りる。行動開始の指示を待つ」というメッセージを受け取ったことを知った。一味が無線室を去った後、忍び込んだタンタンはパンフレットを発見する。サッカリンがモロッコのバグハルへ行くと気付いたタンタンは無線を打つが、一味に見つかって逃げ出した。彼はハドックと共に、救命ボートで脱出した。タンタンはハドックに、スルタン国のシークであるベン・サラードが帆船の模型集めを趣味にしていること、ユニコーン号がパンフレットに写っていたことを話す。3つ目の模型は、防弾ガラスのケースに飾られていた。
タンタンはハドックに、「謎を解き明かすには貴方の記憶が必要だから、サッカリンが貴方を捕まえた」と説明した。しかしハドックは、やはり祖父から聞いた内容を全く思い出せなかった。一方、デュボンとデュポンはシルクを尋ねるが、スリの被害者だと思い込んでいた。シルクの家には大量の財布が保管されていたが、それも2人はコレクションだと思い込んだ。シルクが自供しても、まだ2人は彼が犯人だと気付かなかった。しかしタンタンの財布を発見し、ようやく彼らはシルクがスリだと気付いた。
ハドックが意気込んでボートを漕ぎ始めた時、オールが頭に激突したタンタンは気を失った。ハドックはボートにあった酒を見つけ、それを飲みほした。タンタンが意識を取り戻すと、泥酔したハドックがボートで焚き火を始めていた。タンタンたちが遭難していると、そこに水上飛行機が飛来して機銃掃射した。タンタンは拳銃を発砲し、水上飛行機を墜落させる。彼は拳銃で操縦士と副操縦士を脅し、飛行機を奪って飛び立った。しかし積乱雲に突っ込んだ後、燃料切れでアフリカのサハラ砂漠に不時着した。
砂漠を歩いている途中でハドックは幻覚を見るが、その中で彼は祖父から聞いた話を無意識の内に語った。彼はアドック卿がユニコーン号で海賊と戦う様子を演じたが、肝心な部分を語る前に正気を取り戻してしまった。タンタンたちはアフガル基地司令のデルクール中尉たちに救助され、基地に保護された。しらふに戻ったハドックは、タンタンのことさえ覚えていなかった。スノーウィーが薬用アルコールを飲ませると、ハドックは再びアドック卿に成り切って暴れ出した。
ハドックは幻覚の中で、海賊の首領であるレッド・ラッカムと戦い始めた。船を占拠されたアドック卿は船員たちを人質に取られ、秘密の積み荷である財宝を引き渡した。しかし海賊は約束を破り、船員たちを皆殺しにした。アドック卿は隙を見て拘束を解き、ラッカムと戦う。彼はラッカムを追い詰め、ユニコーン号を燃やして海に沈めた。ラッカムの顔は、サッカリンと瓜二つだった。そこで正気に戻ったハドックは、サッカリンの目的が祖先の復讐にあると気付いた…。

監督はスティーヴン・スピルバーグ、原作はエルジェ、脚本はスティーヴン・モファット&エドガー・ライト&ジョー・コーニッシュ、製作はスティーヴン・スピルバーグ&ピーター・ジャクソン&キャスリーン・ケネディー、共同製作はキャロリン・カニンガム&ジェイソン・マクガトリン、製作総指揮はケン・カミンズ&ニック・ロドウェル&ステファーヌ・スペリ、製作協力はアダム・ソムナー、編集はマイケル・カーン、シニア視覚効果監修はジョー・レッテリ、視覚効果監修はスコット・A・アンダーソン、アニメーション監修はジェイミー・ビアード、スーパーバイジング・アート・ディレクターはアンドリュー・ジョーンズ、アート・ディレクターはジェフ・ウイスニウスキー、音楽はジョン・ウィリアムズ。
声の出演はジェイミー・ベル、アンディー・サーキス、ダニエル・クレイグ、ニック・フロスト、サイモン・ペッグ、トビー・ジョーンズ、ガッド・エルマレ、マッケンジー・クルック、ダニエル・メイズ、ジョー・スター、エン・レイテル、トニー・カラン、ソンジェ・フォータグ、ケイリー・エルウィス、フィリップ・リス、ロン・ボッティラ、マーク・イヴァニール、ネイサン・メイスター、セバスチャン・ロシュ、キム・ステンゲル、モハメド・イブラヒム、サナ・エトワール他。


ベルギーの漫画家、エルジェのバンド・デシネ『タンタンの冒険』シリーズを基にした作品。
原作シリーズの内、『なぞのユニコーン号』、『レッド・ラッカムの宝』、『金のはさみのカニ』をベースにしている。モーション・キャプチャーを使った3Dアニメーション作品として製作されている。
監督は『宇宙戦争』『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』のスティーヴン・スピルバーグ。彼がアニメーション映画を撮るのは、これが初めてだ。
タンタンの声をジェイミー・ベル、ハドックをアンディー・サーキス、サッカリンをダニエル・クレイグ、デュボンをニック・フロスト、デュポンをサイモン・ペッグ、シルクをトビー・ジョーンズ、サラードをガッド・エルマレ、トムをマッケンジー・クルック、アランをダニエル・メイズが担当している。

この作品を見た時、ロバート・ゼメキスがパフォーマンス・キャプチャーを採用して製作した一連のフルCGによる3D映画(『ポーラー・エクスプレス』『ベオウルフ/呪われし勇者』『Disney's クリスマス・キャロル』)を連想した。
ゼメキスの3D映画は、役者の動きを取り込んでCG加工し、リアルな人間に近付けようとすることが、逆に本物の人間との違いを浮き彫りにしていた。そして「実際の人間に近いけど、細かいトコが色々と違う」という微妙な違和感が、「なんか不気味」という印象に繋がっていた。
ロバート・ゼメキスのパフォーマンス・キャプチャー作品に比べれば、この映画は「実写に近付ける」というアプローチは控え目になっている。そのため、いわゆる「不気味の谷」現象は起きていない。
だが、それでもアニメーションとしては、かなりリアル志向と言える。そして、それがプラスに作用しているとは到底思えない。
モーション・キャプチャーを採用し、リアル志向で人間キャラクターを3Dアニメーション化するというのは、少なくとも現在の技術では(っていうか半永久的にそうかもしれないと密かに思っているんだけど)、決してプラスには作用しない。

そして、ロバート・ゼメキスのパフォーマンス・キャプチャー作品と同じ感想を、この映画にも抱くことになる。
それは、「実写で作ればいいのに」ってことだ。
ジェイミー・ベル、アンディー・サーキス、ダニエル・クレイグ、ニック・フロスト、サイモン・ペッグといった知名度のある面々を起用しておいて、映像を加工して3DCGアニメにするのが勿体無いと感じるのだ。
そのメンツで実写映画として作った方が、絶対にいいよ。もう「絶対」と言い切っちゃうよ。

ピーター・ジャクソンが『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラムを描写する際に持ち込んだように、非人間キャラクターを表現するのにモーション・キャプチャーを使うってのは納得できるし、賛同できるのだ。
しかし、人間キャラクターを描くのにモーション・キャプチャーを使うぐらいなら、そのまんま俳優に演じさせて実写で作ればいいでしょ、と言いたくなるのだ。
容姿を変えたければ、特殊メイクを使えばいい。
人間離れした動きや肉体の変化を付けたいのなら、VFXを使えば済むことだ。

3Dアニメーションの方が、実写よりも安い予算で作ることが出来るという事情はあるんだろう。
しかし、これまで多くの大作をヒットさせてきたスティーヴン・スピルバーグと『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソンがタッグを組んだのだから、多額の予算を製作会社に出してもらうのは、それほど厳しいとも思えないんだよな。
むしろモーション・キャプチャーを使った3Dアニメとして製作したために、ロバート・ゼメキスが手掛けた同様の先行作品が興行的に芳しくなかった影響もあって、ユニバーサルが出資を拒んで企画から降りてしまったわけだし。

タンタンを漫画のままのデザインでアニメ化せず、モーション・キャプチャーで3D化したら、「漫画と全く違う」という印象になるのは、当たり前と言えば当たり前だ。
しかし、これが例えばジェイミー・ベルが実写映画でタンタンを演じたとしたら、どうだろうか。
彼が髪型や服装をタンタンに寄せれば、それは「タンタンに似ている」「原作をリスペクトしている」という感想に繋がったんじゃないかと思うのだ。
リアル志向でアニメ化したことは、マイナスでしかない。

冒頭、タンタンが描いてもらっている似顔絵が完成すると、それはエルジェの原作の絵柄になっている。
で、その絵柄とモーション・キャプチャーで描かれたタンタンと比較すると、原作の絵柄の方が遥かに愛らしい。デザインは簡略化されているのに、表情が豊かだと感じる。
モーション・キャプチャーであっても、その気になれば表情の変化をもう少し豊かに付けることは出来たと思う。
この映画は、意図的に表情を抑えているように感じられる。

例えば模型を奪われたタンタンが「なんて馬鹿なんだ」と自分の愚かさを口にした時に、その台詞に比べると、悔しそうな表情は乏しい。
ムーランサール城に潜入して猛犬に吠えられた時も、かなり怯えているはずだけど、表情の変化が弱い。シルクに財布を盗まれた時も、かなり焦っているはずなのに、それが表情には現れない。
ひょっとすると、原作のバンド・デシネを意識して、あえて表情の変化を抑制しているのかもしれない。
しかし、そうだとしても、あまりにも表情が乏しすぎる。
キャラとして、半ば死んでいるのだ。

まだ脇役の面々の方が、キャラクター・デザインの優位性も手伝って、タンタンよりは感情の変化を読み取ることが出来る。
タンタンは、ダジャレみたいな表現になってしまうけど、ホントに淡々としすぎているのだ。
タンタンは使命感や正義感ではなく、基本的には好奇心で冒険しているんだから、もっと「ワクワクしている」とか「ハラハラドキドキしている」ってのをアピールした方がいいんじゃないかと。
感情が見えにくいってことが、魅力に欠けるという欠点に繋がっている。

ただし、仮に原作の絵柄でアニメ化した場合、たぶん表情の変化が控え目でも、それはそれで成立するような気がするのだ。
「すました表情で軽やかにピンチを回避し、ノンビリとした雰囲気の中で、スマートに事件を解決する」というタンタンの動かし方でも、そういうテイストとして作れば成立すると思うのだ。
だけど、この映画のようなデザインにすると、それだと厳しい。
実際、ちっともノンビリとした雰囲気は出ていないわけだし。

後半には羊皮紙を奪い合いながらタンタンたちと悪党一味がサイドカーと車で追い掛けっこをするアクションシーンがあり、そこは流れるようなアニメーション表現になっていて、スピード感もある。
だけど、今一つ乗れないモノがある。
その大きな理由は、キャラクターの表情が分かりにくいってことだ。
そもそも顔がアップになるカットが無いってことはあるけど、アップじゃなくても顔が写る箇所はある。しかしモーション・キャプチャーによる3DCGのせいなのか、どうも表情が見えにくいのだ。
しつこいようだけど、実写で作るか、原作のデザインを使ったアニメーションにするか、その二択だったと思うんだよなあ。

サッカリンの目的を「復讐」に設定したのは失敗だろう。ラッカムは海賊を引き連れてユニコーン号を襲撃し、財宝を奪おうと目論み、アドック卿とタイマンで戦って敗れて「貴様の一族を未来永劫、呪ってやるぞ」と言うんだけど、「いや、なんでだよ」と言いたくなるし。
そこをサッカリンの復讐心に繋げられてもなあ。ラッカムはアドック卿の部下を皆殺しにしたけど、自分の仲間は誰一人として殺されていないし、ただ財宝を奪うのに失敗しただけだぜ。逆恨みにしてもメチャクチャだわ。
単純に「財宝目当ての悪党」ということにしておいた方が、スッキリしたと思うんだけどねえ。
復讐心を目的に据えて、ハドックとの因縁を用意したメリットが見えない。

物語をテンポ良く進めるためには、ある程度の省略を入れるのは構わない。しかし本作品には、看過できない省略ポイントが存在する。
「そこは省略しちゃダメだろ」と言いたくなるのだ。
それは、タンタンが水上飛行機に発砲して着水させ、操縦士と副操縦士を銃で脅し、水上飛行機を奪って飛び立つシーン。
発砲した時点で飛行機は故障して飛べなくなっているわけで。それなのに、操縦士と副操縦士を銃で脅した後、カットが切り替わると出発シーンになるのよね。
あっという間に修理したのかよ。そんなに簡単に修理できるレベルだったのか。
そこは少し手順を変えたりすれば、スムーズに進行できると思うんだけどね。
例えば、「ボートを撃ってタンタンたちを始末したと思い込んだ操縦士が着水し、そこへ密かにタンタンが近付く」という形にするとか。そうすれば、水上飛行機は故障していないので、すぐに飛び立てるでしょ。

その水上飛行機のシーンでもそうだが、タンタンは拳銃を使用することはあるものの、決して人を傷付けない。子供向け映画としては、その健全さは素直に評価したいところだ。
でも素直に評価できないのは、それ以外の部分で無駄に死人を出しているってことだ。
まず回想シーンでは、ユニコーン号の船員たちが皆殺しにされている。明確に殺害シーンが描かれているわけではないが、「全員が死んだ」ということはハッキリと示されている。
また、バーナビーが銃殺されるシーンに関しては、出血まで描かれている。血でダイイング・メッセージを残すためには出血が必要なんだけど、どうも簡単に人を死なせているように思えてしまう。
この映画のテイストを考えると、むしろ死者を1人も出さずに構成した方が良かったんじゃないかと思うんだけどなあ。

(観賞日:2015年2月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会