『21ブリッジ』:2019、アメリカ

13歳のアンドレ・デイヴィスは、父で警官のレジナルドを殉職で失った。レジナルドは犯人グループの2人を射殺したが、最後の1人には逃げられていた。19年後、ニューヨーク市警殺人課で勤務するアンドレは、内務調査官の査問会に呼ばれていた。アンドレは9年の勤務で8名の犯人を射殺したことについて批判され、「正当な発砲だる後悔は無い」と言い切った。アンドレは独身で、老いた母のヴォネッタと暮らしていた。ヴォネットは痴呆の症状が進行し、アンドレをレジナルドと間違えることも多くなっていた。
深夜、マイケル・トルヒーヨとレイ・ジャクソンは顔を隠して銃を構え、ブルックリンのワイン貯蔵庫に侵入した。2人は支配人のトムを脅し、コカインの隠し場所を尋ねた。マイケルとレイはコカインがある冷凍庫へ赴くが、30キロと聞いていたのに10倍の量があるので驚く。危険を感じたマイケルは退却しようと考えるが、レイは「自由になれる」とコカインをバッグに入れる。50キロのコカインを持って店を出ようとしたマイケルとレイだが、4人の警官が来たので慌てて隠れた。
警官が店に入って来たので、マイケルとレイは気付かれた。レイは4人を射殺し、マイケルはナイフで襲って来たトムを撃った。マイケルとレイは車で逃走を図るが、応援の警官4名がパトカーが到着した。レイは3名を射殺して1名に瀕死の重傷を負わせ、マイケルと共に逃亡した。現場に来たアンドレは、85分署のマッケナ警察署長と会った。マッケナが「次の内務調査があれば弁護する」と約束したので、アンドレは「理由が必要だ」と告げる。するとマッケナは「これが理由だ」と部下たちの遺体を指差し、「復讐しろ」と告げた。殺された警官の中には、アンドレの警察学校時代の同窓生も含まれていた。
アンドレはマッケナから麻薬取締班のフランキー・バーンズ刑事と組むよう指示され、不満を漏らした。現場検証を行った彼は、犯人が2人だと断言した。マイケルとレイは連絡係のブッシュと合流し、銃を突き付けた。マイケルは依頼主のホーク・タイラーに会わせるよう要求し、「俺たちが取引する」と言う。ロウアー・マンハッタン警備部門のヨランダ・ベル巡査は、信号無視で走るマイケルたちのBMWを発見してアンドレに知らせた。
現場には副市長のモットとFBIのブラッド・ゲイルズ捜査官が現れ、市長の意向でFBIが事件に介入することを通達した。モットはアンドレに、「市長の望みは正義だ。法の裁きを与えないと。射殺したら真相が消える」と話す。フランキーは犯人がニューヨークに留まっていると告げ、その根拠として「50キロの上物を捌くには大物バイヤーが必要だし、犯人は運び屋じゃない」と述べた。マンハッタンの中華街でBMWが炎上しているという情報を知ったアンドレは、犯人を逃がさないためにマンハッタン島を封鎖するようモットに要求した。
マッケナとスペンサー副署長も同調し、アンドレは「深夜1時だ、昼じゃない」と訴える。モットは午前5時までの条件で、その要求を受け入れた。アンドレは島に渡る橋やトンネルを全て封鎖し、島を出る全ての列車を停止するよう指示した。アンドレやフランキーたちはBMWが放置されている場所に着き、別の車と接触していたことを知る。アンドレはヨランダに連絡し、その車について調べるよう頼んだ。マイケルとレイはホークの元へ行き、「30キロと聞いていたが、300キロだった。警官に追われてる」と責めるように言う。ホークが冷淡に「だったら取り引きして逃げろ。こっちは商売敵のブツを奪ったんだ」と言うと、マイケルは100万ドルを請求した。
アンドレたちは車の所有者であるリーの部屋に突入し、彼女と恋人を取り押さえた。リーは元カレであるトリアノに車を貸したこと、彼がクラブ「パンナム」のスタッフであることを証言した。ホークは20ドル紙幣で100万ドルを用意し、マイケルとレイに「洗浄しておけ」と言う。彼の愛人はマイケルたちに、金の洗浄をスーダン人のアディーに頼んでいることを教えた。彼女は2人に、「アディーは警察官も客にしている」と告げた。
アンドレはリーを事情聴取し、レイとマイケルが犯人だろうと告げられる。マイケルの兄であるアーベルはレイの親友で、一緒に従軍したアフガンで爆死していた。アディーのアパートに着いたマイケルとレイは、自分たちの名前がニュースで報じられていることを知った。85分署のバッチコとデュガンはパンナムに到着し、トリアノを発見した。彼らはトリアノに声を掛けた途端、容赦なく射殺した。アンドレは店に駆け付け、それを知って激怒した。
85分署のケリーは部下3人を連れてアディーのアパートへ乗り込み、ドア越しに撃ちまくった。右目を撃たれたアディーは、「8-5め」と舌打ちする。マイケルが意味を尋ねると、彼は「奴らのUSBだ」と答えた。マイケルがパソコンからUSBメモリを引き抜いて「これは?」と質問すると、アディーは「クールハンド。小文字だ」と告げた。マイケルとレイが窓から脱出すると、駆け付けたアンドレとフランキーが発砲した。レイは深手を負って食肉工場に逃げ込み、マイケルに別行動を指示した。
レイはアンドレに追い詰められ、命を落とした。マイケルはフランキーを捕まえ、アンドレが駆け付けると拳銃を突き付けた。マイケルはアンドレに、「店主は警察が来ることを知っていた。高純度の300キロだ。組織や警察が関係しなきゃ動かせない量だ」と話す。さらに彼は、ケリーが警告無しでアディーに発砲したこと、USBを貰ったことを語る。アンドレが銃を捨ててUSBを渡すよう要求すると、マイケルは拒否した。彼はフランキーを突き放し、その場から逃亡した。
アンドレは本部に連絡を入れ、マイケルが逃げた場所を伝えた。彼は食肉工場を中心にした半径7ブロックの封鎖を指示し、「マイケルは重要証拠を持っている。生け捕りにしろ」と告げた。マイケルはホテルに侵入して男性客を脅し、パソコンを拝借した。USBの中身を確認した彼は、85分署のバッジ番号や金額が列挙されているリストだと気付いた。マイケルはホテルを抜け出し、アンドレに見つかって逃げる。駆け付けた警官がマイケルを撃とうとすると、アンドレが制止した。マイケルは地下鉄に飛び込み、アンドレは後を追う…。

監督はブライアン・カーク、原案はアダム・マーヴィス、脚本はアダム・マーヴィス&マシュー・マイケル・カーナハン、製作はアンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ&マイク・ラロッカ&ロバート・シモンズ &ジジ・プリッツカー&チャドウィック・ボーズマン&ローガン・コールズ、製作総指揮はアダム・フォーゲルソン&レイチェル・シェーン&エイドリアン・アルペロヴィッチ&ワン・チョンジュン&ワン・チョンレイ&フェリス・ビー&マーク・カミネ&トッド・マクラス、共同製作はマルコム・グレイ&メリッサ・ラッカー、撮影はポール・キャメロン、美術はグレッグ・ベリー、編集はティム・マレル、衣装はデヴィッド・C・ロビンソン、音楽はヘンリー・ジャックマン&アレックス・ベルチャー 音楽監修はジェイソン・マーキー。
主演はチャドウィック・ボーズマン、共演はシエナ・ミラー、J・K・シモンズ、テイラー・キッチュ、ステファン・ジェームス、キース・デイヴィッド、アレクサンダー・シディグ、ルイス・キャンセルミ、ヴィクトリア・カルタヘナ、ゲイリー・カー、モロッコ・オマリ、クリス・ガファリ、デイル・パヴィンスキー、クリスチャン・アイザイア、サラ・エレン・スティーヴンス、ジェイミー・ニューマン、ピーター・パトリキオス、ジェイソン・ワード・ウィリアムズ、シュゼット・アザリア・ガン、カリル・マクミラン、ジョン・ダグラス・トンプソン他。


『ブラックパンサー』で注目を浴びたチャドウィック・ボーズマンが、翌年に主演して製作も兼任した作品。
TVドラマ『マーフィーズ・ロー』『ゲーム・オブ・スローンズ』のブライアン・カークが監督を務めている。
脚本は原案も担当した長編2作目のアダム・マーヴィスと、『ワールド・ウォーZ』『バーニング・オーシャン』のマシュー・マイケル・カーナハンによる共同。
アンドレをチャドウィック・ボーズマン、フランキーをシエナ・ミラー、マッケナをJ・K・シモンズ、レイをテイラー・キッチュ、マイケルをステファン・ジェームス、スペンサーをキース・デイヴィッド、アディーをアレクサンダー・シディグが演じている。

映画開始から30分ぐらいで、マンハッタン島の全面封鎖という展開が訪れる。
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』では青島刑事が「レインボーブリッジ、封鎖できません」と言っていたが、アンドレは簡単にマンハッタン島を封鎖できている。
幾ら7人の警官を殺した犯人を捕まえるためではあっても、そんなに簡単にOKが出ちゃうのかよ。しかも、その場でモットの一存で決定を出しちゃってるし。
仮に市長が出て来ても、そんなに簡単に封鎖は出来ないだろ。公共の交通機関までストップさせちゃうので、色んなトコに迷惑が掛かるわけで。
ファンタジー度数が高過ぎて、バカバカしくなる。

あと、せめて終盤に用意すべき展開だろ。「マンハッタン島を全面封鎖する」って、かなり大掛かりな作業になるでしょ。開始から30分で、クライマックスみたいな展開が訪れているじゃねえか。
ただ、そんな風に思っていたら、実際に封鎖された後、そういう「閉鎖された場所」を最大限に有効活用しようとする気配が全く見られないんだよね。
閉鎖されていようが開放されていようが、ストーリー展開に何の影響も与えていないようにしか思えない。
閉鎖されたことに対するマイケル&レイの焦りがあるわけでもなければ、アンドレたちが閉鎖したことを利用して追い詰めて行く筋書きがあるわけでもないし。

冒頭で幼少期のアンドレが父を殉職で亡くしたことが描かれ、その時点で「3人の内の1人は逃げた」ってことが示される。
じゃあ成長とたアンドレが残る1人を見つけ出して始末するようなことがあるのかと思ったら、それは無い。
成長したアンドレについては、「職務という名目で何人もの犯罪者を射殺している」ってことが示される。
いわば私刑執行人になっているわけだが、じゃあ「それが苦い結果を生む」とか「虚しさを覚える」という結末に繋がるのかと思ったら、そういう筋書きは無い。

マイケルとレイが登場すると、警官殺しと麻薬泥棒を巡る話が始まる。
その事件をアンドレが捜査する中で、私刑執行人としての考え方が反映されることは皆無に等しい。大勢の警官が殺されているが、それでアンドレが怒りを燃やすことも無い。
「汚職刑事たちがアンドレを利用してマイケルとレイを始末させようと目論む」という形で、「アンドレが多くの犯罪者を射殺している」という要素を使おうとしているんだろう。
ただ、そんな使い方をするのなら、「アンドレの幼少期に父が殉職している」とか「内務調査が入っている」という描写は無くてもいいよ。台詞で「アンドレが9年で8名を殺している」と少し触れる程度でも事足りる。
あと、どうせ汚職刑事が自分たちが始末に走っているので、アンドレなんて全く要らない存在になっているし。

マイケルとレイには「マイケルの兄がアフガンで爆死している」とか、「罠にハメられことを知る」という要素があるのだが、ここを厚くしてどうすんのかと。
導入部からすると、厚くすべきなのはアンドレのトコでしょ。
でもアンドレよりマイケル&レイの方が、メインのキャラクターにふさわしいんじゃないかと思ってしまうぞ。
群像劇っぽく構成することを狙ったのかというと、そういうことでもないし。どうであれ、中途半端になっているだけだし。

開始から48分辺りで、トリアノを射殺したバッチコ&デュガンにマッケナが「ドジめ」と言うシーンがある。
それ以前から怪しさは色々とあったが、そのシーンによって「85分署の連中は麻薬取引に絡んでいて、邪魔なマイケルたちを始末しようと目論んでいるんだな」ってことがハッキリと分かる。
そのため、マイケルがUSBの中身を調べるシーンで「85分署の警官のバッジ番号が並んでいる」と気付いても、驚きは何も無い。
この時点では「バッジ番号が並んでいる」とマイケルが気付いたことが示されるだけで、「麻薬取引に絡んでいる」と明示されるわけではないが、実質的にはネタが割れていると言っていい。

そんな感じで事件の真相は途中からバレバレになっているのだが、それでも表面的には隠している体裁を取っているので、不細工だなと感じる。
いっそのこと、序盤で分かりやすく観客にネタを明かした上で、物語を進めた方がマシだったんじゃないかと思ったりもするぞ。いや、ホントはダメなんだけどさ。
一応、全てがバレバレになっているわけじゃなくて、まだ隠されている事実もあるにはある。
ただし、それも大したサプライズではない。

アンドレはフランキーを捕まえたマイケルから、「今回の一件には警察が関与している」と聞かされる。しかしマイケルが逃亡した後、彼は本部に連絡して「マイケルが重要証拠を持って逃げた」と告げ、その周辺を封鎖させる。
マイケルの言葉を信じていないならともかく、ちゃんと耳を傾けたはずで。でも本部に「マイケルが重要証拠を持って逃げた」と告げて封鎖されたら、それは85分署の連中に「生かしておいたらマズいことになるから殺せ」と言っているようなモンだ。
マイケルを捕まえるために、周囲を封鎖させるのが必要な作業ってのは分かるよ。ただ、マイケルを生け捕りにするために動くのはアンドレだけで、85分署の連中は殺すために動いているわけで。
ってことは、マイケルが逃げた場所を教えて周囲を封鎖させたら、殺されるリスクの方が遥かに高いでしょ。

完全ネタバレだが、85分署の連中が麻薬取引に絡んでいるだけではなく、フランキーも関与している。だからフランキーは、地下鉄に来た時にマイケルを射殺しているわけだ。
ワイン貯蔵庫は85分署がコカインを隠している場所で、それを知った上でホークはマイケルとレイに奪わせている。
でも「警察が麻薬取引に関与していて、隠蔽のために人を殺して」ってのは、良くある真相だ。「頑張っても報われないから小遣い稼ぎでコカイン取引に手を出している」ってのも、既視感に満ちている。
全体を通して、使い古されたネタを何も工夫せずに、そのままなぞっているだけだ。
アクション演出に違いを付けるとか、キャラクターで面白味を出すとかってのも無いし。

(観賞日:2022年9月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会