『10 クローバーフィールド・レーン』:2016、アメリカ

ミシェルが夜道で車を走らせていると、恋人のベンから電話が掛かって来る。ベンは「言い争いなんて良くあることだ。逃げ出しても何の解決にもならない」と話し、戻って来るよう訴える。しかしミシェルは全く反応せず、電話を切った。ラジオを付けるとニュース番組が流れ、大規模な停電が続いていることをキャスターが報じる。その直後、ミシェルは追い越そうとした車に激突され道を外れ、意識を失う。彼女が目を覚ますと床に敷いたシーツに寝かされ、点滴を投与されていた。
そこは煉瓦造りの小さな部屋で、起き上がろうとしたミシェルは右膝を鎖で壁に繋がれていると知る。部屋の反対側に置いてあった荷物を引き寄せた彼女は携帯電話を使おうとするが、圏外になっていた。そこへハワードという男が食事を持って現れ、「ショック状態だったから点滴を打った。長く生きてもらいたい」と告げる。彼は松葉杖と鎖を外す工具を渡し、「気の毒だが、誰も探しに来ない」と言って部屋を出て行った。
ミシェルは鎖を外してズボンを履き、松葉杖の先を尖らせて武器にする。彼女はハワードをおびき寄せるため、布を燃やして通風口に入れた。警報が鳴ってハワードが来たので、ミシェルは松葉杖で襲い掛かる。しかし簡単に撃退され、鎮静剤を注射された。ミシェルが意識を取り戻すとハワードが近くに座っており、「私がここへ運んだから生きていられるんだ」と話した。「大規模な攻撃を受けた。化学兵器か核攻撃かは定かじゃないが、ここなら安全だ。ここは私の農場の地下だ。君は交通事故に遭って倒れていた。私が通り掛かって助けた」とハワードが語ると、ミシェルは「外で診察してもらいたい」と言う。
ハワードはミシェルに、「外の世界は有毒物質で汚染された。安全になるまで何年掛かるか分からない」と述べた。ミシェルが「家族に無事を伝えたい。電話を使わせて」と頼むと、彼は「生存者はいない」と告げた。部屋の外で物音がすると、ハワードは「少し待っててくれ」と告げる。彼が部屋を出た後、ミシェルは「何をしてる」という怒声と激しい物音を耳にした。夜になって目を覚ますと扉が開いていたため、ミシェルは部屋の外へ出た。すると食品棚のある場所の片隅に、エメットという若い男が寝ていた。
エメットは左肩に怪我を負っており、ここはシェルターで2日前からいるとミシェルに告げる。外へ出る方法をミシェルが尋ねると、「彼から何も聞いていないのか。外に出るのは死ぬのと同じだ。空気が汚染されて誰も生きられない」とエメットは語る。そこへハワードが来て、「こいつが怪我をしたのは自業自得だ。色々と嗅ぎ回った報いだ。さっきのは、こいつが棚を倒した音だ」と告げる。ハワードはミシェルに「付いて来い」と告げ、シェルターの共同エリアであるリビングやキッチンを案内した。
ハワードは「私の決めた時間しか使えない」とミシェルに言い、自分のプライベート・エリアにあるトイレを使うよう命じた。「見られたままでは無理よ」とミシェルは言うが、ハワードは「安全のためだ」とユニットバスのカーテンを閉めて使うよう指示した。ミシェルがファッション雑誌に気付くと、彼は「メーガンの雑誌だ」と言う。メーガンについてミシェルが尋ねると、ハワードは「もういないんだ」と短く告げた。
ミシェルが自分の説明を全く信じていないと感じたハワードは、「フランクとミルドレッドに会わせてやろう」と言う。彼はミシェルを気密室へ連れて行き、エアロック式のドアから外を眺めさせる。すると農場では2匹の豚が死んでおり、ハワードは「外に出れば同じ目に遭う」と口にした。ハワードのトラックに気付いたミシェルは、彼が自分の車に衝突したと確信する。エメットはミシェルに、ハワードのシェルター作りを手伝いたくて頼み込んだのだと話した。
ミシェルは「私は車をぶつけられて拉致された」と言うが、エメットは「俺もこの目で大きな閃光を見た。だからシェルターに駆け付けて飛び込んだ」と告げる。しかしミシェルは「すぐ近くで車の音がした」と言い、彼の説明を受け入れなかった。夕食の時、ミシェルがエメットに「胡椒を取って」と頼んで少し手に触れると、それを見逃さなかったハワードは激昂する。彼はミシェルに詰め寄り、「ここは私のシェルターだ。お前は私のおかげて生きていられる。裏切り者は態度で分かる」と怒鳴り付けて謝罪を要求した。
シェルターの上で車の音が聞こえた時、ミシェルは鍵束を掴んでハワードの顔面を殴り付けた。彼女は気密室のハッチを開錠し、外へ出ようとする。その時、外に車が停まり、降りて来たレスリーという女性が窓越しに「ここを開けて」と頼む。レスリーの顔は血まみれで、「ほんの少し触れただけ。移らないから」と懇願するが、ハワードが「今更手遅れだ。開けるな」と叫ぶ。ミシェルが迷っていると、レスリーは「入れろ、入れろ」と激しく窓を殴り付ける。ミシェルは怖くなってドアを開けず、地下室に戻った。
ハワードはミシェルに「告白することがある。君の車にぶつけたのは私だ。敵の攻撃が始まり、ここへ戻ろうと焦って起こした事故だ」と語り、「あの時は自分を見失っていたが、責任は私にある」と謝罪した。彼は顔の傷を縫うよう命じ、困惑するミシェルに縫合の方法を教えた。彼はメーガンが娘であることを明かし、パリの映画や文化に夢中だったと言った。彼はメーガンの写真を見せ、母親と一緒に出て行ったと話した。 しばらくは平穏な日々が続くが、シェルターが揺れて妙な音が聞こえる。ミシェルとエメットが動揺していると、ハワードは「たぶん軍用ヘリだ。アメリカの物じゃない。最初の爆発がフェーズ1だ。人口密集地域を徹底的に破壊し、フェーズ2で掃討作戦が展開される。ここ数日、衛星を介した暗号通信が増加してる。恐らく地球外からの信号だ。さっきのは武装ヘリで、生き残った者を殺すために出動した」と説明した。
空気浄化装置のハッチが何かに塞がれて動かなくなったため、ハワードはダクトを通ることの出来る小柄なミシェルに再起動へ向かうよう命じた。ダクトを移動したミシェルは空気浄化装置を再起動させた直後、天窓に内側から書かれた「HELP」の文字を発見する。血の付着したイヤリングを拾ったミシェルは、メーガンが助けを求めた後でハワードに殺されたのではないかと推測する。彼女は自分の考えをエメットに明かし、イヤリングを付けたメーガンの写真を見せる。するとエメットは、「メーガンじゃない」と言う。それはエメットの妹の同級生だったブリタニーで、2年前から行方不明となっていた。
ミシェルはシェルターから安全に逃げ出す方法を思い付き、エメットに提案した。エメットはハワードを騙し、シャワーカーテンを交換させる。エメットはハサミやカッターナイフを盗み、ミシェルは取り替えたシャワーカーテンを裁断し、ガスマスクやボディースーツを作り始めた。2人はハワードから銃を奪って拘束し、どちらか一方が外へ出て助けを求める計画を立てていた。しかしハワードに不審な行動を悟られたため、エメットは「アンタの銃を奪いたかった」と単独犯を装った。ハワードはエメットを射殺し、遺体を過塩素酸入りのドラム缶で溶かした…。

監督はダン・トラクテンバーグ、原案はジョシュ・キャンベル&マット・ストゥーケン、脚本はジョシュ・キャンベル&マット・ストゥーケン&デイミアン・チャゼル、製作はJ・J・エイブラムス&リンジー・ウェバー、製作総指揮はブライアン・バーク&ドリュー・ゴダード&マット・リーヴス、共同製作はロバート・J・ドーマン&ジョン・コーエン&ベン・ローゼンブラット、撮影はジェフ・カッター、美術はラムジー・エイヴリー、編集はステファン・グルーブ、衣装はミーガン・マクラフリン・ ラスター、音楽はベアー・マクレアリー。
出演はジョン・グッドマン、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョン・ギャラガーJr.、ダグラス・M・グリフィン、スザンヌ・クライヤー。
声の出演はブラッドリー・クーパー、スマリー・モンタノ、フランク・モテック。


2008年の映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』から派生した作品で、前作と同様にJ・J・エイブラムスがプロデュースしている。
監督は長編デビューとなるダン・トラクテンバーグ。
脚本は長編2作目のジョシュ・キャンベルと初長編のマット・ストゥーケン、『セッション』のデイミアン・チャゼルによる共同。
ハワードをジョン・グッドマン、ミシェルをメアリー・エリザベス・ウィンステッド、エメットをジョン・ギャラガーJr.が演じており、ベンの声をブラッドリー・クーパーが担当している。

『クローバーフィールド/HAKAISHA』の続編のようなタイトルだが、内容は何の関係も無い。
POV方式でもないし、モキュメンタリーでもない。前作の登場人物が出て来るわけでもない。
にも関わらず、J・J・エイブラムスは繋がりのある作品だと公言している。
確かにクローバーフィールドという名称は今回も登場するから、繋がりがゼロとは言い切れない。しかし、その程度で続編みたいなタイトルを付けるのは、やり口に対して強い違和感を覚えるなあ。

この映画が『クローバーフィールド/HAKAISHA』と何の関係も無いのは当然っちゃあ当然で、そもそも全く無関係のホラー映画として脚本が執筆され、それを製作会社が『クローバーフィールド/HAKAISHA』の続編としてデイミアン・チャゼルに改変させたのだ。
その結果として出来上がったのは、いわゆるトンデモ系のSFホラーだ。その手の作品を批評する時に良く挙がる『宇宙からのツタンカーメン』とか(私が勝手に挙げているだけかもしれないが)、その辺りと同じ系統に属する映画だ。
そもそもは本作品のようなオチなど無いホラーだったわけで、そこにトンデモ系のネタを捻じ込む際に、そこを上手く融合させるための丁寧に作業を怠っている。
なのでオチが訪れた時に、そこから逆算した時のハワードの行動が全く腑に落ちないモノになっているのだ。

ハワードの「外は危険だから」という証言は真実だったわけだが、それなら劇中で描かれるような行動で無理にミシェルたちを引き留めようとするのは不可解だ。彼女が外へ出たいと頑なに主張するのなら、放っておけばいい。
鎖で繋いで監禁しておいて「外は危険だから助けるため」と言われても、「いや無理があるだろ」と言いたくなる。目が覚めた時に事情を説明して、それでも信じてもらえなかったら諦めるということでいいでしょ。「監禁してまで絶対に助けたいと思った」ということで納得するのは無理だぞ。
それぐらい人道主義的な考え方の持ち主だったら、ミシェルやエメットに高圧的な態度を取って指示に従わせるのは整合性が取れないからね。
つまり、もう最初から最後までハワードの「イカれた奴」という印象は全く揺るがないのよ。

ハワードはミシェルが目を覚ますと食事を運ぶが、「長く生きてもらいたい」「誰も探しに来ない」としか言わない。
そりゃあミシェルが「ヤバい奴に監禁された」と思うのも当然で、そこでハワードが「こういう事情がありまして」と説明しないのは不自然極まりない。
そこは「ハワードを危険人物だと判断したミシェルが、彼をやっつけて逃亡しようと目論む」という展開にしたいから、ハワードに不自然な行動を取らせているのだ。

次にミシェルが目を覚ました時は、ハワードが外の事情を説明する。しかし、外で物音がすると誰か(エメット)を怒鳴り付け、ミシェルには「食い物と寝る場所を与えてもらったら恩義を感じるべきだ」と鋭い口調で告げる。
第一印象だけでなく、その後もハワードはずっと「イカれた奴」として描かれている。それは印象だけでなく、行動も伴っている。
これが「態度は悪いけど、行動に問題は無い」ということなら、「こいつは信用できる奴かも」というトコへ観客を誘導することも難しくないだろう。
しかし行動もヤバいので、こいつが何を言おうと「発言が真実か否かに関わらず、信用は出来ない。っていうか何らかの意味でイカれた奴」ってことになってしまう。

これって実は、ものすごく大きな問題なのよね。
「どっちにしろ信用できない」ってことになると、もはや「大規模な攻撃で汚染された」ということが真実であろうとなかろうと、どうでも良くなっちゃうのよ。
だって、それが真実であったとしても、そのまま地下室にいたら危険であることに変わりはないんだから。
なので、仮に化学物質による汚染が事実だったとしても、「地下室から逃げ出すか留まるか」という二択じゃなくて、「とにかくハワードのトコからは一刻も早く逃げるべき」という一択になっちゃうのよ。
レスリーの死を目にしたミシェルが「ハワードの発言は真実かもしれない」と信じても、ハワードが恫喝して絶対的な服従を要求する以上は「そこから逃げた方がいい」と感じるのよ。

結局のところ、ハワードを「イカれた監禁殺人野郎」というキャラクターにしておきながら、そこに「大規模な攻撃は真実」という設定を組み合わせようとしたことが、完全に失敗しているのだ。
そこが水と油の如くに、まるで混じり合っていない。そこを上手く混ぜるための石鹸水が、この映画には足りないのである。
「じゃあテメエは何かアイデアを思い付くのかよ」と問われたら、素直に「何も」と答える。
そもそも私は、それが混じり合うとは思えないので、混ぜるつもりも無いしね。

さて完全ネタバレを書くが、ハワードの言っていた「大規模な攻撃による化学汚染」ってのは部分的に真実だ。終盤、ハワードを退治して外へ出たミシェルは、宇宙からの飛行物体による毒ガス攻撃やエイリアンによる攻撃を体験する。
ハワードが言及していたので、何も伏線が無かったわけではないが、やはりトンデモ系のオチだという印象は強い。
ついでに書いておくと、そのトンデモ系なネタを最大限に機能させたいのなら、オチが分かってからダラダラと続けちゃダメでしょ。ほぼ出オチみたいなモンなんだから、さっさと終わればいいのよ。
「飛行物体を見たミシェルが農場へ逃げ込み、毒ガス攻撃を受けたのでガスマスクを装着し、エイリアンに襲われたので退治し、車で逃亡したら避難情報が入って来て」と、なんで10分ほどダラダラと続けちゃうのか。

『クローバーフィールド/HAKAISHA』を連想させるタイトルは、ただトンデモ展開となるオチを受け入れさせるために使われているだけだ。
「あれの続編なら、まあエイリアンが出て来るのも有りかな」と丸め込むための言い訳だ。ものすごく卑怯な手を使って、観客を欺いている作品だ。
こういう手口は、観客から搾取することだけを考えれば正解なのかもしれないが、映画人として大切な何かを失っている気がするぞ。
っていうか、実は『クローバーフィールド/HAKAISHA』で出て来たのって怪獣であってエイリアンだから、そこさえも関連性は遠くなっているんだよね。
無理に繋がりを見つけようとすればするほど、「ひでえな」という印象が強くなっていくぞ。

(観賞日:2018年4月5日)


2016年度 HIHOはくさいアワード:第8位

 

*ポンコツ映画愛護協会