『ゾディアック』:2007、アメリカ
1969年7月4日、バレーホ。若いカップルのマイク・マジョーとダーリーン・フェリンはデートの途中、空き地に車を停めた。すると近くに車を停めた男が近付き、ダーリーンを9ミリのルガーで射殺した。マイクは怪我で済み、犯人は逃走した。4週間後、サンフランシスコ。風刺漫画家のロバート・グレイスミスは息子を車で小学校へ送り届け、サンフランシスコ・クロニクル紙へ出勤した。彼は朝刊の漫画を書き上げ、会議を始める編集長に提出した。
編集部にはクリスマスと7月4日の犯人を名乗る者から手紙が届き、編集長は社長を呼んだ。手紙には犯人と警察しか知り得ない情報が詳細に記されており、暗号文が同封されていた。犯人は暗号文に自分の正体を記したと書いてあり、1面に掲載しなければ8月1日に大量殺人を開始すると予告した。ポール・エイヴリーはバレーホ署のジャック・マラナックスに電話を掛け、事件が事実だと確認した。さらに彼は、エグザミナーとタイムズにも同じ手紙が届いていることを知った。社長は1面ではなく、4面に掲載するよう指示した。
FBIやCIAが暗号の解読を進める中、バレーホでの大量殺人は起きなかった。サリーナスに暮らすハーデン夫妻は新聞に掲載された暗号文を解読するが、犯人の名前は書かれていなかった。3日後、クロニクル紙に同じような手紙が届き、犯人はゾディアックと名乗った。9月27日、ナパ。カップルが襲われてセシリア・シェパードが射殺され、ブライアン・ハートネルは無事だった。10月11日、サンフランシスコ。タクシー運転手のポール・スタインが、夜の街中で射殺された。殺人課のデヴィッド・トースキーは連絡を受けて現場へ急行し、目撃者の子供に事情聴取した。
3日後、クロニクル紙にゾディアックから手紙が届き、ポール・スタインを殺した証拠としてシャツの切れ端が同封されていた。デイヴは相棒のビル・アームストロングと共にクロニクル紙へ出向き、関係者の指紋を採取した。手紙には「スクールバスから飛び出した子供を撃つ」と書いてあり、デイヴは公表しないよう編集部に要求した。ロバートは息子をスクールバスに乗せず、車で小学校へ送った。デイヴはサクラメントの犯罪捜査鑑識局を訪れ、手紙には小文字のrに類似点があることを知った。クロニクル紙は脅迫の件を掲載しなかったが、ニュース番組が大きく報じた。
ビルはマイクから話を聞くため、ジャックに電話を掛けた。するとジャックは、マイクが退院後に姿を消したことを教えた。ビルはナパ署のケン・ナーロウに電話を掛け、現場の写真を送ってほしいと要請した。するとケンは、発見者が片付けてブーツの足跡しか残っていないと説明した。ポールやビルは、ゾディアックが4件目だけ現場に指紋を残したことや、2件目以降はカップルの女性だけを殺していること、ポール・スタインがカップルではなかったことへの疑問を覚えた。
10月22日。ゾディアックは明朝のテレビ番組に電話出演すると予告し、弁護士のメルヴィン・ベリーを呼ぶよう要求した。デイヴとビルはベリーを迎えに行き、テレビ局まで送り届けた。ゾディアックはベリーに体調を問われ、「頭痛がする。処刑されたくないが、人を殺すと頭痛が消える」と話す。「頭痛はいつから?」という質問に、彼は「子供を殺してからだ」と答えた。「2人で話そう」とベリーが言うと、ゾディアックは場所と時間を指定した。しかし大勢の警官がパトカーで出向くと、誰も姿を現さなかった。
デイヴから電話出演の音声を聞かされたブライアンは、「犯人と違う声だ」と証言した。警察の捜査で、電話が精神病院からだと判明した。2週間半後、サンフランシスコ。またゾディアックからクロニクル紙に手紙が届き、それは警察を馬鹿にする内容だった。彼は「現場に指紋を残したことは無い。犯行中は指先に強力な接着剤を二重に塗っている」と書き、爆弾の作り方も詳しく記していた。今回の手紙にも、暗号文が同封されていた。
1ヶ月半後、ベリーは自宅にゾディアックから手紙が届き、クロニクル紙に知らせた。手紙の中で、ゾディアックは「自分を抑えられなくなったら次の犠牲者が出るかもしれない」と書いていた。1970年3月22日、モデスト。赤ん坊を連れて車に乗っていた女性はゾディアックに殺されそうになるが、飛び降りて助かった。3ヶ月後、クロニクル紙にはゾディアックから「警察に爆弾を仕掛けたのは俺じゃない」という手紙が届いた。8日後、今度は「バッジを流行らせろ」と要求する手紙が届いた。
2ヶ月後、ゾディアックから駐車中の警官殺しを自白する手紙が届き、爆弾を仕掛けた場所を示した地図が同封されていた。4週間後にも殺人予告の手紙が届くが、ポールはロバートに「しばらくは載せずに相手の出方を見る」と話す。彼は「奴の言い分は全て嘘だ」と言い、事件の記事が出た後で自分の犯行だと主張していることを教えた。彼はロバートに証拠の記事を見せ、最初の手紙に書かれていた暗号文のマークもゾディアックという腕時計のロゴだと告げた。
新たな手紙に血の付いたシャツの切れ端が同封されており、ポールは犯行予告を受けた。匿名の手紙を寄越した男から情報を貰うため、彼はリバーサイドへ赴いた。同行を誘われたロバートは、メラニーとのデートがあるので断った。ポールはテレビ番組に出演し、「1966年のリバーサイド郡の未解決事件はゾディアックの仕業だ。犯人が警察に送った手紙の筆跡を調べた」と証言した。11月18日、デヴィッドは司法省のメル・ニコライと共にリバーサイド郡警察を訪ね、署長から容疑者は別にいると聞かされた。
ビルは「自分がゾディアック」と名乗り出る者や情報を持っていると主張する者と会うが、犯人を逮捕できないまま時間が過ぎて行った。1971年7月26日、ビルはドン・チェイニーという男から、釣り仲間のアーサー・リー・アレンが犯人だという有力情報を得た。リーはドンに「ゾディアックという名前で警察をからかう」「スクールバスを襲い、子供たちを狙い撃つ」と話しており、それ以外でもゾディアックだと思わせる情報が幾つもあった。
デヴィッドとビルがリーについて調べると、彼は小児性愛者であり、子供を触って学校をクビになっていた。デヴィッドとビルは上司であるマーティー・リーの承諾を得て、リーが住むバレーホへ赴いた。8月4日、彼らはマラナックスと共にリーを事情聴取し、詳しく調べる必要があると感じた。デヴィッドはリーの弟からも話を聞き、犯人だと確信した。デヴィッドたちはリーの弟に協力してもらい、彼の手紙を入手した。しかし筆跡鑑定するとクロニクル紙に届いた手紙とは一致せず、令状の請求は却下された…。監督はデヴィッド・フィンチャー、原作はロバート・グレイスミス、脚本はジェームズ・ヴァンダービルト、製作はマイク・メダヴォイ&アーノルド・W・メッサー&セアン・チャフィン&ブラッドレイ・J・フィッシャー&ジェームズ・ヴァンダービルト、製作総指揮はルイス・フィリップス、撮影はハリス・サヴィデス、美術はドナルド・グレアム・バート、編集はアンガス・ウォール、衣装はケイシー・ストーム、音楽はデヴィッド・シャイア、音楽監修はランドール・ポスター&ジョージ・ドレイコリアス。
主演はジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニーJr.、チャールズ・フライシャー、ザック・グルニエ、フィリップ・ベイカー・ホール、イライアス・コティーズ、ジェームズ・レ・グロス、ドナル・ローグ、ジョン・キャロル・リンチ、ダーモット・マローニー、クロエ・セヴィニー、アンソニー・エドワーズ、ブライアン・コックス、リッチモンド・アークエット、ボブ・スティーヴンソン、ジョン・レイシー、エド・セトラキアン、ジョン・ゲッツ、ジョン・テリー、キャンディー・クラーク、ジューン・ラファエル、キアラ・ヒューズ、リー・ノリス、パトリック・スコット・ルイス、ペル・ジェームズ他。
ロバート・グレイスミスによる同名ノンフィクション小説を基にした作品。
1968年から1974年に掛けてアメリカで発生した連続殺人事件、ゾディアック事件を題材にしている。
監督は『ファイト・クラブ』『パニック・ルーム』のデヴィッド・フィンチャー。
『閉ざされた森』『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』のジェームズ・ヴァンダービルトが脚本を担当している。
ロバートをジェイク・ギレンホール、デヴィッドをマーク・ラファロ、ポールをロバート・ダウニーJr.、ニコライをザック・グルニエ、マラナックスをイライアス・コティーズ、ナーロウをドナル・ローグ、リーをジョン・キャロル・リンチ、マーティーをダーモット・マローニー、メラニーをクロエ・セヴィニーが演じている。最初の手紙に同封されていたゾディアックの暗号文は、歴史教師と妻によって簡単に解読され、そこに犯人の正体が記されていないことは確定する。しかし、それ以降もロバートは暗号文に固執し、その解読に励む。
その理由が、良く分からない。
あえて好意的に解釈するなら、「名前が書かれていなくても、犯人に繋がる手掛かりは隠されているんじゃないか」という考えなのかもしれない。ただ、解読作業の様子が何度か描かれているが、そこから「犯人に近付いている」という印象は全く受けない。
そもそも、こっちに与える手掛かりが乏しく、暗号を解いても「なるほど、そういう意味出ったのか」という心地良さは全く味わえないし。
そういう意味でも、暗号文に固執するのはバカバカしいとしか思えないのよね。警察は初動捜査でのミスを繰り返し、愚かしい縄張り争いのせいで協力体制が取れていない。
ゾディアックがキレ者だったから次々に事件が起きる中で逮捕されないのではなく、各地の警察がアホすぎて迷宮入りしたという印象が強い。
デヴィッド・フィンチャーは警察に問題があると考え、そこにメッセージ性を持たせたかったのか。
でも仮にそうだとしたら、もっと徹底しないとダメでしょ。
そうなっていないから、「ゾディアックが警察を翻弄する」という図式を否定するような見せ方は邪魔でしかない。映画開始から40分ほど経った辺りで、ロバートとポール、デイヴとビルの会話シーンがカットバックで描かれる。
このパートでは、「犯人が4件目だけ指紋を残した」「2件目以降はカップルの女性だけ殺している」「ポール・スタインはカップルではない」ということへの疑問を提示している。
でも、そんなのは改めて説明しなくても分かる。
わざわざ会話シーンで粒立てるにしても、タイミングが遅い。それらの情報は、シャツの切れ端が送られてきた時点で揃っている。なのに、そこから10分ぐらい経ってからってのは遅いでしょ。
しかも、変だと思っているだけで、理由について何かしらの仮説を示すことも無いし。あと、指紋に関しては、すぐに「別人の指紋だった」ったことが判明するんだよね。
なので、そもそも疑問に思った手順自体が無駄だったということになる。
実話がベースだから仕方が無いんだろうけど、指紋の件だけでなく、犯人に繋がる情報が提示されたと思ったら、すぐに否定されるんだよね。テレビ番組に電話出演した男も、直後に犯人とは別人だと判明するし。
だから、物語がどんどん進んでいく中で、犯人が次々に殺人を繰り返すだけで、捜査は一歩も進んでいないのだ。探偵役のロバートが刑事でも記者でもなく風刺漫画家というのは、映画を面白く出来そうなポイントだ。しかし、風刺漫画家という職業が物語の中で効果的に活用されることは全く無い。主人公が風刺漫画家である必要性も意味も、まるで感じられない。
もちろん「原作者がロバート・グレイスミスだから」ってことではあるのだが、だからって彼を主人公に据えなきゃいけないわけではないでしょ。そもそも、ゾディアック事件は有名なので、別にロバート・グレイスミスの原作を使わなくても映画化は可能だったはずだし。
それでもロバート・グレイスミスのノンフィクション小説を原作として採用したのは、彼が主張する「アーサー・リー・アレン犯人説」を使いたかったという部分が大きかったのかもしれない。
ただ、アーサー・リー・アレンが犯人とする根拠は、映画の最後に記述されるように、科学的な分析によって否定されているんだよね。
それについては、後述する。映画開始から1時間ぐらい経過した辺りで、ロバートは暗号文を解読する作業から遠ざかり、完全に探偵役から降りてしまう。その後は、デヴィッドやビルなど警察の人間が捜査する様子が描かれる。
その間にロバートはメラニーとデートし、再婚し、子供に恵まれる。その後、彼はゾディアック事件の調査にのめり込んで家庭を蔑ろにするようになり、メラニーは子供を連れて家を出て行く。
そういうことが実際にあったのかもしれないが、まるで要らないわ。
そういう私生活の部分まで詳しく描きたいのなら、もっと「ロバートが事件の調査に躍起になる」という部分を徹底して描く話にすべきだし。それを考えると、もうロバートが再婚して子供もいる状況から始めた方が良かったんじゃないか。
この映画だと時系列順に物語を進めており、「最初の筆跡鑑定から1年後にポールがクロニクルを辞めて、改めて実施された筆跡鑑定でリーが完全にシロだと断定されて、その4年後にロバートがポールを訪ね、ゾディアックについて情報をまとめて本を書きたいと話す」という流れになっている。
ここでようやくロバートが本格的に探偵役として動き始めるので、ここがスタートでいいだろうと。
そこまでの過程は、回想シーンで説明すればいい。それによって、短くまとめることにも繋がるはずだし。ロバートが本格的な調査に乗り出した段階で逆算した時に、そこまでに示された情報の多くは、別に無かったとしても困らないんだよね。
やたらと観客の頭を混乱させているだけで、「その情報があったからロバートの調査活動がはかどった」とか、「ロバートが考える根拠の裏付けに直結している」とか、そういう部分って少ないのよ。
余計な情報の洪水は退屈を招いているだけで、緊迫感や重厚さに貢献しているわけでもないのだ。しかも、本を書くと決めたロバートが調査活動を開始しても、すぐに「リーが犯人」と確信するわけじゃないんだよね。その前に彼は、リック・マーシャルという人物が犯人だと推理し、その仮説に基づいて行動している。
本編の残りが15分ぐらいになって、ようやくリーが犯人だと考えるようになるのだ。
話の作りとしては、いわゆる「どんでん返し」であり、終盤に入ってからの意外性で観客にサプライズを与えようとしてする手法だ。
ただ、ロバートが「リーで間違いない」と主張する根拠は、状況証拠に基づく推論に過ぎないんだよね。
なので、仕掛けに見合うだけの効果は得られず、消化不良の印象を残す結果となっている。映画のラスト、マラナックスの後任となったバワート刑事がマイクを呼び、複数の顔写真の中から犯人を指差すよう促すシーンがある。
ここでマイクはリーの写真を指差し、「確実が10点満点なら何点か」という質問に「8点以上だ」と答えている。その後、テロップを使い、「リーが心臓発作で死亡し、2002年のDNA鑑定で不一致と出た」という事実が説明される。
ようするに、科学的な鑑定結果によって、リーの犯人説は否定されちゃってるわけだ。
それでも「リーが犯人に間違いない」と主張するには、この映画の内容だと厳しいんじゃないか。
「まずリー犯人説ありき」でシナリオを構築していることはハッキリと分かるけど、それでも無理を感じるんだから。(観賞日:2024年5月23日)