『007は二度死ぬ』:1967、イギリス

アメリカのロケットが、国籍不明の宇宙船に飲み込まれた。アメリカ政府はソ連の仕業だと考え、激しく抗議した。ソ連政府は関与を否定するが、アメリカ政府は「すぐに次の人工衛星を打ち上げる。また何かあれば戦争行為と解釈する」と通告した。仲介役を担当した英国政府の担当者は、宇宙船がソ連の物ではないという見解を示す。ある物体が日本へ降下するのを探知していたことを説明した担当者は、既に情報部員が香港で活動を開始していることを明かした。
ジェームズ・ボンドは香港のホテルで女とベッドインしている最中、刺客に襲われて死亡した。ボンドの死亡は新聞でも報じられ、海軍の軍艦が海上で葬儀を行った。しかし棺から海に落とされた遺体は、潜水艦に回収された。遺体を装っていたボンドは、日本へ向かった。国技館で秘密警察のアキと会ったボンドは、協力者であるヘンダーソンの元へ案内される。ヘンダーソンは秘密警察長官のタイガー田中が手を貸してくれることを告げ、宇宙船が日本から打ち上げられたのは確実だと話す。
どこかの政府が暗躍している可能性が高いと口にした直後、ヘンダーソンは何者かに殺された。実行犯の男を始末したボンドは、近くに待機している車を発見した。実行犯のコートと帽子とマスクを剥ぎ取ったボンドは、彼に成り済まして車に乗り込んだ。撃たれた芝居をするボンドを、運転手は大里化学工業の本社ビルに運び込んだ。運転手を昏倒させたボンドは、金庫から注文書を盗み出した。警報ベルが鳴り響き、警備員が発砲して来るが、ボンドは駆け付けたアキの車で逃走した。
アキを怪しんだボンドは、車を停めるよう要求した。するとアキは、ある建物に逃げ込んだ。後を追ったボンドの前に、タイガーが現れた。ボンドはタイガーに注文書を見せ、調べるよう依頼した。注文された品目の中には、ロケット燃料として使われる液体酸素を意味する隠語も含まれていた。ボンドは注文書だけでなく、写真のネガも盗み出していた。現像すると、貨物船「ニンポー」が写し出されていた。写真の撮影場所が気になったボンドは、割り出してほしいとタイガーに要請した。
翌日、ボンドは大里化学のビルへ赴き、取引先の営業部長を詐称して大里社長と秘書のヘルガ・ブラントに会った。しかし大里は正体を見抜いており、ボンドが去った後でヘルガに「殺せ」と命じた。大里の手下たちに襲われたボンドは、駆け付けたアキの車で逃げ出した。アキの連絡を受けたタイガーはヘリコプターを差し向け、追っ手の車を排除した。ボンドはタイガーから、貨物船「ニンポー」が大里化学の所有であること、神戸港から上海へ向けて出港することを知らされた。
ボンドはタイガーに「Mに連絡してネリーを寄越せ、出来れば父親同伴でと言ってくれ」と頼み、アキと共に神戸港へ向かった。大里の手下たちが待ち受けていたため、ボンドはアキに「タイガーに連絡して、ニンポーの監視を続けるよう言うんだ」と指示して彼女と別れる。背後から不意打ちを食らって昏倒したボンドは、ヘルガの操縦する飛行機に乗せられる。ヘルガは空中で脱出し、飛行機ごとボンドを始末しようとする。ボンドは拘束を解いて飛行機を不時着させ、爆発直前に脱出した。
ボンドはタイガーから、写真の場所がアマノ島という場所だと知らされる。ニンポーは上海へ向かう途中、その島で荷物を降ろしていた。ボンドはQから組み立て式小型ヘリコプターのリトル・ネリーを受け取り、それを使って島へ向かった。上空から島を調査していたボンドは、敵のヘリコプター部隊に攻撃される。ボンドは反撃し、敵を一掃した。その夜、ソ連のロケットを飲み込んだ宇宙船は、島の火口基地に着陸した。基地の中には大里やヘルガ、そして部下たちに指示を出すプロフェルドの姿があった。
ブロフェルドは依頼人である某国政府の担当者と会い、前金として1億ドルを請求した。アメリカとソ連が戦争状態に突入した時に報酬を支払う約束になっていたため、担当者は抗議した。しかしブロフェルドは何食わぬ顔で、相談して決めるよう促す。彼は大里とスペクターNo.11であるヘルガを呼び出し、ボンドを始末できなかった失態を非難した。ブロフェルドはヘルガをピラニアの池に落として始末し、ボンドの殺害を大里に命じた。
島の火口を怪しんだボンドは「あそこを登るには援軍が必要だ」とタイガーに言い、協力を要請した。タイガーは特殊部隊の指揮権を持っていることを話し、「任せてくれ」と告げた。タイガーとアキは、ボンドを特殊部隊の本拠地に案内した。特殊部隊の使う秘密兵器を紹介したタイガーは、日本人に化けるようボンドに指示した。さらにタイガーは、「日本の武道を会得し、隠れ蓑として島の海女を妻にしろ」と述べた。
日本人に化けたボンドは、アキから日本式の夜伽を教わった。しかしボンドを狙った敵の毒薬を誤ってアキが舐めてしまい、彼女は命を落とした。特殊部隊と武道の稽古を積んだボンドは、潜り込んでいた敵の男を始末した。ボンドはタイガーの用意した海女のキッシー鈴木と結婚式を挙げ、島に潜入した。タイガーはボンドに、アメリカが打ち上げの予定を早めたことを知らせた。島を調査しても手掛かりが得られず焦るタイガーに、キッシーは岬の洞窟が怪しいことを告げた。ボンドはキッシーと共に、岬の洞窟へ向かう…。

監督はルイス・ギルバート、脚本はロアルド・ダール、製作はアルバート・R・ブロッコリ&ハリー・サルツマン、撮影はフレディー・ヤング、美術はケン・アダム、第二班監督&編集監修はピーター・ハント、特殊効果はジョン・ステアーズ、アクション・シークエンスはボブ・シモンズ、メイン・タイトル・デザインはモーリス・ビンダー、音楽はジョン・バリー、主題歌はナンシー・シナトラ。
主演はショーン・コネリー、ドナルド・プレザンス、若林映子、丹波哲郎、浜美枝、島田輝、カリン・ドール、バーナード・リー、ロイス・マクスウェル、デスモンド・リュウェリン、チャールズ・グレイ、ツァイ・チン、ピーター・ファニーン・メイヴィア、バート・クウォーク、マイケル・チョウ、ロナルド・リッチ、ジャニーン・ローランド、デヴィッド・トグリ、ジョン・ストーン、ノーマン・ジョーンズ、ポール・カーソン他。


イアン・フレミングのスパイ小説を基にした007シリーズの第5作。
イアン・フレミングの親友である小説家のロアルド・ダールが、初めて映画脚本を手掛けている。
監督は『第七の暁』『アルフィー』のルイス・ギルバート。
ボンド役のショーン・コネリーは、この作品でひとまずシリーズを降板する(第7作『ダイヤモンドは永遠に』で1本だけ復帰)。
M役のバーナード・リー、マネーペニー役のロイス・マクスウェル、Q役のデスモンド・リュウェリンは、シリーズのレギュラー陣。

ブロフェルドをドナルド・プレザンス、アキを若林映子、田中を丹波哲郎、キッシーを浜美枝、島田輝、ヘルガをカリン・ドール、ヘンダーソンをチャールズ・グレイが演じている。
リン役はツァイ・チン、スペクターNo.3役はバート・クウォーク、No.4役はマイケル・チョウ。
大里の運転手を演じているのは、プロレスラーのピーター・メイビア。ザ・ロック様(ドウェイン・ジョンソン)の祖父である。
アンクレジットだが、ボンドに観戦チケットを手渡す力士役で第50代横綱の佐田の山が登場する。また、リトル・ネリーを見上げる海女の1人として、松岡きっこが数秒だけ出演している。

今回のボンドガールは、アキ、キッシー、ヘルガの3人。
ヒロイン的な存在がアキ&キッシーの2人というのは異例だが、ロアルド・ダールはアルバート・R・ブロッコリ&ハリー・サルツマンの指示に従って彼女たちを配置している。
当初は若林映子がキッシー、浜美枝がアキ役に起用されていた。しかし浜の英語力が上達しないことから、2人の役柄を入れ替え、さらにキッシーの台詞を大幅に減らして対応した。
原作ではヒロインであるキッシーの台詞が少ないのは、そういう事情がある(原作にアキは登場しない)。
しかし配役を交換した浜美枝は海女役なのに「ようやく泳げる」という程度で潜水が出来なかったため、ショーン・コネリーに同伴していた妻のダイアン・シレントが潜水シーンのスタント・ダブルを担当している。

この映画は「シリーズ初」「シリーズで唯一」という描写や設定が多く含まれている。
まず、ブロフェルドが登場するのは本作品が最初。
ボンドの所属は英国諜報部だが、にも関わらずイギリス本土のシーンが1度も出て来ないというシリーズで唯一の作品。
ボンドが車を運転しないのも本作品だけ。
ボンドが決め台詞の「ボンド、ジェームズ・ボンド」を言わないのは、『慰めの報酬』が製作されるまでは本作品が唯一だった。
ショーン・コネリーが海軍の制服を着るのも、タキシード姿にならないのも、本作品だけ。

この映画は、まず間違いなく海外の人々よりも日本人の方が楽しめるはずだ。
その理由は、日本が舞台になっていることだ。
もう少し正確に表現すると、「日本が舞台になっているが、日本人からすると珍奇な描写が多く含まれている」ってのが、楽しめる理由だ。
ダニエル・クレイグがボンド役になってからの007シリーズはシリアス一辺倒のサスペンス・アクション映画になってしまったが、少なくとも初期のシリーズってのは、その荒唐無稽さを楽しむ側面もあるのだ。

イアン・フレミングの原作小説は、彼が日本へ行った際の体験が盛り込まれた内容になっている。
日本の文化に強い興味を持っていた彼は、それを紹介するような描写に多くのページを割いた。
そんな原作の方向性は映画化に際しても踏襲されており、物語を進めたりドラマを盛り上げたりすることだけでなく、「日本の文化や風俗を描写する」ということへの意識が強くなっている。
例えば連絡員として登場した佐田の山がボンドに観戦チケットを渡すのは、国技館へ行く流れを作り、大相撲本場所の様子を描写するためだ。

この映画で描かれる日本の文化は、日本に対して「東洋の神秘」を感じる西洋人のエキゾチックな関心を引き付ける内容になっている。
ただし、あくまでも日本にファンタジーを感じている西洋人の感覚で描かれた「日本の文化」なので、トンデモ度数は高い。
東京の町には人力車が普通に走っており、蔵前国技館は銀座に建っている。大里化学工業の本社ビルはホテルニューオータニで、社長室には鎧や観音像が飾られている。
秘密警察の本部は、地下鉄丸の内線の車内にある。タイガーはビキニ姿の女中を雇っており、アキは振袖姿になる。
タイガーがボンドを誘って入浴する際は、女中は三助扱いで、「日本では男が一番、女はその次」と当たり前のように言う。

特殊部隊は姫路城を訓練所にしており、空手や柔道の練習を積んでいる。なぜか手裏剣を投げる練習までやっていのだが、それは特殊部隊が忍者という設定だから。
しかし火口基地へ突入する際は銃や手榴弾を使っており、手裏剣の練習なんて全く活かされない。それどころか、忍者という設定さえ無意味と化している。
一応は刀で戦う奴もいるが、どう考えたって銃を使った方がいいぞ。
それ以前の問題として、忍者なのに忍んで行動するシーンは全く無いしね。

日本に関する描写を除外しても、シナリオは色々とユルいことになっている。
まず、任務のために日本へ向かうはずのボンドが、なぜか香港で女とノンビリしている。で、ボンドの死が確認され、海上で葬儀が執り行われる。棺から遺体が海に落とされ、それを潜水艦が回収すると、布に包まれていたボンドは生きている。
つまり、それはボンドが死んだと見せ掛けて活動するための作戦だったわけだが、えらく大層な作戦だなあ。別に棺の中に遺体を装って入らなくても、棺には別の何かを入れておけば済むことじゃないのか。そもそも、棺から遺体を海に投げ込む必要性も無いんだし。敵を欺く作戦にしても、かなり無意味な手順が多い気がするぞ。
っていうか、ボンドは任務遂行のために香港で死んだように偽装しているのだが、日本へ上陸すると大里の手下たちに次々と襲われるので、死を偽装している意味が全く無いぞ。
ボンドであろうとなかろうと、任務遂行のために敵の組織を探れば命を狙われることになるんだから。

大里の運転手は実行犯を運んで来たはずなのに、コートと帽子とマスクで変装したボンドが別人であることに全く気付かない。大里は詐称したボンドを見送ってから「始末しろ」と部下に命じるが、どう考えたって社内で襲った方が得策だ。
で、ボンドとアキが大里の手下に追われると、タイガーはヘリコプターを差し向ける。
なぜヘリコプターなのかと思ったら、そこから大きな磁石を垂らして敵の車を吸い付け、海に落として処分するという荒業を使う。
で、東京にいたボンドとアキは、そこから車であっという間に神戸へ辿り着く。

大学で日本語を学んでいたと吹聴するボンドだが、ほとんど日本語を喋らない。
それで日本人に化けようってんだから大体不敵というか無謀な奴だが、仮に日本語が話せていたとしても、あの顔やガタイだと日本人には絶対に見えない。一応は「見た目を日本人に変えた」という描写があるのだが、どこからどう見ても西洋人だ。
で、日本人に化けたボンドが姫路城でアキと情事を楽しんだ直後、暗殺者の毒薬でアキが死ぬ。さらに稽古を積んでいたボンドは、潜入している敵に気付く。
つまりボンドの居場所がバレているってことだが、秘密警察としては、そこがバレているってのは致命的な問題でしょ。
忍者の訓練所なのに、ちっとも忍んでないじゃねえか。

スペクターは「神戸と上海の間にある」という範囲が広すぎる設定の島に火口基地を作っているのだが、そこに何度かロケットが着陸しているのに誰も気付いていないんだから、日本人はよっぽどアホばかりなんだろう。
秘密警察が火口基地の場所を突き止められずに苦労しているってのも、どんだけボンクラなのかと思うし。
そもそも、そんな基地が作られてロケットが出入りするまで気付かない日本政府って、どんだけボンクラなのよ。
あと、スペクターの仕業であることが分かった時点で米ソの両政府にさっさと報告すれば、その段階で戦争状態は回避できていたはずなので、やっぱり秘密警察はボンクラだ。

これまで勿体を付けて姿を現さなかったスペクターのトップ、ブロフェルドが初めて登場するのだが、彼が自ら指揮する今回の目論みは某国政府の依頼を受けてアメリカとソ連を戦争状態に陥れるのが目的だ。
で、その目的を達成するために何をやるのかというと、宇宙船を使って米ソのロケットを飲み込んでしまうという作戦。
しかし目的からすると、手間と予算が掛かり過ぎてるだろ。
そこまでしなくても、米ソの対立を煽る方法なんて他に幾らでもあるだろ。

ボンドは火口基地へ侵入する際、頭までスッポリと隠れる灰色の全身スーツを着用するのだが、ものすごくカッコ悪い。
彼は宇宙飛行士に変装し、敵の宇宙船に乗り込もうとするのだが、あっさりとブロフェルドにバレてしまう。ところがブロフェルドもバカなので、すぐにボンドを始末しようとせずにタバコを吸わせる余裕を見せる。
そのせいで反撃を食らうのだが、負けじとボンドもボンクラなので、また簡単に捕まる。
なので、そこで逃げ出した意味が無効化されてしまう。

逃げ出したボンドをすぐに捕まえたブロフェルドだが、まだボンクラ合戦は続く。彼は負けじとボンクラ魂を発揮し、またボンドを殺そうとするタイミングが遅れて逃げられる。
で、ブロフェルドから逃げ出したボンドはタイガーや特殊部隊と共に戦うのだが、訓練所で稽古した日本の武道は全く使わない。
っていうか今回の任務に関しては、ハッキリ言ってボンドがいなくてもタイガーの組織だけで何とかなったんじゃないかという気がするぞ。
ボンドって今回、ほとんど役に立ってないでしょ。

(観賞日:2014年10月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会