『サロゲート -危険な誘い-』:2016、アメリカ

ルイジアナ州ニューオーリンズ。ジョンとローラ・テイラー夫妻は代理母の候補が見つかったという知らせを受け、責任者のピーター・ケイを訪ねた。ピーターは候補者のアナ・ウォルシュと面接した時の映像を見せ、町で働く28歳のウェイトレスだと教えた。あえて意地悪な質問を投げ掛けてもアナは落ち着いて返答しており、本気で困っている人を救いたい気持ちがあるのだと夫妻は感じた。弁護士事務所で働くジョンは所長のマーティン・クーパーから、抱えている案件のリスクを考えて同僚のトッド・デッカーと担当するよう指示された。ローラはアナが理想だと確信し、彼女の働くレストランへ赴いた。彼女はジョンの了解も取らない内に、アナと婚約者のマイクを食事に招待する約束を交わした。
翌日、夫妻はアナとマイクの4人で夕食を取る。アナは自分がシェフだと話し、自分たちは本気だと訴える。マイクはアナが代理母を引き受けたことを全く気にしておらず、「軍にいると同じような話を良く耳にする」と述べた。報酬の使い道をジョンが訊くと、彼は叔父が経営する屋根葺き会社のために使うと語った。ジョンはマイクに「これが最後のチャンスなんだ」と言い、ローラはアナに「3回も流産した」と話した。ジョンはマイクに嫌悪感を抱くが、ローラが「あの子に頼みたい」と言うと承諾した。
アナから妊娠を知らされたローラは感涙し、ジョンに電話を入れた。ジョンが事務所で会議に参加していると、アナがやって来た。困惑したジョンはマーティンやトッドたちに「親戚の子だ」と嘘をつき、席を外した。アナは「ローラに電話したら、ここに来るよう言われて。検診に行ったら、マイクが来てくれなかったの」と説明し、ジョンは彼女を家まで送り届けた。マイクは不遜な態度を取り、ジョンが「迎えを忘れてた。何かあったのか?」と訊くと「いや、問題は無い」と答えた。
その夜、ジョンはアナから電話を受け、急いで彼女の家へ赴いた。するとマイクがアナに暴力を振るい、警官に連行されるところだった。ジョンは行く場所が無いアナに優しく声を掛け、自宅へ連れ帰った。ジョンは逮捕されたマイクと面会し、接近禁止命令が出ていることを伝えた。「中東に赴任するらしいな。二度とアナに近付くな」とジョンが警告すると、マイクは薄笑いを浮かべて余裕の態度を取った。ジョンが帰宅すると、ローラはアナをケストハウスで休ませたことを話す。夫妻がセックスを始めると、その様子をアナが窓の外から密かに見ていた。
翌朝、ジョンとローラはアナにゲストハウスで暮らすよう勧め、「少し仕事を休んでほしい。給料分は支払う。ここにいてくれた方が安心だ」と告げる。アナは夫妻の好意に甘え、邸宅での自由な生活を始めた。テイラー夫妻がパーティーで外出した夜、アナは入浴してから邸内を歩き回った。彼女はクローゼットにあったローラのコートを着て、ベッドに寝転んだ。翌朝、テレビを見たままソファーで寝ていたアナが目を覚ますと、ジョンがコーヒーを入れていた。猫のミス・ハヴィシャムを見たアナが「あの猫、すっごい年でしょ」と言うと、ジョンはローラが可愛がっていることを語った。
「奥さんを心から愛してるのね」とアナが微笑むと、ジョンは「幸せなのは僕の方だよ」と口にする。アナは子供について「絶対に男の子よ」と言い、ジョンに自分の腹部を触らせた。困惑したジョンがすぐに手を離すと、彼女は「貴方の子を妊娠してるって、変な気分よ」と笑った。ジョンがチャリティー・イベントに誘うと、アナは喜んで参加を決めた。アナはマイクと密会し、今後の指示を出された。マイクが「毎月、気が変わったから子供は手放せないと言え。2人は金を出す」と説明すると、アナは「2人には良くしてもらってる。ジョンはホントに父親になりたがってる」と告げる。しかしマイクが「あいつが好きか。何を期待してるんだ。お前のことなんて何も思ってない」と語って脅すと、彼女は言う通りにすると約束した。
ジョンは慈善パーティーの会場でトッドからアナについて「いい女だった。口説いても構わないかな」と言われ、「もちろん」と答えた。ローラがスピーチしていると、アナは彼女のドレスを勝手に着用して会場に現れた。ローラが「私が用意したドレスは?」と訊くと、彼女は「ごめんなさい、サイズが合わなくて」と釈明した。帰宅したローラは先に就寝し、ジョンはアナと2人になった。「はとこ」という周囲への嘘に関して、アナは「2人だけの秘密を抱えた」と微笑する。彼女は「貴方は最高のパパになる。寝る前にお風呂に入るわ」と言い、ジョンの頬にキスをした。深夜に大雨が振り、ジョンはゲストハウスの雨どいの音で目が覚めた。彼が様子を確かめに行くと、アナが裸になって誘惑した。
次の日、ジョンが起床すると既にローラは不在で、出張に行くことをメモに残していた。出勤したジョンはローラからの電話で、昇進の話を持ち掛けられたと言われる。ローラは喜んでおり、産休に入る前の半年でもいいから出世したいと話した。アナが誘惑するメッセージや動画をパソコンに送って来たので、ジョンは困惑した。帰宅したジョンが注意すると、アナは「出て行く」と告げる。ジョンが「そうじゃない。誤解させたのなら謝る」と言っていると、ローラが帰宅した。ジョンもアナも、何事も無かったかのように振る舞った。
後日、アナが1人で家にいると、マイクが乗り込んできて殴り付けた。彼は「詐欺だと気付かれる前に、2人から金を搾り取れ」と要求し、「言わないなら、後で来る。そしてジョンとローラに、お前が最後のチャンスを奪ったと伝える」と脅して去った。アナは自宅に戻ったマイクを待ち伏せし、包丁で刺し殺して階段から突き落とした。アナが性別判定の検診を受ける日、ローラは病院に現れなかった。ジョンが連絡を取ろうとすると、留守電になっていた。ジョンはメッセージを残して医師に検査を始めてもらい、胎児の性別が男だと知らされた。遅れて病院へ来たローラは、「スケジュール台帳だと2時になってい。誰かが変えたのよ」とジョンに告げた。
ジョンが会社で仕事をしていると、アナから電話が入った。アナが「男の子だって、嬉しいわ。一緒にランチでお祝いしましょう」と誘うと、ジョンは「職場に電話しないでくれ。ランチには行けない。午後は予定で一杯だ」と冷たく告げた。しかしアナから再び電話を掛けて来るだけでなく、酒瓶を持ってジョンのオフィスに現れた。同僚たちが来たので、ジョンはアナを連れて会社を出た。ジョンが帰宅するとローラは残業でおらず、アナは「また残業なの?いい母親になれるのかしら?ホントに赤ちゃんが欲しかったのかしら」と嫌味っぽく言う。ジョンが怒りを向けると、彼女は「もっと優しくしてよ。法律では私の子供なのよ。マイクが売ってもいいって言ってた」と思わず口を滑らせてしまう。ジョンは「ローラに全て話す」と鋭く告げ、家から出て行くよう要求した。するとアナは、「貴方が欲しいだけ」と寂しそうに漏らした。ジョンはトッドに連絡し、マイクの調査を依頼した。
翌日、ジョンはマーティンと部下のローランド・ホワイトから呼び出され、アナの動画について指摘される。ジョンが代理母だと説明すると、同席したトッドはアナが出産前の処置を受けているクリニックは抱えている案件に関係している会社だと教える。トッドはジョンに、動画がマーティンの元に届いていたことを教えた。クビを覚悟したジョンに、トッドは「もっと悪い話がある。マイクは暴行事件で2年前に除隊処分を受けてる」と知らせる。さらに彼はアナについても調査しており、本名が「アナ・デヴォスト」であること、マリファナや危険運転の前科があることを突き止めていた。メンフィスで生まれたアナは3歳で両親を亡くし、里親の元で12年間を過ごした。16歳の時に彼女は性的虐待を繰り返していた義父を殺害し、精神科病院に送られた。18歳で病院を出た後、行方不明になっていた。
深夜、ジョンが目を覚まして書斎に行くと、アナの姿があった。アナは「貴方が必要なの」とキスをせがみ、ジョンが拒むと抱き付いた。ジョンは叱責すると、「もう耐えられない」とハサミを手に取ろうとする。ジョンは慌てて「僕を信じてくれ。今はベッドに戻ろう、僕のために」と諭し、寝室へ戻るようアナに告げる。しかしアナはジョンの嘘を見抜き、包丁を振りかざして外へ出る。ジョンが追い掛けて説き伏せようとするが、アナは激しく喚き散らした。
そこへ騒ぎで目を覚ましたローラが来ると、アナは「この人はアンタを愛してない」と大声で叫ぶ。ジョンが否定していると、パトカーが駆け付けた。アナは「助けてください。彼は私を愛してると言ったのに、騙された」と嘘をつき、警官たちは家へ連れ戻そうとするジョンとローラを引き下がらせた。ローラはジョンを責めるが、説明を聞いて彼を信じた。テイラー夫妻はピーターに相談するが、アナが子供を引き渡さなくても誘拐罪には当たらないと言われる…。

監督はジョン・カサー、脚本はジャック・オルセン、製作はボブ・シェイ&マイケル・リン、製作総指揮はモリス・チェスナット&ディラン・セラーズ&グレン・S・ゲイナー、共同製作はヴァレリー・ブレス・シャープ、製作協力はブライアン・デュークス、撮影はデヴィッド・モックスネス、美術はクリス・コーンウェル、編集はスコット・パウエル、衣装はオリヴィア・マイルス、音楽はジョン・フリッゼル。
出演はモリス・チェスナット、レジーナ・ホール、ジャズ・シンクレア、テオ・ロッシ、ロマニー・マルコ、マイケル・K・ウィリアムズ、グレン・モーシャワー、ジジ・エルニータ、トム・ノウィッキ、ジャニー・ミシェル、キャリー・レーザー、アリアドネ・ジョセフ、マット・ミッチェル、モーリス・ジョンソン、シェフ・ジョン・フォルス、ジョン・ブーテ、テッド・ファーガソン、スティーヴ・テラダ、ブレット・ベイカー、ジョナサン・アーサー、グレッグ・レメンター、エドウィン・コンパス他。


TVドラマ『24 TWENTY FOUR』を手掛けたジョン・カサーが監督を務めた作品。
劇場映画を撮るのは、これで4度目。ちなみに2015年には、『24 TWENTY FOUR』のキーファー・サザーランド主演の『ワイルドガン』を撮っている。
脚本のジャック・オルセンは、これがデビュー作。
ジョンをモリス・チェスナット、ローラをレジーナ・ホール、アンナをジャズ・シンクレア、マイクをテオ・ロッシ、トッドをロマニー・マルコ、ローランドをマイケル・K・ウィリアムズ、マーティンをグレン・モーシャワーが演じている。

冒頭、マイクと2人で話したジョンは、好ましくない男だという印象を抱く。それは彼だけでなく、もちろん観客も同じ印象を抱くようなキャラクター造形になっている。
でも、この段階で「マイクは好感の持てない男」とアピールするのは早すぎる。まだ本性は完全に隠しておいた方が、話としては「使える要素」を残しておける。
まあアナに比べると薄っぺらくてオツムの弱い男なので、早い内からボロが出ているってことなのかもしれない。ただ、使える要素を全く使わずに捨てているのは、勿体無いでしょ。
第一印象さえクリアしてしまえば、早い内からボロが出たっていいんだからさ。

もう1つの問題として、最初の段階からジョンが「少し引っ掛かる」という形になってしまうことがある。
ここは「夫妻が共に何の問題も抱かず前向きになる」という形にしておいた方が、後の進行を考えても得策だ。
ただし早い段階でマイクが問題のある男だとバラすのは、「こいつが悪人でアナは不憫な被害者」というミスリードを狙ってのことである可能性も考えられる。っていうか、たぶんそういう意図なんだろう。
やりたいことは分かるけど、その効果が充分に発揮されているとは言い難い。

妊娠を知ったジョンとローラが嬉しそうに抱き合ってキスをしていると、シャワーを浴びて出て来たアナが見つめるシーンがある。
この時のローラの表情には、明らかに「素直に祝福している」という気持ちが無い。何か別の感情が見える。
だけど、この時点で「アナは2人のための出産を全面的に喜んでいるわけじゃない」ってのが感じられちゃうのは、得策とは思えない。ここは、まだ隠しておいた方がいい。
ここも前述したマイクの件と同じで、使える要素を使い切っていないように感じられるのよね。

テイラー夫妻がパーティーに出掛ける時、キスする2人を見たアナは笑顔を浮かべる。でも、それは前述したシーンと矛盾しているでしょ。
早い段階でキスを見て複雑な表情を浮かべていたのに、なんで邸宅で暮らし始めてから似たような状況を見ると素直に笑顔を浮かべることが出来ているのか。
むしろ出産も近付く中で感情は高まっているはずなんだから、余計に敵対心や嫉妬心は見えた方がいいはず。
その前夜には2人のセックスを覗いているぐらいだし、今さら「何も変な気持ちなんて無い」と見せ掛けてる意味も無いし。

っていうかね、諸々の問題を総合して考えると、もっと根本的な部分から改変した方が良さそうな気がしちゃうのよね。
「最初はマイクと一緒に夫妻を脅して大金を巻き上げるつもりだったアナだが、ジョンに惚れたので計画を変更する」という設定だと、色々と難しいように感じるのよ。
具体的な問題を挙げると、「ゼロの状態からジョンに惚れる」という変化が必要になる。でも、そこを丁寧に描く時間の余裕は無い。
なので前述したように「夫妻の仲睦まじい様子を複雑な表情で見つめる」というシーンが早めに用意されているんだけど、どっちにしても無理を感じる結果となっている。
でも、これが「最初からアナはジョンに惚れていて、彼を奪おうと目論んでいた」という設定であれば、「ジョンに惹かれるようになる」という手順は不要になる。これだけでも、随分と助かるはずで。

この映画を見ていると、「アナがジョンに惹かれ、彼を奪うために暴走する」という部分の説得力が乏しいんだよね。
彼女がジョンのどこに惚れたのか、惚れたにしてもイカれた行動に走るのは何故なのか、そういう部分に違和感を覚えてしまうのだ。
でも「最初から惚れていた」という設定にしておけば、そこは極端に言えば「観客に脳内補完させちゃえばいい問題」になるからね。
もちろん「アナがジョンに惹かれていく」という経緯を劇中で上手く表現できるなら何の問題も無いけど、それが出来ていないわけで。

もちろん、「最初からアナはジョンに惹かれていた」ってことになると、「マイクと組んで夫妻から大金を巻き上げる計画」という部分は1ミリも使えなくなってしまう。
でも、そこを排除したとしても、そんなに大きなマイナスは無いんじゃないかと。
どっちにしろ、この映画におけるサスペンスの大半は「アナがジョンに惚れて彼を奪おうとする」という部分を使っているわけで。だからマイクを登場させるにしても、キャラ設定を変更すればいい。
例えば「アナが計画のために雇った男。でも報酬を吊り上げようと目論んだので邪魔になったアナが始末する」ってな形にするとかね。

ドテイラー夫妻がパーティーに出掛けた夜、邸内を歩き回るアナの様子には、「報酬の吊り上げを目論んでいる」という気持ちも「ジョンに惚れている」という気持ちも見えない。ただ純粋に、「自由で恵まれた豪邸での生活を堪能している」というだけに見える。
だけど、それじゃ困るのよ。
この時点で、映画開始から30分以上が経過している。なので、そろそろ本性を現して動いてくれないと、ラストからの計算が合わなくなっちゃうのよ。
しかも、ここで彼女は勝手に夫妻の部屋に入ったり物を探ったりしているけど、それがバレそうになることも無ければ、何か計略に関わるような行動を取ることも無いのよね。
なので、「ここ要るのか?」とさえ感じるぞ。

トッドがアナについて調べ、過去が明らかになる。
でも、「過去を調べたら、こんなことが明らかになりました」という部分で生じる恐怖よりも、「ごく普通の女性だったのに、ジョンに惚れたことで狂気が暴走する」という設定から生じる恐怖の方が、面白くなる可能性は高いんじゃないかと思っちゃうんだよね。
前者の場合、「そういう過去があるなら、そういう行動を取るのも分かるよね」という「理解の範囲内」に収まる恐怖になっちゃうわけで。
でも後者の場合は、ごく平凡な女性からのギャップの大きさが恐怖を生み出すにはプラスに作用するし、「得体の知れない恐怖」さえ抱かせるようなキャラになるんじゃないかと。

「こんな女性だから、こんな犯罪に走りました」という理屈を用意してキャラクターを分かりやすくしたことが、この映画では裏目に出ているように感じるのだ。
サスペンスやホラーのように観客に恐怖を与えることを目的としたジャンルの場合、丁寧に説明すること、分かりやすく噛み砕くことが、マイナスに働くことも少なくないんだよね。
あと、途中でアナがマイクに脅されて「ホントは気持ちが変化しているけど仕方なく指示に従う」という態度を取るシーンがあるけど、そういうトコで変に同情心を誘うのも邪魔。

TVシリーズぐらい尺があれば「最初は金が目当てだったが、アナがジョンに惹かれるようになり」という部分を丁寧に描く余裕もあっただろう。
っていうかホントに演出能力が高い人なら、107分という上映時間の映画でも、そこを上手く処理できたのかもしれない。
そして「上手く表現できていれば」と仮定した上で思うのは、「アナの過去に関するキャラ設定も変えた方がいいんじゃないかなあ」ってことだ。
ここも「結局は監督の腕次第」ってことになるけど、そっちの方が恐怖が増した可能性を感じるのだ。

終盤、アナの本性が明らかになると、テイラー夫妻は「ジョンがアナを愛していると嘘をつき、子供を引き渡してもらう」ってことを企む。
でも、それはダメだろ。アナの気持ちを利用して、騙して子供を手に入れようとするって、すんげえ卑劣じゃねえか。
一応は「アナが堕胎を考えている可能性があり、赤ん坊の命を救うため」という名目が用意されているけど、それより「自分たちが子供を手に入れたい」という気持ちが圧倒的に強いのは明らかだからね。
もちろんアナは問題の多すぎる女だけど、だからテイラー夫妻の行動は全面的に正当化できるかって言うと、それは別問題だわ。
しかも、夫妻がアナを騙そうとする展開に入ってからテンポが悪くてダラダラしちゃってるから、そういう意味でもマイナスが大きいし。

(観賞日:2021年10月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会