『シャレード』:2002、アメリカ&ドイツ

「シャルル」と呼ばれた男が、列車の個室で女性の軍人と密会していた。シャルルは個室を出て廊下を歩いて行く途中、何者かに殺された。レジーナ・ランバートはカリブ海へ遊びに出掛け、友人のシルヴィアに夫のチャールズとの離婚を決意したことを話す。そこへ1人の男が、シルヴィアの息子を連れて来た。レジーナは誘惑するように見つめるが、男はそのまま立ち去ろうとする。レジーナは「意気地無し。誘わないの?」と笑いながら告げた。
アパートのあるパリへ戻ったレジーナは、空港で男と再会する。質問を受けてレジーナが名乗ると、男は「ジュシュア・ピーターズ」と自己紹介した。ジョシュアはレジーナの荷物をタクシーに運び、アパートまで送り届けた。レジーナが部屋に入ると家具が消え、何者かに荒れされた形跡があった。室内にはドミニク警視とデサリーヌ刑事がいて、レジーナを警察署へ案内した。遺体を見せられたレジーナは、それが夫であることを確認した。
ドミニクはレジーナに、遺体がモンペリエ郊外の線路脇で発見されたこと、所持品にバルセロナ発の航空券があったことを話す。「ご主人はアメリカ人?」と訊かれたレジーナは、チャールズがスイス人の美術商だと説明した。するとドミニクは何枚もの偽造パスポートを見せ、チャールズが複数の偽名と国籍を使い分けていたことを指摘した。さらに彼女は、チャールズが家財を売り払って約180万ドルの現金にしたこと、その金が無くなっていることを語った。
死体置き場にはリー、ザダペック、ローラという3人の男女が押し入り、チャールズの遺体を確認した。しかし、その遺体に彼らが目当ての物は隠されていなかった。レジーナはチャールズの遺留品を見せられ、自分宛ての手紙を読んだ。そこには「カンヌへ買い付けに行く。ドレスの切り抜きを同封する」と書かれていたが、切り抜きは入っていなかった。しかしドミニクが仕立屋に確認したところ、ドレスは完成しているということだった。
レジーナは遺留品をバッグに入れ、警察署を出てアパートに戻った。するとニュースでチャールズの死を知ったというジュシュアが、彼女を訪ねて来た。レジーナが「ここを出るわ」と言うので、ジョシュアは自分が宿泊しているホテル・ラングロワへ連れて行く。レジーナを部屋まで送ると、彼は「僕は28号室にいる」と告げた。ジョシュアがホテルを出ると、待ち受けていたドミニクの尋問を受けた。レジーナとの関係を問われた彼は、知り合ったばかりだと答えた。
翌朝、レジーナの部屋に、極秘扱いの封筒が差し込まれた。レジーナは用意された車で出掛け、防衛協力局のルイス・バーソロミューという男と面会した。バーソロミューはレジーナに、「米国政府が君の身を守る」と告げる。レジーナが「私は英国人よ。管轄外では?」と言うと、彼は「ご主人は防衛協力局に手を貸してくれていた。彼の本名はチャールズ・レイク」と述べて一枚の写真を見せた。そこには迷彩服に身を包んだチャールズ、リー、ザダペック、ローラが写っていた。
バーソロミューはレジーナに、「その4人は重要な軍事作戦に参加した」と説明した。そして「チャールズが何をしていたか謎だ。そして消えた600万ドルの行方も」と言い、その金を見つけ出すための協力をレジーナに要請した。レジーナは金のことなど知らなかったが、バーソロミューは「近くにあって気付いていないだけだ。良く探してくれ。写真の連中は君が持ってると思っている。金が戻らないと、君は危険だ」と話す。彼は密会のことを内緒にするよう求め、携帯番号を書いた名刺を渡した。
レジーナは遺留品の手帳を開き、チャールズの最後の日の予定を確認した。そこに書いてあった市場へ彼女が行くと、休みでシャッターが閉まっていた。そこにローラが現れ、「私たちは46個のダイヤを危険な連中から奪ったけど、チャールズが裏切った」と告げる。レジーナが金のありかを吐くよう脅されていると、ジョシュアが現れた。レジーナが彼の元に駆け寄ると、ローラは「私たちのお金よ。返してもらう権利がある」と告げて立ち去った。
レジーナは歩きながら、ジョシュアに「夫はお金絡みで殺されたのよ。政府の金が消えて、それを狙う連中がいる」と話す。彼女は向こうからリーが歩いて来て、じっと観察しているのに気付いた。ホテルに戻ったレジーナは、エレベーターでザダペックに襲われる。バッグを奪われそうになったレジーナは抵抗し、ロビーにいるジョシュアに叫ぶ。ジョシュアが駆け付けてザダペックをエレベーターから引きずり下ろし、レジーナを逃がした。
レジーナは部屋に入ってバーソロミューに電話を掛け、「写真の連中がいる」と知らせる。バーソロミューは3人の名前を教え、「危険な連中だ。なるべく早く君に会いたい」と告げた。ジョシュアが来たので、レジーナは電話を切った。彼に「なぜ3人を知ってる?消えた金は?そのことを、どうやって知った?」と質問されたレジーナは、「ある人と約束したから言えないの」と答えた。レジーナがシャワーを浴びている間に、ジョシュアはバッグの中を内緒で調べた。
ジョシュアはシャルル・アズナブールの曲を掛け、レジーナと踊る。ザダペックはレジーナに電話を掛け、「ダイルがアズナブールを聴かせただろ?奴の目的は金だ」と告げた。レジーナは「疲れたから休むわ」とジョシュアに言い、彼を部屋から去らせた。ジョシュアはリーたちがいる部屋へ行き、ザダペックに「金が欲しいんだろ。血迷って彼女を襲ったり電話を掛けたりするな」と言う。ザダペックは「パリ警察にチャールズ殺しを密告するぞ」と口にするが、リーが「ダイルに従え。俺たちは互いに必要な関係だ」と諭した。
レジーナはバーソロミューと会い、「ダイルって誰?襲って来た男がジョシュアをダイルと呼んでいた」と言う。バーソロミューは彼女に、「特殊部隊にいたカーソン・J・ダイル少佐のことだ。1990年代に傭兵部隊を指揮していたが、1998年にサラエボの近くで殺害された。その年、彼はODAの極秘捕虜救出作戦を指揮した。ODAは傭兵とのルートを持っていなかったため、チャーリーが仲介人として仕事を請け負い、傭兵部隊を雇って敵側と交渉した」と説明した。
バーソロミューは「彼らは身代金として600万ドル相当のダイヤをヘリで運んだが、待ち伏せされてダイルと傭兵の大半が死んだ。生き残ったのは君の夫と写真の3人だけだ。チャールズは山分けの約束を破り、ダイヤを独り占めして逃げた」と語った上で、「ダイルは死亡している。ジョシュア・ピーターズが何者か突き止めてくれ」とレジーナに依頼した。レジーナはトラブルに巻き込まれることを嫌うが、結局は依頼を引き受けた。
翌朝、ジョシュアはレジーナがチェックアウトしたことを知った後、買い物に出掛ける。外で待機していたレジーナが尾行すると、彼は玩具店に入った。レジーナは玩具店に電話を掛け、「ダイルに繋いでほしい」とマネージャーに頼む。ジョシュアがマネージャーにダイルと呼ばれて電話機を受け取ったのを確認し、レジーナは店に乗り込んで裏切り行為を非難した。ジョシュアは「説明させてくれ。君を守るためだ。僕はカーソンの弟のアレックスだ」と告げた。
アレックスはレジーナに、「チャールズと3人組は兄を裏切って金を奪った。だから内偵していた」と説明する。レジーナは駅に入ると、その様子を見ていた婦人が驚愕の表情を浮かべる。彼女はレジーナも知らないチャールズの母親デュ・ラック夫人で、死体安置所で内縁の夫との間に出来た息子の遺体を確認した直後だった。レジーナがロンドン行きの切符を購入すると、アレックスは留まるよう頼む。だが、レジーナは列車に乗り込んだ。
アレックスは3人組が列車に乗り込むのを目撃し、レジーナに危険を伝えようとするが、彼女は姿を消していた。アレックスは列車に飛び乗り、彼女を捜索する。3人組も手分けしてレジーナを捜していたが、ザダペックは心臓発作を起こし、アレックスの眼前で突然死した。警察署へ赴いたレジーナは、ドミニクからチャールズの母親が死体安置所に来たことを知らされる。さらにドミニクは、デュ・ラック夫人が精神を病んでいること、息子の死も金が消えたのもレジーナのせいだと思っていることを述べた。
レジーナはドミニクから、アレックスと3人組の情報を得るための協力を求められた。レジーナは了承し、警察署を後にした。レジーナはカフェへ赴き、アレックスと3人組にバッグの中身を見せた。店の外に視線をやったアレックスは、デュ・ラック夫人が睨み付けている姿に気付いた。彼はレジーナを船内レストランへ連れて行き、「3人組には僕がチャールズを殺したと話してある」と明かした。レジーナとアレックスは、ドミニク&3人組と共にタンゴクラブへ出掛け、女優の熱唱に合わせて踊った。
アレックスがレジーナを店から連れ出すと、気付いたローラが追って来た。デュ・ラック夫人はレジーナが一人になったところで、車を突っ込ませてひき殺そうとする。だが、それに気付いたローラがレジーナを突き飛ばし、犠牲となった。彼女は死の間際、レジーナに「ダイル」と言い残した。レジーナから「なぜ兄の死や、チャールズや3人組について警察に連絡しないの?」と問われたアレックスは、「金が欲しいからさ」と答えた。
レジーナはチャールズの手帳を確認し、ノミの市へ行くことに決めた。翌日、彼女が賑わうノミの市を歩くと、連絡を受けたドミニクやデサリーヌたちが張り込んでいる。バーソロミューも密かに観察しており、アレックスも現れた。彼はレジーナに話し掛け、リーも来ていることを教えた。リーは空き店舗のシャッターに貼られている写真が気になり、隣で商売をしている男に尋ねた。すると男は、空き店舗の主人がイポリット氏であること、先週に大儲けしたが死んだことを話した。
イポリット氏が切手の売買をしていたことを男から聞いたリーは、チャールズは独り占めした金を手紙に貼られていた切手に替えたのだと気付いた。リーがホテルへと駆け出した直後、アレックスも切手のことを悟った。彼は急いで後を追い、ホテルの中でリーと揉み合った。レジーナが駆け付けると、リーが廊下で血を流して倒れていた。部屋に入るとアレックスが室内を荒らし、レジーナに気付くと「ここに切手は無いのか」と尋ねる。レジーナは彼がリーを殺したと思い込み、ホテルを飛び出した…。

監督はジョナサン・デミ、オリジナル版脚本はピーター・ストーン、脚本はジョナサン・デミ&スティーヴ・シュミット&ピーター・ジョシュア&ジェシカ・ベンディンガー、製作はジョナサン・デミ&ピーター・サラフ&エドワード・サクソン、共同脚本はネダ・アーミアン&ミシュカ・チェイコ、製作総指揮はイロナ・ハーツバーグ、撮影はタク・フジモト、編集はキャロル・リトルトン、共同編集はスザンヌ・スパングラー、美術はヒューゴ・ルジック=ウィオウスキー、衣装はカトリーヌ・レテリエ、タイトル・デザインはパブロ・フェロ、音楽はレイチェル・ポートマン、音楽監修はデーヴァ・アンダーソン。
出演はタンディー・ニュートン、マーク・ウォールバーグ、ティム・ロビンス、パク・チュンフン、テッド・レヴィン、リサ・ゲイ・ハミルトン、クリスティーヌ・ボワッソン、スティーヴン・ディレイン、シモン・アブカリアン、フレデリク・マイニンガー、シャルル・アズナヴール、アンナ・カリーナ、マガリ・ノエル、サキナ・ジャフリー、オルガ・セキュリッチ、ピエール・カレ、ウィルフレッド・ブナイシュ、ソティギ・クヤテ、アニエス・ヴァルダ、ポーラ・ムーア、フランソワーズ・ベルタン、フィリップ・カトリーヌ、ラモーナ・デミ、オリヴィエ・ブローチェ、トニー・アモーニ、エリック・アウファブレ他。


スタンリー・ドーネンが監督を務め、ケーリー・グラント&オードリー・ヘップバーンが共演した1963年の同名映画のリメイク。
監督は『羊たちの沈黙』『フィラデルフィア』のジョナサン・デミ。
レジーナをタンディー・ニュートン、ジョシュアをマーク・ウォールバーグ、バーソロミューをティム・ロビンス、リーをパク・チュンフン、ザダペックをテッド・レヴィン、ローラをリサ・ゲイ・ハミルトン、ドミニクをクリスティーヌ・ボワッソン、チャーリーをスティーヴン・ディレイン、デサリーヌをシモン・アブカリアン、デュ・ラック夫人をフレデリク・マイニンガーが演じている。

リメイク映画を作る以上、オリジナル版との比較は避けて通れない。
それを考えた時、レジーナがタンディー・ニュートン、ジョシュアがマーク・ウォールバーグというキャスティングは、オリジナル版のオードリー・ヘップバーン&ケーリー・グラントより明らかに落ちる。
そりゃあ、オリジナル版に匹敵するか、それ以上のコンビを見つけろってのは難しいだろうけど、それにしてもタンディー・ニュートンは無いわ。ジョシュアに「意気地無し、誘わないの?」と笑いながら言う時点で萎えそうになる。
そこは艶っぽさか可愛らしさ、どちらか1つは無きゃ成立しないだろうに、「ただのオバサンじゃねえか」と言いたくなったぞ。

同じことをなぞるだけならリメイクする意味は無いから、オリジナル版との変化を付けるってのは間違った考え方ではない。
ただし、この映画の場合、「もはや『シャレード』のリメイクである必要が無いんじゃないか」と思ってしまう出来栄えになっている。ジョナサン・デミが個人的に大好きなヌーヴェル・ヴァーグやフランス映画にオマージュを捧げたい気持ちを自由気ままに表現して、そのために『シャレード』を利用しているだけじゃないのかと思ってしまう。
フランス映画関連のネタを盛り込むことばかりに意識が向けられており、肝心のドラマや物語をいかに盛り上げるのか、いかに面白くするのかという部分の意識が薄い。しかも、そういうネタをストーリー展開の中に落とし込むのではなく、「まずネタありき」の考え方で、流れを無視してでも強引に盛り込んでいるように感じられる。
やたらと映像に凝っているが、それも完全に空回りしている。それによって得られる効果を深く考えず、ただ無造作に凝っているだけに感じられる。

そもそも、チャールズが列車の個室で一緒にいるのが軍服の女性というトコロからして、無駄に凝っている。
不倫相手が軍服女性である必要性なんて、何も無い。
そもそも彼が不倫しているという設定さえも、ストーリー上は全く必要が無いものだ。
後から軍服女性が物語に絡むことなんて、全く無いんだから。「軍服女性との情事って、なんかフランス映画っぽくね?」ってことなんだろうね、きっと。

序盤、ビーチでレジーナとジョシュアが会話を交わすシーンで、手持ちカメラが2人の顔をアップで捉える。喋る度にカットが切り替わり、台詞を口にしている人物の顔をアップで捉える。
そのカメラワークは、目に優しくない。
空港で再会するシーンでも、やはりカメラは話している人物の顔をアップで捉え、セリフが交代するとカットを切り替える。その際、カメラはゆっくりと2人の周囲を回っている。
このカメラワークも、やはり疎ましいし、目が疲れる。

レジーナはアパートに戻った時、やたらと疲れた様子でドアの前に倒れ込み、ものすごく緊張した面持ちで鍵を差し込む。
なぜ疲れた様子なのか、なぜ緊張した様子なのかは、良く分からない。
中に入った途端、レジーナは不安そうに「チャールズ?」と呼び掛け、慌てた様子で室内を捜し回る。
だが、部屋に入った途端なので、何を変に思ったのかが良く分からない。そこはリアクションを取るのが早すぎるんじゃないかと感じる。

レジーナがドミニクたちと共に警察の死体安置所へ向かって歩いているシーンでは、サブリミナル効果でも狙っているのかと言いたくなるような、ものすごく短い別カットが複数回に渡って挿入される。
それは全く別のカットではなく、同じ廊下を捉えた映像なのだが、何がしたいのかサッパリ分からない。
確実に言えることは、やはり目が無駄に疲れるってことだ。
遺体を確認するシーンでは、遺体視点からの映像になっているが、それも特に効果的だとは思わない。

ジョシュアがホテルでシャルル・アズナブールのことを口にすると、シャワーを浴びているレジーナが「『テロリストを撃て』ね?」と言い、その映画の1シーンが挿入される。ジョシュアがアズナブールのCDを掛けるとカットが切り替わり、彼とレジーナが部屋で踊っている様子が写し出されるのだが、その前方ではアズナブール本人が座って歌っている。
つまりホテルの部屋に彼が来ている形になっているわけだ。
幻想的な映像としてシャルル・アズナブールが登場するのは、もちろんヌーヴェル・ヴァーグを意識した仕掛けである。
そして、それはストーリー展開に何の関係も無い。

警察署を出たレジーナが黒服の女性と遭遇するシーンでは、その女性がレジーナを見つめる様子が意味ありげに描かれている。
しかし実際のところ、彼女は本筋に全く絡んで来ない。演じているのがフェデリコ・フェリーニ作品に多く出ていたマガリ・ノエルであり、彼女を登場させたかっただけだ。
終盤には、レジーナが橋の上から遺灰を撒いている彼女に気付いて見つめ合い、互いに微笑を浮かべるシーンがあるが、だから何なのかと。
その時に女性と一緒にいるのはジョナサン・デミの監督で、撒いている遺灰は彼と関係の深い人物の本物の遺灰らしいんだけど、だから何なのかと。

ジョシュアがレジーナをホテルへ連れて行く際には、2人の会話を聞いているタクシー運転手の顔も意味ありげに写し出される。
ただし、その運転手に関しては、有名な俳優というわけでもないので、ホントにワケが分からない。
どうやらジョナサン・デミは1995年の映画『パリでかくれんぼ』も意識していたらしく、アンナ・カリーナは同作品を連想させるクラブ歌手の役で登場する。
玩具店のマネージャー役で、『パリでかくれんぼ』に出演したウィルフレッド・ブナイシュも姿を見せている。

最初にレジーナが市場へ行った時、1人の女性と目が合う。妙に意味ありげに存在感を示すその女性は、後で写真が出て来るイポリット氏の未亡人という設定で、演じているのは『5時から7時までのクレオ』や『冬の旅』などを撮ったアニエス・ヴァルダ監督だ。
だが、出て来た時点では、イポリット氏との関係性など全く分からない状態になっている。そもそも、イポリット氏に未亡人がいる設定さえ、全く必要性が無い。
ちなみにイポリット氏の写真として使われているのは、かつてジョナサン・デミの映画をプロデュースしていた故人のケネス・アットだ。だが、そこも別に、故人である意味は無いし、イポリット氏を出さなくても話を進めることは出来る。
そんなイポリット氏の情報をリーから問われる男を演じたソティギ・クヤテはブルキナファソ出身だが活動の舞台はフランスで、『パリ空港の人々』などに出演していた。
その起用も、やはりジョナサン・デミ監督のフランス映画趣味が表れていると言えるだろう。

駅でジョシュアがレジーナに「僕とパリに残って」と頼むと、2人が船の甲板でキスして抱き合い、そのバックで5人組がラップを歌う映像が挿入される。
アズナブールのシーンと同様、それも妄想の映像化ってことだ。そして、それもヌーヴェル・バーグ的な演出ってことなんだろう。
しかし、そういうオシャレっぽい演出の数々は、方向性を間違えているとしか思えない。
オリジナル版にあったユーモラスな雰囲気や軽快なテンポを排除して、代わりに持ち込んだ要素が、それなのかと。

最初はレジーナを疑っていたドミニクは、後半に入って「貴方を信じるから協力して」と言い出すが、なぜ疑惑が晴れたのかはサッパリ分からない。それを言い出す直前、警察署にはレジーナとジョシュアだけじゃなくてリーとローラも一緒に来ているんだけど、どういう流れなのかは良く分からない。
ザダペックが突然死したからって、リーとローラは律儀に警察署まで同行したのか。なんか変なの。
それよりも、もっと変なのは、その夜、クラブでレジーナ、ジョシュア、ドミニク、リー、ローラの5人が楽しそうにタンゴを踊るシーン。
どういうことだよ。いつの間に仲良しになっちゃってんのよ。
ローラがレジーナを庇って死亡するのもそうだよ。なんで仲良しになって命を落とし、死ぬ間際になって急に善玉へと鞍替えしちゃってるんだよ。それは単に、キャラが定まっていないとしか思えないぞ。

そういうのも、やはりフランス映画やヌーヴェル・バーグを意識した演出なんだろうけど、心底から「何がしたいねん」と言いたくなる。
もしも混沌とした雰囲気を作り出すことが狙いであれば、それは大成功していると言っていいだろう。
ただし、混沌とした雰囲気を生み出すことによって、それがサスペンスやミステリーとしての面白さや、ドラマの充実度に繋がるなんてことは全く無い。
むしろ、邪魔をしているだけだ。

リーが「切手に600万ドルの価値がある」と気付く展開は、かなり強引で無理があるし、ミステリーとしての面白味は皆無だ。
その後、彼とジョシュアが切手を手に入れるためにホテルまで徒競走するのは、ただバカバカしいだけだ。
コメディー調になっていれば成立するかもしれないけど、そういう雰囲気作りは出来ていない。
そうなると、「先に到着したところで、すぐに追い付くんだから、ホントに邪魔だと思ったら競争するよりも相手を排除することを考えるべきじゃないのか」と言いたくなる。

最後はジョシュアが訪ねて来たレジーナと大使館で微笑んで抱き合い、視線の向こうにシャルル・アズナブールが登場して愛の歌を歌い始める。カットが切り替わると、リーが冒頭でチャールズと一緒にいた女性と知り合っている。アズナブールが大使館を出て行くと、職員の女性が追い掛けて行く。
最後まで何をどうしたいんだか良く分からないままクーロジング・クレジットに入ると、デュ・ラック夫人が刑務所の配膳係としてカーソンに食事を運び、出口を見てニヤリと笑うアップが写る。
いやいや、そこに来て「彼女が脱走してレジーナを狙うかも」ということを匂わせる描写を入れられても、だから何なのかと。
ホント、最後の最後まで、まとまりの無い映画だなあ。

(観賞日:2015年3月18日)


第25回スティンカーズ最悪映画賞(2002年)

ノミネート:【最悪のリメイク】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会