『サンダーバード』:2004、イギリス&フランス

南太平洋に浮かぶ孤島トレーシー・アイランドには、国際救助隊「サンダーバード」の秘密基地がある。総司令のジェフ・トレイシーと 4人の息子たちは、世界各地で発生する災害から人々を救うために活動している。しかしマサチューセッツ州のウォートン校に通う末っ子 のアランだけは、まだ救助隊員になっていない。彼は隊員になることを熱望し、授業中もサンダーバードのことばかり考えていた。
アランと同じ学校には、救助隊の天才科学者プレインズの息子であるファーマットも通っていた。担任教師から注意を受けたアランに、 ファーマットは「もっと注意しないと。君の正体がバレたら大変なことになる」と告げる。2人が廊下を歩いていると、一人の生徒が 「サンダーバードがテレビに出る」と興奮しながら走って来た。生徒たちがテレビの前に集まると、ロシアの油田で掘削機が燃えて大火事 になったニュースが報じられていた。救助要請を受けた国際救助隊は、サンダーバード1号と2号で駆け付けた。ジェフたちは、油田に 取り残された作業員たちを救出して火事を消した。
サンダーバードの専属諜報員レディー・ペネロープが学校に現れ、アランに「お父さんの代理で来たのよ」と言う。アランとファーマット は、彼女の運転手パーカーの車でトレーシー・アイランドへ向かう。ジェフたちは1号と2号でサンフランシスコ市立病院に着陸し、救助 した作業員たちを降ろした。作業員の一人マリオンは、追跡装置を1号へ撃ち込んだ。ジェフたちは全く気付かずに発進した。マリオンは 、悪党のザ・フッドに従う手下だった。
アランとファーマットはトレーシー・アイランドに到着し、ジェフやブレインズたちと久々に会った。アランはジェフに、「これからは家 で勉強するよ。そうすれば僕も一緒にミッションへ行ける」と提案する。しかしジェフは「近道は無い。まずは学校だ」と彼に告げた。 ペネロープはパーカーからの連絡で、ロシアの火事が何者かの犯罪だと知り、それをジェフに伝えた。アランとファーマットは内緒で1号 に乗り込むが、間違ってエンジン系統を触ってしまい、ジェフに気付かれた。
アランとファーマットは1号から降りた時、ノーズコーンにバリウム化合物が付着しているのに気付いた。アランはジェフに呼び出され、 「お前は探知防止シールド無しに起動した。勝手な行動は全員を危険にさらす。隊員になりたければ、まずは規則を守れ」と厳しく叱責 される。アランは素直に受け入れず、「僕を仲間に入れたくないんだろ」と腹を立てた。ジェフは「もっと大人になれ」と諌めるが、彼は 激しく反発した。ジェフは宇宙ステーションであるサンダーバード5号に常駐する長男ジョンから通信を受け、アランが春休みで戻って 来たことを話した。
翌朝、ブレインズはファーマットに開発中の神経制御システムを見せる。ファーマットが1号のノーズコーンにバリウム化合物が付着して いたことを伝えると、ブレインズは「すぐにチェックしないと」と2人で確かめに行く。一方、ザ・フッドの一味は潜水艦で島へ接近して いた。ザ・フッドは「彼らを島から追い出すことは難しいが、救助に行く餌を与えてやればいい」と言い、作戦開始を指示した。
ザ・フッドの指示を受けたトランサムは、サンダーバード5号をミサイルで攻撃した。ジェフと3人の息子たちはジョンを救助するため、 3号で宇宙へ向かう。アラン、ファーマット、トレーシー家の執事キラノの娘ティンティンの3人は、潜水艦が浮上するのを目撃して身を 隠した。ザ・フッド一味は通信システムを遮断し、ブレインズのいるコントロールルームから5号に連絡できないようにした。
アランたちは通気口を使い、コントロールルームへ向かう。ザ・フッドはトランサムとマリオンを引き連れ、コントロールルームに突入 した。彼は超能力を使ってブレインズの体を操り、コントロールセンターを起動させる。ザ・フッドはジェフたちを5号に閉じ込めて、 モニターを通じて「この基地は乗っ取った。もはやお前たちには制御不能だ。これからサンダーバードを使って、ロンドン銀行を手始めに 世界中の大銀行を襲う。通貨システムを混乱させ、その責めをお前たちに負わせる」と言い放った。
ジェフが「なぜ我々なんだ」と問い掛けると、ザ・フッドは「目には目をだ。私を忘れても、弟のキラノを救ったことは覚えてるだろう」 と言う。ザ・フッドは、キリノの死んだはずの兄だった。彼は「お前は私を犠牲にした。今度はお前が苦しむのだ」とジェフに言い、通信 を終わらせた。あと4時間しか、5号の空気は持たない。ファーマットがドジをやらかしたせいで、隠れていたアランたちはザ・フッドに 気付かれた。彼らは格納庫へ移動するが、扉を閉められてしまった。
アランたちはファイヤーフライを使い、エレベーターで来たマリンたちを足止めする。その間に、サンダーライザーで1号の格納庫の扉を 開けた。アランたちは通路を開けようとするが、ザフッド一味に包囲される。彼らは何とか海へ脱出し、ザ・フッドは死んだと思い込む。 ザ・フッドは銀行を襲撃するため、2号を使う準備をするよう手下たちに指示した。島に戻ったアランたちは5号へ連絡するため、送信機 へ向かおうと考える。そのためには、ジャングルを抜ける必要がある。「2号が発進する前に、何とかしないと」とアランが焦っていると 、ファーマットはあらかじめ抜き取っておいた2号の誘導プロセッサーを得意げに見せた。
ペネロープは基地からの連絡が無いことにサンダーバードの危機を察知し、パーカーの車でトレーシー・アイランドへ向かう。トランサム は2号を飛ばそうとするが、プロセッサーが無いのでエラーが出てしまう。ザ・フッドはアランたちが生きていると気付き、捕まえるよう 命じた。アランたちはジャングルを移動していたが、彼の肩に猛毒サソリが止まった。するとティンティンが超能力でサソリを追い払った 。彼らは送信機に辿り着き、ファーマットが故障した部分を修理した。
アランは5号とコンタクトを取り、「メインコンピュータをハックして、そっちでコントロールできるようにするから」とジェフに伝える 。ザ・フッドは通信を探知し、トランサムが捜索に出ているマリオンにアラン場所を教えた。妨害電波が入ってデータが送れなくなった ため、アランは「気付かれた、通信が切れる。後は僕らがやる」と言う。しかしジェフは「危険だ。非常事態行動を取れ。ペネロープを 待つんだ」と指示した。アランはさらに話そうとするが、通信が切れてしまった。
マリオンとザ・フッドの手下たちが来たため、アラン、ファーマット、ティンティンは慌てて逃げ出した。彼らはホバープレートに乗り、 一味を撒こうとする。しかし操縦を受け持ったアランがスピードを上げ過ぎたせいで、ファーマットとティンティンの乗る後方部分が 外れてしまう。2人は取り残され、マリオンたちに捕まった。秘密基地に連行された2人は、キラノたちと共に監禁された。
ペネロープとパーカーが基地に到着すると、ザ・フッドがトランサムとマリオンを引き連れて現れた。ペネロープとパーカーがトランサム とマリオンを相手に戦っている様子を、アランは物陰に隠れて窺う。アランは、ザ・フッドが超能力を使うと疲労するに気付いた。アラン が隠れていることに気付いていたザ・フッドは、超能力を使ってペネロープとパーカーを苦しめた。彼はアランに向かい、「持っている物 を渡せ」と要求する。アランは仕方なく誘導プロセッサーを渡した。
ペネロープ、パーカー、アランは、ファーマットたちと一緒に冷凍庫へ閉じ込められた。ザ・フッド一味はプロセッサーを取り付け、2号 で発進した。ペネロープやアランたちは、拘束を解いて冷凍庫から脱出した。彼らはコントロールルームへ行き、5号と通信する。しかし 全員が既に意識を失っており、応答は無い。大気圏への突入が迫る中、ブレインズが大声で呼び掛けると、ジェフが意識を取り戻した。 ジェフにプロトコルを承認してもらい、5号のコントロールが復活した。5号は静止軌道に戻ったが、地球へ戻るには時間が掛かる。その ため、ザ・フッド一味の犯罪を制止する役目はペネロープと3人の子供たちに委ねられた…。

監督はジョナサン・フレイクス、原案はピーター・ヒューイット&ウィリアム・オズボーン、脚本はウィリアム・オズボーン&マイケル・ マッカラーズ、製作はティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー&マーク・ハッファム、共同製作はジョー・バーン&クリス・クラーク 、製作総指揮はデブラ・ヘイワード&ライザ・チェイシン、撮影はブレンダン・ガルヴィン、編集はマーティン・ウォルシュ、美術は ジョン・ベアード、衣装はマリット・アレン、視覚効果監修はマーク・ネルメス&マイク・マギー、音楽はハンス・ジマー、音楽監修は ニック・エンジェル。
出演はビル・パクストン、アンソニー・エドワーズ、ソフィア・マイルズ、ロン・クック、ベン・キングズレー、ブラディー・コーベット 、ソレン・フルトン、ヴァネッサ・アン・ハジェンズ、ローズ・キーガン、デオビア・オパレイ、レックス・シュラプネル、フィリップ・ ウィンチェスター、ドミニク・コレンソ、ベン・トージャーセン、バスカー・パテル、ハーヴェイ・ヴァーディー、ジニー・フランシス、 ディミトリ・ゴリツァス、デボラ・ウェストン、ルー・ハーシュ、アレックス・バーリンジャー、カイル・ハーバート他。


1965年にイギリスで放映された同名の人形劇を基にした実写映画。
ジェフをビル・パクストン、ブレインズをアンソニー・エドワーズ、 ペネロープをソフィア・マイルズ、パーカーをロン・クック、ザ・フッドをベン・キングズレー、アランをブラディー・コーベット、 ファーマットをソレン・フルトン、ティンティン(人形劇の日本語版では「ミンミン」という名称に変更されていた)をヴァネッサ・アン ・ハジェンズ、トランサムをローズ・キーガン、マリオンをデオビア・オパレイが演じている。
ファーマット、トランサム、マリオンは映画オリジナルのキャラクターだ。

『サンダーバード』の映画化権を持っていたイギリスの映画会社ワーキング・タイトル・フィルムズは、アメリカ市場を意識して企画を 進めた。
監督としてアメリカ人のジョナサン・フレイクス(『新スタートレック』のライカー副長役。劇場版である『スター・トレック  ファースト・コンタクト』と『スタートレック 叛乱』で監督を務めた)を起用したのも、そういう狙いがあったからだ。
人形劇の『サンダーバード』は、本国イギリスや日本では良く知られているが、アメリカでは全く知名度が無い。そういう事情を鑑みて、 シナリオも作られたらしい。
「オリジナル版を知らない人のことを考慮する」というのは、充分に理解できる。
だけど、オリジナル版を知らない人のことを考慮してシナリオを作った結果、なぜサンダーバードが活躍しない内容になるのか、まるで 理解できない。

この映画、トップ・ビリングはジェフを演じたビル・パクストンだが、実質的な主人公はアランで、準主役はファーマットとティンティン だ。アランの年齢設定は14歳に引き下げられており、ファーマットとティンティンも同年代の設定だ。
つまり、これは国際救助隊の兄弟たちが活躍する話ではなく、国際救助隊に憧れを持つ子供たちが活躍するという『スパイ・キッズ』 もどきの映画になっているのだ。
だけどさ、「オリジナル版を知らない観客層を考慮して、オリジナル版の兄弟を脇に回して子供たちを主役に据える」って、まるで筋が 通っていないぞ。知名度が低いのなら、オリジナル版のキャラを使おうが、他のキャラを使おうが、どっちにしても「良く知らない」って ことで、一緒じゃないのか。
で、オリジナル版の兄弟をないがしろにしたり、内容をアメリカ向けにしたりしたことで、オリジナル版を知っている観客からもそっぽを 向かれてしまうわけで、何もいいことが無いでしょ。

アメリカ市場やオリジナル版を知らない観客層を意識してオリジナル版から大きく遠ざかってしまたら、本末転倒も甚だしい。
そんなことをするぐらいなら、最初から『サンダーバード』じゃなくて、完全なるオリジナル作品を作ればいいだけじゃないのか。
どうせアメリカで『サンダーバード』の名前は訴求力に繋がらないんだからさ。
もうね、製作サイドが何をやりたかったのか、サッパリ分からんよ。
そりゃコケて当然だし、続編の企画がポシャッても当然だよ。

もうね、冒頭のアニメがチープだった時点で、ちょっと嫌な予感がしたんだよなあ。
で、その予感は的中した。
セオリーを考えると、最初にキャラ紹介を兼ねて救助ミッションがあり、それがザ・フッドの仕業と分かって、関連する形で次の ミッションは失敗するが、再びチャレンジで成功する、という流れにでもすべきだろう。
ところが、最初のミッションで秘密基地の場所がザ・フッドにバレて、救助隊の面々は罠に落ちて宇宙ステーションへ閉じ込められて しまう。
いやいや、いきなり基地の場所がバレてんのかよ。
それで製作サイドは続編を作ろうとしていたんだから、どういう計算なのかと。

そもそも、なんでジェフまで出動しちゃうんだよ。彼は基地に留まって指揮を担当すべきポジションでしょうに。
そんなバカだから、ザ・フッドに基地を制圧されちゃうんだよ。
っていうか、制圧される展開にするために、そういうバカな設定にしちゃったのか。
そんでジェフたちは宇宙ステーションでジョンを救助するミッションをやるが、並行してザ・フッド一味が基地を制圧する様子が描かれて いるので、その救出ミッションに全く集中できない。

『サンダーバード』というタイトルなのに、正式なサンダーバードであるジェフは4人の息子は前半の内に捕まってしまう。
そして、正式な隊員じゃない子供たちが奮闘する展開になる。
オリジナル版を知っている人、その上で本作品を見た人が期待していたのは、まず間違いなく「トレーシー兄弟がヴィークルを使って活躍 する」という物語のはず。
なんで子供たちの活躍を見せられなきゃならんのかと。

しかも、なぜか主な舞台に島をして、ジャングルを抜けるアドベンチャーなんぞを描いていく。
猛毒サソリが肩に乗るとか、送信機を修理するとか、マリオンたちに追われて逃走するとか、ジャングルでの出来事が続く。
いや、『サンダーバード』の魅力って、そういうことじゃねえだろ。
ヴィークルを積極的に使わずして、どうやって『サンダーバード』の魅力をアピールするのかと。
ヴィークルをないがしろにしちゃったら、そんなのは『サンダーバード』でも何でもねえよ。

後半に入ってサンダーバード2号が発進するが、使うのはトレーシー兄弟じゃなくてザ・フッド一味。
残り30分ぐらいになって、ようやく善玉サイドがヴィークルで出動するけど、乗るのは子供たち。
で、その後もティンティンがワイヤーを引っ掛けるために川へダイブするとか、銀行に入って人間同士で戦うとか、そんな展開に なっちゃう。
川に沈んだモノレールの人々を救う時にはメカが使われるけど、肝心の「銀行襲撃を阻止する」というミッションにおいては、ヴィークル は全く使われていないのだ。

本来なら活躍しなきゃいけないはずのトレーシー兄弟は、前半で5号に閉じ込められ、助けを待っているだけ。
クライマックスを前にして静止軌道に戻るが、「すぐには地球へ戻れない」ということで、ザ・フッド一味の銀行襲撃を止めに行くのは 子供たちに委ねられる。
途中でジェフだけは合流するけど、ほとんど何もしない内に、あっさりと檻へ閉じ込められて、アランとザ・フッドの対決を傍観すること しか出来ていない。

兄貴たちに至っては、ラストミッションに全く関与しない。
「事故現場の収集に当たる」ということで、ミッション終了まで画面から完全に消えている。
実はオリジナル版の長男だったスコットが次男、次男だったジョンが長男に設定変更されており、「順番を入れ替えて何の意味があるのか 」と思っていたのだが、そこの順番を入れ替えたことに気付かないぐらい、アラン以外の兄弟の存在感は薄い。

ただし、そもそも『サンダーバード』の面白さって、人形劇だからこその面白さだったように思えるんだよなあ。
精巧なミニチュアだからこそ、アナログな作りだからこそ、味わいがあるんだと思うんだよね。
だから、実写にすること自体が間違いだったんじゃないかと、そう感じたりもするんだけどね。
トレーシー兄弟がヴィークルで活躍する内容にしたとしても、それでオリジナル版のファンが喜ぶような面白い映画になったかどうかは、 やや疑問があるかなと。

(観賞日:2012年12月27日)


第27回スティンカーズ最悪映画賞(2004年)

受賞:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[ソレン・フルトン]

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[ソレン・フルトン]


2004年度 文春きいちご賞:第7位

 

*ポンコツ映画愛護協会