『ザ・スピリット』:2008、アメリカ

3年前に死の淵から蘇った刑事のデニー・コルトは、マスクで顔を隠した“スピリット”としてセントラル・シティーを守っていた。ある夜、刑事のサスマンが彼に電話を掛けて来た。「船の廃棄場に来てくれ。オクトパスが絡んでいるらしい」と助けを求められたスピリットは、現場へ向かう途中で女の悲鳴を耳にした。スピリットはナイフを持った悪漢2名を退治し、女を助けた。彼は警官のマクレディーに後を頼み、パトカーを拾ってサスマンの元へ向かった。
スピリットが死の天使ローレライの声を気にしながらも現場に到着すると、サスマンは撃たれて倒れていた。スピリットは同行した警官のリーボウィッツに、ドーラン本部長の娘である外科医のエレンを呼ぶよう指示した。サスマンは「美しい女を見た」と呟くが、その女に撃たれたわけではなかった。水中から出現した女は銃を構えたが、ためらっている間に、背後から現れたオクトパスがサスマンを撃った。女は海底に戻り、夫のマームードが見つけた木箱を持ち去ろうとする。
オクトパスの射撃によって、箱の1つが海に沈む。女は残った1つを持って逃亡した。オクトパスは残された箱を手に入れる。彼は手下のクローン軍団に箱を預け、スピリットに襲い掛かった。オクトパスの腹心シルケン・フロスはトラックでクローン軍団の元に現れ、箱を積み込むよう指示する。不死身のオクトパスはスピリットと殴り合って満足し、「また遊んでやる。お前は俺と同類だ」と笑いながら去る。死に至るほどのダメージを負ったスピリットだが、恋人であるエレンが駆け付けると、もう怪我は治り掛けていた。
スピリットはサスマンが女の首から奪い取ったネックレスを見て、現場にいたのがサンド・サレフだと気付く。一方、オクトパスは能無しの手下ペーソスに苛立ち、容赦なく銃殺した。スピリットはサンドのことを回想する。まだ若い頃、スピリットとサンドは仲の良い幼馴染だった。キラキラと輝く物が大好きなサンドのために、スピリットはバイクを質に入れ、ネックレスをプレゼントした。それが、サスマンの持っていたネックレスだった。
スピリットの養父であるピートは元ボクサーで、警官であるサンドの父親は彼の面倒を見ていた。ある夜、ピートが銃を持った男と揉み合っている現場に、サンドの父が駆け付けた。男の発砲した弾丸がサンドの父に当たるが、ピートは自分がやったと思い込み、その場で自害した。孤児となったサンドは貧しい生活を抜け出して金持ちになることに強い執着を見せ、スピリットに冷たく別れを告げて街を出て行った。それ以来、ずっと街には戻っていないはずだった。
オクトパスが手に入れた箱を開けると中身は財宝だったが、目当ての物が無い。「血で満たされた壺が入っていたはずだぞ」と彼が口にすると、クローン軍団のロゴスが「箱はもう1つあった」と言う。すぐにオクトパスは、サンドが持ち去ったと気付く。「サンドの狙いは財宝だけだ。ヘラクレスの血は我々が手に入れる」と彼は言い、サンドに連絡してブツの交換を持ち掛けろとクローン軍団に命じた。彼は邪魔なスピリットを始末するため、わざとアジトの手掛かりを彼に与えていた。
サンドは情報をオクトパスに漏らした古美術商のドネンフェルドを脅して預金を全て奪い、拳銃を渡して自殺させた。エレンは病院でスピリットを治療しようとするが、既に傷は癒えていた。2人がキスを交わしていると、ドーランが新人の女性警官モーガンスターンを連れてやってきた。スピリットがモーガンスターンの手にキスをする様子を見たエレンは、嫉妬心を露わにした。街に出たスピリットがキザな態度で女性リポーターを口説いたので、ドーランは「この女たらしが。娘はやらんぞ」と苛立ちを示した。
ドーランはスピリットに、「オクトパスは後回しだ。ある男が拳銃自殺した。その直前、サンド・サレフと会っている」と語る。サンドはヨーロッパに移り住んで8度も結婚を繰り返し、世界的な宝石強盗となっていた。しかし今まで一度も警官を傷付けていない。ドーランはスピリットに、警察に匿名で1億ドルの寄付があったことも話す。ドーランはサンドがドネンフェルドを殺したのではないかと考えていたが、スピリットは「彼女の仕業じゃない」と強い口調で反発した。
オクトパスの知人とのポーカー対決に勝利したサンドは、伝言を依頼した。オクトパスは能無しのクローン軍団がサンドを発見できないことに激しい苛立ちを示す。彼はスピリットを始末するため、ある作戦を考えた。スピリットはサンドの宿泊するホテルを見つけ出し、部屋に乗り込んだ。スピリットが手錠を見せても、サンドは余裕の態度を崩さなかった。部屋ではマームードが死んでいたが、サンドは壺の中に入っていた血を勝手に飲んで死んだのだと説明する。
スピリットが遠回しに自分の正体を示唆すると、サンドは「嘘よ、彼は死んだはず」と突き飛ばす。スピリットは窓から転落し、オブジェに引っ掛かって宙吊りになった。その間にサンドは車で逃走した。クローンの死体を調べたモーゲンスターンからの電話で、スピリットはオクトパスのアジトが塩の多い場所だと知る。塩工場に乗り込んだスピリットは、シルケンにキスされて油断した隙に注射を打たれ、気を失ってしまった。意識を取り戻すと、スピリットは椅子に縛り付けられていた。
踊り子の殺し屋プラスターがスピリットの前に現れ、小さなナイフを投げ付けた。ナチの制服に身を包んだオクトパスとシルケンが、そこに姿を現した。オクトパスは知人からの電話で、明日の夜に取り引きを行うというサンドからのメッセージを聞いた。オクトパスは電話を終え、スピリットに「お前が死んだ時のことを覚えてるか」と問い掛けた。スピリットは彼に、体の秘密を教えるよう要求した。
オクトパスは「お前が撃たれて殉職した時、俺は検死官だった」とスピリットに明かした。その頃、彼は不死身になる薬を研究しており、スピリットを血清の実験に使った。スピリットが見事に生き返ったので、オクトパスは自分の体にも血清を使った。だが、まだ血清だけでは未完成だ。壺の中にあるヘラクレスの血を使うことによって、初めて本当の意味で不死身の存在になれるのだ。オクトパスは邪魔なスピリットを始末するため、体をバラバラに切り刻もうとする…。

脚本&監督はフランク・ミラー、原作はウィル・アイズナー、製作はデボラ・デル・プレト&ジジ・プリッツカー&マイケル・E・ウスラン、共同製作はリンダ・マクドノー&F・J・デサント、製作協力はマーク・サデギ、製作総指揮はベンジャミン・メルニカー&スティーヴン・マイヤー&ウィリアム・リシャック&マイケル・バーンズ&マイケル・パセオネック、共同製作総指揮はジェフ・アンドリック、撮影はビル・ポープ、編集はグレゴリー・ナスバウム、美術はロザリオ・プロベヴェンサ、衣装はマイケル・デニソン、シニア視覚効果スーパーバイザーはナンシー・セント・ジョン&スチュ・マシュウィッツ、音楽はデヴィッド・ニューマン、音楽監修はダン・ハバート。
出演はガブリエル・マクト、エヴァ・メンデス、サミュエル・L・ジャクソン、スカーレット・ヨハンソン、サラ・ポールソン、ダン・ローリア、パス・ヴェガ、エリック・バルフォー、ジェイミー・キング、ルイス・ロンバルディー、スタナ・カティック、リチャード・ポートナウ、ジョニー・シモンズ、ダン・ゲリティー、リオ・アレクサンダー、セイシェル・ガブリエル、ミーガン・ホラウェイ、キンバリー・コックス、マーク・デルガロ、マイケル・ミルホーン、デヴィッド・ウィーガンド、ラリー・レインハート=メイヤー、アル・ゴトー、フランク・ミラー他。


アメリカン・コミックの巨匠、ウィル・アイズナーの代表作である同名漫画を基にした作品。
『シン・シティ』でロバート・ロドリゲスと共に共同監督を務めた漫画家のフランク・ミラーが、初めて単独で監督を務めている。
スピリットをガブリエル・マクト、サンドをエヴァ・メンデス、オクトパスをサミュエル・L・ジャクソン、シルケンをスカーレット・ヨハンソン、エレンをサラ・ポールソン、ドーランをダン・ローリア、プラスターをパス・ヴェガ、マームードをエリック・バルフォー、ローレライをジェイミー・キング、クローン軍団をルイス・ロンバルディー、モーゲンスターンをスタナ・カティック、ドネンフェルドをリチャード・ポートナウ、若い頃のスピリットをジョニー・シモンズが演じている。

セントラル・シティーがゴッサム・シティーに似ているなど、「他のアメコミ作品で見たような設定やキャラだなあ」と思う箇所が色々と見つかるかもしれない。
だが、これが元祖であり、「似ている」と感じた作品は、この原作漫画に影響を受けているのだ。
だから他のアメコミの要素を寄せ集めたわけではないのだが、しかしアメコミに詳しい人はともかく、大半の観客からすれば、どれが先で、どれが後なのかなんて関係が無い。「他のアメコミ映画と似ている」というのは、マイナス要素でしかない。
そういう意味では、アメコミ映画としては後発である本作品は、かなり厳しい勝負を余儀なくされている。

この映画を批評する時に、「『シン・シティ』とは面白さが全く違う」といった感じで、『シン・シティ』と比較して質が低いという風にコメントする人が少なくないようだ。
ただ、個人的には、その『シン・シティ』に対しても、そんなに良く出来た映画だとは思わなかった。
出演者にグリーンスクリーンの前で全ての演技を行ってもらい、その映像にCGで背景や特殊効果を付け加えるという作業手順で作った映像が話題を集めたが、途中で慣れてしまうと、惹き付けられるモノは無くなった。
また、あまりにも喋りすぎるナレーションも、邪魔で仕方が無かった。

さて、この映画だが、映像の作り方は『シン・シティ』とあまり変わっていない。
だから『シン・シティ』を見た人からすると、新鮮味に欠けるということなるだろう。
『シン・シティ』の映像表現をさらに進化させたり、手を加えて新たな試みに挑戦したりしているわけではないのでね(『シン・シティ』のようなモノクロ基調のパートカラーにこだわっているわけではないが)。
それと、アクション演出やカメラワークに関しても、特に惹き付けられるようなモノは感じなかった。

『シン・シティ』とは原作者が違うのだが(あの映画は原作もフランク・ミラー)、やはりナレーションがうるさいと感じた。
「これ(ネックレス)はサスマンが残した唯一の手掛かりだ。サンドはあの場所に居て、これを付けていた。彼女はオクトパスと関わりがあるのか。サンドを見つけ出して、本人に訊くしかない」とか、そんなことを、いちいち言うんだよな。
っていうか、それはナレーションじゃなくて、「独白」としてカメラの前でスピリットが喋っているし。

あと、『シン・シティ』のようにハードボイルドなタッチの作風なのかと思いきや、意外にもコミカルなテイストが強い。スピリットはクールなタフガイではなく、プレイボーイの軽い奴だった。
フランク・ミラーが敬愛する先輩であるウィル・アイズナーの作品をブチ壊すとは思えないので、たぶん原作漫画におけるスピリットが、そういうキャラクター造形なんだろう。
ただ、その軽いノリと、映像のタッチが、まるで合っていない。そこに強烈な違和感を抱いてしまい、それは最後まで消えない。
ミスマッチの妙を狙っているとも思えないし、狙っていたとしても失敗している。
オクトパス側がコミカルになりすぎていて、緊張感が全く無いのも引っ掛かる。オクトパスがマッド・サイエンティストでも、感情表現が激しくても、それは別にいいんだけど、かなりコミカルなノリの強いキャラになっちゃってるんだよな。
でも、だからってコメディーとして作っている感じでもないんだよね。

あと、スピリットってプレイボーイというだけじゃなくて、あまりカッコ良くないんだよな。
電線の上を跳ねながら走っていく冒頭シーンの動きからして、なんかカッコ悪い。オクトパスとの最初の戦闘も、カッコ良さに欠ける。
映像はスタイリッシュなのに、アクションはちっともスタイリッシュじゃない。
便器で頭をガツンと殴られるとか、その便器に体がスポンとハマってしまうとか、すげえカッコ悪い。
それと、ちっとも強くない。「オクトパスがものすごく強いから苦戦する」とは見えない。単純にスピリットが強くないとしか思えない。
なんせ、オクトパスも便器を投げ付けられて失神しちゃう程度だしね。

宙吊りになったのを見た人々が「ヒーローなのに飛べないのか」「ダサいな」などと口々に言うけど、実際、ダサいんだよな。
その状態のまま、電話が掛かって来たので話しているシーンも、すげえダサい。おまけに、そこから脱出するために、ズボンが脱げて下半身がパンツ一丁になっちゃうし。
なんで正義のヒーローをそんなにカッコ悪いキャラにしているのか、理解に苦しむ。
これがアクション・コメディーならともかく、スピリット本人はカッコ良く決めているつもりで、コメディーのキャラクターになっているわけじゃないのよね。
だから、ますますカッコ悪いのよ。

(観賞日:2013年3月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会