『スノーマン 雪闇の殺人鬼』:2017、イギリス&アメリカ&スウェーデン

ノルウェー。山間にポツンと建つ一軒家に、その少年は母親と2人で暮らしていた。そこへ警官がパトカーでやって来ると、少年は「ママ、ヨーナスおじさんが来たよ」と伝える。生活物資を届けたヨーナスは厳しい態度で少年に勉強を教え、答えられないと母親を殴り付けて「お前がしっかりと教えないからだ」と叱責した。外へ出た少年は雪だるまを作り、口の部分にコーヒー豆を入れた。彼が屋内に戻って2階の寝室を除くと、ヨーナスと母親は情事の後だった。
母親は少年の視線に気付くと、ヨーナスに「あの子が貴方の子だって奥さんに言うわ」と告げる。ヨーナスは少年に気付くと、「だったら二度と会わん」と冷たく言い放った。彼は引き留めようとする少年を振り払い、パトカーで走り去る。母親は少年を車に乗せて追跡するが、振り切られると凍った湖に侵入した。少年が呼び掛けても、母親は全く反応しなかった。少年はサイドブレーキを掛け、氷の割れる音を耳にして「早く出よう」と焦る。外へ出た彼は「置いてかないで」と必死に呼び掛けるが、母親は車と共に湖の下へ沈んだ。
ハリー・ホーレは公園の小屋で目を覚まし、アパートに戻った。彼はコンサートのチケットと自分のメッセージカードを見て、オレグへの誕生日プレゼントを渡しそびれたことに気付いた。画廊で働くラケルは客に絵の説明をしている最中、外に立っているハリーに気付いた。ラケルが無視して仕事を続けると、ハリーは立ち去った。ハリーが所属するオスロ警察へ行くと、記録用の端末機がバージョンアップしたことに関する説明会が開かれていた。
ハリーが郵便物を確認しようとしていると、ハーゲン部長が「ほぼ1週間分の郵便だろう」と指摘する。ハリーが勝手に仕事を休んでいたため、ハーゲンは「休暇願は文書で正式に出す義務がある。これ以上は庇い続けられない」と言う。ハリーが差出人不明の封筒を開けると、中には謎めいたメッセージと雪だるまの絵を描いたカードが入っていた。ハリーは仕事を終えたラケルと会って、「オレグの誕生日を忘れたわけじゃない。コンサートのチケットを買った」と釈明する。ラケルはハリーの別れた妻で、彼女の連れ子がオレグだ。
ラケルはマティアスという男と再婚したが、オレグは彼と気が合わずにハリーと会いたがっていた。ハリーはラケルを自宅まで送り届けた後、バルで泥酔して路上で眠り込んだ。同じ夜、ビルテ・ベッケルが道を歩いていると、何者かが後ろから雪玉をぶつけた。ビルテが振り向くと誰もおらず、彼女は駐車場で車に乗り込んだ。赤い車が尾行したが、ビルテが先に行くよう手で合図すると通り過ぎた。ビルテは帰宅し、幼い娘のヨセフィーネを抱き締めた。夫のフィリップは「8時には出ると言っただろ」と帰りが遅いことを咎め、ビルテの説明を無視して外出した。
深夜、ビルテが寝室で読書していると、窓に雪玉がぶつけられた。彼女が窓の外に目をやると、雪だるまが自分の部屋に向いていた。翌朝、ハリーは警察署でカトリーネ・ブラットという転任してきたばかりの女性と会い、伝説の刑事だと言われる。カトリーネはベルゲンから 異動して来たばかりで、ハリーの下で働くよう指示されたと話す。目を覚ましたヨセフィーネは、ビルテがいないことに気付いた。彼女が外を見ると、雪だるまにビルテのスカーフが巻いてあった。
失踪事件の通報を受けたカトリーネが捜査に向かおうとすると、免許を持っていないハリーは「付き合うよ」と車に同乗する。カトリーネはベッケル家の近所に住む女性と会い、事情を聞く。その間にハリーはカトリーネの車を調べ、実業家のアルヴェ・ステープを取り上げた新聞を見つけた。カトリーネの鞄を調べて極秘資料を盗み見た彼は、それが9年前の事件に関する内容だと知った。9年前、ベルゲンでライラ・オーセンが失踪する事件が発生した。オーセン産業の社長を務める夫のフレデリクは、友人で地元刑事のラフトーに相談した。ラフトーは停職中だったが、フレデリクは内密に捜索してほしいと要請した。
男性関係について質問されたフレデリクは、ライラが妊娠の専門医に通っていたことが分かったと告げ、3年も性交渉が無いことを明かす。ステープとオーセン夫妻は、ビジネスにおいて近しい間柄だった。車を降りて雪だるまを見たハリーは、自分宛のカードを確認した。彼はベッケル家に入り、ヨセフィーネから話を聞いた。カトリーネに車でアパートまで送ってもらったハリーは、「ビルテは戻る。ただの浮気だ」と言う。
カトリーネは反論し、他にもヘーゲ・ダールという女性が子供を残したまま1週間前に失踪していることを話す。ハリーは「夫と話せ」と短く言い、車を降りた。アパートに入ったハリーは、盗み出したカトリーネの資料を取り出した。9年前、ライラはウルリケン山で遺体となって発見され、警察無線を傍聴していたラフトーは現場へ向かった。アル中のラフトーは刑事たちから煙たがられていたが、彼は全く気にしなかった。
翌日、ハリーはカトリーネから盗んだ資料を返すよう求められ、「君の物じゃない。俺は見る権限があり、君には無い」と言う。ハリーがエーリ・クヴァーレという女性に関する詳細を尋ねると、カトリーネは既婚者で子供が3人いたこと、6年前に失踪していることを説明した。ビルテとヘーゲも含めて、3人とも失踪した日は雪が降っていた。そして3人とも既婚者で、子供がいた。ハリーは「妻殺しは大抵の犯人が夫だ」と言うが、カトリーネはフィリップには確かなアリバイがあることを話す。
ハリーはフィリップと会い、ビルテのスケジュールについて確認した。ヴェトレセン医師に予約を入れていた理由についてハリーが訊くと、フィリップは何も知らなかった。1組の母と娘は、大きな邸宅にやって来た。母親に促された娘は、邸宅へ招き入れられた。ハリーがラケルと一緒にオレグの出場するホッケーの試合を観戦していると、マティアスがやって来た。ラケルがホットドッグを買いに行くと、マティアスはハリーに最近の調子を尋ねる。「眠れないんだ」とハリーが言うと、医師のマティアスは新薬の処方箋を出した。
夜、ハリーはオレグと2人で出掛け、一緒にキャンプへ行く約束を交わした。ハリーは息子とコンサートを見に行くが、カトリーネからヤイロで失踪者が出たという知らせが届く。「そこは管轄外だ」とハリーが言うと、カトリーネは「彼女の夫が貴方を指名したの」と語る。ハリーはカトリーネの車に乗せてもらい、オレグを家まで送り届けた。翌日、ハリーとカトリーネはヤイロに向かうが、失踪したはずのシルヴィア・オッテルセンは自宅にいた。
シルヴィアは夫が通報した理由は分からないと言い、妹を迎えに駅へ行っていると話した。カトリーネが「お子さんはいる?」と訊くと、彼女は「いない」と答えた。ハリーとカトリーネが立ち去った後、シルヴィアは夫に電話して「何を考えてるの?私たちは終わったのよ」と冷たく告げた。電話を切った後、彼女は何者かに襲われて死亡した。ハリーとカトリーネはシルヴィアの夫から1分前に通報が入ったばかりだと知り、不審を抱いてオッテルセン家へ戻った。するとシルヴィアの双子の妹であるアーネが、車に走って来た。
鶏小屋には首の無い遺体が放置されており、ハリーは雪だるまの上に乗せられたシルヴィアの首を発見した。事情聴取を受けたアーネは、シルヴィアが奔放で男好きだったこと、数週間前に父親の分からない子供を中絶していたことを証言した。オスロ市役所では冬季スポーツワールドカップの開催を目指すパーティーが盛大に開かれ、招致を指揮したアルヴェが拍手で迎えられた。医師のヴェトレセンは入り口で警備員に止められるが、「私はステープの古い友人だ」と主張した。彼が強引に若い女を連れて会場へ入る様子を目にしたカトリーネは、後を追った。ヴェトレセンの連れは、母親に促されて邸宅へ入った女だった。
ヴェトレセンがスピーチ中のアルヴェに女を見せる様子を、カトリーネは密かに撮影した。ハリーはハーゲンから連続失踪事件について問われ、自分に届いたカードを見せる。さらに彼は「犯人は失踪前に通報してる。俺たちの動きを監視してる」と言い、少人数のチームが必要だと訴えた。ヴェトレセンは無人の会議場でステープと会い、「こんな日にこんな所へ連れて来るとは」と非難される。ヴェトレセンが女の乳房を見せると、アルヴェは「馬鹿め」と告げて立ち去った。
翌日から少数による捜査班が組織され、ハリーはカトリーネからシルヴィアの恋人の身許が判明したこと、中絶を実施しているクリニックに掛かっていたことを聞かされた。クリニックの院長がヴェトレセンだと知り、ハリーは「ビルテも予約を入れてた」と口にする。ハリーとカトリーネはヴェトレセンの屋敷を訪ねるが、守秘義務を理由に協力を断られた。カトリーネがアルヴェとの関係について質問すると、ヴェトレセンは資金援助してもらっていることを話す。彼女が「今、家に誰かいますか。さっき窓際に人影が」と言うと、ヴェトレセンは家宅捜索したければ令状を取るよう要求した。
ハリーはカトリーネの態度に不審を抱き、同僚に頼んで彼女のパソコンの動画を見せてもらった。アルヴェばかりを撮影していると知ったハリーは、カトリーネがデスクに隠していたラフトーの資料を調べた。ハリーが列車でベルゲンに向かっていると、学会に出席するというマティアスに声を掛けられた。処方薬の効果を訊かれた彼は、「ぐっすり眠れてる」と答えた。「それじゃあオレグの件はキャンセル?」と問われたハリーは何のことか分からず、「キャンプだよ」と言われてようやく気付いた。マティアスはオレグに電話を掛けて、「昨日、携帯の留守電をチェックし忘れた。ハリーからキャンプに行けなくなったとメッセージが入っていたんだ」と嘘をついた。
列車を降りたハリーはフレデリクと会い、父親がアルヴェを信頼していたせいで会社から追われる羽目になったことを聞かされる。「最近、若い女性刑事が来ませんでしたか」とハリーが尋ねると、フレデリクは「いいや」と言う。フレデリクはライラがアルヴェと浮気していたことに当時は気付いていなかったと語り、ハリーが妻の担当医について訊くと「モルトン・フライバルグだ」と答える。ヴェトレセンについて、彼は名前も顔も知らなかった。
ハリーがラフトーとの面会を求めると、「彼は妻の事件と同じ頃に死んだよ」とフレデリクは告げた。ハリーはラフトーの元上司であるスヴェンソンと会い、話を聞く。ラフトーはハリーと同じようなメッセージカードを受け取り、その直後に小屋で死亡した。彼はショットガンを握って頭部を吹き飛ばしており、自殺として処理された。ラフトーは事件の1年前に離婚し、妻は娘を連れて行方をくらましていた。カトリーネはハリーがベルゲンへ行ったと知り、後を追い掛けようとする。しかしハリーのデスクの電話が鳴ったので、彼女は受話器を取った。すると相手は通信会社の女性で、ビルテの携帯信号を受信したことを伝えた。
カトリーネは受信した住所がヴェトレセンの屋敷だと聞き、すぐに向かう。インターホンを押しても反応は無く、彼女は忍び込んで中を調べる。ハリーは小屋を調べ、ラフトーの娘がカトリーネだと知った。カトリーネは車庫に続く足跡に気付き、ラフトーと同じ方法で殺害されたヴェトレセンの遺体を発見した。屋敷からはビルテとヘーゲのバラバラ遺体も発見され、ハーゲンはヴェトレセンの自殺と断定して捜査を終結させる…。

監督はトーマス・アルフレッドソン、原作はジョー・ネスボ、脚本はピーター・ストローハン&ホセイン・アミニ&セーアン・スヴァイストロプ、製作はティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー&ピオドール・グスタフソン&ロビン・スロヴォ、製作総指揮はマーティン・スコセッシ&トーマス・アルフレッドソン&アメリア・グレインジャー&ライザ・チェイシン&エマ・ティリンジャー・コスコフ、共同製作はリチャード・ヒューイット、撮影はディオン・ビーブ、美術はマリア・ジャーコヴィク、編集はセルマ・スクーンメイカー&クレア・シンプソン、衣装はジュリアン・デイ、音楽はマルコ・ベルトラミ。
主演はマイケル・ファスベンダー、共演はレベッカ・ファーガソン、J・K・シモンズ、ヴァル・キルマー、シャルロット・ゲンズブール、トビー・ジョーンズ、クロエ・セヴィニー、ソフィア・ヘリン、ジュヌヴィエーヴ・オライリー、ヨーナス・カールソン、ペーテル・ダッレ、ダーヴィッド・デンシック、ヤーコブ・オフテブロ、ジェームズ・ダーシー、マイケル・イェーツ、ロナン・ヴィバート、イェーテ・ローレンス、エイドリアン・ダンバー、レナード・ハイネマン、アン・リード、シルヴィア・バスイオク、ジェイミー・ミチエ、イリーナ・カラ、ベン・アベル、アレック・ニューマン、ジェイミー・クレイトン、ディニータ・ゴーヒル、ロジャー・バークレイ他。


ジョー・ネスボの「ハリー・ホーレ」シリーズ第7作となる小説『スノーマン』を基にした作品。
監督は『ぼくのエリ 200歳の少女』『裏切りのサーカス』のトーマス・アルフレッドソン。
脚本は『裏切りのサーカス』『FRANK -フランク-』のピーター・ストローハン、『スノーホワイト』『47RONIN』のホセイン・アミニ、TVドラマ『THE KILLING/キリング』シリーズのセーアン・スヴァイストロプによる共同。
ハリーをマイケル・ファスベンダー、カトリーネをレベッカ・ファーガソン、アルヴェをJ・K・シモンズ、ラフトーをヴァル・キルマー、ラケルをシャルロット・ゲンズブール、スヴェンソンをトビー・ジョーンズ、シルヴィア&アーネをクロエ・セヴィニー、マティアスをヨーナス・カールソンが演じている。

この映画、トーマス・アルフレッドソン監督は完成を急がされたせいで、脚本の約15%を撮影できなかったらしい。
つまり本来なら必要なはずのシーンが欠けた状態で公開されているので、言ってみりゃ不良品なのだ。
全体の約15%が不足しているってのは、かなりの欠損だぞ。
例えば『シンデレラ』で、シンデレラが城から走り去る時にガラスの靴を落とすシーンが無かったら、まるで話が繋がらないでしょ。でも、この映画は、そういう状態になっているってことだ。
なぜ映画会社は、そんなに撮影を急かしたのか。

「必要なシーンが足りていないから」ってのが全ての理由なのかどうかは不明だが、話や状況が分かりにくくなっている箇所は少なくない。
例えばカトリーネの鞄に入っていた資料について、ハリーが「君の物じゃない。俺は見る権限があり、君には無い」と言う。
カトリーネが持っていたのに、彼女には見る権限が無くてハリーにはあるってのは、どういうことなのか良く分からない。カトリーネが勝手に資料を持ち出していたのか。でも、本来は持っていちゃダメな資料なら、外から見えるような状態で鞄に入れていたらダメだろ。
っていうか、そうじゃなくても極秘資料を扱いが雑すぎるだろ。
これは「必要なシーンが云々」ってのは無関係な問題だぞ。

ただし、「本来は必要なシーンが足りていない」という問題だけが、この映画の質を落としているわけではない。それとは全く関係の無い部分でも、色々と問題はある。
例えば「主人公に何の魅力も感じられない」ってのも、その1つだ。
彼は酒は溺れているが、それは離婚が原因ではない。アル中が原因で、妻と息子を見捨てたのだ。
他にアル中になった事情があるのかというと、何も用意されていない。
なので、同情の余地は無い。こいつに感情移入させるような要素が、何も見当たらない。

たぶん「ハリーは今でもラケルに未練があるし、連れ子だけどオレグへの父性も強い」という設定なんだろう。
だが、そんな家族愛の描写が薄いため、あまり伝わって来ない。ハリーの心情描写も、まるで不足しているしね。
ただし厄介なのは、「どうせ事件の捜査とは無関係だし、ラケルやオレグの存在をバッサリとカットしちゃえばいい」とは言えないトコなんだよね。
何しろ、ここの関係が終盤の展開で重要な要素になってくるのよ。だからこそ余計に、ハリーとラケル&オレグとの関係描写って大切なはずなのよね。

ハリーは刑事としても決して優秀とは言えず、かなり捜査能力の低い男だ。
例えばハリーはヨセフィーネから話を聞いた時、「ビルテはただの浮気で、すぐに戻ってくる」と決め付ける。カトリーネがヘーゲ・ダールという女性も失踪していることを明かすと、「夫と話せ」と言うだけ。
ハッキリ言って、刑事としては完全に無能だ。
こっちは既に、単なる浮気ではなく犯人が存在すること、それがフィリップではないことを知っている。

必要なシーンが足りていないと前述したが、一方で「そこに尺を取って丁寧に描く必要が本当にあったのか?」と疑問を覚えるシーンもチョコチョコと垣間見える。
例えばビルテのパート。歩いている彼女は背後から雪玉をぶつけられるが、そこで事件が起きるわけではない。
車が尾行するが、ビルテの合図で通り過ぎる。帰宅したビルテが寝室で読書していると窓に雪玉がぶつけられるが、まだ事件は起きない。
そして翌朝になると、彼女は失踪している。

連続失踪事件が起きていることを観客に伝える最初の出来事なので、それなりに厚みを持たせるのは理解できる。
だけど、そんなに手間と時間を費やして、それに見合う効果が得られているとは到底思えないのだ。
ビルテの事件を捜査することで、犯人に迫っていくという展開になるわけでもないし。
あと、そこを丁寧に描くことで、「2度に渡って雪玉をぶつけるだけで済ませ、翌朝になってから犯行に及ぶ犯人の行動が、ボンクラにしか思えない」という問題も起きている。

ビルテのケースでは、犯人が彼女を襲ったり拉致したりする様子さえ描いていない。しかしシルヴィアの時には犯人が画面に登場し、彼女を殺す様子だけでなく遺体の処置まで描いている。そして犯人が鶏小屋に遺体を放置するため、すぐに殺人事件ってことが明らかになる。
この辺りは、演出もシナリオも一貫性が無いと感じる。
まず演出としては、そこで犯人の殺害シーンと遺体の処理シーンを見せるのなら、なぜビルテの時には「気付いたら消えている」というだけに留めたのか。
シナリオとしては、犯人はビルテの時までは拉致して「失踪」にしていたのに、シルヴィアの時は惨殺して遺体を残すってのは行動の整合性が取れていないという問題がある。

ハリーが捜査する連続失踪事件だけでなく、9年前にライラが失踪した事件に関する回想シーンも描かれる。
カトリーネがラフトーの娘であることや、アルヴェがライラの愛人だったという要素を使って、現在の事件に関連付けようとしている。ヴェトレセンが自殺に偽装して殺されるなど、どんどん謎は深まるばかりだ。
そうやって複雑に事件を入り組ませているのだが、実はこれ、真犯人とは何の関係も無い。
犯人が明らかになった時、伏線のようにして張り巡らせていた物の大半は、雑に放り出されてしまうのだ。

ミステリーだから、もちろんミスリードが用意されているのは一向に構わない。っていうか、ミスリードの無いミステリーなんて、余程のことが無い限りは退屈になってしまう可能性が高い。
だけど、伏線っぽい描写を「もう用済みだから」ってことで放り投げるのは、扱いとしてどうなのかと。
さんざん引っ張っておいて、「アルヴェは今回の事件に何の関係も無い人物でした」ってだけで終わらせてしまうのは、キャラの処理としてマズいんじゃないかと。
あと、9年前の事件なんて、カトリーネも含めて全てカットしてもいいぐらいだわ。どうせカトリーネは、中途半端な形で退場するんだし。

完全ネタバレだが、犯人はマティアスだ。彼は母親に見捨てられたと思い込み、その恨みを他の女性たちに向けていたのだ。冒頭シーンで登場する少年が、若い頃のマティアスなのだ。
だけど、動機が明らかになった時、「何となく筋が通っているようにも思えるけど、実は支離滅裂じゃねえか」という気がしないでもないのよね。
あの出来事で母親に捨てられたと誤解するのはともかく、ヨーナスに何の恨みも抱かないってのは違和感があるし。
まあイカれた犯人だから、全てキッチリと筋が通っている方が変なのかもしれないけどさ。

あと、雪だるまを標的に見せたり、メッセージカードに書いたり、見立て殺人に使ったりしているけど、そこまで固執する理由がサッパリ分からないんだよね。冒頭のエピソードでマティアスは雪だるまを作っていたけど、それと「母の死」という出来事との距離は遠すぎるし。
で、そんな彼の最後は「ハリーを殺そうとして凍った湖面を歩き、氷が割れて水中に沈む」という形。
たぶん冒頭で母親が沈んだシーンと重ねているんだろうけど、これだと「ただ犯人が自滅しただけ」ってことになっちゃうのよね。
結局のところ、ハリーが犯人の正体を突き止めなくてもマティアスが勝手に動いてバラしてくれるし、何だかなあ。

(観賞日:2019年12月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会