『ザ・センチネル/陰謀の星条旗』:2006、アメリカ

シークレット・サービスのピート・ギャリソンは、かつてレーガン大統領を守って暗殺者の銃弾を浴びたこともある男だ。彼はベテランとなった今も現役で、バランタイン大統領の護衛任務を担当している。一方、警護情報部で勤務するデヴィッド・ブレキンリッジの元には、新人のジル・マリンがやって来た。ジルがデヴィッドの下に就くことを志願したのは、訓練アカデミーの教官が最高の捜査官だと称賛していたからだ。教官がピートだと知ったデヴィッドは、その表情を強張らせた。
ピートは仲間たちと共に、小学校を訪問する大統領とファースト・レディーのサラを護衛した。一方、ピートの同僚であるチャーリー・メリウェザーは、自宅前で男に銃殺された。知らせを受けたデヴィッドは、ジルを連れて現場へ赴いた。地元刑事たちは強盗の犯行だと推察するが、状況を冷静に分析したデヴィッドはチャーリーの暗殺を狙った犯行だと確信した。ピートはサラをビーチハウスまで送り届け、部屋で2人きりになってキスをした。2人は不倫関係にあるのだ。
サラとの熱い時間を楽しもうとしていたピートだが、一緒にビーチハウスの護衛を担当していたトムからの無線に邪魔された。ピートが1階へ下りると、担当ではない同僚のアジズが来ていた。アジズはピートに、メリウェザーの死を伝えた。デヴィッドはメリウェザー夫人に、聞き込みを行う。夫人はメリウェザーが「ピートが同僚の妻と不倫しているかもしれない」と話していたことを明かした。
デヴィッドが立ち去ろうとすると、ピートが現れた。デヴィッドが「このクソ野郎」と罵ると、ピートは「まだ根に持っているのか。職場では敬意を払え」と怒りを示した。ジルから「彼と何かあったんですか。友達だと思っていた」と言われたデヴィッドは、「昔はな」と冷たく告げ、それ以上の詮索を拒絶した。彼はピートが妻のシンディーと関係を持ったと疑い、それが理由で離婚していた。ピートはシンディーに会って「彼に潔白だと説明してくれ」と頼むが、「何度言っても無駄だった」と告げられる。
ピートとトムから、情報屋のウォルターが指名して来たことを聞かされる。ピートが指定の場所へ行くと、ウォルターは大統領暗殺計画があること、名前は分からないがシークレット・サービスに内通者がいることを話す。信じようとしないピートだが、ウォルターが渡した資料を確認すると、確かに内部情報が漏れていた。報告を受けた長官は、極秘情報にアクセスした人間のリストを作らせ、全員を嘘発見器に掛けるよう命じた。
副長官のコルテスは、捜査の指揮担当者としてデヴィッドを推薦した。コルテスは「メンバーを選べ。新人のジルは外して構わない」と告げるが、デヴィッドは「彼女を使います。別の視点から見られるはずです」と述べた。大統領夫妻や国家安全保障担当補佐官にも、暗殺計画や内通者がいるという情報を伝えた。大統領は長官に、その情報を国民には隠して対処することを告げた。長官は信頼している部下のモントローズに、「君が最後の砦だ。大統領警護において君の右に出る者はいない」と告げた。
捜査を開始したデヴィッドは、ピートの情報屋であるウォルターの存在を知る。ピートの元には差出人不明の封筒が届き、中には彼とサラが密会してキスを交わす様子を撮った写真が入っていた。モントローズの主導で、捜査官たちは次々に嘘発見器のチェックを受ける。彼はサラの元へ行って写真のことを知らせ、「シークレット・サービスの仕業だ。我々はプロだから、これぐらいのことはやってのける」と告げた。大統領暗殺計画に関係しているのではないかと心配するサラに、ピートは自分が何とかすることを約束した。
ピートは不安を抱きながらも、嘘発見器のチェックを受けた。封筒には「金曜午前10時、メイフラワーホテル」というメモが添えられており、彼は指示に従った。すると電話が入り、喫茶店へ移動するよう要求された。いつまで待っても声を掛けて来る者がいないため、彼は店を後にする。尾行に気付いたピートは、その男を撒いて逆に監視する。だが、駐車場まで尾行したところで、FBI捜査官たちに包囲される。ピートが尾行したのも、捜査中のオルテガ特別捜査官だったのだ。
ピートは会談が行われるキャンプ・デービッドへの出発を一日早めた大統領夫妻に同行し、専用ヘリコプターに乗り込んだ。到着後、サラはピートと2人きりになり、犯人から何の要求も無いことへの不安を吐露する。ウォルターから報酬を要求する電話がピートに入ったので、彼は長官が付けたチャミンスキー捜査官と共に指定されたショッピング・モールへ向かう。だが、拳銃を持った暗殺者が現れ、ピートに知らせようとチャミンスキーを射殺した。デヴィッドとジルもモールに駆け付けるが、暗殺者は逃走した。
大統領専用ヘリコプターは離陸直後に地上からの砲撃を受け、森林に墜落した。ただし、ヘリコプターに大統領夫妻は乗っていなかった。暗殺者はアジトに戻り、ヘリ墜落のニュースをテレビで見ている仲間の「調教師」に話し掛ける。調教師は「台無しだ。どうやら俺たちのダチは、頼りないようだ」と告げた。調教師は内通者に電話を掛け、「奴が乗っていなかったら意味が無いんだ」と声を荒らげた。彼は「もう一度会おう。話し合う必要がある」と内通者に告げた。
ピートが嘘発見器に引っ掛かったため、デヴィッドやジルたちは反逆罪の容疑で取り調べる。デヴィッドはオルテガからの情報を聞いており、「4時間も喫茶店でコーヒーを飲んでいたのか」とピートの行動に対する疑問を提示する。しかもピートはトムから4度も電話があったのに出ておらず、そのせいで専用ヘリに乗り遅れそうになっていた。苛立ちながら釈明するピートに、オルテガは喫茶店が犯罪組織の密会場所になっていることを告げた。
「カルテルの接触相手は誰だ?大統領暗殺計画についても話せよ」とデヴィッドが言うと、ピートは「お前はシンディーのことで個人的なわだかまりが残っているだけだ」と激しく反発した。デヴィッドが長官を迎えに行っている間に、ピートは見張りを倒して逃亡した。デヴィッドは捜査官を集めてピートの捜索を指示し、もしもの時には発砲する覚悟を持つよう説いた。ピートは捜査官の目を盗んでサラと密会し、長官が変えているパスワードを教えるよう頼んだ。
ピートは別人を装い、ウォルターの実家を訪れた。しかし家には母親しかおらず、ウォルターの居場所は分からないと説明した。ピートが去った後、母親はウォルターの留守電に連絡して「お前を捜して男が来たよ。デカだった」とメッセージを残した。それを見越していたピートはトムのパスワードを使ってデータベースに侵入し、ウォルターの居場所を突き止めた。しかし彼が隠れ家へ行くと、ウォルターは死んでいた。シークレット・サービスが駆け付けたため、ピートは車で逃走した…。

監督はクラーク・ジョンソン、原作はジェラルド・ペティヴィッチ、脚本はジョージ・ノルフィー、製作はマイケル・ダグラス&マーシー・ドロギン&アーノン・ミルチャン、共同製作はジョージ・ノルフィー、製作総指揮はビル・カラッロ、撮影はガブリエル・ベリスタイン、編集はシンディー・モロ、美術はアンドリュー・マッカルパイン、衣装はエレン・マイロニック、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はエヴィエン・クリーン。
出演はマイケル・ダグラス、キーファー・サザーランド、キム・ベイシンガー、エヴァ・ロンゴリア、マーティン・ドノヴァン、リッチー・コスター、ブレア・ブラウン、デヴィッド・ラッシュ、クリスティン・レーマン、レイナー・シェイン、チャック・シャマタ、ポール・カルデロン、クラーク・ジョンソン、ラウール・バネジャ、ヤナ・マッキントッシュ、ジョシュ・ピアース、サイモン・レイノルズ、ゲザ・コヴァックス、ジャスミン・ゲリョ、ダニー・A・ゴンザレス、ジュード・コフィー他。


ジェラルド・ペティヴィッチの小説『謀殺の星条旗』を基にした作品。
脚本は『タイムライン』『オーシャンズ12』のジョージ・ノルフィー、監督は『S.W.A.T.』のクラーク・ジョンソン。
ピートをマイケル・ダグラス、デヴィッドをキーファー・サザーランド、サラをキム・ベイシンガー、ジルをエヴァ・ロンゴリア、モントローズをマーティン・ドノヴァン、調教師をリッチー・コスター、補佐官をブレア・ブラウン、大統領をデヴィッド・ラッシュ、シンディーをクリスティン・レーマン、ウォルターをレイナー・シェイン、長官をチャック・シャマタ、コルテスをポール・カルデロンが演じている。

まず最初に感じる大きな欠点は、「主人公に全く魅力を感じない」ってことだ。
たぶん原作からそういう設定なんだろうけど、ピートは女好きで、しかも「不倫は文化」とでも考えているのか、平気で親しい人間の嫁さんを寝取るような奴なのだ。しかも、その相手は自分が護衛している大統領の夫人なのだ。
「愛している」とか言われても、それで「真っ直ぐな愛だから応援しよう」とは思えんぞ。
ピートはサラとの不倫が原因で窮地に追い込まれるのだが、まるで同情したい気持ちが沸かない。
むしろ、「そりゃあアンタの振る舞いからすれば、疑われても仕方が無いでしょ」と思ってしまう。

「大統領夫妻の警護をしているのに、ファースト・レディーと不倫している」ということに対する罪悪感や苦悩も、ピートは全く感じていない。
シンディーとの不倫については、本人曰く「誤解」らしいけど、大統領夫人とは不倫しているんだから、それで「シンディーとは不倫していない」と否定されても、それを信じろという方が難しいぞ。
っていうか、ホントにシンディーとは何も無かった設定なんだろうけど、それでも「何かあったんじゃねえか」と疑いたくなるぐらいなんだよな。
それぐらい、このピートという男に対する信頼性はゼロに等しいのだ。こいつが何を言っても、まるで説得力や信憑性が無い。

ピートは慎重に警戒してサラとの不倫関係を続けているはずなのだが、なぜかカーテンを開けたままキスしたもんだから、それを写真に撮られて脅しを受ける羽目になる。
あまりにもボンクラだ。よく今までバレずに済んでいたもんだな。
「船から赤外線カメラで撮ってる。ジャイロスコープでブレを無くして。実に巧妙だよ」と、まるで相手がチョー凄い奴みたいに言っているけど、カーテンを閉めるなんて初歩中の初歩だろうに、それを忘れてキスしていたら、そこら辺のパパラッチでも撮影できるだろ。
「シークレット・サービスの仕業だ。我々はプロだから、これぐらいのことはやってのける」と彼は言うけど、シークレット・サービスの「プロ」としての仕事って、そういうことじゃないと思うぞ。

サラは「この写真で大統領を暗殺する気じゃない?政治生命が絶たれることは、死刑になるのと同じ」と言うけど、実際、その写真を公表すれば、バランタインを大統領として「抹殺する」ことは充分に可能なんだよね。
でも、ピートの元へ送り付けるだけで済ませているということは、スキャンダルで政治生命を絶つという狙いが無いことは確かだ。
で、「なぜ政治生命を断つのではなく、実際に命を絶つことに固執するのかは、最後まで良く分からない。
写真を公表して大統領を辞任に追い込めば、それで目的は果たされるはずだし、そっちの方が遥かに楽でリスクが少ないでしょ。

ピートは嘘発見器に引っ掛かったことがきっかけで反逆罪の疑いを向けられると、隙を見て逃げ出す。
「罪を被せられた主人公が逃亡者になる」ってのは、古くはTVドラマ『必死の逃亡者』から使われてきたパターンだ。
別に使い古されたパターンだから必ずしもダメってわけではないが、この映画に関しては、その展開に全く気持ちが乗らない。高揚感も期待感も湧かないし、ピートを応援しようという意識も生じない。
むしろ、「短絡的で愚かな行動だな」と思ってしまう。

その後の行動に関しては、もちろんピートが知恵を使ってシークレット・サービスを出し抜くのだが、それは「ピートが有能」というより「ピートが取るであろう行動を予測しているにも関わらず、常に出し抜かれるシークレット・サービスがマヌケなんじゃないか」という印象を受けてしまう。
ホントは高度な頭脳戦になるべきなのに、そうじゃないんだよな。
で、ピートを追い詰めて拳銃を向けたデヴィッドは、部下には「撃つ覚悟を持て」と説いていたのに、テメエは防弾チョッキの背中を撃っただけで、「撃つなら頭を撃て」と挑発されると見逃してしまう。
いやいや、腕とか足を撃って動きを止めればいいだろうに。

ピートがメリウェザー夫人の元を訪れると、犯人グループの男が車で張り込んでいる。
でも、メリウェザー邸を監視している理由が全く分からないぞ。もうメリウェザーは始末したんだから、用は無いはずだろうに。しかも、アホだから張り込みを夫人に気付かれているし。
で、隠れ家を突き止めたピートは侵入するが、男に襲われて発砲する。
「誰に雇われた」と詰め寄るが、胸部を撃ってるんだから殺す気だったんじゃねえのかよ。情報を聞き出すつもりなら、もっと撃つ場所を考えろよ。

ピートが男に尋問しようとしている声を、電話で話していた調教師と暗殺者は聞いている。ピートは携帯電話が通話中なのに気付き、音声を確かめるが、調教師が何も言わないので切る。家宅捜索したピートはジルに電話を掛け、「男を殺した。工作員で大金とパスポートを持ってる。明日からトロントで始まるG8サミットの通行パスまで持ってる」と知らせる。でも、去った後に調教師たちが死体も証拠品も全て片付けるので、デヴィッドが行った時には何も無い。
そりゃあ、そうなるよな。
ピートは男が携帯で喋っていたことに気付いたはずで、それなのに一味が駆け付けることを想定しないとは。
そこだけ急にボンクラになるのね。

終盤、唐突に犯人が判明するが、それは「嘘発見器に引っ掛かったのはピートだけだったけど、そもそもチェックを受けなかった奴がいるよね。だからモントローズが犯人」ということだ。
なんだよ、その簡単でバカバカしすぎる謎解きは。
そもそも、モントローズだけが嘘発見器のチェックを受けていない時点で、都合が良すぎるだろ。っていうか、嘘発見器の結果だけを信用し過ぎ。
あと、モントローズって前半で何度か顔は見せていたものの、途中からすっかり存在が消えているんだよな。内通者という設定なら、後半に入ってからも、もうちょっと存在感を出そうぜ。

「シークレット・サービスは設立以来、141年間も裏切り者を出していない」とピートはサラに語っていたが、141年目にして初めて現れた裏切り者のモントローズは、まだKGBが存在していた20年前に契約を交わしてしたらしい。
で、その契約を交わした理由は、最後まで分からないままだ。
そんで今になって後悔し、家族を人質に取られて敵の言いなりになるんだけど、最後は改心したのか、自ら死を選ぶ。
でも、KGBのスパイになった理由と、ピートが罠に掛けられた理由を明らかにしてから死ねよ。

ピートとデヴィッドの確執、ピートとサラの不倫関係、ピートとジルの師弟関係、デヴィッドとジルの上下関係、ピートと大統領の主従関係など、この映画には多くの相関関係があるのだが、重視すべき関係性が多く盛り込まれ過ぎている中で、実際に中身が充実している要素は1つも無いと言っていい。
ビルに関しては、そもそも存在意義が乏しい。
彼女を外しても、物語には大した変化が起きない。

ピートとデヴィッドの確執については、「妻との不倫が理由でデヴィッドがピートを嫌悪している」というところに繋がっているが、仮にそれが無かったとしたらどうなのかと考えた時に、そんなに影響が無いんじゃないかと思えてしまう。
そこの人間関係を使ったドラマが、そんなに面白く描かれているわけではないからだ。
ピートとサラの不倫関係も、やはり大して意味が無い。不倫設定を排除し、「犯人がピートを罠に掛ける」という形だけを残しても、物語としては充分に成立してしまう。
むしろ、不倫設定を外すことでピートに対する不快な印象が無くなるので、そっちの方がいいんじゃないかとさえ思ってしまう。

(観賞日:2014年6月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会