『ザ・ルームメイト』:2011、アメリカ

ロサンゼルス大学の学生寮に入居したサラ・マシューズは、同級生のトレイシー・モーガンと廊下で出会って挨拶を交わす。ルームメイトは夜になっても現れず、ベッドは空いたままになっている。トレイシーが友人のキム・ジョンソンと共に部屋を訪れ、寮の友愛会が開くパーティーに誘って来た。ルームメイトのことが気になったサラだが、パーティーに赴いた。バンドでドラムを演奏していた男子学生のスティーヴンが、サラをナンパした。
トレイシーが悪酔いしたので、スティーヴンはサラやキムと共に女子寮まで彼女を運んだ。トレイシーとキムがエレベーターに乗った後、サラはスティーヴンにキスをした。サラが部屋に戻ってベッド脇の照明を付けると、ルームメイトのレベッカが隣のベッドにいた。挨拶を交わしたサラは吐き気に見舞われ、洗面所へ行く。部屋に戻るとレベッカが眠りに就いていたので、サラもベッドに潜り込んだ。
翌朝、サラが目を覚ますと、レベッカは二日酔いに効くという薬を彼女に差し出した。レベッカは自分の描いた絵を壁に飾っていた。サラはレベッカに誘われ、書店へ出掛けた。元カレのジェイソンから「君の声が聞きたくて」と電話が掛かって来るが、「もう連絡しないで」とサラは冷たく切った。彼女はレベッカに、2人でロスへ来るつもりだったのにジェイソンはブラウン大へ進学したことを語った。
レベッカが高価な服を何着も持っていると知り、サラは羨ましがった。レベッカは「親のカードで買い放題なの」と言い、実家が近所にあることを話す。サラはレベッカのデザイン画に興味を示すが、「まだ未完成だから見せられないの」と告げられる。翌朝、サラは食堂でトレイシーとキムに出会い、レベッカを紹介した。サラはプロダクト・デザインの講義を担当するロバーツ教授の講義を受けたいと思うが、満員だと言われてしまう。しかしサラの熱意を感じたロバーツは、彼女の受講を認めた。
夜、トレイシーが部屋に来て「暇ならクラブに行かない?」と誘うが、レベッカは「私は遠慮するわ」と告げる。サラはクラブへ行き、トレイシーはアダムという男にナンパされて一緒に踊る。いつの間にかトレイシーが姿を消してしまったので、サラは電話でレベッカをダイナーに呼び出した。レベッカは「今日は譲ったけど、明日は付き合って」とサラに言う。翌日、サラはレベッカに付き合って美術館へ行く。またジェイソンから電話が入るが、サラは無視した。レベッカは彼女に、救済をテーマにしたお気に入りの絵画を紹介した。
タトゥー・ショップの前を通り掛かったレベッカが「タトゥーは無理」と言うと、サラは「胸にあるわ」と口にする。彼女はエミリーと彫られたタトゥーを見せ、「私が9歳の時に死んだ姉。忘れたくなくて」と説明した。サラが映画『プラダを着た悪魔』を好きだと知ったレベッカは、彼女がジョギングに出掛けている間にポスターを貼った。レベッカはサラの棚に歩み寄り、香水を使う。サラが飾っていたエミリーとのツーショット写真を眺めたレベッカは、そこに掛けられていたペンダントを首から下げてみた。
ジョギングから戻ったサラは寮の前にいる捨て猫を見つけ、部屋に連れ帰った。サラはレベッカに、「ペット禁止だけど、保護センターには行けなくて」と明した。レベッカは「2人の秘密にしましょう」と言い、サラは猫にカドルスと名付けた。サラがペンダントに気付き、レベッカは「ごめんなさい」と詫びて首から外した。サラは「姉の形見なの。これだけは触らないで」と静かな口調で注意した。「仲が良かったの?」とレベッカが訊くと、サラは微笑を浮かべて「良かったわ」と答えた。
サラがコーヒーハウスでアルバイトをしていると、スティーヴンが来て友愛クラブのパーティーに誘う。寮に戻ったサラが談話室へ行くと、トレイシーが「今夜はパーティーよ。行く?」と言う。「また置き去り?」とサラが口にすると、トレイシーは「だって彼が金持ちだったから」と告げる。「それで謝罪?」とサラが呆れて小さく笑うと、トレイシーは改めて詫びの言葉を口にした。サラが彼女を許すまでの一連の様子を、レベッカがじっと見ていた。
サラが部屋に戻ると、レベッカは「リチャード・プリンスの展覧会がある。チケットを買ったわ」と言う。プリンスはサラの好きな写真家である。サラが「今夜はデートなの」と申し訳なさそうに言うと、レベッカは「そう」と短く口にする。サラは「延期するわ。でも展覧会に行く条件がある」と言い、フリマで買った服とをレベッカに着せた。サラはイヤリングを渡し、シャワーを浴びに行く。耳に穴の開いていなかったレベッカだが、イヤリングを強引に通して穴を開けた。
夜中に目を覚ましたトレイシーが廊下に出ると、レベッカが座り込んでいた。レベッカはトレイシーに歩み寄るが、何も言わずに去った。翌朝、トレイシーはサラに声を掛け、「レベッカって変よ。廊下で待ち伏せていた」と言う。サラが去った後、トレイシーはレベッカが遠くから凝視していることに気付いた。サラはファッション・デザイナーの助手をしている友人のアイリーンから連絡を貰い、仕事場へ会いに行く。図書館でスティーヴンに声を掛けたサラは、「今夜、一緒に夕食はどう?」と誘った。
トレイシーがシャワーを浴びていると、急に電気が消えた。彼女はレベッカの仕業だと確信するが、シャワーカーテンを開けても誰もいなかった。また電気が付いたのでトレイシーはシャワーを浴びようとするが、フードを頭から被ったレベッカが襲い掛かった。レベッカはトレイシーの顔を床に押し付け、「アンタは男好きのクズだ。サラが汚れるんだよ。バラしたら殺すぞ」と凄んだ。彼女はトレイシーがヘソにしていたピアスを引き抜き、シャワー室を去った。
サラはスティーヴンと共に寮へ戻り、彼とキスをする。そこへレベッカが現れ、「どこへ行ってたの?何度も携帯に掛けたのよ」と言う。サラがスティーヴンを紹介すると、レベッカは不機嫌そうに「もう寝るわ」と告げた。翌朝、「昨夜は心配で」とレベッカが言い訳すると、サラは「私は大丈夫。自分の面倒は自分で見られるわ」と告げる。レベッカはスティーヴンがサラと会う様子を覗き見た後、図書館に1人でいる彼の姿を密かに観察した。
トレイシーが別の寮に移ったことを知ったサラは、何も知らずに声を掛ける。そこにレベッカが現れると、トレイシーは逃げるように立ち去った。サラはスティーヴンとデートし、彼の部屋へ遊びに行く。深夜になってもサラが戻らないので、レベッカは苛立った。サラが部屋へ置いていった携帯に、ジェイソンから電話が掛かって来た。レベッカは勝手に電話を取り、サラに成り済まして「会いたいわ」と告げた。だが、それはサラを思って口にした言葉だった。彼女は「二度と電話しないで」と言い、電話を切った。
早朝になってサラが部屋に戻ると、レベッカはずっと起きて待っていた。カドルスが逃げ出して他の寮生に見つかり、「ペットは禁止よ。何とかして」と言われてしまう。アイリーンの家を訪れたサラは引き取ってもらえないかと頼むが、「旅が多いから無理よ」と断られた。寮のクローゼットがレベッカの服に占領されていることを彼女が話すと、アイリーンは「ここへ引っ越して来れば?部屋は広いし、私は留守がちだし。ペットも可よ」と持ち掛けた。
寮に戻ったサラは、アイリーンから一緒に住もうと誘われたことをレベッカに話す。「ここが嫌になったの?」とレベッカに訊かれ、サラは「違うわ。私が住んでいることにすれば?いいことだわ。これで猫も飼えるし」と言う。レベッカはサラの留守中にカドルスを連れ出し、コインランドリーに入れて殺害した。サラが部屋に戻るとレベッカは号泣の芝居を見せ、「カドルスをランドリーら連れて行ったら、逃げて見つからないの」と告げた。レベッカが「私のせいよ」と詫びると、サラは「これも運命よ」と受け入れた。
サラはレベッカに、親から感謝祭に帰郷するよう求められていることを明かす。「エミリーが死んだのは感謝祭の2日前。本当は帰るべきだけど、悲しすぎるわ」とサラが話すと、レベッカは「ウチへ来ない?」と誘った。サラは感謝するが、「でもスティーヴンがいるし」と断った。ロバーツはサラの服飾デザインを気に入り、一緒にパリのファッション・ウィークへ行かないかと誘う。不意にキスをされたサラは「帰ります」と告げ、強張った表情で立ち去った。
サラはレベッカに、ロバーツからキスされたことを打ち明けた。レベッカはロバーツの元へ行き、彼を誘惑する。ロバーツがその気になったところでレベッカは大声を上げ、暴行されそうになったように装った。ロバーツが狼狽すると、レベッカは携帯で録音していた会話を聞かせる。翌日、サラがロバーツの授業に出ると、彼は休暇を取っていた。サラはレベッカに、「休暇と言っているけど、学部長に女子学生を暴行している録音テープが送られて来たって」と話す。レベッカは「私も驚いた」と何も知らないフリをした。
サラがスティーヴンと楽しく過ごしている間に、レベッカは体のあちこちを殴って痣を作り、カッターナイフで腹に傷を付けた。部屋に戻ったサラが驚くと、レベッカは泣きながら「カドルスを捜してたら男に捕まって、路地に連れ込まれて」と嘘をついた。サラは腹の傷を手当てし、「警察に届けるのよ。校内に異常者がいるんだから」と言う。レベッカは「嫌よ。貴方だから話したの。お願いだから他の人には黙ってて」と告げた。
サラはスティーヴンとの約束を断り、レベッカの実家で感謝祭を過ごすことにした。豪邸を見たサラが圧倒されていると、レベッカは「両親の家よ。私は愛着なんて無い」と冷たく言う。レベッカの部屋には、彼女が描いた少女の絵が飾られていた。夕食の際、父のジェフはサラに「彼女が友達を連れて来たのは初めてだ」と言う。母のアリソンはサラと2人になった時、「彼女は薬を飲んでる?」と尋ねる。レベッカに連れられて町へ出たサラは、絵のモデルとなったマリアを見掛ける。マリアはレベッカに気付き、強張った表情を浮かべた。レベッカは彼女に声を掛け、サラを紹介する。しかしマリアはレベッカに、「私は友達じゃない」と言う…。

監督はクリスチャン・E・クリスチャンセン、脚本はソニー・マリー、製作はダグ・デイヴィソン&ロイ・リー、製作総指揮はボー・マークス&ソニー・マリー、製作協力はジョージ・フリン&アイリーン・ヤン、撮影はフィル・パーメット、編集はランディー・ブリッカー、美術はジョン・ゲイリー・スティール、衣装はマヤ・リーバーマン、音楽はジョン・フリッゼル、音楽監修はマイケル・フリードマン。
出演はレイトン・ミースター、ミンカ・ケリー、ビリー・ゼイン、カム・ジガンデイ、アリー・ミシャルカ、ダニール・ハリス、フランシス・フィッシャー、トマス・アラナ、ニーナ・ドブレフ、マット・ランター、カテリーナ・グレアム、ヨハネス・ラーシナ、キャメロン・フィッシャー・ブロッソー、エヴァン・マイケル・ブラウン、アレックス・メラズ、ジェリカ・ヒントン、ジェニファー・カデナ、アダム・サンダース、コリー・タッカー他。


公開された最初の週末に1560万ドルを稼ぎ出し、全米映画興行収入ランキングで初登場1位に輝いた作品。
監督のクリスチャン・E・クリスチャンセンはデンマークの人で、これがハリウッドに招かれて初めて撮った作品。
映画プロデューサーを本業とするソニー・マリー(本作品でも製作総指揮を担当)が初脚本を手掛けている。
レベッカをレイトン・ミースター、サラをミンカ・ケリー、ロバーツをビリー・ゼイン、スティーヴンをカム・ジガンデイ、トレイシーをアリー・ミシャルカ、アイリーンをダニール・ハリス、アリソンをフランシス・フィッシャー、ジェフをトマス・アラナ、マリアをニーナ・ドブレフ、ジェイソンをマット・ランターが演じている。

この映画が公開された週は、他にロクな映画が公開されなかったんだろうと思わせるような出来栄えだ。
ちょっと調べてみたら、これがトップになった時の2位は初登場の『サンクタム』、3位は公開3週目の『抱きたいカンケイ』だった。
10位以内に入った初登場作品は1位と2位の2本だけだから、そういうことだ。
そもそもスーパー・ボウルが開催される週末は興行成績が低調になる傾向があるので、映画会社も金を掛けた大作や自信作をぶつけようとしないのだ。

レイトン・ミースターは『ゴシップガール』、ミンカ・ケリーは『Friday Night Lights』、アリー・ミシャルカは『22世紀ファミリー 〜フィルにおまかせ〜』、ダニール・ハリスは『One Tree Hill』、ニーナ・ドブレフは『ヴァンパイア・ダイアリーズ』、『新ビバリーヒルズ青春白書』のマット・ランターと、TVシリーズのレギュラー出演者たちが多く顔を揃えている。
裏を返せば、映画スターは不在ってことだ。
それでも初登場で全米映画興行成績1位になったんだから、予算のデカい映画が公開されない週を狙ったとは言え、製作陣からすれば「してやったり」ってトコじゃないかな。

序盤の段階で、「レベッカがイカれた女で、サラを攻撃対象にするか、もしくはサラの周囲の人々を攻撃する」という大まかなプロットが容易に予想できるだろう。
そして、その予想通りに話は展開する。そこに意外性は何も無い。
サスペンスなのに予定調和で安心感に満ちているという、困ったことになっている。
キメ細やかな心理描写や魅力的なキャラクター、斬新な映像表現、キレのある編集などのセールスポイントがあるわけでもなく、ベタで使い古されたプロットを凡庸に仕上げているだけだ。

レベッカの攻撃性をサラに向けさせるか、サラの周囲の人々に向けさせるかというのは、ぶっちゃけ、どっちでも構わない。
どっちが上ということはなくて、それぞれの描き方次第だ。
「最初は周囲の人物を攻撃して、それを知ったサラの態度が変化してからは彼女に憎しみをぶつける」という流れでもいいだろう。
この映画で肝になるのは「ルームメイトが恐ろしいキチガイ女でした」というところだが、その恐ろしさが誰に対してどのように表現されるかという部分で、物語としての面白さが大きく左右される。

パーティーに参加したサラはスティーヴンにナンパされるのだが、そんな軽いノリで口説いて来る奴だから、結果として惚れるにしても、とりあえずは誘いに乗らなかったり距離を置いたりしようとするのかと思いきや、自らキスをする。
ノリノリじゃねえか。
スティーヴンは単なるチャラ男というイメージじゃないけど、それにしてもヒロインにしてはビッチ感を出し過ぎじゃないかと。
出会ってから、まだ数分しか経過していないのに。

っていうか、それよりも引っ掛かるのは、なんでサラがレベッカと会うより先にトレイシーやスティーヴンと仲良くなる手順にしたのかということだ。
普通に考えれば、先にレベッカと会わせて、彼女のキャラクター紹介をしておく方が得策だろう。
しかも、パーティーから戻ったサラはレベッカと会うけど、挨拶を交わすだけでそのシーンを終わらせてしまう。
いやいや、それなら翌朝になってから会わせても変わらんだろ。夜の内に会わせて、顔見世だけで終わらせる意味って何なのよ。

で、翌朝になってからレベッカのキャラクター紹介に時間を使うのかと思いきや、あっさり風味で処理している。
一応は「絵が上手」とか「実家が金持ち」といった情報が得られるが、後の展開を考えれば、そんなことよりも「レベッカが好感の持てるルームメイトであり、すぐに打ち解けて仲良くなれるようなタイプ」というアピールの方が重要なんじゃないかと。
前述したような特技や家庭環境も、もちろん紹介していいんだよ。
ただ、レベッカの「表の顔」のアピール力が、ちょっと弱いんじゃないかと。

で、レベッカの表の顔をアピールする作業が足りないまま、トレイシーと絡む段階に移るのだが、そこで既にレベッカがトレイシーを快く思っていないことが伝わってくる。
まだ露骨に憎しみや敵意を示すところまでは至っていないものの、ダイナーに呼び出された時には笑顔を見せつつも「置き去りなんて」と呟き、「今日は譲ったけど明日は付き合って。置き去りにしないから」と話す辺りには、既にヤバい匂いが何となく漂っている。
後にイカれた本性を表すようになるんだから、その前からレベッカがヤバい女であることを匂わせるヒントを散りばめておくことは悪いことじゃない。っていうか、それは必要な作業だ。
ただし、ちと早すぎやしないかと。
そりゃあ上映時間が91分なので、あまり助走を長く取ることは出来ないという事情はあるだろう。しかし、まだレベッカがサラを特別扱いする要素が全く見えてないんだよね。
それなのに、既にレベッカはサラに対する独占欲を持っていることになるわけで、そこは違和感が否めないなあ。

スティーヴンにナンパされて数分後には自分からキスをするという尻軽な態度をさらけ出したサラだが、その後もヒロインとして果たしてどうなのかと首をかしげたくなる行動を取る。
それは、トレイシーが姿を消した後、レベッカに電話を掛けて夜中のダイナーへ呼び出すという行為だ。
テメエがトレイシーとはぐれたからって、もう就寝しているような時間に電話を掛け、一緒に食事を取るために呼び出すというのは、ものすごく身勝手でしょ。
腹が減ったのなら、自分だけで食べればいいじゃないか。レベッカを呼び出す意味が無い。

そのシーン、もう1つ気になるのは、「そこでトレイシーを行方不明にするストーリーとしての意味合いは何なのか」ってことだ。
既にレベッカの行動が開始されているわけではなく、単純に「トレイシーがサラを置き去りにして男に付いて行った」ということでしかない。「トレイシーが謝罪してサラが許し、それをレベッカが見ている」というシーンには繋がっているが、そんなに大きな意味は無い。
しかも、行方不明になった後、サラがトレイシーのことを気にする様子も無く、談話室でトレイシーが再登場するまでにそれなりの時間があるので、「行方不明になったのなら、もうちょっと気にしろよ」と思ってしまう。
たぶん劇中に描かれていないトコロで「トレイシーが大学や寮に戻っているのをサラは知ったり見たりした」ということがあるんだろうけど、映画を見ているだけだと「トレイシーが行方不明になったにも関わらず、サラがまるで気にせずに大学生活を進めている」という感じになってしまう。

サラがレベッカにイヤリングを渡すのも、「なぜ耳にイヤリングの穴を開けているかどうか確かめないのか」と思ってしまう。
あと、そのシーンは「なんでサラがパーティーへ行かず、フリマで購入した服を着ることを条件にしてレベッカと展覧会へ出掛けるのか」というのも引っ掛かる。
「もうチケットを買ってあるのを見たから、申し訳ないので展覧会を選ぶ」というのは分かるけど、フリマの服を着ることを条件に出すのは不自然。
そこは「レベッカがイヤリングを付けるために耳に穴を開ける」というシーンが先にあって、そこへ持って行くための逆算で「フリマの服を着させる」ということにしてあるんだろうと思うけど、その逆算はスムーズじゃないわ。

で、サラとレベッカは展覧会へ出掛けるのだが、「出掛けました」というのを描いたら、そこで終わる。
いやいや、そりゃあ「レベッカが耳に穴を開ける」ってのを描くために用意した展開かもしれんけど、そこから展覧会でも何か1つエピソードを用意するぐらいのことはあってもいいんじゃないか。
なんか雑だなあ。
同様の印象は他の箇所にも感じて、例えばサラがアイリーンからのメールで彼女の仕事場へ行くと、再会を喜び合っただけで終わる。すぐにシーンが切り替わり、サラは図書館のスティーヴンと会っている。
淡白だなあ。

廊下に座っていたレベッカがトレイシーに歩み寄り、じっと見つめるだけで立ち去るというシーンがあるんだが、ありゃ何のつもりかと。
レベッカの異常性を示したいんだろうけど、中途半端に感じる。
何かトレイシーに抗議したいこと、批判したいことがあるのなら、もうちょっと分かりやすく示した方がいいわ。何がしたいのか良く分からん。
あと、もしもトレイシーが廊下に出て来なかったら、レベッカは朝までずっと座って待ち続けていたのかと考えると、どうにもマヌケだなあ。

そこでレベッカにトレイシーと不気味な接触をさせるってことは、「レベッカがサラの周囲の人物を攻撃対象にする」というのを隠しておくつもりが無いってことだ。しばらくは誰の仕業か分からないまま、サラの周囲の人間が被害を受けるという展開にする方法もあるが、そっちは選ばなかったってことのはず。
ところが、シャワー室のシーンでは、誰がやったのか分からない形で電気が消える様子を描き、犯人はフードを頭から被って顔を隠している。
いやいや、もうレベッカなのはバレバレじゃねえか。そこで今さら中途半端に隠そうとして、何の意味があるんだよ。
まさか、まだ「犯人は別人かも」というミスリードを狙っているのか。だとしたら、全く意味が無いぞ。

最初から「レベッカがイカれた女です」ということを明かしたまま進めていくのであれば、そのアピールが弱すぎる。
何より、シーンとシーンの繋がりが悪い。
レベッカがトレイシーに敵意を向けるのなら、トレイシーの軽い謝罪を見た次のシーンか、せめて1つシーンを挟んだ程度で、それを見せた方がいい。展覧会へ行く手順は邪魔なだけ。
イヤリングの穴でレベッカの異常性を示したいのなら、別のタイミングで描けばいい。

レベッカが最初に攻撃性を示す相手はトレイシーだが、脅しを掛けてヘソピアスを引き抜く程度であり、大怪我を負わそうとか、抹殺してしまおうとか、そこまでのイカレっぷりは無い。
最初の殺害行為があるのは開始から45分ほど経過した辺りで、標的は人間ではなく猫だ。レベッカはなかなか人を殺そうとしない。
残り10分程度になって、ようやく最初の殺人が行われる。でも結局、その1名だけ。
殺意の薄いキチガイであっても、やり方次第では恐怖を喚起することが充分に可能だ。だが、この映画はそこに失敗している。
殺害以外の行動や雰囲気作りで表現できている緊迫感や恐怖感が不充分なので、「だったらレベッカに人殺しをさせまくった方がマシだったんじゃないか」と思ってしまう。

レベッカに行動させる順番もおかしいんだよな。
ビッチなトレイシーを脅して寮から排除し、邪魔な存在になった猫を始末する。ここまではいいんだけど、その次の攻撃対象が「サラにキスをして誘惑して来たロバーツ」ってのは違うだろ。
それはレベッカにとって邪魔な存在を排除しようとしているのではなく、「サラを困らせる嫌な男を排除した」という行動だ。それを猫の後に持って来るのは違うわ。
もう猫を殺したのなら、その後は「自分とサラの仲を邪魔する奴」を攻撃対象に限定すべきだよ。パワハラな男を標的に据えるなら、最初の内に消化すべきだ。
っていうか、ロバーツがパワハラを用いず、本気でサラの才能に惚れてパリへ連れて行こうとしているのならレベッカの攻撃対象に入れてもいいけど、そうじゃないなら要らないわ。猫の抹殺よりも、レベッカの狂気や恐怖が弱くなってるし。

レベッカはロバーツを排除している一方で、サラと付き合っているスティーヴンのことは放置している。
サラからしてみれば、最も排除したくなる対象ではないかと思うのだが、なぜか何もしない。
スティーヴンを監視しているシーンはあったが、そこから何か行動に移ることはない。なぜスティーヴンを攻撃しないのか、その理由がサッパリ分からない。単に進行の都合だけで後回しにされているようにしか感じない。
いや、実際にそうなんだけどさ、それを露骨に感じさせちゃダメだろ。

(観賞日:2014年8月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会