『ザ・ホスト 美しき侵略者』:2013、アメリカ

地球は知的生命体「ソウル」によって侵略された。ソウルは大半の人類の肉体を占領し、それによって地球からは飢餓や戦争が無くなって平和になった。支配を免れた少数の人類は、ソウルに寄生された「シーカー」たちによる捜索から必死に逃亡を続けた。シーカーであるレイシーたちに追われたメラニーは、建物の窓から飛び降りて地面に叩き付けられた。意識を失ったメラニーを、レイシーたちは施設へ運び込んだ。メラニーは骨折どころか臓器の損傷も無く、ヒーラーのフォーズが薬で治療した。
メラニーは眠っている間に、ソウルを注入された。目を覚ました彼女は、「私をワンダラーと呼んで」と口にした。その肉体はワンダラーに支配されたはずだったが、なぜかメラニーの意識が残っていた。「これは私の体よ」と言われたワンダラーは、驚きながら「いいえ、私の体よ」と反論した。ワンダラーはレイシーから、「他の惑星と同様、この世界を変えるつもりは無い。経験して学習し、完璧にする。しかし、まだ我々に逆らう人類がいる。貴方のホストは、その一員よ」と告げられる。
レイシーはワンダラーに、メラニーの記憶を探ってレジスタンスの居場所を突き止めるよう指示した。ワンダラーは記憶を探り、メラニーの父親がシーカーに捕まる前に自殺したこと、弟がジェイミーという名前であることをレイシーに教えた。ワンダラーはメラニーの夢を見て、彼女がジェレミーと逃亡中にジャレドという男と遭遇したこと、彼と恋仲になったことを知った。まだソウルに発見されていない場所で、メラニーたちは暮らし始めた。しかしシーカーに気付いて逃亡し、古いホテルで休憩を取った。ジャレドが食料の調達に出た後、シーカーがやって来た。弟を守って囮になったメラニーは、窓から飛び降りて捕まったのだ。
ワンダラーはレジスタンスのアジトがある場所を突き止めるが、メラニーから「それを教えたら仲間が殺される。やめて」と頼まれると、レイシーには内緒にした。「全てを見たのに、まだ奴らに協力するの?」とメラニーに問い掛けられたワンダラーは、同情心を抱くようになった。ジャレドの居場所が特定できそうだとレイシーに言われると、ワンダラーは「やめて」と叫んだ。ホストの抵抗が続いているため、レイシーはソウルの再移植を決定した。
ワンダラーはメラニーから「ジェイミーとジャレドを救って」と頼まれ、彼女の指示を受けて施設から脱走する。ワンダラーはフォーズの異動したワース基地へ向かおうとするが、メラニーは抵抗して自動車事故を起こさせる。メラニーはワンダラーに指示し、レジスタンスのアジトへ向かわせる。一方、レイシーは残されていた絵を分析し、レジスタンスのアジトを突き止めた。砂漠を歩き続けたワンダラーは倒れて意識を失うが、メラニーの叔父であるジェブに発見された。
ジェブは姪に水を与えるが、その瞳を見て憑依されていることを知る。レジスタンスのカイルや弟のイアンたちはメラニーを始末しようとするが、ジェブが制止した。ジェブの姉であるマギーは、メラニーに平手打ちを浴びせて罵った。ジェブは仲間たちの反対を押し切り、メラニーに目隠しをさせてアジトの洞窟へ連れ帰った。十数人の人類が暮らしていることを知ったメラニーは、「これなら勝てる」と考える。この時点では、まだワンダラーの意識は復活していなかった。
メラニーはジャレドを見つけて駆け寄るが、激しく殴打されて倒れ込んだ。マギーはドクにメラニーを処置させようとするが、ジェレミーが「やめて」と叫んだ。レジスタンスはジャレドを見張りを付け、メラニーを軟禁することにした。一方、レイシーは事故車を発見し、仲間を呼び寄せた。ワンダラーは意識を取り戻し、メラニーから「体内で人間が生存可能なことも、私のことも秘密よ。生き延びるための嘘だと思われる。私たちは殺される」と告げられた。
カイルたちはメラニーを殺そうとするが、ジェブが威嚇射撃で阻止した。「リーダーは私だ」とジェブは言い、勝手な行動を取れば殺すと通達した。メラニーを発見できなかったシーカーたちは、もう死んだものだと考える。レイシーは増員すべきだと主張するが、他の面々は捜索中止を決めて撤収した。巡回に出たジャレドとイアンは、シーカーたちが撤収するがレイシーだけが留まる様子を観察した。メラニーはジェレミーから「あの夜、何があったの?」と問われ、詳細を語る。その会話を、ジェブが密かに聞いていた。
ジェブはメラニーに洞窟を案内し、「ワンダラー。短くしよう。君をワンダと呼ぶ」と告げた。レイシーはヘリコプターを飛ばし、周辺を捜索した。メラニーはジェブから、洞窟内に設けられた麦畑を見せられた。レジスタンスは何枚もの鏡を使って天井の穴から太陽光を取り込み、食物を栽培しているのだ。ジェブはワンダに、「メラニーが抵抗して気持ちを変化させ、ジャレドたちを心配して洞窟へ来たのではないか」と問い掛けた。ヘリの音を耳にしたジェブは、仲間たちと共に鏡を隠した。その作業を、ワンダも手伝った。
ジェブはジェイミーに銃を渡し、メラニーを見張るよう命じた。ジェイミーが「メラニーは生きてるの?」と問い掛けると、メラニーはワンダに「もういいわ、弟に伝えて」と頼む。ジェイミーはワンダに「必ず戻ると約束したのよね。約束を破ったことがある?」と言われ、笑顔で抱き合った。ジャレドたちはトラックで街へ行き、物資を調達した。ジェブはワンダに、刈り入れ作業を手伝わせた。ワンダが黙々と作業をしていると、イアンの態度には変化が見られるようになった。
ジャレドたちはシーカーに発見され、包囲されてしまった。アーロンとブラントが自分ちのトラックを壁に激突させて自害し、ジャレドとカイルを逃がした。しかしレイシーはジャレドたちの動きを目撃し、本部に知らせた。ジェブはレジスタンスの前で、ワンダに「生命体のいる惑星は?」と問い掛けた。メラニーから「仲間じゃないと自覚して」と釘を刺されたワンダは、「判明しているのは12。まだ行っていない星が4つ。現在は入植中よ」と話す。彼女は「征服ではなく、別の種と結び付いて協調する」と説明した。
ジャレドたちは追跡して来たシーカーを捕まえるが、そこへレイシーが駆け付ける。レイシーは仲間のシーカーを誤って銃殺し、ジャレドたちに逃げられた。レイシーは仲間に「ソウルを殺した。こんなのは間違ってる」と言われ、「犠牲は付き物だわ。これは戦争よ」と反論する。「戦争は終わりだ。レジスタンスは放っておいても絶滅する。暴走するな」と注意されたレイシーだが、「状況を分かっていない。我々は支配力を失ってる」と耳を貸そうとしなかった。
洞窟へ戻ったジャレドはジェブたちと話しているワンダを見ると、「もう我慢できない。仲間が殺された。そいつのせいだ」と銃を向ける。ジェレミーが「ワンダを殺したらメラニーも死ぬ。中にいる」と言うと、ジャレドは動揺した。イアンはワンダに、「僕の部屋へ来るといい。安全だ」と持ち掛けた。メラニーはワンダに、「貴方が好きみたい」と告げる。「いけないの?」とワンダが訊くと、メラニーは「彼が好きなのは私でもある」と述べた。
メラニーとの情事を夢で思い出したジャレドは、イアンの部屋へ赴いた。ジャレドは「殺さない。話すだけだ」とイアンに言い、ワンダは「彼と話すわ」と口にした。イアンは「彼女の名前はワンダだ」とジャレドに言い含めた上で、その場を離れた。ジャレドはワンダに、「ジェブの話では、僕らのために君は戻って来たと。メラニーは中にいるのか」と問い掛けた。「どうなってもいい。愛してると言って」とメラニーは頼むが、ワンダは「怖いわ」と漏らした。
ジャレドは「彼女のことを夢に見る。何とか取り戻したい」と言い、ワンダにキスをした。メラニーが「何するの、やめて」と叫ぶと、ワンダは反応してジャレドに平手打ちを浴びせる。ジャレドに「やっぱりメラニーだ。愛してる」と言われ、ワンダは逃げ出した。彼女はカイルに殺されそうになり、激流へ突き飛ばした。カイルが流されそうになるのを見て、ワンダは手を伸ばした。メラニーは「手を離して。私たちは助かる」と訴えるが、ワンダは「ダメよ」と助けを呼んだ。ジャレドとイアンが駆け付け、カイルを救った。
ジェブから「何があった?」と問われると、メラニーは真実を話すよう求める。しかしワンダは「事故よ」と嘘をついた。イアンはカイルが殺そうとしたと見抜いていたが、ジェブが「真実から追放だ。殺されそうになったのか」と質問するとワンダは口をつぐんだ。ジェブはカイルに、「お前は彼女を誤解してる。私はお前を撃つのをためらわないぞ」と警告した。ジャレドはカイルを連れて、物資の調達に行くことにした。彼はイアンに、「お前は彼女に近付くな」と告げる。しかしイアンはワンダを外へ連れ出し、愛を打ち明ける。ワンダはメラニーに制止されるが、イアンへの気持ちを抑え切れずにキスをする…。

脚本&監督はアンドリュー・ニコル、原作はステファニー・メイヤー、製作はニック・ウェクスラー&スティーヴ・シュワルツ&ポーラ・メイ・シュワルツ&ステファニー・メイヤー、共同製作はロジャー・シュワルツ&メーガン・ハベット&リジー・ブラッドフォード、製作総指揮はジム・セイベル&ビル・ジョンソン&マーク・バタン&クローディア・ブリュームフーバー&ウーヴェ・R・フォイヤーゼンガー&レイ・アンジェリク、撮影はロベルト・シェイファー、美術はアンディー・ニコルソン、編集はトーマス・J・ノードバーグ、衣装はエリン・ベナッチ、音楽はアントニオ・ピント。
出演はシアーシャ・ローナン、ジェイク・アベル、ウィリアム・ハート、ダイアン・クルーガー、マックス・アイアンズ、ボイド・ホルブルック、フランシス・フィッシャー、チャンドラー・カンタベリー、スコット・ローレンス、スティーヴン・ライダー、マーカス・ライル・ブラウン、リー・ハーディー、ムスタファ・ハリス、ショーン・カーター・ピーターソン、レーデン・グリア、ボキーム・ウッドバイン、アレックス・ラッセル、アンドレア・フランクル、ジェイレン・ムーア、スティーヴン・コンロイ他。


ステファニー・メイヤーの小説“ザ・ホスト”シリーズを基にした作品。
監督は『トゥルーマン・ショー』『ロード・オブ・ウォー』のアンドリュー・ニコルで、脚本も兼ねている。
メラニーをシアーシャ・ローナン、イアンをジェイク・アベル、ジェブをウィリアム・ハート、レイシーをダイアン・クルーガー、ジャレドをマックス・アイアンズ、カイルをボイド・ホルブルック、マギーをフランシス・フィッシャー、ジェイミーをチャンドラー・カンタベリー、ドクをスコット・ローレンスが演じている。
アンクレジットだが、憑依する前のワンダをエミリー・ブラウニングが演じている。

ステファニー・メイヤーは“トワイライト”シリーズの原作者である。
そう書いただけでも、この映画の仕上がりが何となく予想できるかもしれないが、貴方の思った通りである。
“トワイライト”シリーズがアレな内容だったんだから、こっちが傑作になる可能性ってのは決して高くないだろう。
とは言え、“トワイライト”シリーズはボロクソに酷評されながらも、興行的には成功した。
それに対して本作品は興行的にも惨敗に終わったので、シリーズ化を想定してスタートしているが、たぶん続編は難しいだろう。

原作者が同じなので、当たり前っちゃあ当たり前かもしれないが、“トワイライト”シリーズと同じような雰囲気や枠組みを持つ作品だ。
“トワイライト”シリーズはヴァンパイアや人狼といった種族を登場させて戦いの構図を作っていたが、それは背景に過ぎなかった。
描きたかったのは、少女漫画チックな恋愛劇だった。
この作品も同じで、「宇宙からの知的生命体に人類の大半が肉体を乗っ取られる」という世界観を用意しているが、それはヒロインの恋愛劇を描くための背景に過ぎない。

恋愛劇を盛り上げるためには、「身分の違い」とか、「対立する関係にある2人」とか、「ライバル」とか、「三角関係」とか、様々な障害を持ち込むことが必要になる。
そういう「障害」の要素を作るために、前述した「宇宙からの知的生命体に人類の大半が肉体を乗っ取られる」という設定は使われている。
逆に言うと、それ以外の部分では、ほぼ意味を成さない。“トワイライト”シリーズにアクションとしての面白さが乏しかったように、この映画にSFとしての面白味は乏しい。
何しろ、始まって早々に「ワンダラーがメラニーの記憶を探る」という手順があるのだが、ここでも「メラニーとジャレドがイチャイチャする」という様子に重点を置いているほどで、とにかく恋愛劇を描きたいのよ。

だから、この映画を見る上で注意すべきなのは、「最初から恋愛映画だと割り切って、そこに集中して観賞する」ということだ。それさえ守っていれば、そんなに大きなストレスを感じることは無いだろう。
ただし、あくまでも「ストレスは軽減される」というだけであって、「面白いと思える」というわけではない。
「見ない」という選択肢があるのなら、それを選ぶのもいいだろう。
ちなみに、おバカ映画としてツッコミを入れながら楽しめる類の作品ではないので、そういう期待は持たないのが賢明だ。

話が始まってから5分ぐらいしか経過していないのに、もうメラニーがワンダのソウルを注入される手順に突入してしまう。
その段階で世界観の設定や主要キャラクターの紹介が充分なのかというと、もちろん答えはノーだ。
いきなり話を動かして、後から「実はこういうことで」と説明していく手法が無いわけではない。実際、この映画では、そういう手法を取っている。
ただ、この話の場合、その方法だけでは全てを上手く消化することが難しい。おまけに、後からの説明も充分とは言い難いのだ。

ワンダラーが憑依した後、彼女が記憶を探るシーンや、夢を見るシーンで、メラニーの人物紹介が行われる。
しかし父の自殺や弟の名前はともかく、ジャレドと出会って親しくなる経緯を断片的な物として処理するのは、どう考えたって得策ではない。
っていうか、そこを出会いから描く必要なんて無いのよ。
どうせ出会いから恋に落ちるまでを丁寧に描くわけでもないんだから、始まった段階で「メラニーはジャレドと付き合っている」という状態にしておけば済むことでしょ。

この映画だと、「メラニーがジャレドと知り合い、恋仲になり、逃亡した先で暮らし始め、シーカーに発見されそうなのでジェブの元へ行こうとする」という手順を描いているが、そんな手間を掛けている意味が全く無い。
しかも丁寧に描くならともかく、「こういうことがありまして」ってのを段取りとしてザックリと片付けているだけなので、ますます意味を感じない。
もっと言っちゃうと、「ジェブの元へ行く途中でシーカーに見つかる」という形ではなく、最初からレジスタンスの一員ってことにしておけばいいのよ。
そっちの形を取った場合のデメリットなんて、何も無いでしょ。

そもそも、そんなに急いで「メラニーがワンダに肉体を乗っ取られる」という手順を描く必要性があったとは、とても思えないのだ。
それを冒頭に用意することでメリットがあるのかと考えた時に、何も見当たらないのよ。
「いきなりヒロインが肉体を乗っ取られる」という展開に観客を驚かせる効果があるのかというと、それは大いに疑問だし。
もう少し世界観を描写する時間を割き、メラニーと周囲の人々の紹介を済ませ、それから「メラニーがワンダに体を乗っ取られる」という展開にした方が、むしろ良かったんじゃないかと。

ワンダは憑依した直後から、メラニーのペースに心を乱されている。一応は記憶を探ってレイシーに教えているが、明らかに戸惑いや動揺を示している。
つまり、「最初はレイシーの指示に従う忠実な部下だったが、メラニーや人類についての情報が増える中で、次第に変化が生じて」という手順が無い。
最終的にシーカーを裏切るまでには時間を必要としているが、もはや乗っ取った直後から裏切りへの道はハッキリ見えていたと言ってもいい。
そりゃあ時間的な都合はあるだろうが、そういう形にしてあることは、ストーリーから厚みや深みを奪う一因となっている。

シーカーたちは最初から、ホストがソウルに抵抗する可能性もあることを知っている。つまり、メラニーは初めての特殊なケースではないということだ。
「そこは初めてのケースなのでシーカーたちも気付かず、後から事実を知って驚く」という形にでもしておいた方がいいんじゃないかと思うが、それはひとまず置いておこう。
で、最初から抵抗される可能性があると分かっていたのなら、なぜ対策を用意しておかないのか。
ワンダラーのケースなんて、抵抗されていることは見るからに明らかなのに、「抵抗が続いているので、他のホストに移行させる」という方法しか取らない。そして映画で描かれているように、その前に逃亡されている。
ただのバカじゃねえか。

レイシーはメラニーについて、自分が一時的に憑依する体を移動し、記憶を探る」と説明している。
そういうことが出来るのなら、最初からそうすればいいんじゃないのか。
レイシーのソウルが精神的に強靭であることは分かっているんだし、肉体を一時的に取り換えることで不都合があるわけでもなさそうだし。
っていうか、今までも抵抗の強い人間に対しては、そういう方法を取って来たんでしょ。まるで学習能力が無いみたいに感じるぞ。
だから繰り返しになるけど、「今回が初めてのケース」にしておけば良かったのよ。

冒頭、シーカーは複数でメラニーを捕まえようとしている。ところがワンダラーが逃げ出すと、捜索に出るのはレイシーだけ。事故車を発見すると仲間を呼ぶが、ちょっと捜索しただけで「どうせ死んでるよ」と決め付けて撤収する。
しかし、仮にメラニーが死んだとしても、その近くにはレジスタンスのアジトがあることまで分かっているはずでしょ。
だったら、なぜアジトを見つけ出そうとしないのか、その理由がサッパリ分からない。
「それほどの脅威か?数では圧倒してる」と軽く言うけど、そう思うのなら、なぜメラニーの記憶を探って情報を得ようと躍起になったのか。矛盾してるだろ。

ジャレドはメラニーがアジトに来ると、いきなり憎しみの表情で殴り倒す。その後も彼は、メラニーを徹底的に嫌悪し、拒絶している。
だけど、それは不可解な態度に見える。
もちろん、「瞳の色が違うのは乗っ取られた証拠」ってことは、彼だって経験値から理解しているだろう。
しかし、そうであっても、ちょっと前まで愛し合う仲だった女の肉体なのだ。目の色を除けば外見は全く同じなのに、「中身が別だから憎しみを向ける」ってのは、人間として何か大事な物が欠け落ちているんじゃないか。
せめて迷いや苦悩は示すべきだろ。なんで全く葛藤せず、いきなり憎しみたっぷりに殴り倒すことが出来るのかと。

一方で、ジェブがワンダを全面的に受け入れ、洞窟を案内したり、自分たちの重要な情報を教えたりするのは、それはそれで理解不能だ。
見た目は可愛い姪だから、始末するのは忍びないと考えるのは分かる。でも、その段階では、まだ彼の中では「見た目は姪だけど、中身はソウルに乗っ取られている」という認識のはずだ。
そうであるならば、「殺すことは出来ないけど、信用も出来ない」というスタンスを取るべきじゃないかと思うのよ。で、最初は信用していなかったけど、その様子を見ている内に、次第に信頼するようになるという手順を踏むべきじゃないかと思うのよ。
最初から全面的に受け入れるのは、善人というより、ただのボンクラにしか思えない。

ワンダが洞窟で意識を取り戻すと、メラニーは「体内で人間が生存可能なことも、私のことも秘密よ」と指示する。
「生き延びるための嘘だと思われる。殺される」というメラニーの考えは、まあ分からなくもない。
ただ、ジェブが「ソウルが憑依しても、抵抗する者がいると信じたい。メラニーの愛情は誰かの気持ちを変えるかも。ここへ来たのは、ジャレドたちを本気で心配したからかも」と言った時、全て見抜かれていると感じたのに、それでも事実を隠し続ける理由は何なのか。
ジェブだけには打ち明けた方がいいでしょ。

ジャレドはジェレミーから「ワンダの中にメラニーがいる」と教えられた途端、急に態度を変化させる。
これまでの外見はメラニーのままだったのに「こいつは悪い奴だ」と憎しみを向けて殺そうとしていたのに、えらい変わりようだ。その動かし方は、あまりにも無理があるでしょ。
「もしも自分が同じ立場だったら」と、ちょっと想像してみれば、その違和感に気付くはずだ。
むしろ、なぜ「最初は徹底的に憎み、ジェレミーの言葉を受けて急に態度を変える」という動かし方にしたのかと言いたくなる。

実のところ、ジャレドが憑依されたメラニーを徹底して嫌悪し、敵対心を見せるのは、「イアンとの比較対象に使うため」という都合が関係している。イアンはメラニーがジャレドを庇う様子を見て、早い段階で彼女への気持ちを変化させている。
後で「ワンダとイアンが惹かれ合う」という展開が待っているので、そこへ向けてイアンの好感度を上げておこうという算段だ。そして、そんなイアンの態度を際立たせるために、「あいつは敵だぞ」と反感を抱くジャレドの姿も同時に描いているわけだ。
ヒロインが恋する相手になるので、イアンの好感度を上げるのは一向に構わない。だが、そのためにジャレドを利用したことで、こっちの好感度はガタ落ちである(最初からそんなに好感度が高かったわけでもないが)。
こっちはこっちでメラニーとの恋愛劇があるのに、その相手役を貶めて何の得があるのかと。
ここで三角関係(四角関係)を展開していくんだから、ジャレドも「憑依されても外見は愛した相手なので葛藤する」という動かし方で好感度をキープしておけばいいでしょうに。

ジャレドはジェレミーから「メラニーが中にいる」と言われた途端、急にワンダを「メラニー」として意識し、「体は彼女なのに目だけが違う。余計に辛い」と吐露する。
でも、洞窟に来た時から、ずっと「体はメラニーなのに目だけが違う」という状態だったわけで。
それでも今までは全く意識せずに憎しみだけを向けていたのに、急にそんなことを言い出しても言葉が軽薄だわ。
あと、「彼女に出来ないなら君にキスを」と急にキスをするのは、段取りにドラマが追い付いていない。

キスされたメラニーが「ダメよ、やめて」と最初から拒否するのは、ちょっと良く分からない。
肉体としては自分がキスされているわけで、とりあえず受け入れて、でも「ジャレドが自分じゃなくワンダにキスしている」と感じて拒否するとか、そのぐらいの手順は踏んでもいいんじゃないかと。
あと、ビンタされたジャレドが「キスしたら殴られた。やっぱりメラニーだ」と確信するのも、これまたイマイチ良く分からない。
「ワンダにキスして嫉妬したからメラニーだ」ってことなんだろうけど、ちょっと伝わりにくい。

メラニーはワンダに、「殺されるから真実は打ち明けないように」と要求している。ところがジェレミーから「メラニーは生きてるの?」と質問を受けると、すぐに真実を話すよう促している。
ジェレミーの口から他の人間に漏れることは容易に想像できるのに、そのことは全く考慮しない。
ジェレミーが真実を話そうとした時に慌てて止めようとしているが、もちろんジェレミーはベラベラと喋る。そしてジャレドから「メラニーは中にいるのか」と問われた時も、これまた「どうなってもいいから真実を話して」とワンダに頼む。
そりゃあ「揺れる気持ち」を表現したいんだろうとは思うけど、ただ単に「コロコロと変わる女」としか見えない。

「ヒロインがモテモテで、2人のイケメンが奪い合って三角関係になる」ってのは、“トワイライト”シリーズと全く同じだ。今回は1つの肉体に2つの魂が存在するので、そこで違いは出しているけど、「モテモテ女が複数の男から愛されてウロウロする」ってのは同じだ。
さらに言うと、「ヒロインに全く好感が持てない」ってのも同様。
メラニーはジャレドにキスされてもイアンにキスされても嫌がり、やたらと文句ばかり言う。襲われたとはいえ、カイルを見殺しにしようとする冷徹さまで見せる。
一方のワンダも、メラニーがジャレドと惹かれ合っているのを知りながらイアンとキスする。一応は申し訳程度にためらいをを見せるが、ほぼブレーキは効いていない。
まるで遠慮が無いので、こっちはこっちで好感度が低い。

ジェレミーが寝込んでいるのを見たワンダは、メラニーの意識が消えていることに気付く。
ワンダは「イアンにキスされたら怒って復活するかも」と考えて試すが、やはり復活しない。そこでジャレドにキスしてもらうと、あっさりとメラニーの精神は復活する。
それぐらい愛の力は強いってことを描きたいんだろうが、すんげえ陳腐だ。
ジェレミーが「下手すりゃ死ぬかもしれない」という状況にあっても復活しないのに、ジャレドにキスされたら復活するってのは、「弟への愛は、その程度なのね」と言いたくなるし。

あと、「3日も消えてた」とワンダは言うけど、3日も経たないとメラニーが消えていることに気付かないのかよ。幾らハンストに突入していたからって、そりゃ無いわ。
そもそも、なぜメラニーの意識が消えたのか、その理由が良く分からない。
医務室でソウルが抜き取られて処分されているのを見て、ワンダがショックを受けるのは分かる。
でも、ワンダが「私の中から出て行って」と叫ぶとメラニーの精神が消えるってのは、理屈が良く分からんぞ。

終盤、レジスタンスがレイシーを捕まえると、ワンダはソウルを殺すのではなく摘出して遠い星へ送ることを提案する。
それは実行されており、ワンダの優しさをアピールしているかのように表面上は見える。
ただ、遠い星に送られたソウルが、そこに住む生命体を支配することは確実なわけで。つまり、「地球人が助かれば、他の星が支配されても知ったこっちゃない」ということになるわけで。
もちろん、そんなことをしようがしまいが、ソウルによる他の星の支配は既に行われているんだけど、何となく引っ掛かるモノがあるぞ。

ワンダはレイシーのソウルを摘出するだけでなく、自分も摘出してもらおうと考える。しかも自分は他星へ行くのではなく、死のうと決意する。
「メラニーに肉体を返すために自己犠牲を払う」ってことで同情心を誘い、好感度を上げようということだね。
ちょっと嫌味っぽい表現になったけど、それ自体はベタベタながらも悪くはない。ただ、その後、「ワンダが死に掛けていた別の女性の肉体に注入される」という展開があって(これもベタな展開だが、方程式としては間違っていない)、すぐにイアンとラブラブモードになるのは「流れとしては分かるけど、どうなのよ」と言いたくなったわ。
それにしても、やたらとキスシーンが多いし、ホントに徹底して「少女漫画チックな恋愛劇」が描きたかったのね。
アンドリュー・ニコルって、そういう作風の人だったっけ。

(観賞日:2015年12月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会