『守護神』:2006、アメリカ

アラスカ州コディアック基地。アメリカ沿岸警備隊の上級曹長ベン・ランドールは、これまで200人の遭難者を救ってきた伝説の救難士だ。 しかし輝かしい功績の一方で夫婦関係は悪化し、妻ヘレンは家を出て行くことを告げた。ベンは「俺は変わるよ」と引き止めを図るが、 何をどうすれば良いのかは分からない。仲間のカールは「生活感が欲しいんだろ。事務職に移れよ」と冗談めかして言う。しかしベンは 現場第一主義であり、救難士の仕事を辞めるつもりは全く無い。
大荒れの海に出ていた貨物船が浸水し、船長からコディアック基地に「船を放棄する」との通信が入った。ベンやカールたちが救難ヘリで 現場へ出動すると、発炎筒が上がった。燃料が足りなくなるため、ヘリのバイロットは5分間で救助活動を終えるようベンに告げた。ベン は降下し、生存者をバスケットに収容する。しかし悪天候のせいでヘリが事故を起こし、爆発してしまう。
ベンは深手を負ったカールを発見し、近付いて「必ず助かる」と励ました。しかしカールは死亡し、助かったのはベンだけだった。回復 したベンは基地の司令官ハドレー大佐から、「英気を養うため、しばらく訓練学校の教官をやらないか」と勧められた。反発するベンだが 、ハドレーは「除隊するか教官になるか、いずれかを選べ」と迫られた。
ジェイク・フィッシャーは、救難士の訓練学校に志願生としてやって来た。学校では18週間の訓練が行われる。校長であるラーソン大佐や 教官のスキナー曹長が、訓練生を迎えた。ラーソン大佐の訓辞が済んだ後、ジェイクは「記録版の人に取って代わる」と自信満々に宣言 した。訓練学校の記録を保持している優秀な人物は、主任教官として赴任したベンだった。
ベンはスキナーたちから、訓練生の情報を聞く。ホッジは3度目の志願、ジェイクは元高校ナンバーワンのスイマーだ。訓練初日は、予定 ではグラウンドで体力テストをすることになっていた。しかしベンは「それでは意味が無い」と告げ、訓練生を室内プールに飛び込ませる。 そして、「1時間浮いてろ。縁に捕まったり足が着いたりしたら家に帰れ」と言い放つ。
規則では、失格は二度まで許されることになっていた。しかしベンは、この訓練に失格したら一発で退学にするという。訓練生のミッチ・ ライオンズは、筋肉の痙攣で溺れそうになった。しがみ付かれたジェイクは、彼を突き放した。ライオンズがプールサイドに辿り着くと、 ベンは冷徹に退学を言い渡した。ベンはジェイクに、「一人じゃ務まらない仕事だぞ」と告げた。
ベンのスパルタ特訓は続き、2週間で半分の訓練生が脱落した。残っている訓練生の一人ニック・ジンガロは、姉の親友の結婚式に出席 するため、町へ行くことになった。その話を聞いたジェイクは、他の訓練生も誘って町に繰り出した。酒場に入ったジェイクは、女をモノ にすると言い出した。女子訓練生のケイト・リンゼイは、カウンターに座っている女性を指名した。
ジェイクは仲間たちと、その女性を1分で落とせるかどうか賭けをした。ジェイクはカウンターへ行き、その女性エミリー・トーマスに声を 掛けた。エミリーはジェイクが賭けをしていると見抜き、金の山分けを提案した。エミリーはジェイクを連れて店の外に出ると、「来週の 金曜にマギーの店で」と金を受け取る約束を取り付け、車で去った。金曜になり、ジェイクはマギーの店でエミリーと再会した。エミリー は学校の教師だった。ジェイクはエミリーと打ち解け、彼女の家で一夜を明かした。
プールでの訓練が始まろうとする時、ベンは「この中には人命救助より記録に興味のある奴がいる」と言い出した。彼は訓練を記録会に 変更し、訓練生に競泳を始めさせた。ジェイクは、ベンが若き日に作った記録を次々に破った。その夜、マギーの店でエミリーと会った ベンは、「どんなに頑張っても教官は俺を認めない。昔の自分より優秀だから嫌いなんだ」と愚痴をこぼした。
ベンがエミリーと話していると、マギーが「1つだけ敗れない記録がある」と話に割り込み、ベンが過去に行った人命救助を語り始めた。 かつて医療船で火事が起きた時、ベンは患者全員の救助に成功したという。最後の一人を引き上げた直後、ウインチが壊れて20分以上も 宙吊りになった。しかしベンは肩が抜けて腕の腱が切れても、患者の手を絶対に離さなかったという。
ホッジはプールでの救助訓練の最中、すぐにパニックになってしまった。ベンは彼に、一度目の失格を言い渡した。ジェイクはホッジを 誘い、海軍御用達のバーへ赴いた。最初は腰の引けていたホッジだが、酔っ払うと大声で騒ぎ始めた。大柄の海兵が2人に近付き、威嚇 するような態度を取った。怯えたホッジは早々に立ち去ろうとするが、ジェイクは構わず飲み続けようとする。海兵が頭からビールを 浴びせたため、ジェイクは殴り掛かった。喧嘩騒ぎに警察が介入し、ジェイクは牢屋に入れられた。
釈放されたジェイクは、ベンの元へ連れて行かれた。その行為を考えれば、退学が当然の処分だった。しかしベンはジェイクの才能を高く 評価しており、退学にはしなかった。彼はジェイクが抱える心の傷を調べ上げており、それを指摘した。ジェイクは高校時代に車の運転を 誤る事故を起こし、同乗していた水泳チームの仲間3人が死んでいた。
ベンが「仲間を失う気持ちは分かる」と告げると、ジェイクは「小さな町で、兄弟や息子や友達の命を奪った奴だと思われてる俺の気持ち が?」と反発する。ベンが「まだ16歳だった。もう引きずらなくていいだろう」と声を掛けると、ジェイクは「何様のつもりだ」と感情的 になる。ベンは厳格な口調のまま、「俺もお前と同じだ。なぜ自分だけ生き残っているんだろうと毎日考えている。仲間に報いたいなら、 誰かを救え。そして過去を振り払おう」と告げた。
ベンは「飲みたい気分だ」と言い、ジェイクを海軍御用達のバーへ連れて行く。ジェイクと喧嘩した海兵が挑発してきたので、ベンは彼を 叩きのめした。その後も訓練は続き、ホッジもパニックになる悪癖を克服した。ジェイクたちは卒業式を迎えるが、ベンは基地の仕事に復帰 したため、その場には姿を見せなかった。エミリーは式場に現れ、ジェイクの卒業を祝福した。彼女は別れる悲しみを堪えて気丈に振舞い 、「終わる日は分かっていでしょ」と笑顔でキスをした。
ジェイクはコディアック基地に赴任し、ベンと再会した。岩場での遭難者が出たという連絡を受け、ベンはジェイクを連れて救助に 向かった。致命的なミスを犯してしまったベンだが、ジェイクの賢明な行動により、遭難者を救うことは出来た。潮時だと感じたベンは、 ハドレーに辞職願を提出した。一方、ジェイクは大時化で漁船が遭難しているとの連絡を受け、現場へ急行する…。

監督はアンドリュー・デイヴィス、脚本はロン・L・ブリンカーホフ、製作はボー・フリン&トリップ・ヴィンソン、製作協力は ローウェル・ブランク、製作総指揮はアーミアン・バーンスタイン&ザンヌ・ディヴァイン&チャーリー・ライオンズ&ピーター・ マクレガー=スコット、撮影はスティーヴン・セント・ジョン、編集はトーマス・J・ノードバーグ&デニス・ヴァークラー、美術は メイハー・アーマッド、衣装はマーク・ピーターソン、視覚効果監修はウィリアム・メサ、音楽はトレヴァー・ラビン。
出演はケヴィン・コスナー、アシュトン・カッチャー、セーラ・ウォード、メリッサ・サージミラー、クランシー・ブラウン、 ジョン・ハード、ニール・マクドノー、ブライアン・ジェラティー、ボニー・ブラムレット、コリン・デグルート、オマリ・ ハードウィック、アレックス・ダニエルズ、デュール・ヒル、シェルビー・フェナー、マイケル・レイディー、ピーター・ゲイル、 ブライアン・パトリック・ウェイド、ベニー・シアラメロ他。


『D-TOX』のロン・L・ブリンカーホフが脚本を書き、『ダイヤルM』『コラテラル・ダメージ』のアンドリュー・デイヴィスが監督 を務めた作品。
ベンをケヴィン・コスナー、ジェイクをアシュトン・カッチャー、ヘレンをセーラ・ウォード、エミリーをメリッサ・ サージミラー、ハドレーをクランシー・ブラウン、ラーソンをジョン・ハード、スキナーをニール・マクドノー、ホッジをブライアン・ ジェラティーが演じている。
本物のアメリカ沿岸警備隊の隊員も多く出演している。

「生意気な若者の訓練生が鬼教官の厳しい特訓に耐え、その中で恋愛もしつつ、人間的に成長していく」という、『愛と青春の旅だち』や 『トップガン』を思わせる内容だ。
しかし本作品は「ジェイクの成長物語」だけでなく、「ベンの英雄物語」としての面も持っている。
長く患っていた「ヒーローになりたい病」を克服したはずのケヴィン・コスナーだが、違う役柄に挑んだ映画がことごとくコケてしまい、 病気が再発してしまったようだ。

ベンが訓練学校の教官として赴任するまでに、時間と手間を掛けすぎていると感じる。
最初に救助シーンがあって、家を出て行こうとする妻との会話シーンがあって、ヘリの事故シーンがある。で、回復したベンがハドレー から教官になる話を持ち掛けられる。
つまり、教官になるよう勧められるまでに、3つの手順を踏んでいるわけだ。
だけど、この映画はベンが訓練学校の教官になってからの物語を描きたいはずであり、それ以前の箇所は1つにまとめるべきだ。
妻との会話は要らないし(妻の存在そのものが要らないと言ってもいい)、最初の救助シーンでヘリの事故が発生する形にすればいい。

っていうか、最初にベン視点から始めて、訓練学校に入るとジェイク側からの描写になるのだが、2つの視点が必要だったのかという ところにも疑問を覚える。
ジェイクの入学から話を始めて、ジェイクの視点で話を進めていけば良かったんじゃないのか。
つまり、冒頭のベンのエピソードは全て削除すればいい。
そういう形にすると、ますます『愛と青春の旅だち』に似てしまうけど。

訓練学校の教官になったベンが挨拶する様子を見た限り、心の引っ掛かりがあるようには感じられない。
嫌々ながら引き受けたという様子は無い。
だったら、ハドレーから話を持ち掛けられ、赴任を渋るというシーンは要らないでしょ。
で、「ベンが嫌々ながらも教官を承諾した」という設定の必要性が皆無なのであれば、ますます、赴任までのエピソードは要らないって ことになる。

ベンは訓練生に厳格な態度で接し、スパルタで特訓を課す。訓練生からすれば、反発したくなるような冷徹な鬼教官だ。
しかし観客は序盤のエピソードによって、ベンが冷徹で厳しいだけの男ではないことを知っている。
それを明かしておくことが、プラスだとは到底思えない。
反発していたジェイクがベンのことを知り、彼に対する印象が変わっても、こっちは「そんなの以前から知っている」ということになって しまう。ジェイクと同じタイミングでベンという人物を知るという体験が、観客には出来ない。
ジェイクは「200人の人命を救った伝説の英雄が、なぜ訓練学校の教官をしているんだろう」と疑問を抱くが、こっちは、なぜベンが教官 をやっているのか知っている。
そこは、どう考えたって秘密にしたまま引っ張った方がいいでしょ。

バーでの喧嘩で牢屋に入れられたジェイクは、「自分に落ち度は無い」と主張するが落ち度ありまくりだぞ。
ベンの前に連れて行かれた時には「ホッジは関係ない」と口にして、「仲間を庇うイイ奴」みたいな感じになってるけど、実は違う よな。
だって、そもそも海軍御用達のバーに入るのをホッジはやめようとしたのに、ジェイクが強引に入った。ホッジは酔っ払って偉そうに 喋った行為に問題はあるけど、海兵が威嚇してくると、早々に立ち去ろうとしている。それを引き止めたのも、海兵に殴り掛かったのも ジェイクだ。
つまりジェイクはホッジを庇うというより、むしろ彼を面倒に巻き込んでいると言っていい。で、そのような素行に問題のあるジェイクを、 ベンは「救難士の素質が高い」ということでクビにしない。
ライオンズは一発で退学にしたのに、ジェイクについては心の傷まで調べて、立ち直るようアドバイスを送る。ライオンズだって、 ひょっとすると救難士の資質があったかもしれないのに、やり直すチャンスは与えない。
えこひいきがヒドいな。

ベンのモーレツしごき教室も、それに対するジェイクの反発も、描写が物足りなく感じる。
あと、ジェイクの反発心が解消されるのも、あっさりしてるなあ。
それと、ベンが講義で「救えない遭難者にノーと言わねばならない時もある」などと現実の厳しさを語るシーンが弱く、淡白に流れて いくのも不満が残る。もうちょっと大切に扱って欲しい。
そして、救難活動の過酷さや理想だけでは対処できない厳しさをベンが講義する中で、彼が単なる鬼教官ではないという人間性や心に 抱える傷を匂わせた方が、冒頭であけすけにエピソードを描くより、物語に深みを持たせることが出来たように思うが。

(観賞日:2009年8月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会