『呪怨 パンデミック』:2006、アメリカ&日本
イリノイ州シカゴ。トリッシュが朝食を作っていると、夫のビルは不愉快そうに文句ばかり並べ立てた。トリッシュは熱した油を彼の頭 から浴びせ、フライパンで殴り倒した。ビルが頭から出血する傍らで、トリッシュはすました表情のままコーヒーをすすった。東京の インターナショナル・ハイスクール。冴えない女子高生のアリソンは、半年前に日本へやって来た。クライメイトのヴァネッサとミユキは 、彼女を住宅街にある心霊スポットへ案内する。そこは、中に入ると呪われるという噂がある屋敷だ。
アリソンはヴァネッサとミユキに連れられ、家に入った。ヴァネッサは「2年前、インターナショナル・カレッジに通っていた子が、ここ で彼氏を殺したんだって」と言い、2階へ向かう。ヴァネッサとミユキは、アリソンに「天井裏に、この家で夫に殺された伽椰子という 女性の死体が置かれた」と言い、アリソンに押し入れへ入るよう促す。ヴァネッサは「中に入って10秒数えて、目を開けると伽椰子が 見える。みんなビビってやれなかった。やれたのは私とミユキだけ」と述べた。
アリソンが中に入って目を閉じると、ヴァネッサとミユキは押し入れを閉めてしまった。アリソンは外に出ようとするが、ヴァネッサたち が襖から手を離したにも関わらず、全く開かない。アリソンが周囲に目をやると、俊雄が座り込んでいた。直後、天井からギシギシという 音が聞こえる。それはヴァネッサたちの耳にも聞こえていた。ヴァネッサとミユキが怖くなって外に出た直後、アリソンは伽椰子を目撃 する。彼女は悲鳴を上げ、襖を開けて家を飛び出した。
カリフォルニア州パサディナ。オーブリーは具合が悪くて寝込んでいる母に呼ばれ、東京にいる姉のカレンが入院したことを知らされた。 母は「東京で事故があったって。カレンが放火したとかで、そこでダグが死んだの」と告げ、飛行機を予約したのでカレンの様子を見に 行ってほしいと頼む。オーブリーは「私は無理」と尻込みするが、母に「幾ら仲が悪くても姉妹なんだから。あの子を連れ戻してきて」と 言われ、仕方なく日本へ向かった。
オーブリーは病院へ行き、放火の容疑者として警官に監視されているカレンとの面会を求める。受付に赴いた彼女は、ジャーナリストの イーソンと遭遇した。警官の案内でカレンと再会すると、彼女は何かに脅えていた。カレンは「お願い、助けて。ここから出して。彼女を 止められるのは私だけ」と言い、興奮した様子を示す。警官たちが来てカレンを拘束し、オーブリーを部屋の外に連れ出した。
イリノイ州シカゴ。ビルは再婚相手のトリッシュを連れて、アパートへ戻って来た。ビルは隣に住むフレミング夫妻にトリッシュを紹介し 、娘のレイシーと息子のジェイクが待つ部屋に向かう。レイシーはトリッシュを歓迎するが、まだ死んだ母のことが忘れられないジェイク は冷たい態度を取った。その夜、ジェイクが廊下を覗くと、フレミング夫妻がフードを被った人物を連れて戻ってくるところだった。声を 掛けても、フレミング夫妻は無視した。夫妻が部屋に入ってドアを閉めた時、その近くには俊雄が座っていた。
オーブリーはイーソンから「カレンと話したい」と声を掛けられ、「明日まで面会できないそうです」と告げた。カレンは病室で伽椰子を 目撃し、慌てて逃げ出した。カレンは屋上へ行くが、そこにも伽椰子が現れる。オーブリーとイーソンが病院を出たところへ、カレンが 降って来た。アリソンは漢字の授業中に俊雄を目撃し、ヴァネッサは更衣室で伽椰子の姿を目にした。ミユキは恋人のマイケルと一緒に、 渋谷のラブホテルへ入った。マイケルがシャワーを浴びている間に伽椰子が出現し、ミユキを鏡の中へと引きずり込んだ。
イーソンは自宅で、中川刑事へのインタビュー映像を確認する。3年前に起きた最初の事件を捜査していた中川の同僚たちは、行方不明に なっている。翌日、オーブリーを訪ねたイーソンは、「3年前に東京へ来てから、あの家で起きた事件を調べている」と語った。彼は オーブリーに、「お姉さんは家を燃やせば悲劇が終わるだろうと思った。でも火事があってから、悪い方に変化した」と言う。
ジェイクは夜中に隣から聞こえる不気味な音で目を覚ます。廊下を覗くと、フードの人物が出掛けるところだった。尾行すると、その人物 はゴミ箱を漁って新聞を拾っていた。ジェイクは気付かれそうになり、慌てて隠れた。翌朝、レイシーに尋ねると、音は聞いていないと いう。トリッシュが友人と電話で話していると、出掛けたはずのビルが戻ってきて「誰と話している?」と強い嫉妬心を示した。
イーソンが例の家へ行くと言うので、オーブリーは付いて行く。イーサンは彼女を待たせて中に入った。オーブリーは様子が気になり、 中へ入ろうとする。その時、「その家に入ってはダメ」というカレンの声が聞こえてきた。しかしオーブリーは、不気味な腕によって家の 中に引き込まれてしまう。ヴァネッサがスクール・カウンセラーに呼ばれると、そこにはアリソンもいた。ヴァネッサはミユキが行方不明 になったことを知る。「私が何したって言うのよ」とアリソンが飛び出し、スクール・カウンセラーが追い掛けた。
一人で残されたヴァネッサは、俊雄が現れたので身を震わせた。携帯が鳴ったので出ると、不気味な声が聞こえてきた。ヴァネッサは 慌てて飛び出し、公衆電話ボックスからミユキに電話を掛けようとする。しかし俊雄に足を掴まれ、伽椰子に髪を巻き付けられて死亡した 。オーブリーとイーソンは、家の中で日記を発見する。それは伽椰子が幼い頃から書いていた日記だった。その日記に目を通したイーソン は、伽椰子の母親が霊媒師だったことを知る。
詳しいことを知るため、イーソンは民俗学を研究している友人と連絡を取った。その友人によると、伽椰子の母親は娘を儀式に利用して いたらしい。病んだ人々から悪霊を祓い、それを伽椰子に食べさせていたのだという。イーソンはオーブリーに、「伽椰子の母親に会いに 行こうと」告げる。その住所は、既にイーソンが突き止めていた。しかし現像室に入ったイーソンは、伽椰子に襲われて死亡した。
レイシーがサリーの部屋へ行くと、彼女は無表情のまま牛乳を飲んで容器に吐いた。レイシーがジェイクからの電話で部屋に戻ると、弟は 「トリッシュとパパが喧嘩してたんだ」と泣き出す。2人がどこへ行ったのかは分からないという。夜中に物音を聞いたジェイクが隣の家 へ行くと、扉が開いていた。中に入るとフレミング夫妻の姿は無く、フードの人物が何かに取り憑かれたように、髪の毛をハサミで切って いた。窓を塞いでいた新聞が剥がれると、そこから何者かが覗き込んでいた…。監督は清水崇、原案は清水崇、脚本はスティーヴン・サスコ、製作はサム・ ライミ&ロブ・タパート&一瀬隆重、共同製作はマイケル・カーク&ドリュー・クレヴェロ&シンタロー・シモサワ、製作総指揮はロイ・ リー&ダグ・デイヴィソン&ジョー・ドレイク&ネイサン・カヘイン、撮影は柳島克己、編集はジェフ・ベタンコート、美術は齋藤岩男、 衣装はクリスティン・M・バーク&谷口みゆき、音楽はクリストファー・ヤング。
出演はアンバー・タンブリン、サラ・ミシェル・ゲラー、アリエル・ケベル、ジェニファー・ビールス、エディソン・チャン、 クリストファー・カズンズ、テリーサ・パーマー、宇野実彩子、ジョアンナ・キャシディー、サラ・ローマー、マシュー・ナイト、藤貴子 、田中碧海、尾関優哉、梶原善、松山鷹志、イヴ・ゴードン、ジェナ・ディーワン、石橋凌、ショーン・サイポス、キム・ミヨリ、 長澤壮太郎、瀧澤京香、ポール・ジャレット他。
『呪怨』をハリウッドでリメイクした2004年の映画『THE JUON/呪怨』の続編。
オリジナル版の続編である『呪怨2』のリメイクではなく、全く異なる展開になっている。
オーブリーをアンバー・タンブリン、カレンをサラ・ミシェル・ゲラー、アリソンをアリエル・ケベル、 トリッシュをジェニファー・ビールス、イーソンをエディソン・“わいせつ写真流出野郎”・チャン、ビルをクリストファー・カズンズ、 ヴァネッサをテリーサ・パーマー、ミユキを宇野実彩子が演じている。まず本作品について触れておきたいのは、日本で公開された時に吹き替えを担当したメンツのことだ。
なんと、オーブリーを箕輪はるか(ハリセンボン)、カレンを村上知子(森三中)、アリソンを近藤春菜(ハリセンボン)、トリッシュを まちゃまちゃ、イーソンをあべこうじ、ヴァネッサを大島美幸(森三中)、レイシーを黒沢かずこ(森三中)という顔触れだったのだ。
客を呼び込もうという気が無いとしか思えない、狂ったような配役だ。
これを決めた責任者には、「恥知らず」という呼び名を与えたい。あと、邦題では『パンデミック』と付いているけど、それって「タイトルに偽りあり」でしょ。
映画を最後まで見ても、パンデミック(爆発感染)なんて起きていない。
そんなタイトルを付けるからには、呪いが爆発的に蔓延していく様子が描かれるのかと思ったら、そんなことは全く無いのよ。
ただ単に、アメリカへ呪いが上陸したというだけ。
せいぜい「これからパンデミックが起きるかもしれない」という可能性を匂わせる程度だ。完全に誇張した表現でしょ、パンデミック ってのは。終盤、意外な形で、面白い場面が待ち受けていた。
イーソンが死亡し、オーブリーは仕方なく、伽椰子の母親が暮らす田舎の村へ一人で向かうのだ。
でも、日本語を全く話せず、日本の地理も全く知らないオーブリーが、バスに乗って田舎の家まで行くのは、かなり無茶な展開だ。
で、到着すると、伽椰子の母親は英語をペラペラと喋る。
いやあ、すごいね。
その辺りは、なかなか面白い。
ただし、わざわざ説明しなくても分かるだろうけど、それらは「本当はダメな面白さ」である。いつものように、時系列をシャッフルした構成になっている。
時系列順に並べると、オーブリーが東京へ出掛けるのが、1作目の1週間後。
完全ネタバレだが、オーブリーは全てを終わらせようとして家に行き、そこで剛雄に首の骨を折られて死亡する。
その2年後、アリソンたちが呪われた家に入る。
ミユキとヴァネッサは死亡し、スクール・カウンセラーも悪霊に取り憑かれる。
アリソンはアメリカへ脱出し、フレミング夫妻の世話になる(フードの人物はアリソン)。
伽椰子と俊雄はアリソンに取り憑いてシカゴに上陸し、サリーがおかしな行動を取ったり、トリッシュがビルやレイシーを殺したりする。『呪怨』の頃から変わらず、時系列をシャッフルする構成は、全く意味が無いと言ってもいい。映画としての面白さには繋がって いない。
そのままだと浅いし面白くないから、時系列をいじくることで、深みや厚みのある物語のように偽装しているだけ。
実際には、ようするに「伽椰子と俊雄が出て来て怖がらせる」ということの繰り返し。
その現れ方も、今までに見てきたようなパターンばかり。
もう何作もやっているから、完全にマンネリズムに入っちゃってるのよね。私は日本版の1作目と2作目、ハリウッド版の1作目を見て来たが、正直、もう飽きたし、慣れてしまったよ。
ビデオ版から見ている人なんか、「かつて見たことのあるパターンばかり」という印象は、もっと強いんじゃないか。
質より量ということなのか、伽椰子と俊雄は何度も出て来るけど、それが余計に「慣れ」の感覚を生じさせてしまうし。
で、新しい登場パターンをやろうということかもしれないけど、今回は伽椰子が写真の中から這い出して来るところで、『リング』の貞子 を模倣してしまうんだよな。
そりゃダメだろ。呪われた家に入った人間は必ず殺されるというルールは分かっているし、伽椰子と俊雄が登場する時には必ず「これから登場しますよ」と いう合図が用意されている。
だから、「ここで伽椰子か俊雄が登場するだろうなあ」と思ったら、やっぱり出て来る。
ホラーが予定調和になってしまうと、それって致命的でしょ。
いや、それこそ突き抜けちゃってコメディーに昇華するとか、そこまで到達すれば、それはそれで別の面白さがあるかもしれないけど、 そこまでの突き抜け方はしていないし。もはや伽椰子と俊雄が登場しても全く怖さが無いけど、それは怖がらせ方が間違っているんじゃなくて、こっちが慣れてしまったという ことが大きいんじゃないだろうか。
「ひたすら伽椰子と俊雄が出て来て驚かせる」ということだけに特化したシリーズなので、そこに慣れてしまうと、キツいものがある。
そんなわけだから、普通に吹き替えの声優を選んでいても、観客動員は芳しくなかったかもしれない。
だからって、上述した吹き替えの顔触れは無いけどね。(観賞日:2012年5月10日)
第29回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【ちっとも怖くないホラー映画】部門