『THE GREY 凍える太陽』:2011、アメリカ
スナイパーのオットウェイは、極寒の地の果てにある石油会社に雇われて仕事をしている。そこは元囚人や脱走兵など、はみ出し者たちの集まる場所だ。喧嘩を始めた社員たちを無視し、オットウェイはバーで酒を飲みながら妻のことを思い出す。また顔が見たいと彼は願うが、それが不可能なのも分かっている。オットウェイは自分のせいだと感じており、それが原因で、この世を見限った。自殺を企てたこともあるが死ぬことは出来なかった。もう一度戦って最強の敵を倒せたら、その日に死んで悔いは無いと彼は思っている。
オットウェイは妻への手紙を綴り、それを持って会社の用意した小型飛行機に搭乗した。隣に座ったフラナリーが話し掛けて来ると、彼は「俺は眠りたいんだ。少し黙っててくれ」と静かに告げる。オットウェイは眠り込むが、あまりの寒さで目を覚ました。飛行機は吹雪に見舞われ、窓が凍っていた。飛行機は激しく揺れ、雪山に墜落した。オットウェイは意識を取り戻し、バラバラになった機体を目にする。彼は怪我を負っているフラナリーに気付き、左脚を縛って止血した。
オットウェイは無事だったヘルナンデスを発見し、一緒に生存者を捜そうと告げる。彼らとフラナリーの他に、生き残ったのはディアス、タルゲット、ヘンリック、バーク、ルウェンデンだけだった。しかもルウェンデンは大量に出血しており、オットウェイは「お前は死ぬ。体を委ねろ」と告げる」。ルウェンデンは娘のことを思い浮かべながら、死を迎えた。オットウェイは残った面々に、「燃える物を集めろ。焚き火をする。俺たちは生き延びる。焚き火の次は食料だ。夜が明けたら南へ向かおう。救援は来ない」と述べた。
その夜、オットウェイは倒れている客室乗務員を見つけ、生きているかもしれないと思って呼び掛ける。しかし客室乗務員は死んでおり、一匹の狼が肉を食らっていた。オットウェイは遺体に駆け寄るが、狼に襲われるた。そこへ社員たちが駆け付け、狼を殴って追い払った。。オットウェイは生存者たちに、「ここが狼の縄張りなら、俺たちを襲ってくる。今は死体があちこちにあって満腹だろう。あれは人食い狼だ。血の匂いを嗅ぎ付け、俺たちを襲う」と語った。彼は死体を外に出すよう指示し、食料の調達を始めた。
ディアスは遺体を探り、金の入った財布を盗もうとする。オットウェイは「略奪するな」と命じ、反発するディアスに「戻さないと血を見るぞ」と脅しを掛けて従わせた。音が聞こえたのでオットウェイたちが松明を持って様子を見に行くと、狼の群れが迫っていた。動かずに見ていると、群れはその場から去った。オットウェイは生存者たちに、2時間交代で見張るよう指示した。ヘルナンデスは小便に行き、狼に襲われて死亡した。
翌朝、オットウェイたちはヘルナンデスの遺体を発見し、襲われる音が聞こえなかったことに驚愕する。オットウェイは近くの森まで行くことを提案し、「あそこへ行けば狼は諦めるかもしれん。ここは奴らの縄張りだ」と言う。ディアスが反対して「ここに留まる」と言うと、彼は「勝手にしろ。俺は森に行く」と告げる。他の面々はオットウェイに賛同し、出発の準備を始めようとする。オットウェイは彼らに、「遺体の財布を集めろ。家族に渡す」と指示した。彼は自分の書いた手紙を見つけ、持って行くことにした。
結局はディアスも同行することを決め、オットウェイたちは森へ向かって歩き出す。しかし吹雪の中で、足を怪我しているフラナリーが遅れを取った。そこへ数匹の狼が現れ、フラナリーを殺して走り去った。日が暮れるとて狼の群れが出現したので、一行は慌てて逃げ出す。彼らが火を焚くと、群れは近付いて来なかった。オットウェイは狼を退治するため、爆薬棒を作った。ディアスが「こんな棒切れで何が出来る?」と反発すると、オットウェイは「怖いんだろ。だからくだらない言い掛かりを付ける」と挑発的に告げた。
ディアスが憤慨してナイフで襲い掛かろうとすると、オットウェイは簡単に取り押さえた。そこへ1匹の狼が近付いたので、一行は爆薬棒を構えた。狼は立ち去ったと見せ掛け、ディアスに背後から襲い掛かる。オットウェイたちは狼を殴打し、ディアスがナイフで止めを刺す。バークが「そいつがボスか」と訊くと、オットウェイは「ボスじゃない。無理を追い出された奴だ」と述べた。一行はオットウェイの指示で狼を焼き、その肉を食らった。
群れの遠吠えが聞こえると、ディアスは狼の頭部を切断して掲げた。群れの声が変化すると、一行は恐怖を覚えた。オットウェイの号令で、一行は移動することにした。具合の悪さを訴えていたバークが咳き込んで「息苦しい。もう動けない」と言い出したので、オットウェイは休憩を指示した。バークは低酸素症を起こし、子供の頃に死んだ妹の幻覚を見た。オットウェイは仲間たちに、欠点だらけの父の唯一の才能が詩だったこと、「もう一度戦って最後の敵を倒せたら、死んでも悔いは無い」という詩が飾ってあったことを語った。
猛吹雪に見舞われる中、オットウェイたちは就寝する。次の朝、一行が目を覚ますとバークは死んでいた。近くを調べたオットウェイは、誰かが木を斧で切り倒した跡を発見する。水の音を耳にした彼は、近くに川があると確信する。一行は川が見える崖へ行き、オットウェイは「川沿いを辿れば小屋に辿り着ける」と言う。崖を渡らなければ先へ進むことは出来ず、一行はロープを使って移動することに決めた。ヘンリック、ディアス、オットウェイは無事に渡り切るが、高所恐怖症のタルゲットは落下して狼の群れに連れ去られた…。監督はジョー・カーナハン、原作はイーアン・マッケンジー・ジェファーズ、脚本はジョー・カーナハン&イーアン・マッケンジー・ジェファーズ、製作はジュールズ・ダリー&ジョー・カーナハン&リドリー・スコット&ミッキー・リデル、製作総指揮はジム・セイベル&ビル・ジョンソン&トニー・スコット&ジェニファー・ヒルトン・モンロー&スペンサー・シルナ&アディ・シャンカール&ロス・T・ファンガー、共同製作はダグラス・セイラーJr.、製作協力はリア・カーナハン&リン・ギヴンズ、撮影はマサノブ・タカヤナギ(高柳雅暢)、美術はジョン・ウィレット、編集はロジャー・バートン&ジェイソン・ヘルマン、特殊メイクアップ&アニマトロニック効果はグレッグ・ニコテロ&ハワード・バーガー、衣装はコートニー・ダニエル、音楽はマルク・ストライテンフェルト。
主演はリーアム・ニーソン、共演はフランク・グリロ、ダーモット・マローニー、ジェームズ・バッジ・デール、ダラス・ロバーツ、ジョー・アンダーソン、ノンソー・アノジー、ベン・ヘルナンデス、アン・オープンショー、ピーター・ジーグス、ジョナサン・ジェームズ・ビットーニ、エラ・コソー、ジェイコブ・ブレア、ラニ・ゲレラ、ラリッサ・スタドニチュク他。
『NARC ナーク』『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』のジョー・カーナハン監督が、『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』に続いてリーアム・ニーソンとタッグを組んだ作品。
脚本はジョー・カーナハン監督と『狼の死刑宣告』のイーアン・マッケンジー・ジェファーズによる共同。
ソフト化の際には『ザ・グレイ』という邦題に変更された。
オットウェイをリーアム・ニーソン、ディアスをフランク・グリロ、タルゲットをダーモット・マローニー、ルウェンデンをジェームズ・バッジ・デール、ヘンリックをダラス・ロバーツ、フラナリーをジョー・アンダーソン、バークをノンソー・アノジーが演じている。冒頭、オットウェイの回想シーンに女が登場し、「君の顔が見たい。だが不可能だ。君は去った」というモノローグが入る。この時点では、その女性が恋人である可能性も、「オットウェイと別れて去った」という可能性もある。
しかし、たぶん大半の観客は、その女性が妻であることも、既に死去していることも分かるだろう。この映画の表現だと、死んでいることはバレバレだ。
それに、「二度と戻らない。俺は呪われた男だ。死んでも構わない」とまでモノローグで語るしね。ただ離婚して去っただけなら、そこまで思わないでしょ。
隠すつもりは無いかもしれないけど、だったらいっそのこと、もっと明確に示しちゃってもいいんじゃないかと思うけどね。オットウェイが「もう一度戦って」と語るので、単純に「死にたい」ってことではないんだろう。
ただ、それにしては彼がライフルを口にくわえて自殺を図ろうとする回想シーンが入るのよね。
なので、「どないやねん」とツッコミを入れたくなる。
っていうか、最初は漫然と「死んでもいい」と思っていたけど、墜落してからサバイバルが続く中で「もう一度戦って死にたい」という気持ちに変化していく話の方がいいんじゃないかと思うんだけど。あと、「もう一度戦って」とオットウェイは語るけど、「じゃあ以前の戦いは何だったのか」と尋ねたくなるぞ。
その辺りで狼を仕留めるシーンが挿入されているけど、それは「走り去る狼を撃った」というだけだし。
あと、回想シーンでは「オットウェイが妻を愛していた」ってことが伝わるだけで、「彼が戦士だった」ってのが描かれているわけではないし。
妻を亡くす前の彼が戦う男だったことは全く描写されていないので、「もう一度戦って、最強の敵を倒したら」とか言われてもピンと来ないんだよね。最初にオットウェイがモノローグで「スナイパー」と自己紹介した時点では、「なぜ石油会社にスナイパーが必要なのか」と疑問を覚えた。
ただ、どうやら採掘の邪魔になる狼を始末するために雇われたスナイパーってことらしい。
なので狼に詳しいのは理解できるのだが、サバイバルの知識が豊富な理由は分からない。
あと、墜落した彼が「生き延びよう」ってことで必死になるのは、「もう一度戦って」ということなのかもしれないけど、上手く表現できていない。
なので、彼の行動に違和感が生じている。最初に狼が登場するシーンでは、そこに獣がいることは判別できるものの、暗いので分かりにくい。オットウェイが襲われるシーンも、やはり画面が暗いし、動きが激しいし、カメラが寄り過ぎているので、何が何だか良く分からない。
群れが現れるシーンも、暗いので姿が見えない。先頭の1匹はボンヤリとシルエットが分かるものの、他は全て光る目しか見えない。
見えないことで恐怖を煽るやり方もあるが、そこは「大勢の群れが迫っている」ってのを見せないと充分な効果が得られない。
「あのデカさを見ろ」と驚きの台詞を語らせても、どれだけデカいのかが全く分からないし。森へ行く途中でフラナリーが遅れると、狼たちが現れて殺害する。そのままオットウェイたちも遅いのかと思ったら、すぐに逃げている。そして日が暮れてから、今度は数を増やしてオットウェイたちに襲い掛かる。
だったらフラナリーを襲う時に大勢の群れで行き、そのままオットウェイたちも狙えば良かったんじゃないかと。
あと、狼の群れは、オットウェイたちが縄張りに入ったから襲撃したはず。ところが、オットウェイたちが移動しても、延々と追い回して来る。
それに関してはオットウェイが「狼は復讐する唯一の動物だ」と説明を入れているが、あまり腑に落ちるモノではない。狼が人を食らう設定が出て来ると、途端にバカバカしさが強くなる。
これがモンスター・ホラーで、「普通とは違う怪物のような狼が人を食らう」という話であれば、何の問題も無いのよ。だけど、そういう話じゃないはずで。
ただ、ちょっとホラー的な匂いが無いわけでもないのよね。例えば犠牲になる人間は、都合良くグループから離れて1人になる。まるでスラッシャー映画の犠牲者のように、殺されるために行動しているかのようだ。
狼の群れは1人を殺したら、他の連中は襲わずに退却する。まるでスラッシャー映画の殺人鬼のように、妙に物分かりがいい。オットウェイは何度か「狼と戦う」「狼を退治する」と言っているが、実際のところは、ほぼ逃げ回っているだけだ。
だから「人間と狼との戦い」という図式は、ちゃんと成立しているとは言えない。
人間たちが必死で逃げ続ける中で、次々にメンバーが命を落としていく。中には、狼の襲撃とは無関係で死ぬ奴もいる。
なので、もはや「狼に命を狙われて必死に生き延びようとする」という図式さえボンヤリしている。
狼は「死の天使」とか「地獄の使者」みたいなイメージなのかもしれないが、オットウェイと仲間たちが基本的には戦わずに逃げるだけなので、アニマル・ホラーとしての面白さがあるのかというと、そこは弱い。
そういう方向で振り切っているわけではないから、狼と無関係で死ぬ奴もいるわけだ。
過酷な状況下でのサバイバルと、狼からの逃亡劇と、この2つの要素が上手く相乗効果を発揮できていない。
映画のピントをボンヤリさせているだけであり、「いったい私は何を見せられているんだろうか」という気持ちになってしまう。オットウェイは「虚無を抱えた男」として登場するのだが、墜落して以降は「皆で生き延びるために導こうとするとリーダー」として行動する。
だけど初期設定を考えると、他にリーダーを用意して、オットウェイは「最初は死んでも構わないと思いながら同行していたが、次第に心境の変化が見えるように」という形にした方が合うんじゃないか。
この映画の動かし方だと、「自殺さえ考えていた虚無の男」という初期設定の意味が、あまり無いように感じるんだよね。映画の最後では、1人だけ生き残ったオットウェイが狼の群れに包囲され、「もう一度戦って最強の敵を倒せたら、その日に死んで悔いは無い」という言葉を思い出して戦う構えを見せる。
だけど、そんな様子を見せられても「だから何なのか」と思うだけで、全く燃えない。
完全に追い詰められたオットウェイが、半ばヤケクソになっているようにしか思えないのよね。そういう意識がサバイバルの中で少しずつ芽生えてきたという様子は無くて、絶体絶命になってから急に戦う気になっているのでね。
っていうか、包囲されているんだから、どっちにしろ戦わざるを得ないわけで。
だから、「もはや前フリとか関係なくね?」と思っちゃうし。(観賞日:2018年8月28日)