『ジェントルメン』:2019、アメリカ&イギリス

ミッキー・ピアソンは馴染みのパブから妻のロザリンドに電話を掛け、近くに誰かいると気付いた。相手の正体について彼が尋ねていると、何者かが近付いて拳銃を向けた。レイモンド(レイ)・スミスが帰宅すると、私立探偵のフレッチャーが待っていた。彼はレイに「明日、新聞社に行ってネタを売る。編集長のビッグ・デイヴはアンタのボスを毛嫌いしてる。スキャンダル記事でアンタたちを潰す気だ」と話し、2000万ポンドを支払えば全ての資料と自分が執筆した『ブッシュ』という映画台本を引き渡すと持ち掛けた。
フレッチャーは「なぜ高額を要求するのか話してやろう」と言い、昔の映画を想像するよう促してからミッキーについて語る。ミッキーはアメリカ生まれの貧乏な奨学生だった頃、オックスフォード大学に合格した。彼は金持ちの同級生に大麻を売って金を稼ぎ、自分の才能に気付いた。ミッキーは乱暴な手段を用いて、地位を築いた。裕福な中年になった彼は、足を洗うために商売を譲る相手を見つけた。それは、ユダヤ系アメリカ人で大富豪のマシュー・バーガーという男だった。
レイが「なぜビッグ・デイヴはボスに恨みを?」と訊くと、フレッチャーは「2ヶ月前パーティーで握手を拒まれた」と話す。デイヴはプレスフィールド卿と若い執事の肉体関係を、ゴシップ記事として掲載していた。プレスフィールド卿と親しいミッキーは、そのことで腹を立てていたのだ。フレッチャーは「ミッキーは5トンの大麻を栽培する広大なスペースを、どうやって隠しているのか」と言い、その手口を解説する。上流階級の貴族は、土地を持っているが金が無い。そこでミッキーは豪邸の管理費を出し、土地を借りているのだ。彼はマシューを地下の大麻農園へ案内し、「顧客も譲り受けたい」と告げられた。
フレッチャーはミッキーの敵である東洋系ギャングのドライ・アイについても、レイに語った。さらに彼は、ミッキーの弱点がロザリンドへの献身と愛情だと話す。ドライ・アイはロザリンドが経営する自動車修理工場に赴き、パーツを無償で提供する代わりにミッキーと面会させてほしいと持ち掛けた。ドライ・アイのボスは中国マフィアのジョージ卿だが、フレッチャーは「中国人は世代交代が早い」と言う。ミッキーはフレッチャーと会うが、買収の提案を冷たく拒否した。
アーニーたち4人の若者が「トドラーズ」を名乗って農園に押し入り、警備員を倒して大麻を強奪した。彼らはアマチュアの格闘技集団で、その様子を撮影して動画サイトにアップした。それを知ったアーニーたちのコーチは、すぐに動画を削除するよう命じた。ミッキーは襲撃されたヘンリー卿の農園を閉鎖し、形跡を消すことにした。デイヴはプレスフィールド卿の娘のローラが麻薬依存のロック歌手であるパワー・ノエルと交際していることを知り、「ミッキーが麻薬を世話している」という記事にした。
ミッキーはプレスフィールド卿と妻から、失踪したローラを連れ戻してほしいと依頼された。レイはローラの居場所を突き止め、ミッキーから連れ戻す仕事を任された。彼が手下たちを率いて団地に乗り込むと、パワーは仲間のアスラン、ブラウン、ローラと一緒にいた。レイが家に帰るよう要求すると、ローラは従った。彼は手下の1人にパワーたちを監視させ、ローラを連れて部屋を出た。すると部屋に残った手下はパワーたちに襲われて反撃し、突き飛ばされたアスランは窓から転落死した。
レイはミッキーの元へ行き、ローラは無事に家へ戻ったことを知らせた。彼は仲間の1人が死んだことを話し、証拠は全て消したと報告した。そこまで語ったフレッチャーは、「アンタは真相を全て話していなかった」と言う。彼は転落死した直後のアスランを捉えた写真を見せ、現場で一部始終を見ていたことを明かした。アスランが転落死すると、外にいた不良少年たちがスマホで撮影した。レイと手下たちバラバラに逃亡した少年グループを追い掛け、脅迫や暴力でスマホを回収した。
コーチはアーニーから、農園の情報はドライ・アイの側近であるファ・アックから聞いたことを知らされた。奪ったのがミッキーの大麻だと知ったコーチは、レイの元へ赴いた。彼は謝罪して大麻を全て返すと告げ、借りを返すまで働くので教え子たちは許してほしいと頼む。「どうやって農園の情報を知った?」とレイが質問すると、コーチは車のトランクに捕まえておいたファ・アックの姿を見せた。しかし拘束を解かれたファ・アックは隙を見て逃亡し、線路に転落して電車にひかれた。
レイから報告を受けたミッキーは、黒幕がジョージ卿だと確信した。彼はジョージ卿に脅しを掛け、「また俺の地位を脅かしたら戦争に応じるぞ」と告げた。ドライ・アイはジョージ卿から詰問されても意に介さず、「いつか立場が入れ替わる」と言い放った。フレッチャーはレイに、ドライ・アイとマシューの密会を捉えた映像を見せた。ドライ・アイはマシューに、「アンタは身を引け。全て俺が仕切る」と語っていた。レイが「マシューがウチの事業を買う気なのは分かってる。新しい情報は?」と尋ねると、フレッチャーは笑って「ここからがクライマックスだ」と告げた…。

監督はガイ・リッチー、原案はガイ・リッチー&アイヴァン・アトキンソン&マーン・デイヴィーズ、脚本はガイ・リッチー、製作はガイ・リッチー&アイヴァン・アトキンソン&ビル・ブロック、製作総指揮はロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン&アラン・ワンズ&ボブ・オシャー&マシュー・アンダーソン&アンドリュー・ゴロフ、共同製作はマックス・キーン&マシュー・マコノヒー、撮影はアラン・スチュワート、美術はジェマ・ジャクソン、編集はジェームズ・ハーバート&ポール・マクリス、衣装はマイケル・ウィルキンソン、音楽はクリストファー・ベンステッド。
出演はマシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヒュー・グラント、コリン・ファレル、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー、ジェレミー・ストロング、エディー・マーサン、トム・ウー、バグジー・マローン、リン・レネー、チディ・アジュフォ、サイモン・ベイカー、ジェイソン・ウォン、ジョン・ダグリーシュ、ジョーダン・ロング、リリー・フレイザー、ガーシュウィン・ユスターシュ・ジュニア、サミュエル・ウェスト、ジェラルディン・サマーヴィル、エリオット・サムナー、フランツ・ドラメー、クリス・エヴァンゲロー、ジェームズ・ウォーレン、ショーン・サガー、トム・リス・ハリーズ、ダニー・グリフィン、マックス・ベネット、ユージニア・カズミナ他。


『キング・アーサー』『アラジン』のガイ・リッチーが監督&脚本を務めた作品。
ミッキーをマシュー・マコノヒー、レイをチャーリー・ハナム、フレッチャーをヒュー・グラント、コーチをコリン・ファレル、ドライ・アイをヘンリー・ゴールディング、ロザリンドをミシェル・ドッカリー、マシューをジェレミー・ストロング、デイヴをエディー・マーサン、ジョージ卿をトム・ウー、アーニーをバグジー・マローンが演じている。

序盤からフレッチャーがレイに喋り続ける状況が長く続くのだが、途中で「これって何の時間?」と言いたくなる。
何しろ、フレッチャーが話す内容の大半は、レイが知っている情報なのだ。
もちろん、それが観客に人間関係や物語を説明するための手順であることぐらいはボンクラな私にも理解できる。
ただ、その手口として、「とっくに知っている相手に対してフレッチャーが得意げにベラベラと喋る」という形を取るのは、どうなのかと。他の方法を取った方が良かったんじゃないかと。

たまにフレッチャーは勝手な想像で物語を脚色し、レイが「それは違う」と指摘することもある。例えば「ミッキーがドライ・アイの要求に激怒し、その場で射殺した」とか。
でも、「だから何なのか」と言いたくなる。
これが芥川龍之介の『藪の中』みたいに「最初に喋った奴と次に喋った奴の内容が異なる」という仕掛けでもあれば、フレッチャーが勝手に脚色して嘘の内容を話すのも何かしらの効果が生じるかもしれないよ。
でも、その場でレイが違うと指摘して修正するので、「これは何の時間なのか」と言いたくなるのよね。

時系列を入れ替えるのも、複雑な構成にするのも、いかにもガイ・リッチーっぽいと感じさせる。
スタイリッシュに飾り付けるのも、無駄にしか思えない会話劇が多く含まれるのも、いかにもガイ・リッチーっぽいと感じさせる。
隅から隅まで、ガイ・リッチーのランドマークだらけになっている。
もっと言うと、初期のガイ・リッチー監督作のテイストを強く感じさせる。
ひょっとすると、本人としても原点回帰という意識があったのかもしれない。

ただ、多くのメジャー大作を手掛けた経験が悪い方向に作用したのか、それとも年を取って単純に鈍ったのかは分からないが、そういう原点回帰を思わせる趣向の大半が作品の面白さに繋がっていない。
いや、実は表面的な部分だけを掬ってみれば、何となく面白そうな匂いは十分に漂って来るのよ。でも残念ながら、匂いだけで味が伴っていないんだよね。
例えば、フレッチャーがドライ・アイとマシューの密会映像をレイに見せて会話のアフレコを要求する仕掛けとか、何の意味があるのかと言いたくなる。変わった趣向だとは思うけど、それだけだよ。ハッキリ言って、面白くも何ともないよ。
不毛で無意味なことにレイが付き合わされて、それに観客も付き合わされているって感じなのよ。

サアスランが窓から転落するとシーンが切り替わり、レイがミッキーに報告する様子が描かれる。
そこで転落死した直後の現場の様子が少しだけ挿入され、フレッチャーがレイに「全てを話していない」と指摘するシーンを経て、レイと手下たちの事後処理の手順が描かれる。
だけど、そうやって時系列を行き来する構成が、ただテンポを悪くしているだけにしか思えない。
そもそも、レイたちがスマホを回収する手順だけを取っても、無駄に長くてモタモタしていると感じるし。

それと、フレッチャーがアスランの転落死や事後処理の一部始終を目撃して写真を撮ってしようと、状況は大して変わらないんだよね。
それがあろうと無かろうと、フレッチャーとレイの関係性に変化なんて起きないのよ。フレッチャーの言動の全てはレイに向けたモノじゃなくて、観客に向けたモノになっているんだよね。
いや、観客に説明するための手順として使うのが、全面的に悪いわけじゃないのよ。
ただ、ホントは裏の目的として隠れていなきゃいけないはずなのに、それ以外の意味が無い状態になっちゃってんのよ。

ミッキーがジョージ卿と話している最中、急にジョージ卿がお茶を勢い良く吐き出す。これが1度じゃなくて、2度もある。まるでギャグのような描写だが、ミッキーが脅しを掛けてから「手を回してお茶に赤痢菌を入れておいた」と明かす。
その後で薬を飲ませて回復させるけど、この手順って要るかね。
「その気になれば殺すことも出来る」ってことを示して、ジョージ卿に言うことを聞かせるための行動ってことは分かるのよ。でも、銃を見せて脅すだけでも、別に事足りるんだよね。薬を飲ませる手順も含めて、狙いが良く分からん。
そこに「ローラが自宅で急死する」という様子をカットバックで挟む構成も、これまた意図が不明だ。

フレッチャーは金を強請るためにベラベラと喋り続けているんだけど、それが全く通用しないことが早い段階で読めちゃうんだよね。レイが全てお見通しで、フレッチャーの上を行っていることが分かっちゃうんだよね。
とは言え、そのまま話を進めて、終盤で「レイは全て分かっていた」と明かし、立場の逆転を描く逆襲編を一気に畳み掛ければ、コン・ゲーム的な面白さはそれなりに味わえたはず。
ところが、残り10分ぐらいで「さらに一捻り」という展開を用意しており、それが完全に裏目に出ている。騙される快感は無いし、無駄に内容がゴチャゴチャしていて良く分からないことになっている。
そもそも、最初に提示された関係性はフレッチャーの説明しか情報が無い状態で、そこから「実は違っていた」と言われても、ただの卑怯な後出しジャンケンでしかないし。

(観賞日:2022年11月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会