『ザ・フォッグ』:2005、アメリカ
オレゴン州アントニオ島。灯台にある私設放送局KABのスタジオから、DJのスティーヴィー・ウェインがラジオ番組を放送している。 彼女は「明日は島の勇者たち4人を称える銅像の除幕式がある。その一人は彼女の祖先リチャード・ウェイン」と語る。他の3人は、 デヴィッド・ウィリアムズ、パトリック・マローン、ノーマン・キャッスルだ。除幕式の責任者を務めるキャシー・ウィリアムズは銅像の 仕上がりに不満で、関係者のトム・マローンに「正しく再現しないと。この島を命懸けで守ってくれた4人なのよ」と文句を言う。トムが 「金曜日には観光客が来るんだぞ」と口にすると、彼女は「だったら観光シーズンが終わったら修正させる」と述べた。
チャーター船シーグラス号の船長ニック・キャッスルと1等航海士のブレット・スプーナーは、2人の釣り客を乗せて沖で停泊していた。 ニックたちは錨を上げて出発しようとするが、何かに引っ掛かる。船が傾く中、スプーナーは何とか錨を引き抜く。その際、錨が刺さって いた海底の古い袋から、中に入っていた複数の物品が零れ落ちた。その内の懐中時計が島に漂着し、メイケン老人が拾った。
島に戻ったニックは、何度か関係を持ったスティーヴィーの元へ行こうと車を走らせた。歩いている女を見つけたニックは、軽い口調で 「乗っていくかい?」と声を掛けた。だが、それが半年前に島を出てニューヨークにいるはずの恋人エリザベス・ウィリアムズだったので 、彼は驚いた。エリザベスは「用事があって戻って来たの」と言う。スプーナーはニックの従弟ショーンと一緒に船を出し、マンディーと ジェニファーという女たちと沖合で酒を飲んで盛り上がった。
ニックがマリーナで船の部品を取りに行っている間に、待っていたエリザベスはメイケンから話し掛けられる。メイケンは「見せたい物が ある」と告げ、懐中時計を差し出した。エリザベスが手を伸ばすと、彼は懐中時計を引っ込めて「触れれば全てが変わるぞ」と警告する。 エリザベスは微笑を浮かべ、懐中時計を手に取った。メイケンは「浜辺で拾った。戻って来たんだ」と告げる。裏にあった天秤の刻印に 気付いたエリザベスは、「どこかで見た気がする」と口にした。ニックが戻ると、メイケンは時計を持って立ち去った。
スティーヴィーがスタジオにいると、観測所にいる気象担当者ダンから電話が入る。ダンは「レーダーに濃霧を発見した。15キロ沖合から 真っ直ぐ島へ向かってる」と告げる。しかし灯台の計器では、風は西に吹いている。つまり、霧が風に逆らっているということになる。 スティーヴィーはラジオ番組で濃霧の情報を伝える。番組を聴いたショーンは周囲を確かめてみるが、霧など全く見えなかった。
シーグラス号のエンジンが故障したので、ショーンは沿岸警備隊に連絡しようとするが、無線が通じない。スプーナーがマンディーたちを 撮影していたビデオカメラも壊れてしまう。マンディーとジェニファーは異様な寒さを感じ、甲板から船室に入った。その時、巨大な濃霧 が突如として出現した。濃霧は船を覆い尽くし、計器が破裂する。スプーナーは大きな帆船を目撃するが、すぐに消えた。ジェニファーは 窓に天秤の刻印を描いた。スプーナーとショーンが甲板にいると、女たちが窓ガラスを突き破って飛んで来た。2人は死んでいた。直後、 ショーンは飛んで来たナイフが突き刺さって死亡する。スプーナーは何かに襲われて悲鳴を上げた。
エリザベスはニックに送ってもらって帰宅するが、母のキャシーは彼女を歓迎しなかった。すぐにエリザベスが家から出て来たので、 ニックは自分のボートハウスヘ連れ帰った。2人は肉体関係を持ち、ベッドで眠りに就いた。エリザベスは悪夢にうなされて目を覚まし、 ニックの質問を受けて「いつも同じ光景を見るの。炎の中で人々が叫んでいて、私は何も出来ずに溺れて沈んでいく。何度も見る。だから 戻って来たの」と説明した。
エリザベスはインターネットで刻印について調べようとするが、急にパソコンの電源が切れた。天井から水が垂れ落ち、誰かが激しくドア をノックする音が聞こえた。エリザベスはドアを開けて外を見回すが、誰もいない。しかし名前を呼ぶ声がするので、彼女は砂浜に出た。 すると砂浜には足跡が付いていた。エリザベスが海に近付くと、濃霧が迫って来た。だが、ニックが来て「こんな所にいたら寒いだろう。 戻ろう」とエリザベスに言い、2人がボートハウスへ戻ると、濃霧は海に消えた。
翌朝、スティーヴィーの息子アンディーは、海岸でブラシを見つけた。彼はブラシを持ち帰り、母に見せた。スティーヴィーはブラシの裏 にある天秤の刻印に気付いた。エリザベスは資料館へ出向き、書物で刻印を調べる。すると、天秤の刻印はプリンス・ウィリアム島の船が 使っていた物だった。知り合いの学者レイサムが来たので、エリザベスは「この刻印、以前にどこかで見た気がして」と言う。すると レイサムは「刻印は知らないが、プリンス・ウィリアム島は知ってる」と告げた。
レイサムによれば、プリンス・ウィリアム島は巨大な交易の拠点だった。毛皮を輸出して、経済は潤っていた。しかし書物によれば、島の 交易は1971年で終わっている。その理由についてエリザベスが尋ねると、レイサムは「伝染病で島民が死んだからだ」と言う。半分の人が 島で死亡し、残りは船で立った。だが、旅立った人々も、そのまま島には二度と戻らなかったという。そこへニックが来て「シーグラス号 が戻ってないらしい」とエリザベスに告げ、2人はマリーナへ行くことにした。
ニックがマリーナへ行くと、叔父のハンクが待っていた。ハンクによると、誰もシーグラス号を見ていないという。ニックはボートを借り 、エリザベスと共に海へ出た。シーグラス号を発見して乗り込むと、燃料は残っているし、エンジンも壊れていなかった。船室に下りた ニックは、両目を抉り取られたショーンの死体を発見した。エリザベスが網を引き上げると、女性2人の死体が引っ掛かっていた。さらに 2人は、冷凍庫で生き延びていたスプーナーを発見した。
ニックとエリザベスは、スプーナーを助けて島に戻った。しかしショーンたちが死んでいたため、スプーナーは刑事から殺人の容疑を 掛けられる。スプーナーはニックに「隠れたんだ。霧が殺した」と告げた。ニックはビデオカメラを密かに持ち去っており、エリザベスに 「預かっててくれ。スプーナーの疑いを晴らせるかもしれない」と言う。エリザベスがボートハウスでビデオを再生すると、3人が死ぬ 様子が録画されていた。ボートハウスは、パトリック・マローンの生家だった。床板が外れてエリザベスは海に転落し、ビデオカメラは 水中に沈んだ。何とか這い上がったエリザベスは、壁に隠されていたパトリックの日記を発見した。
スティーヴィーがスタジオにいると、何かを激しく叩く物音と悲鳴が聞こえてきた。持参したブラシが燃え上がったので、スティーヴィー は慌てて消化した。すると壁には天秤の刻印の焼け跡が浮かび上がった。彼女は叔母であるコニーに預かってもらっているアンディーに 電話を掛け、もう海岸から物を拾ってきてはいけないと注意した。アンディーは「分かった」と返事をするが、電話を切った後、コニーに 許可を貰って海岸へ出掛ける。
エリザベスは教会へ行き、トムの息子であるマローン神父に会う。敷地の壁にはペンキで何かの文字が落書きされていた。エリザベスが 文字について質問すると、マローンは「聖書の一節で、災いを意味している」と答えた。エリザベスから日記を見せられたマローンは顔を 強張らせ、「済まないが力になれない。すぐに島を出るんだ」と告げた。エリザベスが落書きを良く見ると、天秤の刻印もあった。
エリザベスはスプーナーが入院している病院へ行き、ニックに「ちょっと話せる?」と問い掛ける。ニックが「今は無理だ」と言うので、 彼女は廊下に出た。エリザベスが死体を確認していると、突如としてショーンが起き上がり、不気味な声で「血には血をだ」と言って 倒れた。エリザベスから話を聞いたニックだが、まるで信じようとしない。そこでエリザベスは、パトリックの日記を見せる。中身を読む と、パトリックが仲間と共に何か恐ろしい計画を遂行しようとしていたことや、それに対する不安や罪悪感が綴られていた。ボートハウス の壁に飾られている写真を見たニックとエリザベスは、1871年になって急速に町が発展していることに気付いた。
スプーナーは刑事の目を盗み、窓から病室を抜け出した。メイケンは砂浜に埋まっているロープを発見した。彼がロープを引っ張っている ところへ、アンディーがやって来た。メイケンはロープに引っ張られ、海に沈んだ。巨大な濃霧が迫って来たので、アンディーは慌てて コニーの家に逃げ込んだ。濃霧は島を包み込み、スティーヴィーと交信していたダンは激しくドアを叩く物音を耳にした。彼がドアを 開けて外を調べると、濃霧の中に亡霊が現れた。ダンは全身を炎に包まれ、激しく吹き飛ばされて死亡した…。監督はルパート・ウェインライト、原作はジョン・カーペンター&デブラ・ヒル、脚本はクーパー・レイン、製作はデブラ・ヒル& デヴィッド・フォスター&ジョン・カーペンター、製作総指揮はトッド・ガーナー&ダン・コルスラッド&デレク・ドーチー、撮影は ネイサン・ホープ、編集はデニス・ヴァークラー、美術はマイケル・ダイナー&グレアム・マーレイ、衣装はモニク・プリュドム、音楽は グレーム・レヴェル、音楽監修はバド・カー&ノラ・フェルダー。
出演はトム・ウェリング、マギー・グレイス、セルマ・ブレア、ラデ・シェルベッジア、デレイ・デイヴィス、ケネス・ウェルシュ、 エイドリアン・ハフ、サラ・ボッツフォード、コール・ヘッペル、メアリー・ブラック、ジョナサン・ヤング、R.ネルソン・ブラウン、 クリスチャン・ボッチャー、ダグラス・H・アーサーズ、イヴズ・キャメロン、チャールズ・アンドレ、マシュー・カリー・ホームズ、 ソニヤ・ベネット、メーガン・ヘファーン、アレックス・ブルハンスキー他。
ジョン・カーペンターが監督&共同脚本&音楽を務めた1980年の同名映画のリメイク。
脚本は『ザ・コア』のクーパー・レイン、監督は『スティグマータ/聖痕』のルパート・ウェインライト。
ニックをトム・ウェリング、エリザベスをマギー・グレイス、スティーヴィーを セルマ・ブレア、帆船の船長ブレイクをラデ・シェルベッジア、スプーナーをデレイ・デイヴィス、トムをケネス・ウェルシュ、マローン をエイドリアン・ハフ、キャシーをサラ・ボッツフォードが演じている。
トップビリングはトム・ウェリングであり、彼が演じるニックが主人公のはずなのだが、ほとんど何もしていない。
っていうか、他の連中も大したことはしていないけど。まず冒頭、天秤の刻印が帆に描かれている帆船で、人々が炎に包まれている。その帆船を背にして、4人の男たちが小舟で逃げている。
その中の1人が「ウィリアムズ」と呼ばれている。
これを冒頭で描いておくことによって何が起きるかというと、「島の英雄たちの銅像の除幕式」という説明が入った時に、その段階で 「ホントは英雄じゃなくて、何か悪事をやらかした連中である」ってのがバレバレになってしまうのだ。
そこを早い段階でネタバレ状態にしておくメリットは、何も見当たらない。
「どうせオリジナル版を見ていればバレバレになることだから、開き直って最初からバレバレにしてしまえ」という考えだったの だろうか。見せない方がいいことを序盤から見せている一方で、銅像になった4人が、なぜ「島の英雄」と呼ばれているのかは全く明かされない。
島の人々は、その4人がどのような優れた功績を残したという風に聞かされているのか。どういう言い伝えが残っているのか。
そこは全く教えてくれない。
なんでだよ。
「こういう理由で英雄で呼ばれています」というのを明かしておいてこそ、「実際はこんな連中だった」ということが明かされた時に、 大きな衝撃を与えることが出来るはずなのに。序盤の内に、島の英雄4人の血を引く人間が誰なのかってことが明示されている。
で、冒頭シーンと絡めると、「ああ、その4人が亡霊の攻撃対象になるんだな」という予想が付く。
その段階で話の作りとしてはマズいことになっているんだが、ところがどっこい、なぜか亡霊が最初に殺すのは、何の関係も無い女子2人 なのである。
で、だったら島にいる人々を無差別に殺していくのかと思いきや、その後は4人の血を引く人間だけを標的にする。
どうなってんだよ。っていうか、ショーンや無関係の女たちは殺しておきながら、なんでスプーナーは殺されずに済んでいるんだよ。
亡霊の恨みつらみって、スプーナーを殺さずに済ませる程度のものだったのか。彼が冷凍庫へ隠れる前に、殺せるチャンスはあったはず だろ。女2人とショーンは一瞬で仕留めているんだからさ。
それと、亡霊たちはマンディー&ジェニファー、ショーン、ダン、コニーは瞬時に&確実に抹殺したのに、なぜかスティーヴィーの時は車 ごと海に落とすだけで止めを刺さずに消えるんだよな。
むしろマンディー&ジェニファーやダンよりも、スティーヴィーの方を確実に仕留めるべきじゃないのかよ。ニックの従弟であるショーンや叔父であるハンク、スティーヴィーの叔母であるコニーは殺されているのに、ニックやスプーナーや スティーヴィーは生き残るってのも、理不尽に感じるんだよな。
ニックは主人公だから仕方が無いにしても、スプーナーかスティーヴィーのどっちかは殺しておこうぜ。
そりゃあホラー映画にある程度の不条理は付き物だが、そういう類の不条理ではないはずだ。あと、亡霊はキャシーを殺しておいて、その娘であるエリザベスは全く殺そうとしない。
前半に濃霧が彼女を包み込むシーンがあるが、殺そうという様子は見られない。
ボートハウスでエリザベスは溺れそうになるが、それは濃霧の仕業ではなく、彼女の見ている悪夢と関連している現象だ。
ニックの車に乗っている時は攻撃を受けるが、エリザベスが個人として亡霊の攻撃を受けることは無い。なぜエリザベスが亡霊の恨みを浴びずに済むかというと、実は彼女、ブレイク船長の女房の生まれ変わりなのである。
だから彼女は、船で溺れ死ぬ夢を何度も見ていたのだ。
で、ラスト近くになると、エリザベスは自らブレイクの亡霊に歩み寄り、彼と共に去っていく。そしてブレイクは女房と再会できて満足 したのか、ニックやスプーナーたちを殺さずに消える。
なんだ、そりゃ。
結局、亡霊の恨みって、船長が女房を手に入れたら消えちゃう程度のものだったのかよ。(観賞日:2013年2月9日)
第28回スティンカーズ最悪映画賞(2005年)
ノミネート:【ちっとも怖くないホラー映画】部門