『ザ・フライ2/二世誕生』:1989、アメリカ
ハエ男となって死んだセスの子供を妊娠していたヴェロニカ・クエイフは陣痛に襲われ、バートック産業にヘリコプターで運び込まれた。同行したステイシスは苦悶するヴェロニカを見て、「彼女が死んでしまう。何とかしろ」と怒鳴る。研究主任のジェインウェイに「大声を出しても出産の邪魔になるだけです」と注意された彼は、社員たちによって別室に連行された。研究所員たちが暴れるヴェロニカを必死に取り押さえる中、社長のバートックがやって来た。ヴェロニカはハエ男の遺伝子を持つ怪物を出産し、「私の子供じゃない」と絶叫した。出血の激しい彼女は、そのまま息を引き取った。執刀医が怪物を切開すると、中にいた人間の男児が産声を上げた。
バートックは研究所の面々に対し、男児の扱いについて「あくまでも人間だ。モルモット扱いはやめてもらいたい。私の息子と思って面倒を見てもらいたい」と指示した。マーティンと名付けられた男児は異常染色体を持っており、普通の人間よりも成長のスピードが速かった。マーティンは遺伝子の突然変異によって休眠中の染色体を保有しており、「いずれ、これが暴れたら何が起きるか分かりません」とジェインウェイは口にした。
頭脳に関してバートックが質問すると、ジェインウェイは「大変な勢いで知識を吸収しています。それと、睡眠を取りません」と述べた。人間で言えば4歳の状態に成長したマーティンに、バートックは「君の親代わりだよ」と自己紹介し、優しく接した。人間で言う10歳の状態に成長したマーティンは、シェパード博士が行う恒例の知能テストに関して「あんな低級なテスト、やる気が起きません」と辟易し、反抗的な態度を取るようになった。
マーティンはバートックと会いたがるが、ジェインウェイから「社長はゾーン4のプロジェクトで忙しいの」と言われる。「僕もゾーン4に行っていい?」とマーティンが尋ねると、ジェインウェイは「通行許可証が無いから入れないわ。貴方はゾーン3から出られないの」と告げる。マーティンはシェパードの通行許可証を盗み、コンピュータを使って自分の通行許可証を作成した。彼は発明したヘルメットを被り、深夜のゾーン4に侵入した。
実験用動物が飼育されている部屋に足を踏み入れたマーティンは、1匹の犬に目を留めた。彼は折から犬を出し、頭を撫でながら「僕ね、変な病気なんだって。今までに患ったのはパパと僕だけ。普通の人間より速く成長するんだ。つまり早く死んじゃうってことなんだ」と話し掛ける。後日、マーティンは犬のために食料を隠し持ち、またゾーン4に侵入した。だが、檻に犬の姿は無く、移送されたことを示す札が掛けられていた。
マーティンがテレポッドのある大型実験室を覗き込むと、そこに犬が運ばれてきた。その犬は転送テストの実験台だったのだ。マーティンは実験内容を知らず、テレポッドに入れられた犬に向かって手を振った。しかしテストは失敗し、もう一方のテレポッドから出て来た犬は醜い怪物に変貌していた。近付いた研究所員に噛み付く怪物を見て、マーティンは絶叫した。実験を見守っていたバートックはマーティンに気付き、「見るんじゃない」と抱き締めた。
誕生から5年が経過したマーティンは、青年の姿へと成長していた。マーティンはバートックやジェインウェイたちから、誕生日をお祝いしてもらう。バートックは誕生日プレゼントとして、会社の敷地内に建てた一軒家を与えた。「もう監視は無い」と言われ、マーティンは喜んだ。バートックは「ウチの会社で働かないか。君の頭脳を休ませておくのは勿体無い。人類に貢献しなきゃ」と言い、テレポッドの開発に携わるよう持ち掛けた。
犬の事故を覚えているマーティンは難色を示すが、バートックは「過去にこだわるより、未来に目を向けるべきだ」と説得する。「あの犬は実験後、すぐに安楽死させた」とバートックは告げ、セスが実験についてインタビュー取材で語っている録画テープを渡した。それを見たマーティンはコンピュータでプログラムを組み立て、電話機の転送を成功させた。実験用の有機物を手に入れるため、彼は社内を歩き回った。その様子を監視カメラの映像で見ている警備担当者が「社長のペットだ。死ぬまで折から逃げられない」とバカにしていることなど、彼は全く知らなかった。
資料室に入ったマーティンは、人工のハエを釣竿に付けて遊んでいるバートック産業の社員ベス・ローガンと遭遇した。ベスは半年も夜勤でコンピュータのファイリングばかりさせられており、ストレスが溜まっていることを語った。ベスはマーティンの正体を知らず、研究所の所員だと思い込んだ。マーティンから「実験に付き合わないか」と誘われ、ベスは変な男だと感じながらも付いて行く。マーティンは彼女を大型実験室へ連れて行き、サボテンの転送実験を見せた。しかし実験は失敗し、サボテンは変な形になった。
マーティンはベスに、「また来てくれる?前から同年代の友達が欲しかったんだ」と告げる。ベスが「いいわ。今日は夕食の休憩時間が10時なの」と言うと、マーティンは「こっちへおいでよ。研究について君の意見も聞きたいし」と告げた。ベスが去った後、警備主任のスコービーがマーティンの前に現れ、「手が早いねえ、アンタの彼女だろ。いいねえ、ムチムチしてて」と嫌味っぽく述べた。
マーティンは2時間も睡眠を取ることが出来るようになり、「普通の人間に戻りつつあるってことだ」とジェインウェイとシェパードに興奮した態度で報告する。しかし2人とも、「仕事で疲れたから眠くなっただけだ」「肉体が変化しているなら、血液検査の結果に出ているはずよ」と冷淡に対応した。マーティンはベスと毎晩のように大型研究室で会い、テレポッドの研究を手伝ってもらった。ただ仕事をするだけでなく、一緒にダンスを踊ったり、釣りを教えてもらったりして、マーティンは楽しい時間を過ごした。
ある日、マーティンはベスから、情報課の仲間たちからパーティーに誘われていることを聞かされる。「一緒に行く?みんなここの職員だし、きっと楽しいわ」と言われたマーティンは、「行くよ」と返答した。パーティーが行われている部屋に赴いたマーティンは、数名の社員たちが「怪物を2年も管理してる」と話しているのが気になった。その社員たちが出て来た標本室を覗いたマーティンは、あの時の転送テストで怪物化した犬の姿を発見した。
ベスが来て「どうしたの?」と声を掛けると、マーティンは泣きながら「ほっといてくれ」と怒鳴って走り去った。マーティンは鎖で拘束されている犬の元へ行き、涙ながらに薬殺した。翌日、マーティンが研究を行っていると、バートックが来て「昨夜、標本室に侵入して大事な標本を傷付けた。何か知ってるんじゃないか」と尋ねる。「いえ」と答えるマーティンを眺めたジェインウェイが「彼は嘘をついています」と言うと、バートックは「彼も大人になったということだ」と口にした。
マーティンはベスのデスクに通行許可証を届け、大型実験室に来てもらう。マーティンは「プレゼントがある」と笑顔で告げ、1匹の猫を見せる。プロメテウスと名付けた猫を、彼はテレポッドに入れた。ベスが制止するのも聞かず、マーティンは「僕を信じて」とボタンを押すよう促す。ベスがボタンを押してテレポッドを起動させると、転送テストは成功し、その猫は変わらない姿で戻って来た。
マーティンとベスは、施設の一軒家で肉体関係を持った。マーティンは自らの遺伝子について調べ、普通の人間になるためには他人から遺伝子を提供してもらう必要があること、そのドナーは死んでしまうことを知った。彼の肉体は異変が進行し、注射跡の化膿した部分から粘着質の皮膚が剥がれた。シェパードは「ただ化膿しただけだ」と軽く言うが、マーティンは納得しない。バートックはジェインウェイから、「遺伝による変身作用が起きています。肉体が成長して、異常染色体が動き出したんです」と報告を受けた。「これからどんどん変身していくでしょう」と彼女に言われたバートックは「万全の態勢を取れ。ぐずぐずしていられん」と命じた。
バートックはベスを町外れのビルで勤務する他のセクションに転属させ、それを彼女に通達したスコービーは「社長のペットとセックスしたのがマズかったんですかねえ、記念にどうぞ」とニヤニヤしながらビデオテープを渡した。さらにバートックは、マーティンとベスが電話でも連絡を取れないように手を打った。しかし機械に詳しいマーティンは、ベスとの回線を繋いだ。「私たちのベッドシーンをビデオに撮られてたのよ」とベスに聞かされたマーティンは、一軒家に監視カメラが仕掛けてあるのを発見した。
マジックミラーの向こうで自分を監視していたバートックの部下たちを見つけたマーティンは、「出て行け」と怒鳴った。コンピュータに記録されていたセスの映像を見たマーティンは、自分がハエ人間の息子だと知った。そこへ現れたバートックは、「君は近い将来、世界で最もユニークな存在に変身する。それを阻止する方法は無い」と言う。「治療薬を注射していたじゃないか」とマーティンが口にすると、バートックは「あれは栄養剤だ。君の希望を与えるための芝居だった」と述べた。
バートックは「君は理想的なモルモットだ。君とテレポッドがあれば、バートック産業は地上のあらゆる生命体をコントロールできる」と語った。激昂して掴み掛かったマーティンに、彼は「どうにもならん宿命なのだ。君の痛みを出来るだけ和らげるよう努力しよう」と話す。マーティンは「アンタを絶対に許さない」と言い、その場から逃亡した。施設を出ようとしたマーティンにスコービーが立ちはだかり、殴り倒して嘲笑する。マーティンは怪力で彼を投げ飛ばし、施設から脱走した。
バートックはスコービーに、マーティンを見つけて連れ戻すよう命じた。実験室へ赴いた彼は、マーティンが改良したテレポッドの成果を見せるようトリンブル博士に命じた。しかしマーティンが新たなパスワードを登録していたため、彼らはテレポッドを起動させることが出来なかった。下手に動かすとプログラムが消去されるように設定されており、バートックたちはどうすることも出来なかった。
マーティンがベスの家を訪れた時には、既に顔面の変形が始まっていた。マーティンは事情を説明し、「頼れるのは君だけだ。僕を助けてほしい」とベスに言う。スコービーと警備隊がベスの家に踏み込むと、2人は立ち去った後だった。マーティンはベスの運転する車に乗り、ステイシスの元を訪れて治療法を教えてもらおうとする。しかしセスへの強い恨みを抱くステイシスは、冷淡な態度を取った。
「貴方は心を失った」とマーティンに批判されたステイシスは、「分かっているのは、治療法はテレポッドにあるということだ。答えが分かってるなら利用しろ」と口にした。彼は「バートックに追われてるんだろ。俺の車を使え」と言い、ベスに車のキーを渡した。ベスから「やっぱり社長に相談しましょう。テレポッドを使えば助かるかもしれない」と告げられたマーティンは、「助かるには他の人間を犠牲にしなきゃならないんだ」と苛立った様子で述べた。マーティンの変形は進行し、それと共に衰弱していく…。監督はクリス・ウェイラス、原案はック・ギャリス、脚本はミック・ギャリス&ジム・ウィート&ケン・ウィート&フランク・ダラボン、製作はスティーヴン=チャールズ・ジャッフェ、製作協力はギリアン・リチャードソン、製作総指揮はスチュアート・コーンフェルド、撮影はロビン・ヴィジョン、編集はショーン・バートン、美術はマイケル・S・ボルトン、衣装はクリストファー・ライアン、音楽はクリストファー・ヤング。
出演はエリック・ストルツ、ダフネ・ズニーガ、リー・リチャードソン、ジョン・ゲッツ、ハーレー・クロス、ゲイリー・チョーク、アン・マリー・リー、フランク・C・ターナー、サフロン・ヘンダーソン、マシュー・ムーア、ロブ・ロイ、アンドリュー・ローズ、パット・バーメル、ウィリアム・テイラー、ジェリー・ワッサーマン、ダンカン・フレイザー、ジャネット・ホッキンソン、ショーン・オバーン、マイク・ウィンロー他。
1986年の映画『ザ・フライ』の続編。
前作でクリーチャー効果を担当した特殊メイキャップ・アーティストのクリス・ウェイラスが初監督を務めている。
前作から続投しているキャストは、ステイシス役のジョン・ゲッツのみ。
マーティンをエリック・ストルツ、ベスをダフネ・ズニーガ、バートックをリー・リチャードソン、少年の姿のマーティンをハーレー・クロス、スコービーをゲイリー・チョーク、ジェインウェイをアン・マリー・リー、シェパードをフランク・C・ターナーが演じている。『ザ・フライ』はリメイク作品であり、1958年に公開されたオリジナル版『蝿男の恐怖』(かつての表記は『ハエ男の恐怖』)には『恐怖の蝿人間』(かつての表記は『恐怖のハエ人間』)という続編がある。
その『恐怖の蝿人間』と本作品は、主人公が復讐を果たして人間に戻るという部分は共通しているが、内容は大幅に異なっている。
そもそも『ザ・フライ』が『蝿男の恐怖』と違う内容になっているわけだから、それに合わせて続編の内容も違って来るのは当然のことだろう。前作は悲恋の物語を中軸に据えたストーリーとデヴィッド・クローネンバーグのグロテスク趣味が融合し、評価の高い作品に仕上がっていた(私の個人的な評価はひとまず置いておくとして)。
今回は、前作と同じようなアプローチではダメだということなのか、とても分かりやすいモンスター・ホラー映画に仕上がっている。
前作と同様、主人公とヒロインの恋愛劇は用意されているが、そこに重点を置いているようには思えない。
置いているとしても、ベスに苦悩や葛藤が乏しい分、その印象は薄くなっている。前作と同じような男女の恋愛劇を使わなくても、マーティンとバートックの疑似親子関係を使い、そこで深みのある人間ドラマを構築するというやり方は可能だ。
前半はバートックを「マーティンを息子のように可愛がる温厚で優しい男」として描いており、だからマーティンも彼を信頼し、懐いているわけで。
その気持ちを裏切られたことで芽生える怒りと悲しみ、というところへ繋げて行けば、厚みのある愛憎のドラマとして、かなり魅力的な内容に仕上がった可能性もある。しかし、そういう「親子の愛憎劇」としてのアプローチも、まるで盛り込まれていないわけではないが、やはり恋愛劇と同様、そこに重点を置いた作りではない。
いずれも、何となく中途半端な扱いに留まっているという印象だ。
そういうドラマ的な要素を膨らませるよりも、前作から3倍に増えた製作費を使い、視覚効果の部分でアピールしようという考えだったんだろう。
まあ特殊メイキャップ・アーティストのクリス・ウェイラスを監督に据えているんだから、製作サイドもそういう方向性で企画を進めていたんだろう。登場人物の動かし方に関しても、納得しかねる部分がある。
2時間も睡眠を取ったマーティンが「普通の人間に戻りつつあるってことだ」と喜んだ時、なぜジェインウェイとシェパードは「仕事で疲れたから眠くなっただけだ」「肉体が変化しているなら、血液検査の結果に出ているはずよ」と冷淡に対応するのか。
血液を採取しようとしたジェインウェイが注射器の針を折ってしまい、「動くからよ」とマーティンに冷たく言うのは、なぜなのか。
それ以前から2人を徹底して「冷淡な連中」として描いているなら、それでもいいんだよ。だけど、確かにマーティンの少年時代の血液採取シーンでもジェインウェイは冷たかったけど、誕生パーティーの時なんかは、マーティンを笑顔で祝福している。
それがあるから、急に冷淡になっているように感じるのだ。っていうか、むしろ睡眠時間が増えて喜んでいるんだから、「良かった、人間に戻りつつあるのかも」と一緒になって喜んであげればいいじゃないか。
ジェインウェイやシェパードを冷淡なキャラクターにしておいて、「そんな中でバートックだけは優しく接してくれるから、ますますマーティンが彼を本物の父親のように慕う」という風に、疑似親子関係を見せるために活用しているのなら、それは理解できるんだよ。
だけど、そういう形で使っているわけでもないんだよね。
そいつらの、特にジェインウェイの冷淡なキャラクター設定というのが、無意味なものになっている。むしろマーティンの研究主任という立場なら、温厚なキャラにしておいてもいいんじゃないかと思う。
だって、普段はバートックなんて施設に来ないんだから、言ってみりゃマーティンの親代わりは彼女ってことになるんだし。
そう考えると、むしろマーティンとバートックの疑似親子関係より、そこの絆をメインに据えた方が良かったかも。疑似母子じゃなくて、マーティンが成長してからは恋愛関係ってことにしてもいいけど。
まあ終盤に残忍な復讐劇が待っているから、そこから逆算すれば、バートック産業の連中を冷徹なキャラにしておくってのは間違いじゃないんだけどさ。あと、「ジェインウェイたちが冷淡に接する中で、マーティンが優しいバートックをますます慕うようになる」ってのは、この脚本だと使えないんだよな。
と言うのも、前半の内にマーティンはベスと出会い、彼女と一緒にいることが心の安らぎになるからだ。
ベスが登場することによって、バートックとの疑似親子関係は二の次になってしまう。
少なくとも、マーティンとバートックの関係よりは、ベスとの恋愛関係を大きく扱いたかったようだ。キャラの動かし方という意味では、マーティンの行動にも解せない箇所がある。
彼は怪物化した犬が飼育されているのを知って、涙を流しながら薬で安楽死させてやったのに、その後、猫を使って転送実験を行うんだよね。
それって、どういう神経なんだろうか。「あんな可哀想な動物を二度と生み出したくない」ということで、もう動物実験をやりたくないと思う方が自然に思えるんだけど。
「あの犬のような悲劇を繰り返すかもしれない」という恐れや苦悩を全て断ち切って前へ進むことにした、という決意が描かれているわけでもなく、何の迷いも見せずに自信満々で実験してるんだよな。 その態度や行動は、ちょっと理解に苦しむ。怪物化した犬が安楽死させられておらず、標本として飼育されたことをマーティンが知った時点で、バートックへの信頼は消えてしまう。
それによって「バートックは自分を標本として育てていただけだった」とマーティンが知った時の衝撃ってのが弱まるはずだ。
その前に犬のことでバートックの嘘を知ったわけだから、普通の人間より遥かに知能の高いマーティンなら、自分も標本として扱われていることぐらい簡単に悟ることが出来るはずだからね。
そうなると、その時点でバートックへの復讐心が沸かなきゃ、流れとしてはおかしいんじゃないかと感じるんだよな。だけど実際には、犬が標本にされていることを知った後でも、まだマーティンはバートックを信じているんだよな。それは不可解だわ。
「アンタを許さない」と言っておきながら逃げ出すという展開も、どうかと思うし。モルモット扱いされていたことを知って激昂したのであれば、そこからは復讐劇に突入した方がいいんじゃないかと。
そう考えると、自分がバートックの標本だったとマーティンが知る時点では、もう治療法が無いことも分かっていた方が都合がいい。そうすれば、真実を知って激昂した後、「逃げ出して治療法を見つけようとする」という手順を経てから復讐劇に移る必要も無くなる。
それを考えると、マーティンが施設から逃げ出す時点では、まだバートックが自分をモルモット扱いしていること知らない状態にしておけば、全て上手く運ぶんじゃないか。
つまり、「自分がハエ人間の息子だと知ってショックを受けたマーティンが施設から逃亡する」→「ステイシスと会い、セスも治療法を見つけられなかったことを知る」→「変身が進行して施設に戻ったマーティンはバートックが自分を標本扱いしていることを知り、激昂して暴れ出す」という流れにでもすれば良かったんじゃないかとあと、そもそもバートックが何の目的でマーティンを育てているのか、それが良く分からないんだよね。
もちろん今までにない生命体だから、実験に使いたくなるのは分かるのよ。
ただ、バートックは「君とテレポッドがあれば、バートック産業は地上のあらゆる生命体をコントロールできる」と語っているんだけど、それがどういうことなのかサッパリ分からないのよ。
ハエ人間の研究とテレポッドの研究って、まるで別の分野だと思うんだけど、それを同じ企業が同一の研究としてやっているのは、ちょっと変じゃないかと。終盤、完全に恐怖のハエ男と化したマーティンは、バートック産業の連中を次々に惨殺していく。
その行動は容赦が無くて、自分に冷淡だったジェインウェイやシェパードだけでなく、命令を受けて捕獲に赴いた警備員も惨殺する。そして最後はバートックをテレポッドへ連れ込み、ベスにボタンを押してもらい、人間に戻る。
だけど、ラストシーン、怪物に変身してしまったバートックが標本として飼育されている姿が写るので、「マーティンは人間になることが出来て良かったね」という気持ちにはなれない。
「復讐の虚しさ」というモノとは違った意味で、微妙に後味の悪さが残る結末である。(観賞日:2013年9月18日)