『THE CROW/ザ・クロウ』:1996、アメリカ

ロサンゼルス。タトゥー・ショップに勤務するサラは最近、奇妙な夢を見て良く眠れない日々が続いている。その夢は、男性が息子を ストリート・ギャングに射殺され、海に落とされて死ぬという内容だ。街はジュダー率いるストリート・ギャングに支配されている。 ジュダーはアジトのビルに篭り、手下にドラッグを売り捌くよう指示を出している。
サラの部屋に、一匹のカラスが飛来した。サラはカラスを車で追い、桟橋に辿り着いた。すると海中から、夢で見た男が飛び出した。その 男アッシュは、サラから「あなたは死んでいる」と告げられると、「ウソだ」と叫んで街へと足を向ける。一方、ジュダーは手下の預言者 シビルから、「殺した相手の顔をした者が、命を奪いに来る」と告げられる。
アッシュは自分のガレージに辿り着き、そこで起きた出来事を思い起こす。息子のダニーは銃声を耳にして、好奇心から路上へ飛び出した。 慌ててアッシュは後を追った。そこではジュダーの手下たちが男を殺害しており、目撃したアッシュとダニーも殺されたのだ。アッシュは 追ってきたサラによってダニーの絵の具で顔にペイントを施され、不死身の復讐者“ザ・クロウ”になった。
アッシュはストリート・ギャングの1人モンキーをドラッグ工場で見つけ出し、仲間のニモ、カリー、カーヴの名前を聞き出した。さらに アッシュはニモがディーコン通りの覗き部屋にいることを聞き出し、工場を爆破してモンキーを殺害する。アッシュが去った後、工場に やって来たカーヴは、大きなカラスの印が地面に残されているのを発見する。
アッシュは覗き部屋へ行き、ニモを射殺した。アッシュが蘇ったことを知ったジュダーは、シビルから対処法を聞く。シビルは、カラスが アッシュのパワー源であり、その輪を断ち切れば無力になることをジュダーに教えた。ジュダーは、カーヴの胸にカラスの刺青を彫った サラがアッシュの居場所を知っていると確信し、探し出すよう指示した。
カリーとカーヴはタトゥー・ショップの店主ノアを脅し、サラの居場所を聞き出した。アッシュが部屋を訪れた時、既にサラは拉致された 後だった。アッシュは部屋に残っていたカリーと戦い、窓から外に放り投げて殺害する。アッシュはクラブへ行き、カーヴを見つける。 アッシュはバイクで逃げるカーヴを追跡して殺害し、サラが拘束されているジュダーのアジトへ向かう…。

監督はティム・ポープ、原作はジェームズ・オバー、脚本はデヴィッド・S・ゴイヤー、 製作はエドワード・R・プレスマン&ジェフ・モスト、共同製作はマイケル・フリン、製作協力はグレゴリー・G・ウォーツ&ジェフ・ コナー、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&アレッサンドロ・ケイモン、撮影はジャン・イヴ・ エスコフィエ、編集はマイケル・N・ニュー&アンソニー・レッドマン、美術はアレックス・マクダウェル、衣装はカーテスン・ エヴァーバーグ、視覚効果監修はロジャー・ドーニー、音楽はグレーム・レヴェル。
主演はヴァンサン・ペレーズ、共演はミア・カーシュナー、リチャード・ブルックス、ヴィンセント・カステラノス、イアン・ドゥリー、 トレイシー・エリス、トーマス・ジェーン、イギー・ポップ、チューイ・トラング、 エリック・アコスタ、ビヴァリー・ミッチェル、アーロン・セル・スミス、アラン・ゲルファント、シェリー・デサイー、ホリー・ チャント、ケリー・ロサル、レイナルド・デュラン他。


ジェームズ・オバーのコミック・ブックを基にした1994年の映画『クロウ 飛翔伝説』の続編。
『クロウ2』という別タイトルもある。
アッシュをヴァンサン・ペレーズ、サラをミア・カーシュナー、ジュダー(ユダ)をリチャード・ブルックス、モンキーをヴィンセント・ カステラノス、ノアをイアン・ドゥリー、シビルをトレイシー・エリス、ニモをトーマス・ジェーン、カーヴをイギー・ポップ、カリーを チューイ・トラングが演じている。

前作の撮影途中で主演のブランドン・リーが亡くなったため、当然のことながら彼の続投は不可能となった。
そこで製作サイドは、新たな俳優に同じ役を演じさせるのではなく、別のキャラクターによる続編を作った。
一応、前作のヒロインが面倒を見ていた少女サラが「成長した」という形で登場しているが(演者は違う)、話としての直接的な繋がりは無い。
「カラスのパワーで蘇った男が悪党に復讐する」という設定だけを踏襲しており、ある意味ではリメイクと言ってもいいような内容となっている。

冒頭でサラは路上の孤独な少女グレイスに声を掛けるが、そこからグレイスが話に関わってくることは無い。その場限りのキャラだ。
たぶん、そこは前作で幼かった自分がヒロインの世話になったという設定を意識してのシーンなんだろうけど、話の繋がりを持たせて いないのなら、「前作を見ていなくても分かるように」という意識で作るべきじゃないのか。
アッシュとダニーが無残に殺されるシーンは、回想という形で、ボンヤリした映像として断片的に提示される。
アッシュの復讐劇に観客を感情移入させるためには、そこはもっとハッキリクッキリと描写しておくべきじゃないのか。

あと、そこでダニーが銃声を聞いて嬉しそうに飛び出していくのがアホに見える。そりゃあ幼いから無知だったということなんだろう けどさ、自分から率先して危険に首を突っ込んでいるんだよな。
そこは「たまたま通り掛かったら殺人劇に遭遇した」ということでいいだろうに。
その殺人劇の描き方が、別の部分でもマイナスに作用する。
アッシュは、自分とダニーがやられたような方法、言われたセリフをジュダーの一味に対してやり返すのだが、そもそも一味がアッシュと ダニーを殺すシーンが回想の中で断片的にしか示されていないので、その効果が薄くなっているのだ。
アッシュとダニーの殺人は、最初にハッキリと見せるべきだった。

サラに「なぜ戻ったか分かる」と尋ねられたアッシュが、泣き疲れてヘロヘロの状態で「こんな目に遭わせた奴らに復讐するため」と 答えるのは、違和感を覚える。様子とセリフが合っていないのよ。
そういうセリフを吐くのなら、強い意思が込められている、怒りに燃えているという態度にしておいた方がいいんじゃないの。
その時のアッシュの様子からすると、サラの「なぜ戻ったか分かる」という質問に対して出てくる答えは「さあ、分からない」が適切だと思うぞ。
いきなりサラがダニーの絵の具でペイントを施して、アッシュがされるがままになっているのも、ワケが分からない。
アッシュが「何が何やらワケが分からない」という状態で蘇ってから、「俺は復讐者ザ・クロウになったのだ」と自覚するまでの変化が、 わずかな時間で完了しちゃっうのよね。
劇中では勝手に納得しちゃってるけど、観客は置いてけぼりだよ。

そもそもサラがどういう人物で、なぜアッシュに自覚を持たせることが出来るのかも説明不足になっている。
そこも冒頭のグレイスの場面と同じで、前作を見ていなければ分からないという状態だ。
なぜ完全に独立した別の作品として成立するように作らないかねえ。
中途半端に前作を引きずるぐらいなら、完全に話もキャラも前作を受け継いで作った方がいいんじゃないの。

アッシュが工場に現われた時のモンキーのリアクションはビビりすぎ。
そりゃあ殺したはずの奴が生きているということでビビるという部分はあるだろうけど、それにしても過剰。
ジュダーが「サラはカーヴにカラスの刺青を彫った。カラスはザ・クロウの印だ。だからサラはザ・クロウの居場所を知っている」と 考えるのは、結果的には正解だけど、思考回路にムチャがありすぎ。

サラの存在意義が、実はそれほど感じられない。
一応はアッシュを導くという役割が与えられているんだが、復活してすぐにアッシュがザ・クロウとして自覚すると、もうサラの役目は 終わってしまう。
それでも意味を持たせるためにアッシュとの間にロマンスっぽいモノを作ろうとしている意識は伺えるが、サガミオリジナルのコンドーム並に薄い。
薄いと言えば、話そのものも相当に薄い。
監督がアレックス・プロヤスからティム・ポープに代わっても前作のMTVチックな演出は受け継がれているが(どちらの監督もミュージック・フィルムのディレクター出身)、「MTVっぽい」という印象よりも「中身が 薄っぺらい」という印象の方が遥かに強い。
中身の薄さを誤魔化すためにMTVチックにしているのかと思ったら、そこまでの装飾は施していない。

話の薄さを補うためにはアクション・シーンを充実させるという策があるが、それも出来ていない。
ただし、アクション・シーンに魅力が無いのは前作と同じだが、その意味合いは全く違っている。
前作の場合、主演は格闘の出来る俳優だったのに、監督のアクション・シーン演出センスが無かったためにアクション・シーンがダメに なっていた。それに対して、今回は主演がアクション俳優ではないという部分に大きな問題がある。
監督もヴァンサン・ペレーズがアクション俳優でないことを充分に理解していたようで、格闘に限らず、あまりアクションをさせていない。
モンキーとニモの殺害シーンは、ほとんど動かずに終わらせている。カーヴとのシーンではバイクで追跡するが、バイク・アクションと いうほどのモノは無い。カリーとのシーンでは唯一の格闘シーンが少しだけあるが、カットを細かく割ってもヴァンサン・ペレーズの動き がモタモタしているのが分かる。

最後に待ち受けているジュダーとの対決シーンでさえ、ロープで首吊り状態にされ、助けに来たサラを殺され、いよいよ怒り爆発かと 思いきや、アクションとしては相手を突き飛ばして串刺しにするだけで終わり。
後は大量のカラスが勝手にジュダーをやっつけてくれる。
全く盛り上がらない。
スタント・ダブルを多用してアクション・シーンを派手に飾る意識もゼロ(でもスタント・ダブルは使っている)。
美術セット・映像美という部分を重視したのかもしれないが、特に目を奪われるようなモノは無かった。


第19回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【誰も要求していなかった続編】部門

ノミネート:【最悪の続編】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会