『ザ・コントラクター』:2022、アメリカ
特殊部隊の一等軍曹であるジェームス・ハーパーは、フォーブラック陸軍基地で訓練を続けていた。休日に帰宅した彼は、妻のブリアンと息子のジャックに会った。多額の借金を抱えるジェームスは、返済期限が過ぎていることを知らせるスマホのボイス・メッセージを消去した。彼は指揮官による審査があるという連絡を受け、基地に戻った。新しい指揮官のロバーツ中佐は、血液検査で禁止薬物のステロイドと筋肉増強剤が検出されたことをジェームスに伝えた。彼は名誉除隊を通告し、退職金と恩給は支給しないと述べた。
帰宅したジェームスは、「膝の治療で使った薬が原因だ。新しい指揮官は組織を刷新すると言ってた」と話す。家には借金の督促状が来ており、ジェームスは今まで嫌がっていた民間軍事会社で働くことを決意した。ブリアンは危険だと感じて反対するが、ジェームスの意志は変わらなかった。戦友であるメイソンの死を知ったジェームスは、墓地へ赴いた。戦友のマイクと再会した彼は家に招かれ、家族と会った。幼い息子は車椅子を使っており、マイクはジェームスに「治療法は無い。死ぬまで医療的ケアが必要だ」と語った。
ジェームスは2ヶ月も連絡を絶った理由を問われても返答せず、「人生を立て直したい」と口にした。「セラピーは?」とマイクが訊くと、彼は「二度と軍事任務に就けなくなる」と告げる。ジェームスが今の仕事を尋ねると、マイクは「国の安全を守る仕事だ。雇い主は信用できる男で、日給は350ドル」と話す。ジェームスが「紹介してくれ」と頼むと、マイクはラスティーが営むコーヒー焙煎所へ案内した。ラスティーはジェームスだけでなく、父親のキャリアも事前に調べていた。「父親は関係ない」とジェームスが言うと、彼は「それが関係あるんだ」と返した。
ラスティーはジェームスに、「俺たちは軍隊に魂を捧げた。それなのに使い捨てにされた。君の気持ちは良く分かる。俺も同じだった。だから仲間を集めた」と話す。ジェームスが仕事の内容を尋ねると、彼は「警備や要人警護はさせない。我々は大統領の命令下で活動し、国の安全に関わる極秘任務を請け負ってる」と答える。ラスティーは「ベルリンに安全保障上の脅威がある。マイクのチームが極秘任務に当たる。期間は長くても3週間」と説明し、ジェームスは彼の下で働くことに決めた。ラスティーは「とりあえず5万ドルほ渡す。生活に困らずに済む」と話し、ジェームスは帰宅して妻に仕事が決まったことを伝えた。
ジェームスはドイツに飛んでホテルに宿泊し、カティアという女が来て情報を説明する。相手はサリム・モーシンというフンボルト大学の名誉教授で、専門はウイルス学。講義は月に数回で、主に研究を行っている。研究所は町から東に40キロの場所にある。驚異のレベルをジェームスが訊くと、カティアは「生物兵器だから最高度よ」と答えた。ジェームスはサリムの自宅と研究所を張り込み、彼を観察した。メールで指令が届いたため、彼はホテルを引き払ってマイクのチームと合流した。
マイクはジェームスたちに、サリムのことを詳しく説明した。サリムは政府から助成金を受け、変異型インフルエンザウイルスを研究していた。しかし助成金が打ち切られ、研究を続けるために家族でベルリンに移住していた。出資者はアル・タワーの設立者であるファルーク・オジェ。アル・タワーはアルカイダと繋がりががある慈善団体だ。チームは研究所を襲撃してサリムを捕まえ、尋問して「家族の命が惜しければ協力しろ」と脅した。
データを発見したチームは、上からの指示でサリムを事故に見せ掛けて殺害することになった。マイクはパソコンを回収し、ジェームスにサリムの殺害を指示した。サリムは「何か誤解している。この研究で大勢の命が救える」「データのコピーが貸金庫に入っている。必要になる日が来るから取り出してくれ」などと頼むが、ジェームスは薬を注射して殺害した。チームは研究所に火を放って逃亡するが、森で警官隊と交戦になった。ジェームスは左足を撃たれながらも警官を射殺し、重傷を負ったマイクを連れて森から脱出した。
ジェームスは下水トンネルにマイクを運び、輸血して命を救った。彼は足の怪我で動けなくなり、マイクに「バッグの中身を届けろ。一日休んで、後から行く」と告げる。マイクは「48時間後ホテル・サルヴィナで会おう。全て手配する」と言い、トンネルを去る。ジェームスは動けるようになってからトンネルを脱出し、ホテルへ赴いた。部屋には「引き渡しは完了。10時に戻る」というメモが残されていたが、マイクは戻らず連絡も取れなかった。
ジェームスはホテルを出ると、プリペイド携帯を買ってラスティーに連絡する。マイクからの連絡について彼が尋ねると、ラスティーは「奴は来なかった」と告げる。ラスティーから現在地を教えるよう言われたジェームスは、少し迷いながらも答えた。するとラスティーは、エルセン橋へ向かうよう指示する。ジェームスが橋に着くと、彼は茶色のBMWに乗るよう命じた。マイクが脱出方法を手配した方法をジェームスが訊くと、ラスティーは「納得できないだろうが、俺を信用しろ」と口にした。ジェームスが「マイクを殺したのか。黒幕は誰なんだ」と詰問すると、ラスティーは早く車に乗れ。裏切ったら許さない」と声を荒らげた。
ジェームスが電話を切ると、男たちが発砲した。ジェームスは地下トンネルへ逃げ込み、追い掛けて来たエリックとカウフマンを倒した。瀕死のエリックが海兵隊員と知ったジェームスは、任務の内容を尋ねた。「救出だが、指示に変更があって始末しろと」とエリックは返答し、「変更はいつだ?」という質問に「橋で姿を確認してからだ」と言う。ジェームスが「俺の仲間は?」と訊くと、彼は「無事だと聞いている」と語る。彼は「隠れ家がある。この暗号で迎えを呼べ」と話し、メモと自分の携帯を差し出した。エリックは「ラスティーに騙された」と言い残し、息を引き取った…。監督はタリク・サレー、脚本はJ・P・デイヴィス、製作はベイジル・イヴァニク&エリカ・リー、製作総指揮はマイカ・グリーン&ダニエル・スタインマン&ダン・フリードキン&ジョナサン・ファーマン&エスター・ホーンスタイン&エリック・ウォーレン・シンガー&トム・ラサリー&ジョシュ・ブラットマン&ピーター・トゥーシェ&サマンサ・オールウィントン&クリス・パイン&マイケル・フリン&ロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン&ジョン・フリードバーグ&サミュエル・J・ブラウン、共同製作はデヴィッド・ミンコウスキー&カーメン・ペペレア&ジェイク・カーター&ケイティー・アンダーソン、製作協力はエリン・フェイヒー、撮影はピエール・エイム、美術はロジャー・ローゼンバーグ、編集はタイス・シュミット、衣装はルイーズ・ニッセン、音楽はアレックス・ベルチャー、音楽監修はケヴィン・エデルマン。
主演はクリス・パイン、共演はベン・フォスター、キーファー・サザーランド、ギリアン・ジェイコブス、エディー・マーサン、JD・パルド、フロリアン・ムンテアヌ、ニーナ・ホス、アミラ・カサール、ファレス・ファレス、コリー・スコット・アレン、タイナー・ラッシング、サンダー・トーマス、ニコ・ウーランド、タイト・フレッチャー、マロジー・レナード、ブレンドン・メレンディー、ブライアン・ラフォンテイン、エヴァ・ウルセスク、ニコラス・ノブリット、アリストウ・ミーハン、トゥドール・ヴェリオ、クリスチャン・トマ、ジョージ・ピステレーヌ、セルゲイ・ドミトリエフ、アレクサンドラ・マラルス、アンドラーダ・コーラット、レジーナ・ティン・チェン他。
リブート版『スター・トレック』シリーズや『ワンダーウーマン』シリーズのクリス・パインが、主演と製作を兼任した作品。
監督はスウェーデン出身のタリク・サレ。2009年の『Metropia』や2017年の『The Nile Hilton Incident』が高い評価を受け、2018年にはアメリカでTVドラマ『ウエストワールド』や『レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー』の演出に参加していたが、英語の映画を担当するのは初めて。
ジェームスをクリス・パイン、マイクをベン・フォスター、ラスティーをキーファー・サザーランド、ブリアンをギリアン・ジェイコブス、エリックをJD・パルド、カウフマンをフロリアン・ムンテアヌ、カティアをニーナ・ホス、サリムの妻のシルヴィアをアミラ・カサール、サリムをファレス・ファレスが演じている。ジェームスがマイクと再会するまでの内容は、そこまで丁寧に描く必要があったのかと感じてしまう。
「米軍が功労者を無慈悲&理不尽に切り捨てる」ってのを示しておく狙いがあったんだろうと思うし、その効果が全く無いとは言わない。しかし見終わってから振り返った時に、「要らない情報が多いな」と感じるのだ。
粗筋では触れていないが、冒頭では教会で神父が出征する兵士たちを紹介し、ジェームスが他の参列者と共に拍手を送るシーンもある。
でも、これも全く要らない描写になっている。ジェームスはマイクの仕事を紹介してほしいと頼む時、「金のために、やるしかないんだ」と強い口調で告げる。
だけど、その前にマイクが「民間軍事会社なら日給は500ドルから600ドルだ」と説明し、そこで稼ぐよう勧めているんだよね。
それなのに、なぜ民間軍事会社の仕事を選ばず、マイクと同じ場所で働くことを希望するのか。
それは「借金を返すために、望まない仕事でも受けるしかない」という覚悟と整合性が取れていないんじゃないかと。ラスティーは仕事の内容について、「大統領の命令下で活動し、国の安全に関わる極秘任務を請け負ってる」「仕事には綿密さが必要で、効率重視で武力は最終手段だ」と説明する。
それって、ほぼCIAの仕事だよね。
それを元軍人が作った会社が請け負い、大統領の命令下で任務に当たるってのは、どういうことなのか。
ジェームスは「軍隊に捨てられて、そんな仲間を集めた」と説明しているが、そんな集団が大統領の指揮下で動いているという説明の段階で、なぜジェームスは微塵も「なんか怪しい」と思わないのか。まさかとは思うが、ジェームスは「親友であるマイクの紹介だから」ってことで全面的に信用している設定なのか。
彼のマイクに対する思いは確かに強いんだけど、それだけを理由にするのは厳しすぎるよ。
どういう理由であれ、とんでもなく甘い奴だなと感じるしね。特殊部隊出身ではあるが、脳味噌が全て筋肉で出来ているのかと言いたくなるぐらい頭が悪すぎる判断だと言わざるを得ない。
ラスティーやマイクがCIAだと思い込んでいるならともかく、そうじゃないんだし。ジェームスがドイツのホテルに泊まるとカティアが現れ、サリムについて説明する。ジェームスはサリムを張り込み、メールでマイクたちと合流する。マイクはジェームスたちに、サリムについて詳しく説明する。年齢と出身地、身長と体重、身体的特徴や出身大学を教える。
そして粗筋でも書いたように、「政府から助成金を受けていたが云々」ってことも語る。
そこでマイクが詳しく説明するなら、カティアがジェームスに説明する手順は無くて良かったよね。
さらに言うと、彼がサリムを張り込む時間も無意味だよね。そこで家族との様子を見たジェームスがサリム殺害を躊躇するとか、仕事に違和感を覚えるとか、そんなことも無いんだから。
そこを丸ごとカットして何か支障が出るかというと、何も思い浮かばないぞ。マイクはジェームスに運ばれて地下トンネルに避難すると、もう助からないと感じて家族に会うよう頼む。しかしジェームスは諦めず、彼に輸血する。そこからシーンが切り替わると、マイクは元気一杯に回復している。
そんなに簡単に回復する程度の怪我なら、死を覚悟した言葉は何だったのかと。
一方、トンネルまではマイクを担ぎ込めるぐらい動けていたジェームスだが、輸血した後は全く歩けなくなる。なんちゅう雑な御都合主義なのかと。
しかも、そこまで無理を通す必要なんか無いだろ。「マイクがジェームスに救われて恩義を感じて、ジェームスが動けなくなってマイクを先に行かせる」という目的さえ果たせばいいわけで。
例えば、「警官隊との銃撃戦で、ジェームスがマイクを守って怪我を負う」ってことでも、余裕で成立するんじゃないのか。歩けるようになってトンネルを出たジェームスは警戒しながら密林を歩く際、幼少期を思い出す。父親と一緒に森にいて、「早く来い」と言われた出来事を思い出している。
でも、その回想に何の意味があるのかサッパリ分からない。
もっと言っちゃうと、サリムを殺してからホテルに着くまでの内容って、その大半が要らなくないか。
森での銃撃戦も、ジェームスがマイクを輸血で助けるのも、怪我で休むのも、後の展開に全く関与していないんだから。ホテルに戻った後、ジェームスはラスティーに反旗を翻して命を狙われる羽目になる。
ここで最初に疑問を覚えるのが、なぜマイクが部屋に戻らなかったのかってことだ。
彼はラスティーと結託して、最初からジェームスを始末するつもりだったわけではない。だったら、部屋に戻らず帰国する意味がサッパリ分からない。
彼が部屋に戻っていれば、ジェームスがラスティーを怪しむことも無かったわけで。こいつの不可解な行動が、何もかもを狂わせる羽目になっているのよ。あと、エリックの発言から推測する限り、ラスティーも最初はジェームスを本当に救出するつもりで動いているんだよね。でもジェームスが「マイクが殺された」と誤解して反旗を翻したから、部下への指令が殺害に変更されているんだよね。
ようするに、ジェームスが余計な真似をしなければ、命を狙われることも無かったはずで。
しかも「サリムは善人だったのに偽情報で殺害させられた」とか、「ラスティーがウイルスで儲けるためにサリムを始末させた」と知ってジェームスが怒りの反旗を翻したなら、それで命で狙われる羽目になっても納得できるよ。
だけど見当違いの疑惑で反発しているので、阿呆にしか思えないのだ。その後、ジェームスはサリムがインフルエンザウイルスで多くの人々を救おうとしていたことを知る。でも、そこから彼が罪悪感や使命感の意味で、ラスティーたちを倒しに行くわけではないんだよね。彼は自分が命を狙われているから、「相手を全滅させるしか無い」ってことで行動するのだ。
そのため、サリムの妻子との会話シーンも、ドラマとしての力を完全に失っている。
あと、ジェームスがマイクに「父は自分と同じように俺を兵士として育てた。除隊しても二度と帰らず、遺体も遺書も見つからなかった。
俺は絶対に家族を捨てないと誓った」と涙で熱弁するシーンがあるが、どういう狙いがあるのかサッパリだし、もちろん心に刺さることなど皆無だ。
彼と父や家族との関係なんて、ほとんど描写されていないからね。(観賞日:2024年7月19日)