『ザ・セル』:2000、アメリカ&ドイツ

心理学者キャサリン・ディーンは、シカゴ郊外のキャンベル研究所でミリアム・ケント博士のプロジェクトに参加し、バリー・クーパーマン博士らと共に最先端の実験を行っている。それは、向精神剤を注射したキャサリンが患者であるエドワード・ベインズ少年の潜在意識に入り込み、昏睡状態にある彼の治療に役立てようという実験だ。
巷では、若い女性を狙った連続殺人事件が発生していた。FBI捜査官のピーター・ノヴァックは、ジュリアという女性が誘拐されたという連絡を受けた。ピーターは、カール・スターガーという男が犯人だと確信した。スターガーの自宅にあったビデオには、若い女性がガラス張りのセルに閉じ込められ、水中で溺れ死ぬ様子が映っていたのである。
セルは、40時間で水が一杯になる仕組みになっていた。セルがある場所を知っているのは、スターガーだけだ。しかし、スターガーは分裂症発作を起こし、昏睡状態に陥っていた。ピーター達はキャンベル研究所に行き、スターガーの精神世界に入って、ジュリアが監禁されている場所を探ってほしいとキャサリンに依頼した。
キャサリンは、スターガーの精神世界へと入り込んだ。そこで彼女は、子供の頃のスターガーと出会う。恐ろしい悪夢に襲われて一度は脱出したキャサリンだが、再び精神世界へと入る。そして今度はピーターも、スターガーの潜在意識に入り込む…。

監督はターセム・シン、脚本はマーク・プロトセヴィッチ、製作はフリオ・カロ&エリック・マクラウド、共同製作はマーク・プロトセヴィッチ&スティーヴン・J・ロス、製作協力はニコ・ソウルタナキス、製作総指揮はドナ・ラングレー&キャロリン・マネッティー、撮影はポール・ローファー、編集はポール・ルベル&ロバート・ダフィー、美術はトム・フォーデン、衣装は石岡瑛子&エイプリル・ネイピア、視覚効果監修はケヴィン・トッド・ホー、特殊効果監修はクレイ・ピネイ、特殊メイクアップ・デザインはミシェル・バーク、音楽はハワード・ショア。
主演はジェニファー・ロペス、共演はヴィンス・ヴォーン、ヴィンセント・ドノフリオ、マリアンヌ・ジャン=バプティスト、ジェイク・ウェバー、ディラン・ベイカー、ジェームズ・ギャモン、タラ・サブコフ、ジェリー・ベッカー、ディーン・ノリス、ムゼッタ・ヴァンダー、パトリック・ボーショー、コルトン・ジェームズ、ジェイク・トーマス、プルート・テイラー・ヴィンス、ガレス・ウィリアムズ、ローリー・ジョンソン他。


多くのミュージック・ビデオやTVコマーシャルを演出してきたインド出身のターセム・シンが、初めて映画監督を務めた作品。精神世界の衣装デザインを石岡瑛子、現実世界の衣装デザインをエイプリル・ネイピアが担当している。キャサリンをジェニファー・ロペス、ピーターをヴィンス・ヴォーン、スターガーをヴィンセント・ドノフリオが演じている。

この映画のセールスポイントは、異常殺人者の脳内世界を映像化している点だ。馬の輪切りや裸の女性など、様々なイメージが出てくる。グロテスクであったり、シュールであったり、ショッキングであったりする映像が次々に現れ、強いインパクトを与える。
なるほど、映像は残酷でありながらも美しい。
しかし、「前衛的な映像を楽しむ」という映像アートとしては成立しているが、それが長く続くというだけに終始している。同じミュージシャンの曲を延々と流せば、長尺のミュージック・ビデオのようなモノになってしまう。

映像が美しいことは良く分かったが、それで話としては何がやりたかったのか、サッパリ見えてこない。せっかくシュールな映像がたっぷりと出てくるのだから、単なる観賞用として放っておかず、物語の展開に生かすべきだろう。まあ、シナリオを書いたのはターセム監督ではないので、彼に全ての責任を負わせるわけにはいかないのだが。
ストーリーは薄いし、キャラクターも薄い。エドワードは何か意味があるのかと思ったが、単なる話の導入のための道具だった。裏を返せば、ストーリーの薄さ、キャラクター造形の薄さを強く感じさせてしまう程度にしか、映像の魔力が働かなかったということだ。

この作品は、一応は「スターガーの潜在意識に入り込んで被害者の居場所を探し当てる」という謎解きがある。しかし、スターガーの潜在意識に登場するモチーフの1つ1つが何を意味しているのかということは、全く明らかにされない。
だから、その映像がヒントとなって、少しずつ答えに近付いていくという謎解きの面白さは全く無い。ピーターが会社のマークを見つけて、あっさりとジュリアの居場所を言い当てる。まんま、会社のマークを見つけるのだから、謎解きも何もあったものではない。
そして、そうであるならば、ピーターが会社のマークを見た後で、キャサリンがスターガーを自分の潜在意識に入り込ませる意味が無い。目的は被害者の居場所を探すことであり、それは既に達成されているのだ。
いったい何がしたいのかと。

 

*ポンコツ映画愛護協会