『地獄の変異』:2005、アメリカ&ドイツ

30年前のルーマニア。トレジャー・ハンターたちは地元の男に案内させて、カルパチア山脈へと足を踏み入れた。切り立った崖を登って先へ進むと、現在は使われていない古い教会があった。修道院に入って地下へ移動した一行は、その真下にある洞窟へ入るために扉を爆破した。しかし床に裂け目が入って崩れてしまい、一行は洞窟へ転落した。崖崩れで天井部分が塞がれた直後、彼らは奇妙な音を耳にした。音の発信源を確認するため、一行は懐中電灯を向けた。
現在。ニコライ博士と調査団は、壊れた教会跡の下にある地下洞窟を発見した。生物学者のキャスリン・ジェニングスがカメラマンを連れて来たが、長距離に渡って地下水脈が流れているため、ニコライは洞窟を調べるのにダイバーが必要だと考える。そこで彼はメキシコのユカタン沖で活動していたダイバーチームと通信し、協力を要請した。チームはジャックがリーダーで、トップ、ジャックの弟のタイラー、ブリッグス、ストロード、それに紅一点のチャーリーという6名で構成されている。
一行は教会跡に到着し、ニコライと挨拶を交わす。キャスリンを見つけたタイラーは、すぐに声を掛けた。キャスリンはカメラマンのアレックス・キムを彼に紹介した。キャスリンとアレックスは、洞窟の入り口で靴を発見していた。アレックスはタイラーに、「ここで死んだ人の靴だろう」と告げた。ニコライはジャックに、教会が建てられたのは洞窟を封印するのが目的だったと語る。土地に伝わる伝説によれば、中世のテンプル騎士団が翼の生えた悪魔と戦うために洞窟へ入ったが、敗れ去ったのだという。
ダイバーチームはニコライがタイタン・ホールと名付けた巨大洞穴に下り、偵察係に任命されたブリッグスが水中に潜った。自分が偵察係を務めたいと思っていたタイラーに、ジャックは「俺はブリッグスを信用してる」と告げた。しばらく受信できずに途絶えていた映像が復活すると、ブリッグスは「ここはベースキャンプ設営地だ」と元気そうに話す。ブリッグスが横切った小動物を捕獲すると、足に水かきのあるモグラのような形状をしていた。小動物はブリッグスに抵抗し、すぐに逃げ出した。
「何か必要な物はあるか?」と問われたブリッグスは、何かを発見したような表情を浮かべた。だが、ケーブルが切断されたため、映像が途絶えてしまった。ジャックはタイラーとストロードにケーブルの修理を指示し、トップを引き連れて偵察に赴く。するとブリッグスは「俺たちが最初じゃなかったみたいだぞ」と言い、放置されているブーツを見せた。チャーリー、キャスリン、ニコライ、アレックスも後から合流し、一行はキャンプを設置することにした。
タイラーはケーブルが噛み切られているのを発見し、別行動のストロードは不気味なモグラの死体を目にした。ストロードは何者かに襲撃されて水中に落下し、タイラーに助けを求める。ストロードは水中スクーターを使って逃げようとするが、敵に捕まった。スクーターは壁に激突し、爆発が起きた。タイラーは一行の元へ辿り着き、ストロードを助けに行こうとしたことを話す。ジャックとトップが調査に行くと、洞穴が崩壊して入り口は完全に塞がれていた。
ジャックは一行に、「捜索隊が出動するのは12日後であり、その頃には食料も尽きる。自力で出口を探そう」と告げる。ブリッグスは「ストロードに何があったか聞いてないぞ。奴は軍の特殊部隊にいた男だ。そんな奴がやられるなんて。ストロードを襲ったのは、ブーツを履いていた奴を襲ったのと同じ奴だ」と声を荒らげる。人を襲う獣の存在についてジャックから訊かれたニコライは、「分からない。この種の洞窟で最大の生物はモグラだ」と告げた。
ニコライは「ここはカルパチア山脈だ。出口を見つけるなんて無理だ。ここで捜索隊を待とう」と言うが、ジャックは「ここまで救出に来られる者がいるとすれば、それは我々だ」と自力での脱出を主張する。彼は「俺とトップが偵察に行く。他の者は今の内に休んでおいてくれ」と言い、トップを連れて出口を探しに行く。キャスリンはモグラとサンショウウオを調べ、体内に同じ寄生生物がいるのを見つけてニコライに教えた。
ジャックは通り抜けられそうな裂け目を見つけ、調べようとする。サソリの群れと遭遇したジャックは、後ろに付いているトップに下がるよう指示した。ジャックは照明筒を焚いた直後、何者かに襲われた。トップは背中に傷を負ったジャックを連れて、仲間の元へ戻った。彼が背中に刺さっていた大きな爪を抜き取ると、ジャックは「俺が切り落とした。動きが速すぎて正体は見てないが、巨大だった」と話す。トップは抗生物質を注射し、ジャックを手当てした。
キャスリンが爪を調べ、「体毛があるから両生類じゃない。でも捕食生物であることは確かよ」と言う。ニコライは一行に、「外界とは違う進化を遂げた原始生物を発見したのかもしれない」と話す。キャスリンとニコライは、例の寄生生物が爪の中にも生息いるのを発見した。ジャックは捜索隊を待つべきだというニコライの意見を一蹴し、一行に荷物をまとめさせて全員で出発した。しばらく進むとブーツの所有者らしき人骨が見つかるが、そこには歯型が付いていた。
トップが仲間の疲労を考えて休息を提案すると、ジャックは「水を見つけたんだ」と言う。トップには水の音など全く聞こえなかったが、ジャックは「匂いがする」と告げる。実際、すぐ近くには地底湖があった。アレックスが撮影しようとすると、ジャックは「今はやめろ」とカメラを叩き落とした。アレックスが「あのカメラの映像が資金源なんだぞ」と抗議すると、ジャックは「悪かった」と詫びた。
離れた場所で仲間たちが話している声が、ジャックの耳にはクリアに聞こえて来た。心配したタイラーが近付いて声を掛けると、ジャックは「ブリッグスが問題だ。信じてもらわないと、みんなを助けられない。お前の力を借りたい」と言う。ジャックが危険な滝を進むことを主張すると、キャスリンとニコライは反対する。しかしジャックは聞き入れず、「ここしかルートは無い」と告げる。一行は急流に入るが、ニコライが足を負傷した。
キャスリンは何かに足を掴まれるが、無事に脱出してタイラーと合流した。チャーリーが「水中に何かいる」と言うので、タイラーは潜水して調べる。すると鋭い牙をもつウナギに似た生物がいた。他の面々が合流する中、岩場に引っ掛かっていたニコライも滝から滑り落ちて来た。ニコライはみんなに呼び掛けるが、巨大生物に襲われた。助けに行こうとしたジャックの眼前で、彼は殺された。「貴方のせいよ」とキャスリンに非難されたジャックは、「終わったことだ。陸に上がろう」と告げた。
一行は岩棚を見つけ、キャスリンやアレックスはその向こうへ続いているを水流を辿れば出口があるのではないかと考える。しかしトップは、「今、水に入るのは反対だ」と意見を述べる。ジャックはタイラーに「この壁を登る。付いて来い」と指示、流れを辿るべきだと主張するブリッグスに「お前は何も分かっていない。口を出すな。これは罠だ」と冷たく告げる。チャーリーとトップは、ジャックに賛同した。チャーリーは「私が先に行くわ」と言うが、ジャックは「駄目だ」と却下した。
チャーリーはジャックの指示を無視し、勝手に壁面を登り始めた。慌ててトップたちが補助するが、チャーリーは岩棚に潜んでいた怪物に襲われて死亡した。それでも「全員で戦えば勝てる」と壁を登ることを主張するジャックの顔を見ていたキャスリンは、「やっと分かった。寄生生物よ。寄生した相手を変異させて、洞窟の環境に適応させるの。ジャックの傷口から体内に入って、神経に影響を与えてる」と語る。さらに彼女は、かつて洞窟に入った面々が変異し、怪物になったのだと述べた…。

監督はブルース・ハント、脚本はマイケル・スタインバーグ&ティーガン・ウェスト、製作はリチャード・ライト&マイケル・オホーヴェン&トム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ&アンドリュー・メイソン、共同製作はロバート・ベルナッチ&ジェームズ・マックエイド、製作総指揮はマルコ・メーリッツ&ニール・ブルーム&ジャド・マルキン、撮影はロス・エメリー、水中撮影はウェス・スカイルズ、編集はブライアン・バーダン、美術はピエール・ルイジ・バジル、衣装はウェンディー・パートリッジ、クリーチャー・デザイン&監修はパトリック・タトポロス、音楽はジョニー・クリメック&ラインホルト・ハイル。
出演はコール・ハウザー、パイパー・ペラーボ、レナ・ヘディー、モリス・チェスナット、エディー・シブリアン、リック・ラヴァネロ、マーセル・ユーレス、キーラン・ダーシー=スミス、ダニエル・デイ・キム、ヴラド・ ラデスク、サイモン・クンツ、デヴィッド・ケネディー、アリン・パンク、ゾルタン・バトク、ブライアン・スティール他。


『マトリックス』の第二班監督だったブルース・ハントが、初めて本編の監督を務めた作品。
ジャックを『ワイルド・スピードX2』『パパラッチ』のコール・ハウザー、チャーリーを『コヨーテ・アグリー』『12人のパパ』のパイパー・ペラーボ、キャスリンを『ジャングル・ブック』『ゴシップ』のレナ・ヘディーが演じている。
他に、トップをモリス・チェスナット、タイラーをエディー・シブリアン、ブリッグスをリック・ラヴァネロ、ニコライをマーセル・ユーレス、ストロードをキーラン・ダーシー=スミス、アレックスをダニエル・デイ・キムが演じている。

ダイバーチームの初登場は、メキシコのユカタン沖で潜っているという描写だ。
だけど、そのシーンの必要性は全く無い。チームの優秀さをアピールするならともかく、そういう印象は全く受けない。
また、そこでチームのキャラクター紹介をするのかと思ったら(教会跡へ来る前に初登場させるのなら、そういう作業を済ませるべきだろう)、そういうわけでもない。
だったら、ニコライが信頼できるダイバーを呼ぼうと考えて、シーンが切り替わったらチームが教会跡に到着する、という流れでいいでしょ。

ダイバーチームが教会跡に到着してから洞窟へ入るまでに少しだけ時間があるのだが、そこでもメンバーを紹介する手順は無い。
一応、トップ以外の面々の名前は一通りセリフで触れられるが、「ジャックがリーダー」「タイラーは弟」「チャーリーは女」「トップは黒人」といった程度の情報しか分からない状態だ。
洞窟の調査活動が始まってからキャラクターに厚みを持たせるための作業を実施するのかというと、それも乏しい。

「殺人鬼が次々に人を殺していく」というパターンのスプラッター映画では、「どうせ殺されるために出て来る連中だから」ということなのか、主人公と親しいグループの中身がペラペラになっているケースが大半だ。
これはスプラッター映画ではないが、「主人公の属するグループが怪物が襲われて次々に命を落としていく」というパターンは共通している。
だから、スプラッター映画のパターンに基づいて、キャラクターの中身にに厚みを持たせていないのかもしれない。

それが映画としてプラスに作用するかと問われたら、答えはノーだ。しかし、キャラの中身を厚くしたところで大した意味が無いってのも事実なんだよな、この映画。
ただし終盤まで生き残る面々に関しては、もうちょっと厚みを持たせておくべきだろう。
みんな総じて薄い連中にしておくことは、「誰が早く死んで、誰が終盤まで生き残るのか」ってのを分かりにくくする効果はあるかもしれない。
ただし、そういう効果を狙うにしても、全員を薄くするんじゃなくて、ホントは全員を厚くすべきだけどね。

っていうかね、そこら辺のスプラッター映画と比べれば、それなりにキャラの色付けをしておこうという意識は感じられるのよ。
例えば、タイラーがキャスリンに興味を抱くとか、タイラーがジャックから信頼されていないことに不満を抱くとか、ブリッグスがタイラーと険悪になったり勝手な行動を取ろうとしてトップに諌められたりするとか。
でも、そういうのをキッチリと使ってドラマを膨らまそうという意識が無いのだ。
だから結局のところは、何もしていない状態と大して変わらなくなってしまう。
むしろ「何かあるのかと思ったら、何も無いのかよ」というガッカリ感に繋がってしまう。

特に問題なのは、ジャックとタイラーの兄弟関係を全く活用していないってことだ。
タイラーは偵察係として指名されなかったことで兄に不満をこぼしていたのに、ジャックが感染してからは一途に心配したり、反発する他の面々に「兄貴を信じてくれ」と頼んだりしている。
そうなると、確執の兆しを前半で見せていた意味が全く無い。
じゃあ兄弟の絆を軸に据えて後半を展開させるのかというと、そこまで充実した描写があるわけでもない。
ジャックが変貌するんだから、人間ドラマを作りやすいのは最も近い存在であるタイラーとの関係だろうに、そこが薄いんだよな。

じゃあ他の人間ドラマがあるのかというと、それも無い。
「ジャックが変貌してヤバいことを言い出し、彼に賛同する者もいれば反対する者もいるが、ジャックが変だということでは一致している」という状況が出来ているのだが、それを使ってドラマを膨らませることは無い。
チャーリーが死んだ後、ジャックが寄生されていることが判明し、二手に分かれるだけ。
「意見が対立して二手に分かれる」ってのは、ジャックが寄生されていなくても作れる展開だしね。

あと、チャーリーって主要キャラクターのはずなのに、他の面々との関係性が「チームの一員」という以外に何も用意されていないのね。
で、何だか良く分からないが、急に張り切って、ジャックの指示を無視して岩棚を登り始める。
そこでの彼女の心境は、サッパリ分からん。なんで急に勝手な行動を取ったのか。
しかもジャックへの反乱じゃなくて、「ジャックに賛同した上で、彼の命令を無視して先に登る」という行動なんだよな。
ワケが分からん。もはや「この辺りで彼女を殺すための理不尽な行動」にしか思えん。

ジャックは何者かに襲われた後、以前とは違う奴に変貌する。トップが「感染しているかも」と分かりやすくネタを振ってくれるし、その後には水面を見つめたジャックに異変が起きていることを示す映像描写まで盛り込まれている。
だから、ジャックがウイルス的な物に感染して少しずつ変貌しつつあるってことはバレバレだ。
だけど、そんなに露骨にジャックの感染を明示するってのは、いかがなものかと。もう少し内緒にしたまま引っ張っても良かったんじゃないのか。
観客の方が先に気付いて、後から劇中の人物が気付くという形だと、劇中の人物が驚いても観客は「いや、こっちはとっくの昔に分かっていましたので」と冷めた反応になってしまうんだよな。

しかも、イカレてることが分かった上で「ジャックが強引な主張を通して一行を連れて行く」という様子を見せられると、「我々は洞窟に潜む怪物を恐れたらいいのか、それともジャックを危険視すればいいのか」と困惑してしまう。「ジャックが寄生されて次第に変異していく」という展開が、「怪物に襲われる」と要素と、お互いに潰し合って話がボヤけてしまったようにも思えるんだよな。
「ジャックがどんどんヤバくなっていく。果たして信用できるのか」という不安を押し出しての脱出劇か、「変異した怪物に襲われながらも脱出を目指す」というホラーか、どっちかに絞った方が良かったんじゃないかと。
ジャックを変異させるのなら、逆に早い段階で「寄生生物の仕業で変異が起きる。そしてジャックも寄生された」というところまで明らかにしてしまうってのも一つの手だったんじゃないかな。
その上で「変異を自覚しているジャックが、精神的格闘を繰り広げながらも何とか仲間を無事に連れ出そうと試みる」「仲間たちは彼を信用すべきかどうか迷う」というドラマを作って行けば、それはそれで面白い内容になった可能性はあるのかなと。

この映画の抱えている一番の難点は、「何が起きているのか分かりにくい」ってことだ。
地下洞窟だから暗いのは当たり前だし、それは何が起きているのか分かりにくい原因の1つではあるが、他にも問題はある。
カメラが揺れまくるとか、編集が上手くないという問題もあって、それと画面の薄暗さが組み合わさることで、見ていてストレスの溜まる映像になってしまう。
ストロードやジャックが襲われるシーンは、ホントなら恐怖を感じるべきなんだろうけど、それよりも「何がどうなっているのか、どこからどう動いたのか良く分からん」というストレスの方が勝ってしまう。

粗筋にも書いた通り、怪物の正体は30年前のトレジャー・ハンターたちだ。寄生生物のせいで神経に影響が生じ、環境に応じて変異したという設定だ。わずか30年で、翼が生えて巨大な爪や鋭い牙を持つ恐ろしい怪物に変貌したってことだ。もはや人間の原型は全く留めていない。
あまりにも無理のありすぎる設定だ。
そもそも、地下洞窟の環境に順応するために、そんな怪物になる必要があるとも思えない。
「昔の怪奇映画のテイストを狙って意図的に持ち込み、荒唐無稽をやろうとしている」というお遊び的な感覚なのかというと、そうじゃなくてマジなんだよな。
そうなると、ただ単に陳腐でバカバカしいだけだわな。

(観賞日:2014年5月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会