『ザ・ハリウッド』:2013、アメリカ

日曜日、映画に初主演することが決まったライアンは、恋人のジーナ、彼女のボスである若き映画プロデューサーのクリスチャン、彼の恋人であるタラの4人で会食する。ライアンは候補外だった自分を起用してくれたことに関して、クリスチャンに礼を言う。「起用しないなら出資を断ると、監督を脅したんだ」とクリスチャンが告げると、タラは軽く笑いながら「低予算のホラー映画よ。貴方が降りても資金調達には困らないはず」と口にする。
クリスチャンは話しながら、ずっと携帯を操作している。彼はライアンが下着姿でポーズを取る写真を画面に表示し、タラに見せる。彼はライアンに、「間接的に君を助けたことになるかもしれないが、実力が無かったら抜擢は無かった」と話す。1年前から交際しているタラとの関係について問われたクリスチャンは、「イチャつきはしないが愛してる。タラが普通じゃないのがいい。友人紹介アプリを使って、他の人間とセックスを楽しんでる」と語る。ライアンが困惑しながら「妬かないんですか?」と尋ねると、彼は「妬くのは女の仕事だ。保守的な考えは嫌いなんだ。常識や礼儀なんてクソ食らえだ」と口にした。
言えに戻ったクリスチャンは、タラの前で「賢いジーナが、なぜ売れない役者なんかと」と吐き捨てる。「映画は期待できない。誰かに出資を替わってもらいたいぐらいだ」と彼が漏らすので、タラは「どうして出資したの?」と訊く。クリスチャンは「いつもなら干渉する親父が反対しなかった」と答える。彼はリードという青年を家に呼び、タラと3人での情事を楽しむ。ジーナはライアンから「どうしてクリスチャンに金が?」と問われ、「祖父母の遺産を相続したの」と話す。彼女はタラのことを話題に出し、「貴方が役を得たのは、実はタラが推薦してくれたから。でも役が決まると雲隠れして、1ヶ月ぶりに会ったわ」と述べた。
月曜日、タラとライアンは密会する。2人は3年前に恋人同士だった。かつてはタラも女優志望で、ライアンと共に貧乏生活を送っていた。そして2人は1ヶ月前から、密かに関係を持っていた。ライアンが「君は幸せじゃない。見ていればわかる」と言うと、タラは「彼は私を大切にしてくれるわ」と反論する。ライアンが嫌味っぽい言葉を口にすると、彼女は「何様のつもり?時給で働くホテルのバーテンダーのくせに」と声を荒らげた。
ライアンが「まだ君を愛してる。諦め切れない。奴と別れろ」と言うと、タラは「悲惨な貧乏生活に戻れと?もう役を待つ日々は嫌よ」と拒絶した。クリスチャンは愛人であるシンシアの元へ行き、セックスをする。「これだけの関係だ。満足はしているが、本気じゃない」と彼が言うと、シンシアは「何かあったの?」と尋ねる。クリスチャンが「タラが浮気してる」と明かすと、シンシアは「貴方が言える?」と呆れたように告げた。
「気になるの?」とシンシアに訊かれたクリスチャンは、「当然だ」と答える。彼は「食事会から様子が変だった。今朝は外で男と会っていた」と話すが、決定的な証拠を掴んでいるわけではなかった。シンシアは「もう来ないで。手に負えないわ」と冷たく言って、彼を追い出した。ジーナはクリスチャンに頼まれてタラと会い、「貴方もロケ地に来ないつもり?」と尋ねる。タラは「この作品に感じるモノが無いの。それに彼と離れたくないし」と答える。タラと別れた後、ジーナはクリスチャンに電話を入れて「少し不安げな様子だったけど、妙な様子は無いわ。貴方と離れたくないらしいわ」と報告した。
ライアンの主演作はニューメキシコで1ヶ月間のロケを行うが、ギャラは格安だった。金が必要なライアンはホテル経営者のランダルと会い、仕事を増やしてほしいと申し入れた。タラから電話で呼び出されたライアンは、彼女の元へ赴いた。すぐに服を脱いだ彼は、泣いているタラとセックスした。クリスチャンは映画プロデューサーのジョンと会い、「監督が降板させたがっているとライアンに言え。でも自分と寝れば配慮してやると話せ」と要求した。
ジョンが「ジーナとは友人だし、ライアンはストレートだ」と困惑していると、クリスチャンは「悪戯だ。相手の反応を見て、冗談だと言えばいい」と告げる。ジョンは断ろうとするが、クリスチャンが「製作者は他にもいるんだぞ」と脅しを掛けたため、従うことにした。帰宅したクリスチャンは、タラに「ライアンとファックしたいか?」と質問する。「お断りよ」とタラが言うと、彼は「モデル時代からの顔見知りじゃないのか」と尋ねる。タラは「会ってないわ」と嘘をつくが、ライアンに「バレてる」とメールを送った。
ジーナと同棲中の家に戻ったライアンは、クリスチャンがシンシアのヨガ教室に通っているスケジュールを知って「彼女は演劇クラスで一緒だった」と口にした。ジョンは事務所へライアンを呼び出し、クリスチャンに指示されたように取引を持ち掛けて別荘に誘った。だが、ライアンが「ここでやろう。くわえろよ。欲しいんだろ」と強気な態度で告げたため、ジョンは狼狽した。事務所を後にしたライアンは元恋人であるシンシアに電話を掛け、「頼みたいことがある」と告げた。
火曜日。タラは知らない人物からLINEで「クリスチャンのことで話がある」「悩みがあるんじゃないの?」というメッセージを受け取る。彼女はクリスチャンに「友人と会う」と嘘をつき、その相手と会うことにした。クリスチャンは全く気にしない素振りを示すが、密かにタラの携帯電話を摩り替えた。タラが指定の場所へ行くとシンシアが待っており、「私は彼の恋人だった。彼は病んでるわ。今すぐ逃げた方がいい」と告げた。
シンシアは「貴方も私と同じ目に遭う」と言い、「クリスチャンは自分に睡眠薬を飲ませて大勢の男たちにレイプさせた。それを撮影して、誰かに喋ったらバラ撒くと脅した」と話す。タラは動揺しながらも、「貴方とは違うわ」と反発して立ち去った。シンシアの話は全て嘘であり、ライアンがタラに吹き込むよう頼んだのだった。一方、クリスチャンは知人のエリックを呼び、ライアンのSNSに侵入してもらう。写真をチェックしたクリスチャンは、ライアンとタラの関係を示す証拠を掴んだ。
クリスチャンはエリックに、タラの携帯電話も調べてもらう。LINEの送り主がライアンだと知った彼は、銀行口座も調べるよう要請した。帰宅したタラは、クリスチャンにシンシアから聞かされた内容を突き付けた。クリスチャンは「シンシアは元恋人だが、それ以外は全てデタラメだ」と訴える。タラは信じなかったが、クリスチャンが全面的に否定するので「いいわ」と口にした。クリスチャンは4Pプレイに呼んでいるカップルから連絡を受け、「別の日に変更してもらおう」と言うが、タラは「呼んで」と告げた。
水曜日。ベッドで目を覚ましたタラは、携帯電話が自分の物ではないことに気付いた。彼女が固定電話を使って自分の携帯を探していると、クリスチャンのベッドサイドで見つかった。クリスチャンはタラに追及されると、「ライアンと浮気していたな。信じていたのに。この裏切り者」と怒鳴り付けた。ライアンは尾行する男に気付き、駐車場で待ち伏せると「クリスチャンの差し金だな。卑怯な真似をするなと伝えろ」と凄んだ。銀行口座を調べた彼は、残金がゼロになっているのを知った。クリスチャンは掛かり付けの精神科医であるキャンベルの元へ行き、自分の感情や行動について吐露した…。

監督はポール・シュレイダー、脚本はブレット・イーストン・エリス、製作はブラクストン・ポープ、共同製作はリンジー・ローハン&&ロス・レヴィン&カート・キトルトン&ボー・ローリン&リッキー・ホーンJr.&ケン・ロクスマンディー、製作協力はカイル・カリー&・キングカレブ&シアヴァシュ・ベーマード&ジョーダン・アヴリーヌ・ブレア&ダックス・フェラン&ポール・スチュワート&ジェニファー・ヴァン・ゲッセル&グレン・T・モーガン&マウレ・シルヴァーマン&ケルスティン・エムホフ&ブライアン・ギルマン&ポール・ハンター&アンドレアス・サン・ハンセン&アリ・ブラウン&アレクサンダー・ストヤノヴィッチ&ブレイク・グリーンバウム&ショーン・ド・サン=エルネ&ティム・シラーノ&モーガン・K・ゴス&パブロ・ドステアー&サイモン・スクリヴァー&アンドレス・デ・ラ・フエンテ&ジェームズ・ディーン、撮影はジョン・デファツィオ、編集はティム・シラーノ、美術はステファニー・J・ゴードン、衣装はキーリー・クラム、音楽はブレンダン・カニング、追加音楽はミー・アンド・ジョン。
主演はリンジー・ローハン、共演はジェームズ・ディーン、ガス・ヴァン・サント、ノーラン・ファンク、アマンダ・ブルックス、テニル・ヒューストン、ジャロッド・アインソーン、クリス・ザイテック、ヴィクター・オブ・アキテーヌ、ジム・ボーヴェン、フィル・パヴェル、リリー・ラボー、トーマス・トルッセル、アレックス・アッシュバウ、クリス・シュレンジャー、ローレン・シャッチャー、ダイアナ・ギテルマン、アンドレス・デ・ラ・フエンテ他。


『レス・ザン・ゼロ』や『アメリカン・サイコ』などの原作者であるブレット・イーストン・エリスが、初めてオリジナル脚本を手掛けた作品。
監督は『快楽を知ったTVスター』『囚われのサーカス』のポール・シュレイダー。
タラをリンジー・ローハン、クリスチャンをジェームズ・ディーン、キャンベルをガス・ヴァン・サント、ライアンをノーラン・ファンク、ジーナをアマンダ・ブルックス、シンシアをテニル・ヒューストンが演じている。
DVDでは『ザ・ハリウッド セックスと野望』とサブタイトルが付く。

クリスチャン役のジェームズ・ディーンは、あの早逝した有名俳優と同姓同名だが、本名ではなく芸名だ。むしろ本名だったら、別の芸名を考えたかもしれない。
煙草の吸い方が似ているってことで、その芸名を使うようになったらしい。
この映画を見た大半の人は、たぶん「誰だよ」と思うだろう。もちろん一般的には無名の俳優だが、あるジャンルにおいては大人気の有名俳優だ。
この人は、一般映画には初めての出演だが、若い女性から絶大な人気を誇るポルノ俳優なのだ。

オープニングの食事会のシーンで、「誰をメインとして見せようとしているんだろうか」と戸惑いを覚えてしまう。
クレジットからすると、リンジー・ローン演じるタラがメインのはずだ。
しかし、彼女をメインで見せようとしている意識は感じない。彼女よりもクリスチャンとライアンの方が存在感が強く示されている。
だから「映画業界を知らない新人俳優のライアンが戸惑ったり翻弄されたりする」ってのを見せて、クリスチャンとの対比で2人のドラマを描く形にすればいいんじゃないかと思うぐらいだ。

タラを「以前のような惨めな貧乏生活に戻ることを嫌がり、経済力のある男であるクリスチャンに走った。今を幸せだと感じようとしているが虚しさもある中、ライアンと再会したことで心が揺れ動く」という風に描きたいんだろうってのは分かる。
しかし、例えばリードを招いての3Pなんかは、本人も積極的にやっているようにしか見えない。
「クリスチャンの趣味に付き合わされている」という印象は全く受けない。
そうなると、タラのキャラがボンヤリしてしまう。

もっと問題なのは、クリスチャンとの生活がゴージャスには見えないってことだ。
本来なら、そこは「金銭的にも物質的にも恵まれた裕福な生活だが、精神的に空虚なモノを感じる」という形で伝わらなきゃダメなはずだ。
しかし、「セレブリティーな生活」がグラマラスに表現されているとは、お世辞にも言い難い。
低予算映画の悲しさなのか、クリスチャンの生活風景が豪華には見えないのである。
住んでいる家は大きいけど、大勢を招いて盛大なパーティーを開くとか、大物スターとの交流があるとか、そういう様子は無いし。

なので、クリスチャンが「所詮は低予算のB級映画をプロデュースするのが限界であり、本物のセレブリテイーとは大きな差がある」という男に見えてしまうのだ。
実際に「本人はセレブ気取りだったけど、本物とは雲泥の差があった。井の中の蛙に過ぎなかった」というゴールに着地するのであれば、そんな風に見えても全く問題は無い。
しかし、最終的には「金銭的にも物質的にも恵まれているけど、心は空っぽでした」という着地に至るわけだから、そこのゴージャスさが不充分なのは痛い。

「タラがピンで主役を張るわけではなく、クリスチャン、ライアン、ジーナを含む4人の群像劇である」と捉えるにしても、その中でタラの存在が最も弱い。嫉妬心から暴走するクリスチャンや、チャンスを掴もうと必死になるライアンの方が、明らかにキャラとして強い。
ひょっとするとポール・シュレイダーは、最初はリンジー・ローハンをメインで撮ろうとしていたが、途中で考えが変化したんじゃないだろうか。
そんな風に持ってしまうほど、不自然にタラの立ち位置が弱いのだ。
ただ、そもそも群像劇としても、まとまりには欠けている。単に目が散って落ち着きが無いだけに感じられる。
主役をクリスチャンかライアンの1人に絞り込んだ方が、間違いなくスッキリした仕上がりになっていただろう。この2人の対比で面白味が出ているわけでもないしね。

精神を病んでいるクリスチャンが嫉妬心に狂って周囲の人間を傷付ける展開になるのかと思いきや、ライアンの方もシンシアを利用してタラに嘘を吹き込むという反撃に出ている。
そもそも彼はタラがクリスチャンと付き合っていることに対して、「耐えられない。僕の気持ちが分かるか」と声を荒らげている。
ただ、そんなライアンもジーナと付き合っているわけだから、「どの口が言うのか」ってことだわな。
終盤には、そのことをジーナに明かして愛想を尽かされているけど、自業自得でしかないわけだし。

ストーリーが進むにつれて、何をどう描きたいのか、どこに焦点があるのかってことが、どんどん分からなくなっていく。
そんで最終的に、「薄っぺらいクズ野郎2人(クリスチャンとライアン)の醜い争い」ってトコに収束するんだけど、そう解釈するにしても、そこまでの展開が無駄に散らかっていると感じるし、「だから何なのか」と言いたくなる。
あと、やっぱりタラって主役じゃないのね。
それどころか、2人の男が彼女を巡って争うわけだからホントなら重要なポジションのはずなのに、いっそのこと『ゴドーをまちながら』のゴドーみたいに登場させずに処理した方がいいんじゃないかと思うぐらいなのだ。

そもそもリンジー・ローハンには、ヒロインとしての華が全く感じられない。
「そういうキャラクターを演じている」ってことではなくて、ただのケバいビッチにしか見えないのである。
むしろジーナの方が、ヒロインとしては遥かにマシじゃないかと思える。
「こんな女のために、必死になってクリスチャンとライアンが争っているのか」と思うと、ただでさえ愚かしい連中なのに、ますますチンケに感じてしまうのだ。

ラスト近くになってクリスチャンはシンシアを殺害するんだけど、あまりにも唐突で違和感がある。
「精神を病んでいるから」ということで納得するのは、ちょっと無理だ。
そういう手順を用意するのであれば、いっそのこと「クリスチャンが嫉妬心でどんどんヤバい奴に変化していく」というサイコ・サスペンスとして全体を構築すればいいんじゃないかと。
それで傑作になるなんてことは絶対に無いが、本作品の仕上がりに比べれば雲泥の差になる可能性は充分にあっただろう。

リンジー・ローハンという人は、3歳から芸能界での活動をスタートさせ、1998年の映画デビュー作『ファミリー・ゲーム/双子の天使』のヒットで人気子役としての地位を確立した。
2003年の『フォーチュン・クッキー』や翌年の『ミーン・ガールズ』もヒットを記録し、大人気のティーン・アイドルになった。2004年には歌手としてデビュー・アルバム『スピーク』を発表し、全米チャートで初登場4位を記録するヒットとなった。
そのように、順調にキャリアを重ねて人気を高めていた人だった。
ところが、若い内から人気者になったことが災いしたのか、喫煙と飲酒、さらにはドラッグに溺れるようになってしまった。

そんな彼女の人生は、2007年を境に急降下していく。
この年、彼女は飲酒運転やコカイン所持、無免許運転などの容疑で逮捕された。
同年に公開された主演映画『I Know Who Killed Me』は、酷評を浴びて興行的に惨敗した。
その後も酒やコカインを断つことが出来ずに収監されたり、宝石を盗んで逮捕されたり、社会奉仕活動をサボって保護観察処分を取り消されたりと、幾つものトラブルを繰り返した。

そんな風に問題ばかり起こしていれば、おのずと人気スターの座からは滑り落ちることになる。
扱いにくい女優ということで、仕事の量も減少した。
そんな中でもコンスタントに主演作は舞い込んで来たが、2009年の映画『リンジー・ローハンの 妊娠宣言!? 〜ハリウッド式OLウォーズ〜』も、エリザベス・テイラーを演じた2012年のテレビ映画『Liz & Dick』も、酷評を受けた。
そして、この4年ぶりとなる劇場映画主演作も、やはり酷評を浴びることになった。

この映画は「リンジー・ローハンがヌードになる」ということで、ほんの少しだけ話題になった。
しかし、台本の読み合わせ初日から姿を見せず、撮影もサボってクビになった。
ポール・シュレイダーに頼み込んで復帰したものの、撮影現場でスタッフに暴言を吐いたり、配役に文句を付けたりと、相変わらずのトラブルメーカーぶりを披露した。濡れ場に怖じ気付いてしまい、スタッフ全員が裸にならないと撮影しないと言い出したり、大量の酒を飲んで2時間も部屋に閉じ篭もったりした。
他にも朝までパーティーに興じて撮影に遅刻するなど、かなり厄介なことになっていた。
しかし皮肉なことに、そういう映画周辺のゴシップの方が、映画そのものよりも遥かに面白いのである。

(観賞日:2016年4月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会