『ザ・ボーイ〜人形少年の館〜』:2016、アメリカ&カナダ&中国

グレタ・エヴァンズはタクシーに乗り、英国郊外にある城のようなヒールシャー邸に到着した。屋敷に入った彼女は、玄関で靴を脱いだ。「どなたかいますか」と呼び掛けながら奥へ進んだグレタは、夫婦と幼い少年の肖像画が壁に飾られているのを見つけた。物音がしたので2階へ行くと、男児が使っていたと思わしき部屋があった。そこへマルコムという男が現れたので、グレタは驚いた。マルコムは日用品の店をやっていると自己紹介し、グレタをキッチンへ案内した。
グレタはマルコムに、アメリカ人で英国は初めてだと話す。ヒールシャー夫妻について彼女が訊くと、マルコムは「いい人たちだ。理想の夫婦だよ」と言う。息子のブラームスについて尋ねると、彼は「説明し難い」と答えた。そこへヒールシャー夫人が現れ、グレタに「靴はどうしたの?」と問い掛けた。グレタが玄関に戻ると、靴が無くなっていた。夫人は彼女に、「息子の悪戯よ。いずれ出てくる」と述べた夫人は息子を紹介すると言い、リビングへ案内した。
リビングには夫のヒールシャーがいて、グレタに挨拶した。夫人は椅子に座っているビスクドールをグレタに見せ、「ブラームスよ」と口にした。グレタは冗談だと思って軽く笑うが、夫婦は真顔のままだった。そこへマルコムが来て、ビスクドールに「やあ、ブラームス」と挨拶した。マルコムが去った後、グレタは彼を真似してビスクドールに挨拶した。夫人はグレタに、「何人か候補者はいたけど嫌がったの。貴方のように若くて美人でもなかったから」と話した。
夫人はグレタに、毎朝7時にブラームスを起こして着替えさせること、毎日3時間は勉強を見ること、大音量で音楽を流すことなど仕事の内容を説明した。さらに彼女は、「食べ物は余り物でも捨てないで。外敵から身を守るためよ。特にネズミは要注意」と述べた。グレタを庭へ連れ出したヒールシャーはネズミ捕りの罠を見せ、「全ての窓は封鎖したので、暖炉は使わないように」と注意した。夜、グレタは姉のサンディーに電話を掛け、「とにかく不気味なの。携帯もネットも繋がらない」と相談する。サンディーは「今の貴方には完璧な職場」と言い、「コールが何度も電話してきて、息子も怯えてる。接近禁止命令もお構いなしよ」と語った。
翌朝、ヒールシャーはグレタに子守りのルールを書いたメモを渡し、必ず守るよう頼んだ。彼は「マルコムが週に1度の配達がてら、給与を届けに来る。何かあれば彼に訊いてくれ」と言い、夫人はブラームスを大切に扱うよう頼む。夫人はグレタの耳元で、「ごめんなさい」と囁いた。夫婦はタクシーに乗り、屋敷を後にした。グレタは廊下の椅子にビスクドールを置き、「気味が悪いのよ」と吐き捨てた。彼女はルールを守らず、サンドウィッチを作ったりワインを飲んだりして過ごした。
夜になって目を覚ましたグレタは、ビスクドールを子供部屋の揺り椅子へ乱暴に投げ付けた。悪夢で飛び起きた彼女が子供部屋へ行くと、ビスクドールの目から水が垂れていた。しかしグレタが天井を見上げると、そこから水が漏れていた。彼女は屋根裏部屋を調べようとするが、扉が開かないので諦めた。またルールを守らずにグレタは一日を過ごし、夜になってサンディーと電話で話した。無言電話が掛かり、グレタはコールではないかと感じて不安になった。
次の日、マルコムが屋敷を訪れ、グレタに給与を渡した。グレタの質問を受けた彼は、ブラームスの墓へ連れて行く、彼はブラームスが1991年の8歳の誕生日に火事で死んだこと、それから人形が現れたことを話した。彼はグレタに、「異常だが、そうやって子供を亡くした悲しみを癒やしてるんだ」と告げた。彼は「息抜きがしたければ、夜遊びに連れてってあげるよ」と誘い、「デートじゃないよ。下心は無いんだ」と補足する。グレタは軽く笑い、その誘いを快諾した。
グレタがシャワーを浴びている間に、用意しておいたネックレスとドレスが無くなった。グレタが屋敷を探すと、屋根裏部屋の扉が開いて梯子が架かっていた。グレタが屋根裏部屋に入ると、外から扉が施錠された。グレタが小窓から外を見ると、マルコムが車で迎えに来ていた。グレタは大声で叫ぶが外には届かず、マルコムは帰ってしまった。グレタは転倒して頭を打ち、意識を失った。彼女が翌朝になって目を覚ますと、屋根裏部屋の扉は開いていた。
グレタはマルコムを呼び、屋根裏部屋に閉じ込められたことを話す。マルコムは邸内を調べ、「窓は塞がっていて誰も入れない」と言う。マルコムは屋敷に残り、グレタとビリヤードを楽しむ。「ブラームスはどんな子だった?」と問われた彼は、ヒールシャーが「もう限界だ。おかしな子だった」と漏らしていたことを話す。グレタはサンディーと電話で話し、姉の息子がコールに騙されて自分の居場所を教えてしまったことを知らされた。
また悪夢で夜中に目を覚ましたグレタは、部屋の前に無くなった靴が置いてあるのを見つけた。彼女が子供部屋に行くとビスクドールがベッドに座っており、その横にはルールのメモが置いてあった。怖くなったグレタが自分の寝室に逃げ込むと、部屋の固定電話が鳴った。グレタが受話器を取ると、「部屋から出て来て。一緒に遊ぼうよ。ルールを破ったね」と男児の声がした。グレタが電話機を投げ捨てると、ドアの外に何者かが現れた。「いい子にするから。これ、好きでしょ」という声がして。その人物は去った。グレタがドアを開けると、サンドウィッチが置いてあった。グレタは子供部屋へ行き、ビスクドールに「これが望み?分かったわ」と告げた。
次の朝、ヒールシャー夫妻は遺書を残し、海で入水自殺した。グレタはビスクドールをブラームスとして扱い、ルールを守るようになった。マルコムが来て手紙を渡すが、グレタは読もうとしなかった。マルコムがデートに誘うと、グレタは断った。マルコムが帰った後、彼女はビスクドールに「霊がいるなら合図を送って」と話し掛けた。彼女が目を離した隙に、ビスクドールは移動していた。グレタはマルコムを呼び、「ブラームスは生きてる。証明する」と告げた。
グレタは「ブラームスはシャイだから人前では動かない」と言い、ビスクドールを部屋に置いて廊下に出た。しばらく待って部屋に入るが、ビスクドールは同じ位置から動いていなかった。彼女は「私のために動いて。私がいなくなってもいいの?」とビスクドールに話し掛け、再び廊下に出た。また少し待ってからドアを開けると、今度はビスクドールが移動していた。グレタはマルコムに「彼と出会ったのは運命よ」と言い、暴力夫のコールから逃げてきたことを話す。妊娠が分かってコールは「もう殴らない」と約束したが、またグレタは暴力を振るわれた。お腹の子供は助からず、グレタは英国まで逃げて来たのだった。
その夜、グレタがマルコムとセックスしようとすると、子供部屋から大音量で音楽が流れてきた。マルコムはレコードを止め、グレタはビスクドールに「こんな音じゃ耳に障るわ」と話し掛けた。マルコムが「今夜は町に出た方がいい」と促すと、グレタは「ここを離れる気は無いわ。ブラームスを大切にすると約束したから」と断った。するとマルコムは「黙っていたことがある」と言い、エミリーという少女について話す。エミリーはヒールシャー邸へ良く遊びに来ていたが、ブラームスの誕生日に行方不明になった。後日、彼女は頭蓋骨が陥没した遺体で発見された。警察が事情聴取のため屋敷を訪ねたが、既に火の海だった。マルコムは「この家は危険だ」と警告するが、グレタは「ブラームスは大丈夫よ。どこへも行かない」と言う。その翌日、コールが屋敷へ乗り込んで来た。彼はグレタに復縁を迫り、飛行機のチケットも取っているので朝までに荷作りするよう要求した…。

監督はウィリアム・ブレント・ベル、脚本はステイシー・メニヤー、製作はジム・ウェダー&ロイ・リー&マット・ベレンソン&トム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ&リチャード・ライト、製作総指揮はエリック・リード&デヴィッド・カーン&ジョン・パワーズ・ミドルトン&ロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン&オーレン・アヴィヴ&ワン・チョンジュン&ワン・チョンレイ&ドナルド・タン、製作協力はジャッキー・シェヌー、撮影はダニエル・パール、美術はジョン・ウィレット、編集はブライアン・バーダン、衣装はジョリー・ウッドマン、音楽はベアー・マクレアリー。
出演はローレン・コーハン、ルパート・エヴァンス、ジム・ノートン、ダイアナ・ハードキャッスル、ベン・ロブソン、ジェームズ・ラッセル、ジェット・クライン、リリー・ペイター、マシュー・ウォーカー他。
声の出演はステファニー・レメリン。


『デビル・インサイド』『ウェア -破滅-』のウィリアム・ブレント・ベルが監督を務めた作品。
脚本のステイシー・メニヤーは、これがデビュー作。
ヒロインのグレタ役は、TVドラマ『ウォーキング・デッド』でマギー・グリーンを演じたローレン・コーハン。
マルコムをルパート・エヴァンス、ヒールシャーをジム・ノートン、ヒールシャー夫人をダイアナ・ハードキャッスル、コールをベン・ロブソン、ブラームスをジェームズ・ラッセルが演じている。

グレタが屋敷に到着した時、なかなかヒールシャー夫妻が出て来ないのは不自然だ。なぜ出て来ないのか、これといった理由も無いしね。
夫婦を先に登場させると、マルコムがグレタの質問を受けるシーンを描けなくなるってことを考えたのかもしれない。
だったら、グレタが屋敷へ来た時、ちょうどマルコムが日用品を届けに来ていることにして、玄関先で会話させるとか。
そもそも、どうしても2人を先に対面させておかなきゃいけないってわけでもないし。

グレタの靴が無くなるのは、謎の現象が早すぎる。
ビスクドールを登場させる前から「何か奇怪な現象が起きている」と匂わせるのは、焦りすぎだわ。それはビスクドールをブラームスとして登場させた後、少しずつ出していく形にすればいい。
そもそも、グレタが玄関で靴を脱ぐのも変な行動なんだよね。
それが仮に城や宮殿だったとしても、「玄関で靴は脱ぐべし」みたいなマナーなんて無いでしょ。グレタがアメリカ人で英国を知らなくても、「だから靴を脱いじゃった」ってのは、やっぱり無理があるし。

なぜヒールシャー夫婦が、わざわざアメリカ人女性のグレタをベビーシッターに雇ったのか、そこも引っ掛かる。
ブラームスが気に入ったってことらしいが、グレタには近付こうとしないし。暴力的な奴のはずなのに、終盤までは手を出さないし。
「ビスクドールだから近付くも何も無いだろ」とツッコミを入れたくなったかもしれないけど、そういうことじゃないからね。
ここからの批評に必要だから早々と完全ネタバレを書くけど、本物のブラームスは生きているのよ。オッサンになって、屋敷に身を隠して生活しているのよ。

夫婦がビスクドールを息子だと偽り、芝居を続けている意味が不明だ。
匿っている息子の日用品を届けてもらうため、人形を影武者として使っているという設定なんだろう。だけど、衣料品にしろ、食品にしろ、あのビスクドールのサイズでは本物のブラームスと釣り合わないでしょ。「あのサイズで、この分量の食事は変だぞ」とか思われちゃうだろ。
それに、壊れやすいビスクドールである必要性も無いのよね。
たぶん、『アナベル 死霊館の人形』がヒットしたので、それに乗っかろうとしたんじゃないかと思われる。でも「人形ホラーだと見せ掛けておいて」というアイデアは思い付いたものの、上手く膨らませることが出来ていないという印象だ。
ハッキリ言って、ブラームスがビスクドールじゃなきゃいけない理由が見当たらないんだよね。例えば、誰もいないのに夫婦が「そこに息子がいる」と主張して「他の人には姿の見えないブラームス」という設定にしても、成立しちゃうんじゃないかと。

マルコムがビスクドールをブラームスとして話し掛ける様子を見たグレタは、彼の真似をする。
だけど、マルコムがビスクドールを息子として扱ったからって、グレタが合わせる必要は無いでしょ。何となく事情を悟ったとしても、そんなヤバそうな仕事は断れよ。
こっちは「グレタは可及的速やかに金を必要としている」という事情も知らないから、違和感が強いぞ。
サンディーとの電話で金が必要ってことは語られているけど、それで納得できるわけでもないし。

夫人がグレタに「本は大きな声で読んで」「音楽は大音量で流して」ってのは、隠れているブラームスに聞かせるためだろう。
ただ、これまではベビーシッターを雇っていなかったんだから、夫婦が自分たちでブラームスの世話をしていたんだよね。
ってことは、ブラームスはマルコムが来ている時を除けば、屋敷の中では自由に動き回っていたはずだよね。
それがベビーシッターを雇うとなった途端、ずっと身を隠して暮らさなきゃいけなくなるわけで。そんなの、よくブラームスが承諾したね。

夫人は旅行へ出掛ける朝、グレタが覗いていることを知らないはずなのに、ビスクドールをブラームスとして扱う芝居を続けている。それは不可解だぞ。
ヒールシャーも夫人も、本気でビスクドールが息子だと信じているわけではないのだ。本物のブラームスを匿っていて、それを内緒にするために「人形を息子だと思い込んでいる」という芝居を打っているだけなのだ。
だから誰も見ていなければ、そんな芝居を続ける必要は無いわけで。
なので、そこで夫人が芝居をしているのは全く整合性が取れていない。

夫婦は旅行に行くと称して入水自殺するんだけど、だったらベビーシッターを雇った意味が無いだろ。
自殺するってことは、もう息子の世話は諦めたってことでしょ。だったら、後をグレタに任せるのは筋が通らないだろ。
それにグレタだって、永遠に屋敷での仕事を続けるわけではないのだ。予定を過ぎても夫婦が戻らなければ警察に連絡するだろうし、給与も滞るから仕事は辞めるだろう。それに警察が夫婦の捜索に関連して屋敷を調べる可能性だってある。
何をどう考えても、夫婦の行動は整合性が取れていない。

夫婦が旅行に出掛けた夜、グレタが夜中に目を覚まし、肖像画を見に行くシーンがある。
すると肖像画から腕が飛び出してグレタが襲うが、「それはグレタが見た夢でした」というオチが待っている。
怪奇現象ではなくて、のっけから夢オチのジャンプスケアを用意するわけだ。
そもそも、そのタイミングで「急にワッと脅かす」という仕掛けは要らないのよ。「何か普通じゃないことが起きている」ってことを匂わせるジャブで充分なのよ。

グレタがシャワーを浴びている最中にネックレスとドレスが無くなり(何者かが盗む様子は描かれている)、屋根裏部屋に閉じ込められるシーンがある。
ここは「誰かがネックレスとドレスを盗む」「誰かがグレタを屋根裏部屋に閉じ込める」という2つの現象があるのだが、分けた方がいい。
何よりダメなのは、グレタに「もしかして人形の仕業かも」と疑わせるための仕事をしていないってことだ。
そういう出来事が起きている間、ビスクドールは完全にカヤの外になっちゃってんのよね。

グレタがネックレスとグレスを探した時、それがビスクドールの近くで発見されるわけではない。気付かない内に、ビスクドールが動いているわけでもない。屋根裏部屋から脱出した後、ビスクドールが梯子を片付けた形跡が残っているわけでもない。
なので当然のことながら、グレタがビスクドールを気にすることも無い。
それは観客をミスリードする意味でも、見せ方を間違えている。
そこでビスクドールを絡ませなくても、観客は「もしかするとビスクドールの仕業なんじゃないか」と勝手に思ってくれるだろう。だけど作業としては、手抜きと言わざるを得ない。

グレタが洗面所で歯磨きをしていると、背後に人影が動くのを目撃するというシーンがある。グレタが探しに行ってビスクドールを見たら大きな音がするのだが、これも「実は夢でした」というオチになる。
なんで夢オチを繰り返すかね。
その後に「男児の声で電話が掛かる」という展開になるのだが、なぜブラームスは子供の声で電話を掛けるのか。なぜ彼はビスクドールが行動しているように偽装するのか。
その理由がサッパリ分からない。

映画開始から1時間以上が経過して、「グレタが流産している」ってことが明らかになる。彼女はマルコムに、「私には子供を失った親の気持ちが分かる。ヒールシャー夫妻とブラームスに縁を感じている」と話す。
だけど、それにしてはビスクドールを乱雑に扱っていたし、ルールも守っていなかったよね。
なので、「どの口が言うのか」とツッコミを入れたくなるわ。
ビスクドールが生きているんじゃないかと怖くなったから、面倒を見るようになっただけでしょうに。

終盤に入り、隠れていたブラームスが姿を現す。そのブラームスは、仮面を被って顔を隠している。この仮面は、最後まで外されることが無い。
ホラー映画の有名キャラである『13日の金曜日』シリーズのジェイソンとか、『ハロウェイン』シリーズのブギーマンが顔をマスクで隠しているので、それを模倣したんだろう。
だけど、ブラームスが仮面を被って生活している理由が全く無いんだよね。
顔の痣や傷を隠しているわけでもなさそうだし、顔を見られて困ることも無いはずだし。

(観賞日:2020年3月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会