『355』:2022年、アメリカ

コロンビア、ボゴダの240キロ南。麻薬カルテルのボスであるサンティアゴの屋敷に、取引相手であるイライジャ・クラークと手下たちがやって来た。ラミレスが率いるDNIのチームは麻薬取引が行われると確信し、近くで張り込んでいた。しかしサンティアゴが売ろうとしているのは、息子のヘロニモが作ったデバイスだった。それはネットを使った万能デバイスで、銀行や株式市場、ブロックチェーンや暗号メールの攻撃も可能で絶対に追跡されない物だった。
サンティアゴとヘロニモはデバイスの能力を証明するため、ボゴタ中を停電させて飛行中の貨物機を墜落させた。ヘロニモはイライジャに、「複製を試みれば中身は自動で消える。作れるのは僕だけだ」と得意げに語った。イライジャがヘロニモを射殺したため、銃撃戦が勃発した。イライジャはデバイスを奪おうとするが、手下が屋敷から連れ出した。ラミレスのチームは屋敷へ突入し、カルテルの連中を次々に射殺した。隊員のルイス・ロハスはデバイスを手に入れ、その場から姿を消した。
バージニア州ラングレー、CIA本部。上級職員のラリー・マークスは、コロンビア工作員が怯えた声で「NSAが大騒ぎする物を売る」と連絡して来たことを部下から知らされた。相手は300万ドルを要求しており、コロンビアからも追っ手が出ているのでパリにいた。マークスは部下のメイス・ブラウンとニック・ファウラーを、パリに派遣した。パリに飛んだメイスとニックは、新婚旅行中のカップルを装うことになった。互いに好意を抱いていた2人は、肉体関係を持った。
メイスとニックはオープンカフェでルイスと接触し、鞄を交換しようとする。しかし店員に化けたBNDのマリー・シュミットが鞄を奪い去ったため、メイスは後を追った。ルイスも自分の鞄を持って逃亡したため、こちらはニックが追跡した。メイスはマリーと格闘するが、逃げられてしまった。鞄を開けたマリーは、デバイスではなく札束が入っているのを見て舌打ちした。ルイスを見失ったニックの前には、イライジャと手下が現れた。銃を構えたイライジャに「デバイスは?」と訊かれたニックは、「無い」と答えた。
ルイスがパラディ・ホテルに戻ると、心理学者のグラシエラ・リヴェラが訪ねて来た。「ドクター、診察の時間じゃない」とルイスが言うと、彼女は「セラピーに来たんじゃない」と告げる。「ドクターなら秘密を聞き出せると思って送り込まれたのか」とルイスが尋ねると、グラシエラは「私なら貴方を助けられる」と述べた。ドイツ、ベルリンのBND本部。マリーは上司のヨナス・ミュラーから、カフェにいた2人がCIAだと聞かされた。ヨナスはチームの派遣を決定し、一匹狼のマリーに仲間を信頼するよう説いた。
フランス、CIAのセーフハウス。メイスはマークスから、ニックが撃たれて死んだことを知らされた。マークスはメイスに、「公式の命令は出せないが、君が1人で仇討ちをしたいのなら理解を示せる」と語る。イギリス、ロンドン。メイスは講演を終えたMI6のサイバー専門家であるディジと会い、協力を要請した。ディジは「もう現場には出ない」と言い、恋人のアブデルを紹介した。メイスはニックが死んだことを明かし、「ブツが悪党の手に渡れば、世界の全てを握られる」とディジを説き伏せた。
ディジはカフェで鞄を奪った女がBNDのマリーであること、二重スパイの疑いもあること、彼女の父親がKGBに秘密を売っていたことを突き止めた。さらに彼女は、まだルイスがパラディ・ホテルにいることも突き止めた。ルイスはグラシエラから「捜査官が4人、下にいる」と決断を促され、「ドクターはデバイスの力を知らない」と漏らす。ルイスとグラシエラは4人の捜査官に警護され、ホテルを出た。メイスとディジはルイスを張り込み、マリーの姿に気付いた。
マリーは1人の捜査官を倒し、気付いたルイスとグラシエラは警戒する。メイスはマリーに襲い掛かり、格闘になった。捜査官のディエゴ・ガルシアはルイスを撃ち、デバイスの入った鞄を奪って逃走した。マリーはガルシアを追い掛け、第三埠頭へ向かう。ルイスは携帯の指紋認証をグラシエラに見せて新規登録させ、「誰も信じるな」と言い残して死亡した。マリーはガルシアを見つけ、デバイスを奪おうとする。メイスとディゴも発砲するが、ガルシアはボートで逃亡した。
グラシエラが現地警察のパトカーに乗せられるのを見たマリーは、対外治安総局のエージェントを見つけてバッジを盗んだ。彼女は警官に「対外治安総局よ。私が連行する」と告げて車から降りるよう指示し、グラシエラをセーフハウスへ連れて行く。「私も同じスパイよ」と彼女が言うと、グラシエラは「私は心理学者よ。組織の指示に従っただけ」と述べた。そこへメイスとディジが乗り込み、メイスとマリーは銃を向け合った。ディジは目的のために手を組むよう諭し、メイスとマリーは受け入れた。
グラシエラはメイスたちに、携帯からデバイスを追跡できることを教えた。デバイスがモロッコにあると判明し、メイスたちはマラケシュに飛んでガルシアを発見した。ガルシアは市場でヤシンという男と接触し、密かにデバイスを渡した。メイスはヤシンを尾行し、マリーはグラシエラを連れてガルシアを尾行した。すると殺し屋4人組がガルシアを取り囲み、殺害して去った。ヤシンが公衆浴場に入って行くと、ディジは石鹸を運ぶ現地女性に化けて尾行した。ディジは男たちに包囲されるが、駆け付けたメイスと共に撃退した。
メイスとマリーはディジの指示を受け、殺し屋4人組を次々に倒した。グラシエラの「目立つ必要が?」という言葉を受け、メイスたちは現地人に化けてヤシンからデバイスを掏り取った。メイスはマリーを説得し、ラバト支局でマークスにデバイスを渡した。メイスたちが去った後、マークスは支局に潜入したリン・ミーシェンという女に殺された。メイスたちは6機の飛行機が電力を失って墜落したニュースを知り、ディジはデバイスの追跡装置が切られたことに気付いた。
支局に戻ったメイスたちはマークスの遺体を発見し、デバイスが奪われたことを知る。そこへCIAのグレイディーが乗り込み、メイスたちを犯人と断定して銃を向けた。メイスたちは彼を制圧し、その場から逃亡した。マリーはヨナスに電話を掛け、救助を要請した。しかし裏切り者と決め付けられたため、連絡を絶って携帯を破壊した。メイスたちはヤシンを捕まえ、情報を吐くよう要求した。ヤシンが拒むと、マリーが脚を撃って脅しを掛けた。ヤシンは彼女たちに、2日後に開かれる上海のリ・ナ・オークションにデバイスを出品することを教えた。飛行機事故や停電は、欲しがる客に対しての宣伝活動だった。
イライジャは手下からの電話で、デバイスを4人の女に奪われたと報告を受けた。彼は激しい怒りを示し、女たちを殺してデバイスを手に入れろと命じた。メイスたちは上海に到着し、ディジは「古代の美術品を扱うオークションは隠れ蓑で、デバイスはダークネットで売られ、出品物に隠されて運ばれる」と説明した。どの出品物に隠されるかは分かっておらず、ディジはメイスたちに突き止めるよう指示した。4人はオークション会場に潜入し、ディジは姿を隠して指示係に回った。
グラシエラはチェチェンの富豪であるピョートル・カサノフから声を掛けられ、ディジの指示を受けて関心がある芝居をした。彼女は質問を重ね、デバイスが壺に隠されると確信した。メイスの前にはニックが現れ、別の部屋に連れ出した。会場にはリンが主催者として登場し、オークションを開始した。メイスはニックが人殺しと組んでいると知り、仲になるよう誘われて断った。ニックは手下にメイスの見張りを指示し、オークション会場へ移動した。壺はニックに落札され、ディジはグラシエラの協力でデバイスに電子タグを付けた。ニックは壺と共にリンのオフィスへ行き、5億ドルでデバイスの取引を済まそうとする…。

監督はサイモン・キンバーグ、原案はテレサ・レベック、脚本はテレサ・レベック&サイモン・キンバーグ、製作はジェシカ・チャステイン&ケリー・カーマイケル&サイモン・キンバーグ、製作総指揮はリチャード・ヒューイット&エズモンド・レン&ホアン・ワンルイ、撮影はティム・モーリス=ジョーンズ、美術はサイモン・エリオット、編集はジョン・ギルバート&リー・スミス、衣装はステファニー・コーリー、音楽はトム・ホーケンバーグ。
出演はジェシカ・チャステイン、ペネロペ・クルス、ファン・ビンビン、ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ、セバスチャン・スタン、エドガー・ラミレス、ジェイソン・フレミング、シルヴェスター・グロート、ジョン・ダグラス・トンプソン、レオ・スター、ラファエル・アクロケ、ドム・デュマレスク、ワリード・エルガディー、オレグ・クリチュノワ、パブロ・スコラ、マルセロ・クルス、エディー・アーノルド、ジェイソン・ウォン、デヴィッド・ユー、アレクサンダー・カルドナ、フランシスコ・ラベ、ジョセフ・ウィックス、セバスチャン・ロルダン、エミリオ・インソレラ、エルディー・ダンディー他。


『X-MEN:ダーク・フェニックス』のサイモン・キンバーグが監督を務めた作品。
脚本は『ゴシップ』のテレサ・レベックとサイモン・キンバーグ監督による共同。
メイスをジェシカ・チャステイン、グラシエラをペネロペ・クルス、リンをファン・ビンビン、マリーをダイアン・クルーガー、ディジをルピタ・ニョンゴ、ニックをセバスチャン・スタン、ルイスをエドガー・ラミレス、イライジャをジェイソン・フレミング、ヨナスをシルヴェスター・グロート、マークスをジョン・ダグラス・トンプソン、グレイディーをレオ・スターが演じている。

なぜルイスがデバイスを持ち出したのか、その理由がサッパリ分からない。危険だと思ったのなら、CIAに売らず、その場で破壊した方が絶対にいいし。
現金を要求しているので、そのまんま「金が欲しかったから」ってのが理由なのか。だとしたら、グラシエラの説得で簡単に折れちゃうのは不自然だしなあ。
あと、グラシエラがセラピーを担当していたってことは、メイスは心の問題を抱えていたんだろうけど、そこに関する具体的な情報は全く出て来ないのよね。なので、その設定の必要性も疑問だ。
心理学者のグラシエラを話に関与させるためだとしても、もうちょっと上手くやるべきだし。

映画の冒頭から、「バカばっかりだな」と思わされる。
イライジャはデバイスの入手が目的なら、いきなりヘロニモを射殺するのは愚の骨頂でしかない。当然のことながら激しい銃撃戦が勃発し、イライジャはデバイスを入手できないまま、手下に連れられて避難を余儀なくされている。
まずは確実にデバイスを確保できる状況を整えて、それからヘロニモを撃てよ。
っていうか、より確実に事を運びたいのなら、その場で射殺するのではなく取引を承諾するフリでもすれば良かったんじゃないのか。その時点では、DNIの張り込みに気付いていないはずなんだし。

あと、ヘロニモを射殺する行動にも、大いに疑問があるぞ。
デバイスを作れるのがヘロニモだけなら、むしろ彼は生かしておいた方が良くないか。デバイスを入手できなかったり、誰かに奪われたりした場合、ヘロニモの存在は保険になるはずだし。
それと、サンティアゴがデバイスをイライジャに売ろうとしているのも、まるで理解できない。
説明したような機能を持つ万能デバイスなら、他の組織に売るより自分たちで使った方が絶対に得策だろ。

サンティアゴの屋敷はDNIチームが張り込んでいたはずなのに、ルイスがデバイスを見つけるシーンでは、同じ部屋に誰もいない。
だからルイスは簡単にデバイスを持ち去ることが出来るわけだが、なぜ彼がデバイスを盗むのか、その理由はサッパリ分からない。
金を要求しているので、表面的には「金が目的」ってことになるんだろうけど、それで腑に落ちることなんて何も無い。
売る相手をCIAに決めた理由も、まるで分からないし。

マリーはカフェで鞄を奪い去るが、まだメイスはルイスと交換していない。なので当然のことながら、鞄の中身はデバイスじゃなくて札束だ。
なぜ交換を確認してから奪おうとしないのか謎で、マリーがアホにしか見えない。
メイスとマリーはセーフハウスで銃を向け合うが、ディジが同じ目的のために手を組むよう諭すと、あっさりと受け入れる。
その途端、グラシエラは「信頼できるか不安だったけど、1人じゃ何もできない」と携帯でデバイスを追跡できることを教える。

マラケシュの市場で4人組がガルシアを殺す理由が、良く分からない。
彼らはデバイスを手に入れるのが目的じゃないのかよ。だったら、ガルシアを捕まえてデバイスのありかを吐かせた方が良くないか。本人が持っているかどうか判然としないんだし。
しかも、ガルシアを殺した後、体を探ってデバイスを見つけようとすることもなく、すぐに立ち去るんだよね。つまりガルシアを殺すことが目的になっているわけだが、もうワケが分からんよ。
そのくせ、彼らはヤシンを追い掛けるんだよね。じゃあヤシンにデバイスが渡った可能性も分かっていたんだろ。それなのに全員でガルシアを追うから、しばらく見失ってるじゃねえか。
っていうか、その状態から、どうやって再びヤシンの居場所を突き止めたのかも良く分からないし。

登場人物の相関図が、無駄にややこしくなっている。
ガルシアはルイスからデバイスを奪っているが、イライジャの手下ではない。だからイライジャは、殺し屋4人組を差し向けている。
じゃあガルシアとヤシンはどういう立場なのかというと、オークションに出すと言っている。ってことは、リンに雇われた立場なのか。
そんでニックスはリンにデバイスを奪われたので、イライジャの指令を受けて取引しようとするわけだ。
この辺りが、無駄にゴチャゴチャしている。メイスたちの敵を、2グループに分けたメリットも見えないし。

グラシエラは戦闘能力がゼロに等しいので、そのままだと単なる足手まといの役立たずになってしまう。
そこで、カサノフから情報を聞き出す仕事や、彼の好意を利用して壺に近付く仕事を与えている。そこでは人の心理を読むグラシエラの能力が役に立つわけだ。
でも、最初から戦闘能力の高いキャラにしておけば良かったんじゃないのかと。
その上でメイスやマリーとは異なる類の戦闘能力にしておけば、特徴も出せたんじゃないかと。

ネタバレを書くが、リンは悪党ではなく、中国政府のエージェントだ。
彼女はマークスがニックと組んでいる悪党なので、殺してデバイスを奪った。そして目を付けていた悪党を集めるため、デバイスを餌にしてオークションを開催したという次第だ。
でも、「悪党だと思ったリンが実はエージェントで」という仕掛けも、要らないなあ。
話を変に入り組んだ構造にするよりも、「戦う女たちの活躍」に集中して、そこで一点突破を狙った方が良かったんじゃないかと。

リンはニックに偽物のデバイスを渡すが、もちろん向こうも本物じゃないことに気付く。
ところがリンは、偽物だと気付かれた後の対応について、何も考えていない。だからメイスたちと呑気に過ごしているとニックたちが乗り込み、家族を人質に取られて脅されてしまう。
もうさ、アホすぎるでしょ。
そこから逆襲のターンに入るのは当然の成り行きだし、そこでクライマックスを盛り上げようとするのは理解できる。こっちがプロとして利口な行動を取っていて、それでも向こうが上回った結果として犠牲が出て、そこで怒りの逆襲ってことなら、こっちも燃えられるよ。
だけど、あまりにもメイスたちがアホすぎから、ものすごく萎えるのよ。

ザックリ言うと、「各国の特務機関の女性エージェントが同じ目的のために結集し、チームとして行動する」という話である。
たぶん今回は「チームの誕生編」という位置付けにして、ここからチームが本格稼働していくシリーズ化を狙っていたんじゃないかと思われる。
実際、プロットや設定だけを見れば、充分にシリーズ化は可能だろう。
しかし残念ながら、この映画が酷評を浴びて興行的にもコケたため、ほぼ間違いなく続編は作られずに終わるだろう。

この映画はジェシカ・チャステインの「本格派スパイ・アクションをオール女性キャストで作ってみたい」というアイデアから始まっており、いわゆるアクション女優を揃えるのではなく「各国の著名な女優」を起用している。
『それでも恋するバルセロナ』でアカデミー助演女優賞を受賞したペネロペ・クルス。『女は二度決断する』でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞したダイアン・クルーガー。
『それでも夜は明ける』でアカデミー助演女優賞などを受賞したルピタ・ニョンゴ。そして2018年に巨額の脱税疑惑が発覚したファン・ビンビン。
なんか1人だけトピックが違うような気もするが、そこは華麗にスルーしておこう。

主演のジェシカ・チャステイン自身も、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』と『ゼロ・ダーク・サーティ』でアカデミー主演女優賞にノミネートされている。その2作以外でも、数多くの映画賞を受賞している。
ただ、本人はアクションに対する意欲が強いのか、2020年の『AVA/エヴァ』に続いてのアクション映画主演になる。
しかし「好きこそものの上手なれ」という言葉があるが、実際のところ、好きと上手は全く別物だ。
残念ながらジェシカ・チャステインは、アクション俳優としての能力は芳しくない。

サイモン・キンバーグ監督は本作のアイデアについて「とても斬新で、同じような映画は他に思い浮かばなかった」とコメントしているが、どこにも斬新さは感じない。
しかし映画の続編は無理でも、アイデアだけを横滑りさせてTVシリーズを作る可能性ぐらいは残っているかもしれない。
本物のアクション女優を揃えれば、面白くなる可能性はあるんじゃないかと。
ようするに、女性版『エクスペンダブルズ』にするってことね。

(観賞日:2023年10月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会