『サブウェイ123 激突』:2009、アメリカ&イギリス

ニューヨーク地下鉄運行指令室で勤務するガーバーは、的確な指示を出して列車を運行させている。一方、ライダーと仲間たちは監視カメラに写らないように運転士のジェリーと車掌のレジーナを拳銃で脅し、ペラム発1時23分の列車に乗り込んだ。元運転士のレイモスが、列車を運転した。一味は駅ではなく中間地点で列車を停止させ、一両を残して分離させた。ガーバーは異変に気付き、運転士に連絡する。しかしライダーに脅されている運転士は、通信に応じなかった。
分離した列車が逆走を始めたため、乗客の刑事が様子を見に行くが、一味に射殺された。ライダーはレジーナに、近くの駅まで乗客を連れて行くよう命じた。銃声が響いたため、ガーバーも緊急事態を察知した。ライダーはレイモスに電源を切らせて非常用電源を起動させ、停止させた車両から指令室に通信した。彼はガーバーに「一両だけ乗っ取った」と言い、ジェリーに車内の状況を説明させた。ライダーは身代金として市長に1000万ドルを用意させ、キャスター付きのスーツケースに入れて1時間後に届けるよう要求した。そして遅れれば1分ごとに乗客を1人ずつ殺していくと脅した。
ガーバーはライダーと会話を交わし、相手がカトリックの元証券マンだと推理する。交渉役としてカモネッティー警部補が来たため、ガーバーは状況を説明した。カモネッティーが到着すると、運行部長のジョンソンは疎んじているガーバーに「もう仕事は終わりだ」と告げて帰らせようとする。しかしライダーは無線連絡を入れて来たカモネッティーに「ガーバーを出せ」と怒鳴り、拒絶されるとジェリーを銃殺した。「次の犠牲者は1分後だ」とライダーが宣告したため、カモネッティーは慌ててガーバーを呼び戻した。
その頃、特別救助隊は車両へ向かい、ニューヨーク市長は連絡を受けて指令室へ向かっていた。「なぜ1000万ドルなのか」と疑問を口にした市長に、秘書のラサールは「市長が支出額を命じ、連邦準備銀行から調達できる1回の限度額だからです」と指摘した。既に犠牲者が出ていることを知らされた市長は、とりあえず支払うと約束して時間を稼ぐことにした。ジョンソンはカモネッティーに、ガーバーが2週間前に左遷されていること、賄賂を貰った疑惑で内部監察中であることを教えた。ライダーは車両でノートパソコンを起動させ、株価の動きをチェックしていた。
レイモスはガーバーが運行係を担当していることに、「変だな。俺が服役する前は運輸室長だったのに。つまり管理職だ」と疑問を呈した。ライダーはネットでガーバーについて調べ、収賄疑惑を知った。カモネッティーはガーバーが犯人の一味ではないかと疑い、彼を尋問して家宅捜索を決定した。ガーバーはライダーから収賄疑惑を指摘され、「有罪じゃない、潔白だ」と主張した。するとライダーは苛立ち、「本当のことを言わないと人質を殺す」と脅迫する。ガーバーは賄賂を受け取ったことを白状した。ライダーは「似た者同士だな。街のために働いたのに、悪人扱いかよ」と吐き捨てるように告げた。
乗客のジオは事件が起きるまで恋人とライヴ・チャットをしており、その映像と通信は生きていた。パソコンの前に戻って来た恋人は異変に気付き、ジオに話し掛ける。ジオは小声で状況を知らせ、ネットで流してテレビ局に連絡するよう指示した。子連れの母親は向かいに座っているウォレスが空挺部隊の指輪をしているに気付き、「このままだと全員が殺されるわ」と告げる。彼女は夫も空挺部隊だったことを話し、行動を促した。ライダーは事件の影響で株価が下落しているのを知り、満足そうに笑みを浮かべた。
車内の様子がネットで流れ、それを見たガーバーたちはレイモスの存在に気付いた。レイモスは10年前に薬の副作用で事故を起こし、乗客を死なせて逮捕されていた。カモネッティーはガーバーに、「奴の言葉の隙を突けばチャンスはある」と助言した。指令室に市長が到着したのを知ったライダーは、無線に出すよう要求した。ライダーは「アンタがここに来て、17人の乗客の身代わりになるってのはどうだ」と持ち掛ける。カモネッティーたちの助言を受けた市長が拒否すると、ライダーは「やっぱりか。ガーバー、分かっただろ、これが上の連中の本性だ」と喚き散らした。
警察はパトカーで身代金を運んでいたが、トラックと激突してしまう。護衛の白バイ警官たちが分担して運ぶが、制限時間内には間に合わない。ライダーは激怒して人質の殺害を通告し、子連れの母親を庇ったウォレスが銃殺された。車両に照準を合わせて待機していた特別救助隊の狙撃手は、ズボンにネズミが入り込んだのに驚いて発砲し、レイモスが銃弾を浴びて死亡した。荒れていたライダーだが、ガーバーが話し掛けると落ち着きを取り戻した。彼はガーバーに対し、「アンタがトロッコで金を持って来い」と脅した。ガーバーが金を運ぶと、ライダーは列車を運転するよう要求した…。

監督はトニー・スコット、原作はジョン・ゴーディー、脚本はブライアン・ヘルゲランド、製作はトッド・ブラック&トニー・スコット&ジェイソン・ブルメンタル&スティーヴ・ティッシュ、製作総指揮はバリー・ウォルドマン&マイケル・コスティガン&ライアン・カヴァナー、共同製作総指揮はリンダ・ファヴィラ&アンソン・ダウンズ、製作協力はドン・フェラローネ&ジョン・ワイルダーマス&リチャード・バラッタ、編集はクリス・レベンゾン、撮影はトビアス・シュリッスラー、美術はクリス・シーガーズ、衣装はレネー・アーリック・カルファス、音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。
出演はデンゼル・ワシントン、ジョン・トラヴォルタ、ジェームズ・ガンドルフィーニ、ジョン・タートゥーロ、ルイス・ガスマン、マイケル・リスポリ、フランク・ウッド、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー、ゲイリー・バサラダ、ラモン・ロドリゲス、ベンガ・アキナベ、カテリネ・ジギスムント、ジェイク・シシリアーノ、アーンジャニュー・エリス、アレックス・カルジスキー、トニー・パタノ、ジェイソン・バトラー・ハーナー、 ヴィクター・ゴイチャイ、ロバート・ヴァタジャイ、アンソニー・アナルマ、ヴィクター・クルス、グレン・トートレラ他。


ジョン・ゴーディーの小説『サブウェイ・パニック』を基にした作品。
1974年の『サブウェイ・パニック』、1998年の『サブウェイ・パニック1:23PM』に続いて3度目の映画化。
監督のトニー・スコット、脚本のブライアン・ヘルゲランドという『マイ・ボディガード』のコンビが再び組んでいる。
ガーバーをデンゼル・ワシントン、ライダーをジョン・トラヴォルタ、市長をジェームズ・ガンドルフィーニ、カモネッティーをジョン・タートゥーロ、レイモスをルイス・ガスマン、ジョンソンをマイケル・リスポリ、警察署長をフランク・ウッド、ラサールをジョン・ベンジャミン・ヒッキー、ジェリーをゲイリー・バサラダ、ガーバーの同僚デルガドをラモン・ロドリゲス、ウォレスをベンガ・アキナベが演じている。

ライダーは知能犯のはずなのに、最初から無闇にイライラしていて落ち着きが無く、ちっとも頭のキレる男に見えない。
一方、ガーバーはただの指令係なのに、まるでプロのネゴシエイターのように、ものすごく冷静な態度でライダーと巧みに交渉する。
ライダーの方は、性格設定を変えたのが失敗。
ガーバーに関しては、本来は公安局の刑事だった役柄を鉄道職員に変えたことで不自然さが生じている。
また、ライダーかボンクラなせいで、高度な知能戦は展開されない。

ライダーがガーバーとの交渉に固執する理由は、サッパリ分からない。
「実は云々」という理由が後から明かされるのかと思ったら、何も用意されていない。
後から収賄疑惑のある男だと知って興味を抱くが、それまでのシンパシーはどこから湧いたのか完全に不明。
なぜかライダーはガーバーに質問されて自分のことをベラベラと素直に喋るが、そこまで心を開く理由がサッパリ分からない。正直に自分のことを明かすのが、アホに思えてしまう。

ライダーがポラードを射殺してまでガーバーに固執したせいで、ガーバーは犯人とグルではないかと疑われる。
しかし、それがストーリー展開において重要な意味を持っているのかというと、そんなことは全く無い。
ただ単に「上司がガーバーを嫌ってる」ってのが強調される程度だ。
ガーバーは一時的に警察から疑われるものの、収賄を告白して以降は、カモネッティーは「彼はグルじゃない」と確信した態度を見せているし、だからサスペンスを盛り上げる仕掛けとしては全く機能していない。

ガーバーが賄賂を受け取っていたという設定にしたのも、どういう狙いがあるのか良く分からない。何か狙いがあったとしても、それは効果的に作用していないし、ただ無意味に主人公を汚れさせたと感じるだけ。
子供たちの教育費に使ったと話すガーバーにライダーが感動した様子で「ヒーローだぜ」と言うのも、何のこっちゃサッパリだ。それが「会社に対する反抗」なら、ライダーが共感して感動するってのも分かるけど、ただ単に「子供に金が掛かるから賄賂を受け取った」というだけなんだぜ。
「人質を救うために罪を告白した」ということで「ヒーロー」と称しているのだとしても、やっぱりヒーローじゃねえよ。ただの罪人だよ。
「似た者同士だな。街のために働いたのに、悪人扱いかよ」とライダーは言うけど、賄賂は街のために受け取ったわけじゃないからね。
っていうかさ、そんなトコで時間を使うよりも、もっと他で時間を使うか、もしくはそこを削って上映時間を短くした方がいい。

ライダーは「1時間以内に1000万ドルを届けろ」と要求するが、「パソコンで金相場をチェックしている元証券マンのライダーが、なぜネットの銀行口座を利用して金を振り込ませようとしないのか」という疑問が沸く。
一方、警察の方も、なぜかパトカーで金を運び、事故を起こすというマヌケぶり。市長の「なぜ身代金をヘリコプターで運ばない?」という疑問には、誰も答えない。
その辺りには、「カーアクションを見せたい」「時間までに金を届けることが出来るかという状況を設定してサスペンスを盛り上げたい」という都合が透けて見える。
そういう都合があるなら、それを納得できる形にするような作業を施すべきなのに、出来ていないのだ。

乗客たちは「人質に取られている連中」というだけで、ほぼ背景に近い扱われ方になっている。
ジオは恋人にネット配信を指示するが、事件解決において、それ以上の貢献をしたり、「それが犯人一味に知られてピンチに」ということは無い。
元空挺部隊のウォレスや母子も、会話シーンはあるが、ストーリー展開に深く関与することは無い。
1974年版では「乗客の中に刑事がいるが、誰なのか分からない」という要素を終盤まで引っ張ってスリルを高めたが、今回は序盤で簡単に殺される。

せっかくネットやパソコンという原作や1974年版には無かったアイテムを登場させているのに、それを有効に活用しているとは言い難い。
「地下で何が起きているのか指令室では分からない」という状況だったのが、途中からネット配信で地下鉄の様子が判明するのだが、それは緊迫感を削ぐことにしか繋がっていない。
地下鉄の様子がネットに流されたせいで、ライダーたちの顔までバレちゃってるし。

ガーバーたちはネット配信で車内の様子を見てレイモスがいるのに気付くが、それが後の展開に影響を与えることは特に無い。
それに、他の方法でレイモスの存在に気付かせることも可能だ。
また、「一味はレイモスがいるとガーバーに指摘されて動揺するが、ネット配信には気付かない」という展開があるが、これも後の展開に繋がる要素ではない。
「一味がネット配信の犯人を見つけようとする」というところでサスペンスを盛り上げるわけでもない。

ライダーは身代金目的なのかと思ったら、上の人間に対する強い恨みを口にする。では復讐心が動機なのかと思ったら、平均株価の下落で喜んでいる。
どうやら「事件を起こして金相場で稼ぐ」ってのが目的だったようだが、目的と行動のバランスが悪くないか。
それに「目的をボカしておいて、明らかになったら、そんな理由かよ」と思っちゃうし。そもそも、ニューヨークの地下鉄一両をジャックしただけで、あそこまで大きく株価が暴落し、金相場が急上昇するのも不自然だし。
あと、そうなると「じゃあ身代金を運ばせている意味って何なの」と思っちゃう。それは囮か何かで、金を運ばせて注意を逸らし、その間に別の目的を達成する狙いがあるのかと思ったら、そういうことでもなくて、身代金には固執しているんだよな。

最終的に事件が解決しても、ちっともスッキリしない。
何しろ、ガーバーは収賄を告白しているので、そのことで罪に問われることは確実だし、左遷どころか仕事を失うだろう。
だから、「事件解決でハッピーエンド」という印象は受けない。
あと、「子供たちの教育費のために金を受け取った」と告白しているが、ガーバーと子供たちの関係性が全く描写されないどころか、子供たちが最後まで画面に登場しないってのは、明らかに手落ちだろう。

(観賞日:2014年1月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会